放課後女装クラブ(仮)


      #12  合宿・2


 しばらく時間がたって、今、宿に残ってるのは、僕、貴史、亜紀さん、唯さんの4人だった。
 後の人は、まゆさんと一緒に車で町の方に出かけてる。
 僕達もついていってもよかったんだけど、まだお風呂入ったばかりだし。

「で、みきちゃんと貴子ちゃん、クラスメイトなんだよね?」
「貴子じゃないですよー」
「いいじゃん。一応クラブ活動中ってことで…」

 亜紀さんが、僕と貴史の事について、やたら話を聞きたがってる。
 もう「公認カップル」とか言われちゃってるから、隠しようもない…。

「で、どういういきさつで、「仲良く」なったの…?」
「うーん…元々、話とかはわりとしてたよね?」

 貴史が僕に同意を求めてきたから、僕はうなずいた。
 僕も何か言おうと思ったら、貴史が、まるで僕のかわりみたいに、
 聞きたかった事を二人に聞いてくれた。

「亜紀さんと唯さんは…付き合ってるんですか?」
「うーん」
「付き合い、10年くらいだよね? 一緒に住んでるし」
「えー!?」

 唯さんの爆弾発言で少し場が沸いたあと、亜紀さんは、少し照れくさそうにしながら、
 補うように話を続けた。

「いとこなんだよね。唯のお父さん、僕のおじさんにあたる人が亡くなって、
 おばさんと唯が、うちに住むようになって…お互いまだ幼稚園児だったね」
「いとこだったんですか」
「知らなかった…」
「みきちゃんとは、あまり話する機会なかったじゃん」
「特に最近は、誰かさんに、クラブいくなとか言われてたしね」

 誰かさん、っていうのは、やっぱり、拓美さんの事だろう。
 本当に色々やってるというか、なんというか。

「去年の今ごろかな、唯が女の子の服持ってるの見つけちゃってね…」
「やめてよー」
「問い詰めたら、こういう怪しい集まりに参加してるっていうから。
 文句言おうと思って一緒に来たら、なぜか僕まで…」
「でも、本当は興味があったんだよね?」
「…まあね」
「あ、やっと認めた! 今まで、ずっと違うって言ってたんだよ?」

 唯さんは、亜紀さんの方と、僕達の方を交互に見て、笑った。

「いとこなら、付き合うとか、そういうのじゃないですね」
「うん、仲いいみたいだから、てっきり…」

 と、僕達は話をまとめた。
 話は切り替わって、最近出たゲームの話とか、テレビの話とかしてたけど、
 亜紀さんがトイレにいったとき、唯さんがまた爆弾発言をした。

「本当は、恋人どうしになりたいんだけどね」

 それを聞いて、僕は、なんか寒気がした。怖いとか、気持ち悪いからじゃなくて。
 貴史も同じみたい。明らかに、リアクションに困ってるかんじ。

「告白する前は、Hな本見て、一緒にしたりとか、あったのに…。
 僕が自分の気持ち伝えてからは、なんにもしなくなっちゃった」

 僕達が絶句してるのも気にせず、唯さんはどんどん続ける。

「いとこって、結婚できるんじゃなかったっけ?
 結婚までは無理でも、ちゃんと恋人みたいな関係になりたいな」
「うーん…」
「どうなんでしょうね…」

 結婚は男女でするものでしょう、なんて突っ込む気にもならない…。
 唯さんは少しため息をついたあと、考え込むような顔をやめて、言った。

「今度、こっちから襲っちゃおうかなあ…」


 僕達が唖然としてる間に、亜紀さんが帰ってきた。
 僕と貴史は、そこで、この話は終わると思ってた。別にこの話を続けるのが
 嫌だってわけじゃなくて、普通、終わるだろうと…。
 でも唯さんは、全然やめるつもりはなかったみたい。

「ねえ、あっきーは、僕の事、どう思ってる?」

 亜紀さんが帰ってくるなり、唯さんはこんな質問してるし。
 明らかに返事に困ってる亜紀さんを見て、唯さんは、少し落ち込んだように続ける。

「やっぱり、だめなのかな…言えないような事、思ってる?」
「そんなわけじゃないよ」

 亜紀さんの返事を聞いて、いきなり、貴史が吹き出した。
 不思議そうな顔をしてる二人に、貴史は、わざわざ説明をはじめた。

「いや、ごめんなさい…そんなことない、って、みきちゃんの口癖で…。
 今みたいな質問すると、すぐ、そういう返事するんです」

「ふーん。じゃあ、あっきーも、みきちゃんが貴子ちゃんに思うのと同じこと、
 僕に思ってくれてるのかなあ…?」
「だから…。なんで人前でそういう事言うかな?」

 人前、と聞いて、貴史が何か言おうとした。
 …出てきた言葉は、まさに僕の予想通り、「二人で、隣の部屋にいますね」だった。


 僕はほとんど貴史に引きずられるように、隣の部屋に移動した。

「なんとなく、邪魔したら悪いような気がしたしー」

 なんて言いながら、貴史は結構、面白がってるみたい。
 しばらく二人で、亜紀さんと唯さんについて、勝手な事話してた。

 30分くらいたったかな。そろそろいいかなと思って、大部屋に戻ったら
 二人ともいなかった…。

「あれ、どうしたのかな?」
「どこいったんだろ?」

 どこに行ったかは、すぐにわかった。
 風呂の入り口に、二人分の服が脱いであったから。

「さっき、二人とも、入ってたよね?」
「うん」
「よっぽど綺麗好きなのかな」

 貴史は笑いながら、そう言った。
 たぶん僕と同じことを想像してるんだろうな…。
 これで今すぐ、出かけてるみんなが戻ってきたら、面白いのに。

 そんな事を考えてたら、本当にみんなが戻ってきた。


「あれ、あっきーと唯ちゃんは?」

 まゆさんの質問を聞いた貴史は、待ってましたとばかりに答える。

「二人でお風呂みたいですね。さっき入ったのに、何ででしょうね?」

「風呂に入らないといけないような事をしたんだね…」
「きっとそうだねー」
「みきちゃんと貴史くんは、詳しく見てないの?」

 外出組は、みんな本当に楽しそうに、勝手な想像をしたり、言ったり。
 そうしてるうちに、亜紀さんと唯さんがお風呂から出てきたみたい。

「さーて、いない間に何があったのか、詳細を…」
「いや、別になにも…」
「ちょっとHなことを」

 明さんの質問に、お茶を濁そうとする亜紀さんと、まともに答えた唯さん。
 亜紀さんは、唯さんを必死に黙らせようとしたけど、その前に、
 ユリさんと雅さんに取り押さえられた。

「二人で、ちょっと触りっことか、しただけですよー。でもなんだか、
 好きな人とやっと結ばれた、みたいな感じ? すごく嬉しいです」
「やめろってばーー」

 唯さんは照れながら、大発表。亜紀さんは真っ赤になってる。

「こないだから決めてたんです、合宿で、絶対こうしよう、って。
 明さんは知ってるよね、あのとき、僕があっきーに惚れ直したの」
 みんなが明さんの方を見る。明さんは困ったような顔をしながら言った。

「とりあえず、亜紀ちゃん、ずいぶん男らしいとこあるなとは…」

「仮にも女装クラブの子が、男らしくちゃだめじゃん」

 ユリさんがすかさず突っ込んだ。

「まあとりあえず。二人の件は、後でじっくりしっかり聞かせてもらうとして、
 そろそろ食事運んでくるはずだから、みんな服装を正しておいてね」


 運ばれてきた食事は、さすがに豪華なものがいっぱいだった。
 後で食器とか回収に来るはずだから、まだみんな着替えとかしてないけど、
 話はかなり盛り上がった。

「公認カップル2組目だねー」
「めでたいめでたい」

 話の内容のほとんどは、当然、亜紀さんと唯さんのこと。
 いいかげん亜紀さんも諦めたらしく、真っ赤にならなくなってた。

「で、まゆさん、きっとメールに書くんだ…」
「今回は、書かないかも」
「えー」
「このごろ不穏な動きをしてる反動分子を、刺激しかねないからね」

 しまいに反動分子になったのか…。
 なんて考えてたら、まゆさんはさらに続けた。

「冗談じゃなくて、本当に反動分子と呼んでいい状態なんだけど。
 この際言っちゃうね。クラブ潰そうと思ってるのがいる」
「えー…・」
「いくらなんでも、なんでまた?」
「誰かさん、とうとう被害妄想にとりつかれたみたい。
 自分は軽んじられてる、部員みんなが徒党を組んで自分をハブってる、とかね。
 原因は自分にあると思うんだけど…」
「やばそうだねー」
「で、拓美派の子2名、まこっちと優ちゃんから、退部申請がありました」
「ありゃ」
「えー」
「理由はみんなの想像と違うかも。二人とも、拓美ちゃんに愛想つかしたらしい…。
 だからあの子、今、本気で孤立しちゃってるんだよね。
 私に脅迫じみた電話してくるくらいまで追い込まれてるみたいで」

 みんな、あまり言葉も出ないみたいで、静かになった。
 そんな中で口を開いたのは貴史だった。

「脅迫じみた電話って…?」
「痛いとこ突いてきたのよ、たとえば発表会の件持ち出して、未成年に女装させて、
 好事家集めて金稼いでるとか、訴え出てやるぞみたいな」
「……」
「最悪の場合、廃部が考えられます。そのときは、みんなごめんね…。
 ついでに、なんか一気に辛気臭くさせちゃってごめんね」

 その後は話の内容も変わって、亜紀さんと唯さんについての話や、
 そこから飛び火して、僕と貴史の話になったりした。
 でもやっぱり、みんな、テンションは下がりめだった…。

「まゆさんのせいじゃないよ」

 いきなり明さんが言った。ぶり返すことないのに…。

「本当にどうしょうもないな…」

 それだけ言って、明さんは黙っちゃった。いつもの口数の多さが嘘みたい。

 その後、食事が終わって、食器や空きビンを回収していってもらった後は、
 みんなでちょっとしたファッションショー。
 ユリさんが今日のため、みんなに服を持ってきてくれて、それなりに盛り上がるんだけど、
 どうもみんな、振り切れないというか…。
 僕は食べすぎで苦しいから、まだ僕のままでいた。


「まだ気になってるの?」

 僕に、貴子が聞いてくる。貴子も結構気にしてるみたいで、いつもほど明るくない。
 貴子は僕の横に座って、黙って手を握ってきた。
 本当なら、明さんあたりから、冷やかしの声くらいはありそうだけど、ない。

「大丈夫」

 まゆさんが、唐突に言った。まるで自分に言い聞かせたようにも感じる。

「みんな本当にごめんね。そっちは絶対に何とかするから」
「だから気にしてないってば」
「うん」

 時間がたつにつれて、雰囲気もだいぶ良くなってきた。
 冷蔵庫から追加のお酒が出て、みんな飲んだのもあるかもしれないけど。

 こうなることは予想してたけど、貴子は思い切り酔っ払って、僕にべったり。
 「みきちゃん大好きー」とか、「一緒にお風呂ー」とか騒いでる。
 貴子には悪いけど適当にあしらってるうちに、やはり予想通り、貴子は寝入っちゃった。

「そっちの小部屋、みきちゃんと貴子ちゃんの部屋だよ。二人のね。
 で、もう片方は、亜紀ちゃんと唯ちゃんね」
「え…みんなは?」
「高校生以上の大人はこの大部屋」
「ユリさんは?」
「もちろん大部屋。女性相手に間違いを起こす人、大部屋にはいないから。  むしろ、若い男の子相手に間違いを起こしたがる女性を、こっちに隔離するということで」

 雅さんがそう言うと、ユリさんまで含めて、みんな笑い出した。


 僕は、眠いとか、お風呂とか、抱っことか騒ぐ貴子を、何とか部屋に運んで、
 食事中に敷いておいてもらった布団に寝かそうとしたんだけど…。

 いきなりだった。僕は凄い力で貴子に抱きしめられて、一緒に布団に転がる。
 そして、またいきなり、貴子は僕にしがみついたまま、キスしてきた。
 僕も結構お酒飲んだと思うけど、それでも、貴子のほうが酒くさいと思う。

 しばらくそのまま、僕と貴子は、なんだかお互いの口の中の味見でもしあってるみたいに、
 ずーっとキスし続けてた。だんだん、酒くさいとか感じなくなる。
 そうしてるうち、貴子の力が抜けていくのがわかった。
 …本格的に、寝たらしい。

 僕は一度大部屋に戻って、みんなに、寝ることを伝えた。
 もちろん冷やかされまくりながら部屋に戻って、貴子の横に寝転がる。

 なんか心配事は色々あるけど、どうこうできる問題じゃないし…。
 でも気になる…なんて考えてるうちに、眠くなってきた。
 今日はこのまま寝ちゃおう。明日は何があるのかな、どっか行くのかな…?



<つづく>


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