アパショナータ

 もう、慣れたはずなのに。
 こういうことは、何度も何度も、あったはずなのに。

 身も心も、焼け焦げるような日々だったのに。
 …比喩じゃなく、本当に焼け死んでしまえば良かったのかな。
 そうすれば、悲しまないで済んだかもしれないから。

 電話を置いたとき、私はなぜか、笑ってた。
 悲しくてしかたがないはずなのに、笑ってた。

 どれだけ笑い続けたかわからないほど笑って、それから、やっと涙が出てきた。
 きっと薬のせいで頭おかしいんだな、私。
 飲み続けてれば、もしかしたらいつのまにか子宮できて、本当に子供生めるかも。
 そんなバカな事考えながら、飲んでたんだけど。

 あー、やっぱ、ちょっと死んどくかな。
 うんそうだ死んじゃおう。そうだそうだ。
 睡眠薬いっぱい飲んでも、何時間たったか知らないけど、目はさめちゃった。
 電車にでも飛び込むか。いや他人に迷惑だよね。
 どうせ私なんか存在するだけで迷惑なんだから別にいいのかな、でもいるだけで迷惑ならこれ以上迷惑かけるべきじゃないか、ううんいっそのこと最後に大迷惑かけてやれ飛び降りたらどうだろうそうだ私のこの汚い体の破片ぶちまけてやるそれとも首切って血まみれになって走り回ってやろうかどうしてくれようかガソリンかぶってライター持ってできるだけ幸せそうなカップルの前で点火してやる幸せな奴は敵だお前らも一緒に燃えてしまえざまみろちくしょうそうだところで神様最後のお願いどうか私の死亡記事を彼が見ますようにそして少しでも後悔しますようにそして彼が一生その重荷に苦しんでくれますように

 …疲れた。
 でも少しは気が晴れた。我ながら、なんて激安なんだろう。
 ところで黙れ外の軽トラ。傷心の私に間延びした声を聞かせるな。
 激安勝負か。貴様がそのつもりならこっちは丈夫で切れない人肉製、一発千円、二十年前のお値段ですときたもんだ。相場知らないけどさ。
 あーもう寝る、眠剤でさんざ寝たけど寝る。寝まくる。
 せめて夢の中ではどなたかと、幸せラブラブでありますように!


 さて目がさめたけど、楽しい夢は見なかった。夢自体見てないかもね。
 でも、寝る前よりもまた少しは気が晴れてるから、いいかな。

 自分の顔を鏡で見て、軽く自己嫌悪。
 こんなのほんとの自分じゃない。この人誰? ていうか人?
 メイクも落とさず泣きまくって顔こすりまくって寝て起きて、泣いて騒いでまた寝たんだった。
 直す気にも落とす気にもならない。なるもんか。
 私は、心にぽっかり穴があいたまま、ここで一人で生きるのかな。
 寂しいよ。
 誰かに、抱きしめてほしい…。

 もう恋なんてしないなんて、言いまくるよ絶対。

 あはははは。こんなつまらない冗談に笑ってくれる人は、自分しか今はいない。
 そうだ、この薄寒い部屋で、一人で生きていけばいいんだ、きっと。
 そうすれば傷つかないんだよね? 悲しくならないんだよね?
 だったらいい。心なんかいらない。恋も愛もいらないや。

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