放課後女装クラブ(仮)


      #1  入部試験


 僕は学校から帰ると、すぐにパソコンを立ち上げて、メールチェックをした。
 新着メール数は3件。

 最近パソコンを買った友達からの、たあいもないメールが2件。
 …そして、僕の待ってたメールが1件。

 題名も内容も、「こんにちは」としか書いてない。
 で、添付ファイルがついてる。
 あまり詳しくない僕にも、なんだか怪しく思える、変なメール…。

 添付されてたZIPファイルを開こうとすると、いつものように、パスワードを求められた。
 僕は、またいつものように、パスワードを入力した。

 中身はテキストファイルと、何枚かの画像。
 僕は順番に、それらを開いていった。




     改めてこんにちは、まゆでーす(^^)
     さっそくだけど本題。このたび、新しいメンバーが加わることになりそう。
     taka01〜03.jpgを参照。結構素材は良いと思うんだけど、どうかな?
     それとも…見覚えあるかな? たぶんあると思う。
     当方スーパー情報部(爆)の調べで、この子、みきちゃんと同じ学校、
     同学年だってわかってるからね。




 僕は画像を見て、驚いた。
 そこに写っているのは、僕のクラスメイトだったから…。




     そこで、みきちゃんにお願いがあるんだけど。
     この子を一度、部室につれてきて、色々教えてあげてくれないかな。
     いろいろね(*^^*)
     クラブ活動のない日なら、前もって連絡くれたら、部室あけとくから。

     んぢゃ、よろしくぅ(>_<)ノ




 僕は、メールも、生成されたファイルも、全部きれいに削除した。
 見たら消す。一応、そういう決まりになっているから。


 写真の主、西野貴史は、僕のクラスメイト。
 そんなに親しいわけでもないけど、誰かがゲーム買った、と聞いて、
 何人かで遊びにいくとき、そのグループに入ってるかんじかな。

 僕の身長は、中2としては平均くらいだけど、貴史はもう少し低い。
 悔しいけど…まゆさんが言うとおり、素材はいいと思う。たぶん僕よりもね。

 僕は正直、驚いた。  スポーツも得意で、2月にはチョコなんか貰ったりする貴史が、
 実は「こっち」に興味があったなんて…。


 次の日、さっそく、僕は学校で貴史に声をかけて、遊ぶことにした。
 ちょうど、貴史が欲しがってたけどまだ買ってないゲーム、僕は持ってるし。
 その話をしたら、狙い通り、貴史はうちに遊びに来ることになった。


 最初は、二人でゲームしたり、マンガ読んだりしてた。
 まあ打ち解けたかな、という頃、僕は本題にうつろうと思った。

「ところで…」
「何?」

 急に真面目な顔になった僕を見て、貴史はちょっと不思議そうな顔をした。

「西野って、もっと真面目なやつだと思ってた」
「??」
「興味あるんだね。女装」

 貴史の不思議そうな顔は、すぐに驚きの顔に変わった。

「隠さなくていいよ…僕も、「クラブ」入ってるからさ」
「え…」
「それより、なんで、クラブの事を知ったの?」
「ネットでメール交換してた人が…」
「まゆさんかな」
「うん、その名前」


 まゆさんは、クラブの主宰者。
 たぶん20代後半くらい、元美少年、というかんじの人。

 一人で一軒屋に住んでて、離れを「部室」といって、クラブに開放してる。
 クラブ会員は、衣装をそこに隠したり、着替えたりさせてもらったりしてるんだ。

 僕も、まゆさんの掲示板書き込みを見て、メールを出して知り合った。
 何回かメール交換して、会って、クラブの事を聞いたんだ。


 僕は、貴史を連れて、部室に向かった。
 電車で30分くらいかかるけど、乗ってる間、あまり会話はなかった。

 来る前に電話してあるから、部室の鍵はあいてた。

「ここが部室。入って」
「うん…」

 僕と貴史は部室に入った。

 あまり、部室というイメージの部屋じゃない。
 どこの家にもある、居間みたいなかんじ。テレビがあって、テーブルがあって、
 クッションとかソファーとか、ゲーム機とかがある。

 僕は貴史をテーブルのそばに座らせて、僕もそばに座った。

「少しクラブの説明とかしておいて、って頼まれてるから、はじめるね」

 何だろう、という顔の貴史に、僕は説明をはじめる。

「今はいいけどクラブ活動中は、自分の事を「僕」と呼んじゃダメ。
 「俺」なんて、もっとダメだよ」
「じゃあ…」
「私、かな。なんかこのごろ、「ウチ」も流行ってるみたいだけどさ」
「それって、もしかして?」

 二人でひとしきり笑ったあと、僕は次の説明にうつった。

「名前考えてね。ここで名乗る名前」
「名前?」
「うん、名前。ここでは、本名も名乗っちゃだめだからね…。
 名前を変える事で、別人になったつもりで、はじけられるものらしいよ」

 誰か「先輩」に聞いた事を、そのまま貴史に言ってみた。
 どうも、納得しているみたい。

「貴子にでもしようかな」
「安易だね」
「じゃあ、大田は何て名前にしたの?」
「幹夫だから、みき」
「…そっちだって安易じゃん」

 また二人で、ひとしきり笑った。
 「貴子」も、だいぶ緊張が解けてきたようだから、そろそろ大丈夫かな。

「じゃあ、そろそろ、着てみる?」
「え…」
「服。女の子の服ね」

 僕は返事を待たず、隣の部屋…更衣室として使われてる部屋から、
 「共用品」のワンピースを持ってくる。

「こんなのどう? 初めてだったら、これが楽だと思うよ」
「……」
「見ないでいてあげるから、こっちに着替えてみて」

 男どうしで、着替えを見ないであげるから、もおかしい気はするけど、
 僕も着替えは見られたくないから、きっと貴子もそうなんだろうと勝手に考えた。

 僕が目をそらしながら、そんな事を考えてる間に、貴子は着替えを終えてた。


「自分を、鏡で見てみなよ」

 僕は、貴子を、鏡の前まで歩かせた。

 「これが…僕?」なんて反応は、まだ見た事ない。
 僕の見た中では、ほとんどは、もじもじするだけ。
 貴子もそうだった。


「そのまま待っててね。僕も、服を着替えてくるから」

 僕はそう貴子に言って、隣の部屋に入った。


 一度、着てるものを全部脱いで、裸になる。
 そのへんに置いてある香水をちょっとだけつける。

 自分の名前の書いてある箱に入っている服をながめた。
 お小遣いは多いほうじゃないから、あまりバリエーションはない。
 自分の服はやめて、共用品の、女子高の制服にした。

 パンツと靴下は自前。ちゃんと、ルーズソックスだよ。
 シャツ着て、ミニスカートはいて、上着着て…。
 誰か、セーラー服も寄贈してくれないかな。


 僕が「私」になり終わって、部屋に戻ったとき、
 貴子はまだ、鏡の前で立ってた。

 私は、そばにあるソファーベッドに腰掛けたけど、
 貴子は立ったまま動かない。

「ねえ、こっちおいでよ」
「うん…」

 私のすぐ横に、貴子が座った。

「緊張してる?」
「少し」
「私も、少し緊張してる」

 しばらく、二人とも何も言わなかった。
 空気が重くなっちゃったから、まゆさんの言った、「いろいろ」をしようかな。


 私の手が足に触れて、スカートを上げようとしたとき、貴子は、

「あっ…」

 としか言わなかった。
 抵抗する様子はないから、私は、貴子の足をなでながら、スカートをゆっくりめくった。

「鏡、見てごらん」

 貴子は私に言われた通り、鏡の方を見て…
 すぐにうつむいた。

「もし、鏡の位置に人がいたら、見えちゃうよね」

 スカートの中が、と言う前に、貴子は足を閉じようとする。
 別に、閉じさせないようにはしないで、したいようにさせてあげた。

「恥ずかしいの? だとしたら、私の事も馬鹿にしてる事になるよ。
 恥ずかしくないよね。だから…」

 私は、手をゆっくり移動させて、太ももの内側くらいまで持っていった。

「ねえ、触っていい?」
「触るって…?」
「わかってるくせに…。少し、足開いてね」

 私は貴子のパンツの上から、女の子にはあるはずのないものを、そっと触った。
 貴子は少し身をこわばらせたけど、抵抗はしない。
 触った手を少し動かしてみるだけで、びくっ、と体が震える。

「なんでそういう反応するのかな。自分で触ってもそんなになる?」

 貴子は小さく首を振る。

「他人に触られるのが始めてだから、かな…?」
「たぶん…」
「じかに、触りたいな…」


 …そのときドアが開いて、人が入ってきた。

「ああ、気にしないで続けてね」

 入ってきたのは、ユリさんという、クラブには珍しく本物の女の人。
 女の人、とはいっても、まだ10代、大学生らしいけど。

「サポーターもいないのにするなんて…みきちゃん、やっぱり本物?」
「知ってるでしょ?」

 サポーターというのは、クラブ活動を支援してくれる人。
 服とか差し入れとかと引き換えに、いいものが見られたりする。
 もちろん、あまりに「アレ」な人は追い出されるみたい…。
 追い出せるだけの力もまゆさんにはあるようだけど、よくわからない。
 私の知ってる限りでは、あまりひどい人はいないから。

 ユリさんは、本当の意味でのサポーターかもしれない。
 恋人や姉弟のふりをして、服をかわりに買ってくれたり、
 衣装をクリーニングに出したり、私たちがしづらい事を手伝ってくれる。
 今、私の着てる制服も、ユリさんの提供品だったりする。

「もう、いいとこだったのに…」
「だから、続けていいってば。私の事は気にしないでね」

 気にしないでね、と言いながら、ユリさんは一番見やすい位置に
 クッションを動かして座りこむと、
 バッグから、ペットボトルに入ったジュースと、お菓子を取り出した。

「……」
「そんな目で見ないでよ。さあ、早く早く」

 私も貴子も、もちろん気持ちはしぼんでしまった。

「やめた。続きは、また今度ね」

 さすがに貴子は返事をしなかったけど、ユリさんは騒いでいる。

「続きの約束してるしー。その子も、まんざらじゃなさそうだし…」

 …僕たちはとりあえず着替えて、元の姿に戻った。
 着替え中、居間に一人取り残された人が、
 「きっと中で続きを…」とか色々騒いでたけど、気にしない。


 そのあとはしばらくして、まゆさんも来て、皆でだらだら喋ってて、
 気がついたらもう夜。帰ったら母さんに怒られた。
 父さんは、「男なら、ちょっとくらい遅くなったっていいだろ」とか言ってたけど、
 何をして遅くなったか言ったら、やっぱり怒られるだろうね…。


 貴史は次の日、学校にこなかった…。
 僕のせいかもしれない、って少し心配だったけど、違ったみたい。

 家に帰ってメールチェックしたら、まゆさんから、いつもの方法でメールきてて、
 それによると、貴史は、クラブに正式に入りたいって言ってきてるみたい。

 僕は少し安心した。
 同時に、続きはいつできるのかな…って、少し楽しみになった。


<つづく>

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