放課後女装クラブ(仮)


      #15 合宿・5


 みんなで色々話してたら、もうそろそろ夕食の時間。
 食事が運ばれてきて、食べてる間は女装してた人も元の服に着替えてた。
 そして食事が終わると、またあわただしく着替えはじめる。

「やっぱり、何となく、こっちの方が落ち着くから」

 唯さんが言うと、貴子はうなずいた。

「他に賛同者は?」

 まゆさんが言い終わる前に明美さんが口をはさんだ。

「うーん、女装するとどうしてもHと直結しちゃうし…。だからあまり落ち着かないかな」
「はいはい、あんたには聞いてないわよ」
「…なんか私、ここ来てから、ずいぶんいじめられてない?」
「だってあんた、いじめられるの大好きじゃないの」

 ただでさえ明美さんに対して口が悪い雅さんは、「化ける」と、さらにパワーアップする。
 多分普通の女の人はこんな喋り方しないだろうな、っていうほど大げさな女言葉使うし。

「で、メイド服やゴスロリが好きな亜紀ちゃんはどうなの?」
「ちょ、ゴスロリなんて、一言も…」
「んじゃメイド服は好きってことで、確定でいいわけね」

 いじめられた明美さんは、亜紀さんを突付きはじめた。
 亜紀さんは恥ずかしがってるときとか、すぐ顔とか行動に出まくるから面白い…。

「で、やっぱり先輩としては、若手二組がどこまでいってるか気になるんだけど?」

 こう言った明美さんに大して、まゆさんか、雅さんか、ユリさんから突っ込みが
 あるだろうと思ってたら…。

「やはり運営者として、会員の成長具合は気になるかな」
「サポーターとしても気になる」
「だわねー」

 全く想像と違う反応をしてきた。

「まあ、みきちゃん、たかちゃんは、昨日の件は、音も声もかなりはっきり聞こえてたので、
 大体の想像はつくというか、断定してるけど…あっきーと唯ちゃんは?」
「まだあんまり…」

 予想に反して、唯さんは言葉を濁した。
 てっきり、「こんなことまでしちゃいましたー」みたいな事をさらっと言うかと思ったのに。
 みんなもそう思ったみたいで、やっぱり突っ込まれる。

「おかしいな、何したか、唯ちゃんならすぐ言いそうだと思ったのに」
「ねー」
「…口止めされた?」
「あっきーのも結構大きいらしいから、もう喉の奥までふさがれて、言葉も出ないのかな」
「やめてーー」

 例によって亜紀さんは真っ赤。

「そんなでもなかったです…息できたし」

 いきなりこんな事言って、唯さんはニコニコしてる。やっぱりわかんない人だ…。

「そのへんまでは進んだのね」
「あっきーは、唯ちゃんに同じ事してあげた?」
「いや…、あの、ちょうどそんなかんじのときに、昨日みんな帰ってきちゃったし…」
「あら」

 亜紀さんはもう真っ赤どころか、どこかやばそうな感じになっちゃってる。
 手を伸ばしたコップが、自分のじゃないことに気付かないくらいに。

「あっきー、それ、雅スペシャル」

 ユリさんが気付いて言ったときには、亜紀さんはコップの中身を一気飲みした後だった。

「ところで、雅スペシャルって?」
「単純に言うと、香り付け程度にジュース混ぜた焼酎」
「…なるほど。あっきーをすぐ手当てしましょう。唯ちゃんよろしくね」

 亜紀さんはお酒だめなはず。発表会でもぜんぜん飲まないし、ワイングラス一杯で
 もう真っ赤になって寝ちゃう感じ。

「ちょっとほんとにまずいかもだから、ボディブロー入れてでも吐かせておいてね」

 まゆさんは、笑いながら、危ないこと言ってるし。


 しばらくして、亜紀さんと唯さんが戻ってきた。大丈夫だったかな?

「あっきー大丈夫?」
「だいじょぶです…」

 大丈夫とか言いながら、亜紀さんはすぐその場で横になっちゃった。
 …唯さんに、膝枕されて。

「あらあら」
「いいなー」

「まあとりあえず、公認カップルはどっちもうまくやってるみたいで安心しました」
「そだね。誰か私も膝枕してくれないかな」
「断る」

 明美さんと雅さんは仲がいいですね。ええ。

「全然関係ないんですけど、去年も合宿やったんですよね?」

 貴子がこう聞くと、みんなうなずく。僕も参加したから、みんなと同じく。

「去年は今年よりはもうちょっとにぎやかだったかな。サポーター抜かして7、8人いなかった?」
「いたね」
「そんなに?」
「その半分くらい、やめちゃったから、たかちゃんは知らない人だけど」
「そうなんですか…」
「トラブルとかそういうのばかりじゃないけど、結構回転速いかな」

 まゆさんはそう言うと、バッグから煙草を取り出して火をつけた。

「あ、いいな、一本ちょうだい?」
「まいど。150円」
「ケチ」
「一円も儲からない良心的取引をケチ呼ばわりとは」

 ユリさんとまゆさんが言い合ってると、貴子がまた口を開いた。

「やっぱりトラブルとか、そういうのも少しはあったんですか」
「んー。まあ今回の拓美ちゃんみたいなケースもしばしば、痴話喧嘩とかもね。
 最悪だったのは、クラブのほかの子騙して、自分の人脈相手に発表会やった子かな」
「えー」
「黒歴史だわね」
「絶対ないとは思うけど、そこまでやると除名処分にせざるをえません。
 …まあ、たとえばサポーターの一人にプライベートで何か見せたとか、会ったとか、
 そういうのは事後承諾でもいいから報告するようにね」

 まゆさんは、私のほうを見て、にっこり笑った。
 …ばれてる?

「さっき私をケチ呼ばわりした人も、何もなく服なんて買ってあげるほど
 お人よしじゃないはずだから…でしょう?」
「う、うん…」
「ユリちゃん悪気ないのわかるけど、もうちょっと自制してください。
 …罰として、今度詳細なレポートを私へ提出のこと」

 それを聞いて、みんな一斉に笑いだした。

「自分も知りたいんじゃん」
「当然です。会の運営管理人なのだから知らないといけません」
「…そういえばまゆさん、一体何を目的にこの会を?」

 そういえば気になるそんな疑問を口にしたのは、古株のはずの明美さんだった。
 気にしたことなかったけど考えてみたら気になるし、明美さんも知らなかったのか…。

「使えそうな子は除名や自主退会と見せかけてスカウトし、外国に売り飛ばしたり、
 風俗や売り専に沈めたりするためです。親に社会的地位があったら恐喝もします」

 みんな唖然としてるけど、突然まゆさんは大笑いしはじめた。

「もちろん嘘だけど。運営の理由と原動力は、ただの趣味としか言いようがないかな…。
 だからこそ、私が知らない所でいいイベントが起きるのは許せないのです。
 ユリちゃんは猛省した上にレポートは必ず提出するように」
「はーい」
「残りの二人の当事者の都合は?」
「ユリちゃんがレポートを出せば二人の責任はほぼ不問とするので、文句はないですよね」
「は、はい」
「はい…」

 私と貴子は顔を見合わせたあと、うなずくしかなかった…。

「ところで、「ほぼ」って何かしら?」
「なにかな」

 私も気になったことを、雅さんと明美さんが先に言ってくれた。
 まゆさんは私と貴子を見ると、言った…。

「何も懲罰を与えないというのは、青少年健全育成の観点からもいけないと考えます。
 今夜は、二人の愛のお部屋のドアは開放しておくこと」
「あら、おあずけなのね、かわいそうだわ」
「お預けしません。何かするのはむしろ推奨。でもドア閉めるのは禁止。
 というわけで、明日は午前中にはチェックアウトしないとなので適当に就寝」

 そう聞いてふと時計を見たら、もう真夜中、日付変わりそうなくらいになってた。
 みんな服を着替えたり、お風呂に入ろうとしてたり、てんでにやってたけど、
 亜紀さんは、唯さんに膝枕されたまま、寝ちゃったみたい。

「どうします? 亜紀さん起こしてお風呂入るなら、こっちは後でいいけど」
「ううん、あっきーが起きるまで、こうしててあげたいから…」
「わー」
「愛されてるー」

 色々冷やかされて、嬉しいのか照れてるのかわからない唯さんを僕たちも一緒に冷やかして、
 部屋に布団しき終わって入浴準備。
 また、お風呂で悪いことしないように、だとか、今度はこっちが冷やかされた。


<つづく>


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