放課後女装クラブ(仮)


      #16  合宿・6


「ばれてたんだね…」
「そうだね…」

 二人で、大きな湯船につかりながら話してた。
 今までと同じように、貴史はいつのまにか僕の横にくっついてる。

「とりあえず怒られなくてよかった」
「うん」

 さすがに、あまりいい雰囲気にはならない(なってもお風呂では何もしない約束だけどね)。

 僕と貴史は風呂からあがって、また軽く冷やかされながら、部屋に戻った。
 言いつけどおり、ドアはしめない。

 なんで大部屋の年長組の皆さんは昨日とは逆に、枕をこっち側に置いてるんだろう。
 って、考えてみるまでもないかな。

 僕と貴史は、並んではいるけど別々の布団に横になった。しばらくして、僕もいよいよ本当に
 寝そうになったころ、貴史は、こそこそと僕の横へ移動してきて、

「…わざと聞こえるように、何かしてる演技しない? 絶対みんな狸寝入りだよ…」

 そう、僕の耳元で、すごく小さい声で言った。
 僕は他の人に気付かれない程度に、小さくうなずいた。このイタズラに乗ってみよう…。

 僕はできるだけ音を立てないように、かけてたタオルケットの中に、貴史と一緒に入った。
 二人で顔を見合わせて、なんとなく無言の合図して、スタート。

「大丈夫だよ…ドアはあけとけって言われたけど、Hはしてもいいみたいだし」
「うん…」

 隣が耳をすましていれば聞こえるかな、という程度の小声で、話し始めた。

「もっと触って…みきちゃんにも、してあげるから…」
「こんなになってるよ、気持ちいいの?」
「みきちゃんだから、気持ちいいの…大好き、本当に大好き…」
「僕も本当に大好きだよ」
「嬉しい…」

 どうしよう、ドキドキしてきちゃった。

「くすぐったいよぉ…」

 別にどこも触ってないのに、貴史はすごく色っぽい声をあげまくっている。
 僕は必死に笑いをこらえながら、小声で話を合わせる。

「くすぐったいだけ? 気持ちよくないの?」
「…ちょっとだけ」

「みきちゃんにだったら、どこ触られても気持ちよくなるように、してね…」

 しばらく沈黙。多分貴史も笑いをこらえてる。気付かれないようにできるだけ引っ張って…、

「あぁん…」

 押さえ切れなかったように、貴史は小声とはいいがたい声を出した。
 結構演技力あるんじゃないかな…。

 大部屋のみんなは絶対聞き耳立ててるに違いない、なぜかそう感じたから、

「そろそろかな?」
「うん」

 お互い、相手にしか聞こえない小声で言って…、

「じゃ、リハーサル終わりで、本番は帰ってからね」
「うん。楽しみにしてるからね」

 突然普通の声でそう言った直後、大部屋から、吹き出す音や、咳き込む音が聞こえたけど、
 僕たちは何もフォローもせず、離れてそれぞれの布団で寝た。


 翌朝、僕たちが起きたときは、もうみんな起きてて、大部屋に集まってた。
 時計を見ると、ちょうどもうすぐ朝食がくる頃かな…?

「おはようございまーす」

 なんて、二人で元気そうに挨拶してみたけど、みんなはあまり元気ない。

「…あんまり寝れなかった」
「おなじく」

「何かあったのかな」
「なんだろね」

 僕たちがわざとらしく言って、座布団取って座ると、ちょうど朝食が運ばれてきた。
 昨日と同じ、いかにも旅館の朝食ってかんじの、簡単だけどおいしいご飯。

「ご飯食べて落ち着いたら、チェックアウトして帰ろうか」
「ですね」
「お土産〜」
「ご家族に偽って参加してる子は、間違ってもお土産とかで足つかないようにね」

「あ、そうだ! 僕、部活の合宿だって言ってたんだった…。ユニフォームも綺麗なままだ」
「部活の合宿でも洗濯機くらい置いてあるでしょ?」
「それとも、みきちゃんと一緒に遊んで、汚す?」

 明さんとかユリさんとかが勝手なこと言ってるけど、
 まゆさんはさすがにこういう時はまともだった。

「運動と違う汚れつけて帰っても問題でしょう。合宿先で洗ってきた、で押し切れる?」
「たぶん」
「もっと早く言ってくれたら、貴子ちゃんの意外な一面として、河川敷かなにかで、
 サカユニ着せて運動部っぽい練習させて、見られたかもしれないのに…残念」

 今のなし。まゆさんもやっぱりこんなかんじだった。

 帰りの車の中では、合宿のまとめ、とは名前ばかりの雑談大会。

「今回は、おとなしめだったよね」

 明さんが言うと、運転中の雅さんがすかさず突っ込む。

「今年は悪い子が大人しかったしねー」
「そうねー、去年は誰に頼まれたわけでもないのに、酔っ払って女装オナニーショーしたり、
 あたりかまわず愛を振りまきまくったりしてた子いたのにね」
「何の話だろう。記憶にございません」

 僕は、そうやって大盛り上がりしてただろう時には、お酒飲みすぎて寝てたから、
 そういう面白そうなものは見てないし参加もできなかった…。

「で、ほんとにゴスロリやるの?」

 明さんの中では、メイド服は、もういつのまにかゴスロリになっているらしい。
 まゆさんは少し考え込んだようだけど、言った。

「とにかく検討はしようかと。しかるべき情報を集めないと決定も却下もできません。
 で、実際に着てみなくても想像はつくでしょうが、きっとあれは暑い…」
「あー、たぶんね」
「まあ、またこないだみたくいい部屋とって、冷房ガンガンきかせとけば問題ないだろうけど、
 そもそも服が手に入るかというのもあるし」
「パーティーグッズ系の安物、というわけにもいかないだろうしね」

 僕も興味はあるんだけど、いざ本当にやるとなったらどうだろ。微妙かなあ?

「でもやっぱり、今回の合宿の総括としては、色々ばたついてたのはあるけど、
 みんな大人しかったなー、という感じです」
「でも、2人だけでHしちゃったぽいカップルが2組もいるけどね」
「…個人的感想から言えば残念ですが、誰もが、明美隊員のように、他人に見せつけたりする
 趣味があるわけじゃないので、仕方ないかと」
「ていうか、中2や中3でそこまでの趣味持ってたら強すぎ」

 こんなかんじで、帰り道の間、「若手二組」は、いいようにからかわれっぱなしだった。
 そして車は部室について、特に何事もなく解散。
 何人かは部室に残って一休みしていくらしいけど、僕と貴史は帰る事にした。

 電車を降りて、駅で別れるとき、貴史はすっと僕の耳元に顔を近づけて、

「あの続き、今度絶対してね」

 そう小声で言ったあと、不意をつかれた僕をそのままにして、貴史は歩いていった…。

 夜、寝る前にメールチェックすると、まゆさんからメールきてた。
 さっき帰ってきたばかりなのに、まめだなあ…。


  合宿参加の皆様お疲れ様ぁ(>_<)ノ
  一部お疲れの子もいるようなので(*^^*)ゆっくり疲れを取ってください。
  夏休み中はこのまま部室は午前から開放を続けるので使う人連絡を。
  でもこないだも言ったとおりH禁止(>_<) じゃあねー。

 珍しく(?)余計なことが書かれてない普通の業務連絡メール。
 僕はお約束どおり、きたメールとファイルを一通り削除して、寝ることにした。


<つづく>


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