放課後女装クラブ(仮)


      #11  合宿・1


 当日の朝早く、僕は大きな荷物を背負って、電車に乗った。
 貴史とは駅で待ち合わせて、一緒に行動。

 どんな合宿になるんだろう、楽しいといいな、みたいな話をしてたら、
 いつのまにか、いつも降りてる、部室の最寄駅についてた。

 部室に着いたとき、もう、明美さんと雅さんがいた。
 どうも、昨日から、まゆさんの所に泊まってたみたいだ。
 適当に雑談しながら時間つぶしてると、だんだん人が集まってくる。

 僕達の後には、亜紀さんと唯さんがきた。
 こないって話だったけど、結局、くることになったのかな?
 その少し後、ユリさんが来て、これで全員そろったみたい。

 みんなで、外にとめてあったライトバンに乗り込んで、いよいよ出発。
 運転はまゆさん、助手席がユリさん、残りは適当に後ろに座った。
 もちろん、貴史と僕は隣り合って座ったけどね…。


「あの馬鹿が、人いない部室に悪戯とかしないといいね…」

 車が動き出して、高速道路に乗った頃、明美さんが言った。
 明美さんが「あの馬鹿」なんて呼び方する相手は、一人しかいない。
 それを聞いて、まゆさんが答える。

「友達に、留守番頼んであるし、大丈夫じゃないかな」
「ならいいんだけど。あれ、何しでかすか分からなそうだし」

 とうとう、「あれ」になっちゃったのか…。
 なんて考えてると、貴史が僕を突付いてきた。

「どうしたの?」
「そういえば、またしつこく電話かかってきたんだけど」

 貴史がそう言うと、みんな、その続きを聞こうとしてるのがわかった。
 それを感じたのかどうかはわからないけど、貴史はすぐ続けた。

「みんな、大体想像ついてると思うけど…合宿いくな、っていう内容。
 なんていうか、あの人…僕が言う事聞くと思ってるのかなあ」

「こっちには、かかってこなかった」
「僕達、裏切り者だしね」

 亜紀さんと唯さんは、二人でそう言って笑ってる。
 そういえば、この二人とは、あんまり話したことないな…。
 いつも、拓美さんといっしょに行動してたから。でも、裏切ったって、何だろう?

「何としても、貴子ちゃん引きずり込みたいのかなあ…?」

 明美さんが言うと、貴史は即座に返した。

「絶対無理なのに…」


「とりあえず悪口はそのくらいにして、楽しい事考えましょう。
 合宿の内容についてだけど、ちょっと変更があるよ」

 まゆさんがそう言うと、みんな、そっちに興味をうつしたみたい。

「予定してたキャンプ場が閉鎖になっちゃってて、キャンプファイヤーなし。
 そのかわり、宿は、予定よりも少しいいとこに変えたからね」
「ありゃ…」
「どんなところですか?」

 その質問を待っていたかのように、まゆさんは、自慢げな声で言う。

「伊豆の旅館の、貸切露天風呂つきの離れ。大部屋と、小部屋2つのね」
「おおー」
「すごいー」
「今回の出資者は、私、ユリちゃん、雅ちゃん、明美ちゃんだよ。
 出資してない子は、出資者を楽しませるように〜」

 まゆさんは冗談めかしてそう言うと、パーキングエリアに続くほうの道に入った。
 ここで食事か、と思って、僕は自分が朝食食べてない事に気づいた。

 みんなでご飯食べて、おやつとジュースを買い込んで車に戻る。
 運転手は雅さんに交代して、元々雅さんがいた、僕と貴史の横に、まゆさんが来た。

「ぶり返すようで悪いけど、私もあの子については、どうしようかと…」

 まゆさんは独り言のように、ぼそっと言った。
 明美さんあたりがその話に乗るかと思ったけど、乗ってこない。

「とりあえず、毎日電話してきて、みんなの悪口言うのやめてほしい…」

 乗ったのは貴史だった。よっぽど腹が立ってるのかな。

「特におとといあたりから、亜紀さんと唯さんの事、メチャクチャ言ってますよ。
 …気を悪くしたら、ごめんなさい」
「ううん」
「やっぱりね…」

 亜紀さんと唯さんは、別に気にしてないみたい。
 まるで当然の事みたいに、普通に聞いてる。

「直接、言ってやったからね。絶対何か言われるとは思ってた」
「言ってやったって…?」
「合宿に参加するからね、って言いに行った」
「かなり怒ってたよねー」
「うん。投げ飛ばされるかと思った」

 投げ飛ばされる、でみんな笑い出した。
 それからしばらく雑談してるうちに、車は高速道路をおりてた。


「着いたよー、起きた起きた」

 …いつのまにか、僕は居眠りしてたみたい。
 外を見てみると、もう駐車場みたいなとこに入ってて、何人かは車を降りてる。
 僕も急いで荷物を持って、車を降りた。

「部屋の割り振りは後で相談するとして、とりあえず休憩しよっか」

 みんなで大部屋の隅っこに荷物を置いて、真中の大きいテーブルについて一休み。
 …というわけでもなかったかも。みんな早くも、バッグから服を出して、
 ハンガーにかけたり、ゆかた見つけてはしゃいでみたり。

「ゆかたって言えば、ここ露天風呂なんだよね?」

 一人だけ、なぜか正座してお茶飲んでた雅さんが言うと、

「露天風呂か…」
「外見えるかな?」
「外から、見えるのかな…?」

 なんて、てんでに勝手なこと言いながら、誰から入るかの相談がはじまった。
 僕と貴史以外は、後でいいって言ってるから、僕は貴史とジャンケンしようとしたけど、
 「どっちが先に入ろうか」って言ったときの貴史のあまりに不満そうな顔を見て…。
 一緒に入ろう、って言った。

「後から入る人のために、湯船の中で出しちゃだめだよー」

 明さんは、この言葉を言い終えたあと、雅さんとまゆさんに同時に小突かれた。


 服を脱いで、ベランダにある露天風呂を見るなり、貴史は言った。

「うわ、大きいー」
「だね」
「うちの何倍くらいあるかなあ…」

 軽く体を流してから、湯船に二人で入ってみた。
 二人で入っても全然ぶつからないで、足が伸ばせるような、丸い大きな湯船。
 もう薄暗いけど、湯船につかりながら海が見える。
 露天風呂につかって海を見るなんて、なんかオジサンっぽいと思ったけど、
 いざやってみると、なんか気分がいい…。

 貴史は、この広い湯船なのに、いつのまにか、僕の隣に移動して、
 僕の肩に手をやってきた。

「なんか、ずっと、こうしてたいね」
「…のぼせるよ?」
「みきちゃん、相変わらず夢がない…」

 貴史は少しふてくされたらしい。実は僕は、わざと言ったんだけどね。
 こないだの事があってからかな…貴史はあまり落ち込まなくなったから。

「でもみきちゃん、こうしてて、気持ちよくない?」

 貴史は僕を抱き寄せるように力を入れて、頬を寄せてきた。
 あまりくっつかれると、ちょっと…ううん、嫌なんじゃなくて…。

「やっぱり、反応してるね」

 貴史は、僕が気づいてほしくない事に、すぐ気づいたみたい。
 すごく嬉しそうに、そこに手をあててきてる。

「湯船でHな事するな、って言われてるじゃん…」
「じゃあ、洗い場で、しちゃおうか…?」

 そう言われて、僕は返事に詰まった。
 返事に詰まった僕を見て、貴史は、なぜか嬉しそうに笑ってる。

 結局それ以上は何もなくて、体洗って…お互いに背中流し合って。
 気持ちよく、みんながいる大部屋に戻った。


「気持ちよかった?」 
「何もしてないでしょうね?」

 出たとき、やっぱり少し冷やかされた。
 それで貴史が、「湯船が汚れるような事はしてないですよー」なんて言うから、
 明さんとユリさんに、一体何したのかって、勝手に想像された…。

 僕達が出てしばらくして、今度は、亜紀さんが風呂に入っていった。

「唯ちゃん、一緒に入らないの?」

 明美さんが聞くと、唯さんは、恥ずかしそうに首を振った。
 例の件があったからかどうか、亜紀さんと唯さんはあまり部室に来なかったから
 あまり気にしてなかったんだけど、そういえば、いつも一緒にいるな…。
 やっぱり、僕と貴史みたいな関係なのかな?

 しばらくすると亜紀さんが出てきて、かわりに唯さんが風呂に入りにいった。
 明さんは懲りずに、今度は亜紀さんに、なんで唯さんと一緒に入らなかったのか
 聞こうとしてる。亜紀さんは、「そういうのじゃないですよー」って言った。
 でも、唯さんと一緒で、なんだか恥ずかしそうに…。

 唯さんも出てきて、部屋割りの相談がはじまった。後の人は、お風呂はご飯のあとでいいらしい。
 別に全然もめたりせず、小部屋二つの割り当ては、中学生4人、それ以外4人で決まった。
 みんなはそれぞれの部屋に荷物を持っていって、夕食まで適当に自由時間…。

 夕食のときには宿の人が部屋まで持って来るわけで、それまで着替えないほうがいいかな。
 みんなと、話でもしてようっと…。


<つづく>


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