Beauty and Beast


「最近、"あいつら"と、つるんでるって?」
「…関係ないでしょう」
「あるんだよ」

 あまり気は進まないけど、まゆさんの頼みだし、拓美に電話した。
 出ないだろうと思ったけどなぜか出たから、話してるところ。

「クラブ潰れちゃったから、安心してそっち攻撃できるわけ。
 で、そんときまた敵に回ったら、本気で潰すからね」

 どうやって? って突っ込まれたら嫌だな。ただの脅しだし。
 でも結構効果はあったみたいだね。黙り込んでる。

「また黙り込んで、逃げるのかよ。で、そっちで徒党組んで、俺突付くのか?
 悪いけど、もうクラブない以上、どんな手使ってでも反撃するよ」

 それでもまだ返事がない。ちょっと攻撃的すぎたかな。

「やめようか。別に、いびるために電話したんじゃない。
 友好的に、お前にだけ、先に降伏勧告するつもりだったんだけど」
「…なんでですか?」
「気まぐれ」
「はあ?」
「気まぐれの他には、まゆさんに言われたのもあるかな。
 いい人だよね。なんだかんだで、まだお前の心配してるよ」

 本当に、お人よしだと思う。
 拓美のやつ、また黙り込んじゃった。困ってる奴見ると、僕の気まぐれは
 さらに加速するんだよね。悪い癖だ。

「そういうかんじ。拓美説得しといてくれって言われてるんだ。
 まあ、お前は俺のことは嫌いだろうけど、まゆさんの顔は潰さないであげてほしいな」
「……」
「で、今時間ある? あるなら、速攻で今から言うとこに来てほしいんだけど。
 もちろん服も持ってね。お気に入りのやつ」
「わかりました…」

 妙に素直だなあ。まあ、いいんだけど。楽だし。
 僕は、泊まってるホテルと部屋番号を教えて、電話を切った。


 さて、変身変身。ざっとシャワー浴びて、着替えて…。
 今度は別の相手に電話。前もって話は通してあったから、すぐ来てね、とだけ。

 手持ち無沙汰だから私も化粧でもやっとくか、と思った矢先に、ドアがノックされた。


「いらっしゃい」
「…こんにちは」

 拓美は入ってくるなり、隅っこで着替え開始。
 私は何となく見ないようにした。クラブのときの癖かな?
 自分もあまり化けてる経過を見られたくないし、まあ、みんなそうじゃないかな。


 拓美は着替えてきて、ソファに座った。少し距離置かれたけど、まあ、しょうがない。

「改めて、いらっしゃい。いきなりだけど、あいつらとうまくやってるの?」
「……」
「私の予想だと、ゆかりあたりにいじめられてんじゃない?」

 拓美は黙ってうなずいた。やっぱりね。

「私からの電話に出た段階で、薄々感付いてた。あまりいい思いしてないなって。
 あいつらよりは、まだ私にいじめられてた方が、ましだったろうね」
「ただの、頭数だったみたい」
「そりゃそうでしょ。あいつらが何やってるか、知ってるでしょう?
 自分がその役に立つか、行く前に考えればよかったのに」
「…そうですね」

 やっぱり、いつになく素直だ。本当に、よほどひどい目にあったかな。
 ちゃんと跳ね返ってくれないと、どうも気まずい。

 私は、落ち込んでる様子の拓美をしばらく眺めてた。
 落ち込んでる子ってのは、妙に可愛く見える。私が曲がってるだけかもだけど。
 ずっと観察しててもしかたないから、話を進めるかな。

「良く聞かされた例の口癖だけど、まだ、本気で思ってるの?」
「思ってます…」
「ふーん。まあ、この期に及んでまで、それでいじめるつもりないけどね。
 もしまだ思ってるようなら、ちょっといい思いをさせてあげようかな、と思ってたの」
「?」
「ちょっとゲストを呼んである」

 ゲストが誰だか聞いてこないから、別にこっちも説明しない。
 さて話の続き。

「クラブ自体はもう消えちゃって、いまのとこ復活の見通しないみたい。
 だから戻ってこいってわけじゃなくて、単にあいつらとの関係を…」

 話してる最中に、ドアがノックされた。来たかな?



「あれ、誰といるのかと思えば、面白い組み合わせ…」

 雅は、別に驚いてないみたい。それどころか、かなり面白そうにしてる。

「誰だと思った?」
「んー、ミキタカコンビかなと」
「二人とも連絡取れなくなったんだけど。どうしてるんだか」
「貴子ちゃん、携帯壊してデータ全飛びアンド解約。今はないって」


「…で、今日の演目は、美女と野獣?」
「野獣を、せめて見られる女の子にしようかなと。そのために呼んだの」
「ふーん。何があったのか知らないけど」

 雅は、拓美を品定めするように上から下まで見回した。

「意地悪で言うんじゃないけどさ、やっぱ現状じゃパスは論外、見られるレベルに
 できるかも自信なし。まあ、黄色い救急車呼ばれない程度まではいけるかな」
「黄色い救急車って、デマだよ」
「意味が通じたならOK」

 雅は拓美の横に座って、バッグから化粧道具取り出しながら話しかける。

「175くらいだよね。体重いくつ? 嘘ついてもしょうがないよ」
「85…」
「目標20減ね。少なくとも、10以上落とさないと、なかなかいい服ないよ。
 あとちょっと筋肉質すぎ。本当に文化部?」

 拓美の体あちこち触りながら、雅は、何だかんだで燃えてるようだ。
 ニキビ触るなとか、高い石鹸買って毎日顔洗えとか、野菜食えとか…。
 色々拓美に指導してる。

 そして、雅の美容指導やメイク作業が終わったときには、
 予想よりもかなりましな、"巨大疑問符付きな女の子"が出来上がってた。

「ざっとこんなものかな? 結構うまくいったと思うんだけど」
「悪くないと思う…」

 私は、出来上がった拓美に近づいて、よーく観察してみる。

「結構、食えって言われたら食えちゃうかな」

 別にお世辞じゃなく、ほんとにそう思った。化粧ってすごいよね。

「ほらほら、見てみ」

 雅に渡された手鏡を見て、拓美が固まってる。
 きっと、自分でも予想外だったんだろう。


「さてと、そろそろ覚悟は決まった?」
「え…」
「ただで帰すつもりないよ。とりあえずここ座って」

 私は拓美を立たせると、ベッドまで連れて行って座らせ、自分はすぐ横に腰掛けた。

 雅は、観戦体勢を取ってる。いつの間にか、しっかりテーブルの上に、
 お菓子、煙草、お茶の三点セット用意して…。

「もう大体わかってると思うけど…。せっかく、今までで一番可愛くなったのに、
 なんにもしないで帰ろうとか、帰れるとか、思ってないよね?」

 私は拓美に寄りかかるように、押し倒しにかかる。
 思ったより抵抗しない。というより、全然抵抗してないみたい。

「おかしいな、力比べなら、私が勝てるはずないのにね。
 男らしく、はねのけてみないの?」

 わざと、男らしく、にアクセント置いて言ってみた。
 やっぱり拓美はされるがままだった。

「いい子だねー」

 私は拓美をベッドにあおむけに寝かせて、逆向きに上にまたがった。
 まあ普通に、シックスナインの準備態勢。

 拓美のスカートをめくって、そのままストライプの可愛い下着を脱がす。
 下着を見て吹き出しそうになったのは、必死にこらえた。さすがに失礼だし。
 もう、いかにも窮屈でした、とばかりに、男の子の証拠が大登場。

 ふーん、けっこうご立派だこと。ちゃんとむけてるしね。生意気だ。
 で、ちゃんと綺麗にしてきてるらしい。感心感心。
 「お客さん」なら、汚いくらいのほうが好きだけどね。

「こんなに立派じゃ、さらに女の子は難しいかもねー」

 意地悪言ってやった。…ちょっと悔しいのもあるしね。
 それから私は、拓美の、女の子にはないものを、やさしく舐めてあげた。

「ひゃっ」

 まさかこの子から、こんな可愛い声が聞けると思わなかった。
 やっぱり、食わず嫌いせず、何でも試してみるものだね。

「ねえ、私のも脱がせて…同じようにして?」

 そう言うと、拓美は、すぐ私のスカートの中の下着に手をかけて、おろしはじめた。
 恐る恐るやってるのがわかる…おろされた。
 そのまま動きがない。きっと今、思い切ろうとしてるんじゃないかな。
 って思った瞬間、食いついてきた。早い。

 …私はこんなに頑張ってるのに、あっちは下手だなあ。
 まあ、もしこれで、すごく上手かったりしたら謎だけどさ。
 こんな事を覚えられる経験、たぶんしてるはずないし。
 私はわざと、大きな音を立てながら口を離して、聞いてみた。

「ところで、こういう事、したことあるの?」
「…ないの」

 スイッチ入っちゃってるなあ。ほんとに、女の子みたいな口調になっちゃって。
 「始める前に聞くものだろ、そういうのは」 って、雅は大笑いしてるけど、
 私はそれを無視して続けることにした。

「ふーん、やっぱり初体験なんだ。大嫌いな私が相手で、いいの?」
「……」
「大嫌いなくせに、ここはこんなに大きくなっちゃってるんだ。
 まあ、刺激されれば反応するの、当たり前だもんね」
「本当は、こういう事あったらいいなって、ちょっと思ってた…」

 えー。とか思ってたら、また声が聞こえる。

「悔しいけど、明美さん可愛いもん」
「とりあえず、喜んでおこうかな」

 ほめられれば、悪い気はしない。結構かわいいとこあるじゃん。

「じゃあ、可愛い明美ちゃんを、もっと気合入れて気持ちよくしてね」
「…どうすればいいの?」
「自分にだって、ついてるでしょ? そうだ、私がやった事、真似してみて」

 そう言って、私は作業再開。我ながら夢もロマンもないな、作業だなんて。

 拓美は、言った通り、私がしたことを、そのまま真似てくる。
 先ほどよりも努力、やる気が伝わってきていい感じです。って超偉そう。
 こっちも誠心誠意お返ししてあげないとね。

 あ、もうちょいでいく。何となくわかった。
 だから思い切り、吸い込んでやったら、予感的中。

 ごくん。わざと大げさに、飲み込んでるとわかるアクションとった。さあ驚け。

「いくときは言ってくれないと。それとも、言えないほど気持ちよかった?」
「…飲んじゃったの?」
「うん」

 やっぱり驚いてるみたい。絶対病気持ってないだろうから、
 怖くもなんともないんだけどね。

「もちろん、私のも、飲んでくれるよね…?」

 私は何か持ってるかもしれないけど、知らない。
 …飲んでもらおうにも、やっぱりちょっと下手すぎて、いけそうもないけどね。
 なんだか、ちょっと我慢できなくなってきた。

「ねえ、拓美ちゃん…」
「なあに?」

 どうしようかな、言っちゃおうかな、やめとこうかな…。
 私は少し考えたんだけど、なるようになれって感じで、言っちゃった。

「もし、嫌じゃなかったら…男の子に戻らない? 着替えなくていいけど」

 多分、私が言ったことの意味は、通じてる。困ってるかな。

「もし明美に恥かかせたら、あとが怖いよー?」

 雅が茶々を入れる。
 ていうかもう逃がす気ないけど。こっちも、なんかスイッチ入っちゃった。

「やっぱり私相手だと、嫌なの?」

 私は向きを変えて、拓美に顔を近づけて、上目遣いで言ってみた。

「…嫌じゃないです」
「ありがと」

 大サービスで軽くキスでもしてやろうとしたら、なんとよけられた。
 一瞬腹が立ったけど、そういえば思い当たることがある。

「ああ、さすがに、自分の出したもの味わいたくないのね」
「ごめんね、ついびっくりして…」
「いいの」


「もちろん、入れちゃうHも、初めてだよね?」
「…うん」

 誘った側が言うのもなんだけど、まさか、ここまですることになるとは。
 でもまあ、やっぱり、我慢できないし。私はそういう子なんだな。

 拓美は寝かせたまま、私はベッドを降りて、必要物資調達。
 って、バッグからローション出して、持ってくるだけなんだけどね。

 初めてらしいので、私が上になって楽させてあげましょう。
 なんて教育熱心なんだろう。
 私は拓美の太股あたりにまたがるようにヒザ立ちになって、
 突撃態勢ばっちりの拓美のものと、自然には受け入れ態勢ができない
 自分の来賓室に、たっぷりローション塗りたくった。

「さて、はじめちゃうよ。後で、やっぱり嫌だったとか言わないでね?」

 私は返事を待つこともなく、少し前に動いて、久しぶりにお客様を受け入れた。
 うーん、なんとなく幸せ。

「そっちはしばらく動かないでね」
「うん…」

 様子見というかんじで、私は少し動いてみた。いいかんじ。
 しばらくの間、私はゆっくり動きつづけた。

「どう、気持ちいい?」

 拓美は黙ってうなずいた。ちょっと崩れかけた濃い目のメイク越しにも、
 結構赤くなってるのがわかる。

「私も。今度は、そっちが動いてみて…」

 かなり遠慮がちに、拓美は動きはじめた。
 それはそれでいいんだけど、どうも、ちょっとね。
 しばらくたったら、やっぱり我慢できなくなってきた。


「乱暴にしてもいいよ…仕返しのつもりでいいから、強く動いて」

 なんて言ってみたら、もうほんとに遠慮なしで突き上げてくるし。
 さすがに痛い。これが私じゃなかったら、怒られてるよ。

 ああ、そういえば年下に犯されるの、初めてだ。
 それに気付いたら、なんだかすごく気持ちよくなってきた。

「そんなんじゃ全然気持ちよくないよ。頑張ってね」

 いや、本当は結構きついんだけどね。

 しばらくたっても、拓美は、ぜんぜんいきそうもない。
 …ちょっと自信なくした。

「きっと拓美ちゃん、オナニーのしすぎ。ついでに二度目だしね」

 実にリラックスして見学してたらしい雅が、意地悪く言う。

 拓美はといえば、どうも動くのにも力尽きたらしい。
 急に興ざめしてきた。意地悪言ってやる。

「こんなんじゃ、やっぱり、本格的に女の子目指さないとねー…」

 ああ、萎えていくのが何となくわかる。不完全燃焼だけど、しょうがない。


「私は、なんかおさまりがつかないんだけど」
「ごめんね…」

 体離れて、服直して、反省のお時間。拓美は本当に申し訳なさそうにしてる。
 ちょっと可愛いとこあるじゃん、と思ったけど、顔や態度には出さない。


 そういえば今さらになって、呼びつけた本来の目的を思い出した。

「話ははるかに戻って、除名組との接触は絶ってもらいたいんだけど。どう?」
「……」
「言う事聞いたら、また遊んであげるからさー」

 まあ、そう簡単に言う事は聞かないだろう、と思ったんだけど、
 なんと拓美はうなずいて、逆にこっちが驚いた。

「思ったより、いい子なんだねー」

 驚いたのは表に出さないようにして、とりあえずほめておいた。

 拓美はさっさと着替え済ませて、私に言わせれば、客としてやられるなら
 こっちの方がいいという姿に戻った。
 改めて、ずいぶん変わるものだなあと思っちゃった。

 時間的には、もう、夜と言っていいかんじ。
 さすがにそろそろまずいって、拓美はすぐに帰っちゃった。

「じゃあ、また今度ね」

 なんて、自分でもありえないと思うほど友好的に送り出したら、
 今度はこっちから電話してもいいですか、なんて向こうも妙に友好的。



「次の約束までしちゃってるし。嫌いじゃなかったの?」

 拓美が出て行ったあと、雅が意地悪く笑いながら言った。

「あー、向こうが嫌ってるから、こっちも嫌ってただけだし」
「まるっきり気付いてなかった?」

 何を言ってるのかよくわからないから、返事しないでいたら、
 雅は勝手に続けていく。

「嫌われてもいいから、構ってほしかったんじゃないかな。
 誰かさんが私と知り合って、間もない頃みたいにね」
「何の話?」
「あまりに相手にされないもんだから、切れちゃったんじゃないかと。
 その後の行動は違ったにしてもね」
「もういいから」

 今思えば馬鹿馬鹿しい話だけど、雅があまりに私を相手にしないから、
 部屋に押しかけて、帰ってくるまでドアの前で座ってた事とか、あったなあ…。

「人の家押しかけて嫌がらせするより、寄り集まって悪口言ったりするほうが、
 よっぽど女の子らしいし、大人な発散方法ではあるんじゃないかな」
「もう、そういう話はいいから」

 単に話を打ち切りたいだけじゃなくて、気分的にやっぱり切実だから、
 話をそらしてみよう。

「でね、やっぱり私、まだおさまりがつかないんだけど…」
「残念だけど、本当に残念だけど、そのへんは自分で何とかするように」
「え」
「そろそろ、仕事行かないとだしね」


 また駆け引きに持ち込んでいじめるつもりかと思ったら、
 雅はさっさと荷物をまとめて、本当に帰っちゃった…。

 あー、なんか最低だ。ふて寝してやる。



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