#16.5 良い子の日常


 合宿は無事終わって、解散になったけど、僕は気になる事があって部室に残った。
 雅やユリさんも帰っていって、今、部室には僕しかいない。

 どのくらいたったかな、まゆさんが来た。まゆさんは、まるで僕が部室で待ってるのを
 知ってたみたいに、2人分のお茶とお菓子持って、入ってきた。

「やっぱりいた。何か、言いたいことありそうだけど?」
「うん」

 見透かされてたかな。ていうかバレバレかもしれないけど。

「何を言いたいのか、聞きたいのか、当ててみよっか。拓美ちゃんのことだよね」
「うん。そうすんなり引くなんてありうるかな、あいつがって…」
「やっぱり、そう思うよね」

 まゆさんはため息をついて続けた。

「ぶっちゃけ、冷静に電話してきて謝って来たのは本当だけど、経緯と背景にかなり問題あり」
「どういうこと?」
「まあ想像通り、私今まで情報集めしてたんだけど。除名組と接触したね、あの子」
「ありゃ」

 僕は急に吹き出してしまった。だって…、

「つるむのはいいけどさ、あいつ売れるのかな」
「人それぞれってやつでしょう」

 まゆさんは口調は普通だけど、気分はあまり良くなさそうだ。

「んで明美ちゃん、除名していい?」
「え…」
「罪状については、並べるのも面倒なので省略。除名にした旨、あとでメールもまわすから」
「ちょ、ちょっと…」
「大いに反省したら、そのときは復帰を認めます。それまでは、やさぐれて、
 除名組と接触するなどしてもいいのではないかと…」

 まゆさんは僕を見てニコニコしてる。なるほど、そういうことか…。

「それはいいんだけど、あいつら、私とは絶対に関りたがらないと思う」
「…たしかに。いいアイデアだと思ったんだけどねー」
「アイデアでくびにされたら、たまらないし」
「まあとりあえず、会員一同には、拓美ちゃんには関わらないように言っとかなきゃね」
「うん」

 話は一応まとまったと思って僕が荷物をまとめだすと、まゆさんが聞いてきた。

「今日はどこに帰るの?」
「少なくとも家じゃないとこ。またどっか泊まろうかなって」
「しまいにゃ捜索願いだされるよ」

 携帯が鳴った。誰からだろう…と思ったら、光だった。

「どうしたの?」
「兄ちゃん…父さんが、倒れちゃった」
「…そんなくだらない用事なら、切る」
「え…」

 僕は電話を切って、電源も切った。
 まゆさんは僕を見て怪訝そうな顔してる。

「…別に。弟がくだらない電話かけてきただけ。まあ、こうやって連絡取れるから、
 捜索願いとか、そういうのはないんじゃないかな?
「電源切ったじゃん」
「バッテリーの節約。別に心配とかしないでいいから」

 まゆさんは何か言いたい事がありそうだったけど、僕は荷物をまとめようとした。
 でも、引き止められた。

「あーちょっと、全然関係ない話なんだけど」
「なんです?」
「実は新人が入るかもしれないの」
「おお」

 そういえば、貴子ちゃんが入ってから、ずいぶん新人はきてなかった。

「いきなりなんだけど、明日か、あさって、新人教育できない?」
「どっちもあいてますよ」
「じゃ後で連絡してみる。明日いきなり呼ぶかもだから、よろしくね」
「はい」

 というわけで、僕は部室を出てきた。
 いつも使ってるホテルまで行くためにタクシー拾って、中で一応携帯を確認。
 お仕事のメールも、きてるかもしれないからね…。
 と思ったら、メールは光からの一通だけだった。とにかく連絡くれって。

「メールまでよこして、一体どうしたの? そんなひどいとか?」

 ホテルの部屋に入って、一休みしてから、光に電話してみた。

「父さん倒れちゃった。今回結構重いみたい」
「うん。そのまま死ねばいいのにね」
「…バカ」
「元々、まるで趣味みたいに、こまめに寝込んでるじゃん…。
 親父については、完全に死ぬまでは連絡いらないよ。死んでから教えてくれ」

 適当に電話を切って…もう、けっこうな時間だから寝ようかな。
 新人ってどんな子だろうって、ちょっと気にしたり、勝手な妄想してみたり。


 携帯が鳴って目をさました。音でわかるけど、相手はまゆさん。

「おはようー」
「おはようございます」
「新人さん、今日いきなりはさすがに無理みたい。もうちょい先になっちゃうかも」
「残念」

 暇になっちゃった。どうするかな…。
 僕は、また出会いサイトに援希望の書き込みして、もうひと眠りすることにした。



[menu]