#5 クランク・イン
窓からカーテン越しに薄明かりが差してきたころ、俺は目を覚ました。
俺は、自分の隣で寝ている悠樹を見ながら、色々な事を考えてた。今までは思いもしなかったような事ばかり。
…やばいな。そう思った。漠然とした不安を感じてた。
ここまでなつかれるとは、正直、思ってなかった。
「撮影が終わったら帰れるよ」って言った時の、悠樹のあの表情は、どう考えても、離れたくない、なんて思ってそうだった。考えすぎじゃなくて…俺はそう確信してた。
…考え事をしてる間に、悠樹も起きてたらしい。俺を見て、不思議そうな顔をしながら、聞いてきた。
「どうしたの?」
「…なんでもないよ。おはよう」
「うん」
そのまま沈黙が流れる。どうも悠樹は、この沈黙が嫌いらしい。少し間があくと、俺にいろんな事を話しかけてくる。
…不安なんだろうね、やっぱり。
俺は、できるだけ、話につきあってあげた。悠樹は、本当にいろんな事を話してきた。親子には近すぎるけど、まるで、父親に対するみたいに。
悠樹と話ばかりしてるうちに、時間はどんどん過ぎていって…。撮影の時間が近付いた。
「もう、そろそろ撮影だけど、大丈夫?」
「うん…」
悠樹は、あの、悲しそうにもみえる笑顔を浮かべながら、俺を見てる。目をそらしていなかった。
そして悠樹は…ちょっともじもじしながら、聞こえるか聞こえないかの声で…俺に何かを言った。
俺は…聞こえなかったふりをした。悠樹はその言葉を二度は言わず、また、元の表情に戻った。
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