悪い子


 女の子のかっこしてHすることに、どんな意味があるのかな。
 たまに私は考えてみる。

 そっちのほうが気持ちいいから、っていう答えしか出てこない。
 クラブの、他の子のほとんどみたいに、できれば本物の女の子になりたい、とか、
 そういうことは、私はあまり考えてない…。

 たぶん私、ひねくれ者なんだろうな。
 人と違う事とか、悪い事をするのが気持ちいいだけなのかも。


 目の前で女の子のかっこうなんかしたら、父さんはどれだけ落ち込むかな。
 それどころか売春までしてる。知ったらどれだけ悔しがるかな。
 育て方に失敗した、って、どれだけ悲しむかな。

 あなたの自慢の息子は、隠れて女装しています。
 それどころか、男相手に体を売っています。あなたと変わらない年代の男に。

 ぜひ、見せてあげたいものです。
 他人の精液にまみれて、いやらしい声を上げている、あなたの息子の姿を。
 ほら、縛られて、男のものを顔に擦り付けられて、自分のまで大きくしながら、
 こんな声を上げているんですよ…。

「早く…私のも触ってよぉ…お願い」


 今日の「お客さん」は、あまり楽しくない…。
 こう言われて、すぐ触ってくれるんだもん。もっと意地悪してほしいのに。
 ついでに、私が言わないと、全然何もしてくれない。遠慮してる。

 …たぶん、ただ高校生とHできるだけで満足してるんだ、この人。
 そう考えると、なんだか急に、やる気が失せてきた。

 やる気はなくなったけど、一応することはしないとだめだよね。
 とりあえず、縄ほどいてもらうまでは、けんかしても勝ち目ないもん。


 やる気ないなりに頑張って、それなりに満足してもらえたみたい。
 「また会いたいな」なんて言ってくれたし。

 「機会があったらね」って返しといた。今回使った携帯メアドは近いうちにつぶすし、
 こっちから連絡するつもりないから、機会はないだろうけど。


 お客さんを一人で帰らせて、僕は、ベッドに転がった。
 お仕事自体はもう終わったんだけど、
 ここは一応ちゃんとしたホテルだから、朝までここにいられる。
 あしたは、ここから部室にいこうっと。

 家にはあまり帰らない。
 帰ってもつまらない。居心地もよくない。

 何年か前は異常なほどに感じた僕への期待は、もう全部弟に向けられちゃってるみたい。
 僕は、家にいても、いないようなものだと扱われてる…。
 2、3日くらい家に帰らなくても何も言われない。

 いい高校は全部落ちて、受験する事も言ってなかった、滑り止めとも思えないほど
 低いところに入って、その上留年までして…。
 まあ確かに、もし自分が親だったら見捨ててるかもしれないけどね。


 まだ8時くらいだから、少し遊びにいこうかな、って思ってたら、
 携帯にメールが届いた。まゆさんからだった。

「おっす(>_<)ノ つーかメル帰ってくるぞ業務連絡だぞー(>_<)」

 そういえば、連絡するの忘れてた。
 僕のパソコンは、こないだ弟のものになったんだった。
 だいたい、そんなかんじの返事を書いた。

 30分もしないうちに、まゆさんから電話かかってきた。
 今後連絡メールはどうしようかとか、そういう話。
 番号知ってるんだから、電話で連絡してくれればいい話なのにね。
 とりあえず携帯メールなり、電話なりで連絡、という形にして、切った。


 なんとなく、出かける気も薄れちゃって、僕はまたベッドにあおむけに転がった。
 さっきまで自分がこの上でしてた事、された事、いろいろ思い出す。

 …今日はつまんなかった。本気でつまんなかった。
 お金貰ってるんだから、文句言っちゃいけないのかもしれないけど、
 同じ額くれて、もっと気持ちよくしてくれた人も多かったし。

 結局、僕はいかせてくれなかった。そういえば…。
 とまた腹を立てそうになったけど、それは僕がやる気なくして、
 早く突っ込んでってせがんだからだろうし、しょうがないか。


 自分へのご褒美は、自分で与えることにした。
 …女の子になりたい、って子は、こんな事するの嫌がるかな?
 こんなものはついてないもんね、普通の女の子には。

 今度、拓美ちゃんでも問い詰めてみようか。どうやって性欲解消してるのか。
 間違っても恋人なんているはずないし…。

 もし万が一…あの子に襲われたらどうしようかな。
 私、泣いちゃうかも。本当に嫌いだもん。でも力は強そうだから、
 押さえつけられたら逃げられないと思う…。
 嫌だって泣いても抵抗しても、むりやり、いろんな事されちゃうんだ…。

 まあ、そんなこと、絶対にあるわけないけどね。
 自分が出したものを、誰かに命令されたつもりでなめ取りながら、僕は思った。


 シャワー浴びて、一休みしてから、携帯で出会いサイトに書き込み。
 いつもみたいにプロフィールと、援助希望だってことと、Mできますって書いた。

 本当は、Mできます、じゃなくて、M以外はしたくありません、なんだけど、
 それをはっきり書いちゃうと、H自体は楽しくても、関係ないところで
 僕を不愉快にさせる人ばっかり来るから…。

 たとえば、僕を飼ってくれると申し出てくれた人いたんだけど…。
 僕に、いつも女の子のかっこをさせて、毎日可愛がってくれるって言ってくれた。

 いいかんじの人だったから、ちょっと興味持って色々聞いてたんだけど、
 学校やめる手続きしようかなって段階になって、人が変わったように、
 やれ将来がどうのとか、家族はどうのとか言い出した。ばかみたい。

 あと、本気で抵抗したら諦めちゃった人もいた…。
 電話とかメールじゃ、ずいぶん威勢のいい、自称Sご主人様で、期待してたのに、
 会ってみれば、170あるかないかの僕より背が低い…。
 たぶん経験も口ばっかりで、縛り方も知らない。すぐほどけちゃった。
 で、自由になった手で押し返したら、押し返せちゃった。力もない。
 結局それで終わっちゃったけど、お金は、約束の半分くれたからいいか…。


 …しばらく待ってるけど、やっぱり、すぐにはメールこないね。
 僕はまたベッドに横になって、今度は寝ることにした。


 目を覚ましたのは、もう朝になって、メール着信の音に気づいたとき。
 …広告メールだった。日頃から、広告メール業者には殺意を抱いてるけど、
 こういうときは、ますます腹が立つ…。

 携帯メール業者めを監禁して拷問する妄想をしてるうちに、
 いつのまにか、その妄想の主人公が自分になってた。…いつものことだけど。
 もう一回シャワー浴びなきゃ、だめそうだね。

 昨日買っておいたパン食べて、お茶飲んで、チェックアウト。
 そのまま電車乗って部室…。お仕事翌日の、いつものパターン。


 部室に昼頃ついた。今日の先客は…というより、今日も、かな。
 みきちゃんと貴子ちゃんだった。

「明美さんだー」
「こんにちは」
「…俺は、明だけど。まだ」

 学校と、あと、部室で男のときは、僕は自分を俺って言う。
 まわりが年下ばっかりだから、っていうのが大きいかな…?
 やっぱり僕は基本的には、男なんだろうか。

 いつもどおり、すぐ更衣室に入って、着替えと化粧。
 たまに、まゆさんに文句を言われるくらい、僕の私物の服は多い。
 今度半分くらい、共用品として寄付しちゃおうかな。

 下着は女物つけてきてる。別に日常的にしてるわけじゃなくて、
 部室にくるつもりだったから、はじめからはいてた。
 プールいくときに、下にはじめから水着着ていくようなものかな。

 何を着ようかな、と思って、ふと、共用品の水色のワンピースが目にとまった。
 今日はこれにしようっと。


 化粧は、なんとなく楽しい。いろいろいじってるうちに、結構時間たっちゃう。
 でも、かかる時間のほとんどがひげ抜き、毛抜きだってのは、あまり色気ないかもね。

 この間、ユリさんに、ちょっと化粧がケバいって言われたから、今日は全体的に控えめ。
 口紅も新しくピンクを買ったから、使ってみようかな…。

 だいたいこんなものかな、と思って、最初に後ろで束ねておいた髪の毛をおろす。
 実は、学校を選んだ理由のひとつに、校則うるさくないというか
 あってないようなもので、髪長くしても、それほど厳しく言われないからってのが
 あったりするんだけど。


「あ、その服…」

 貴子ちゃんが、私の着てる服を見て、言った。
 そういえばこれ、貴子ちゃんが、はじめの頃気に入ってたやつだ。

「うん。貴子ちゃんのにおいするかな?」

 私はわざとらしく、服のにおいをかいでみた。防虫剤のにおいしかしないけど。
 うつむく貴子ちゃんと、何か文句でも言いたそうなみきちゃんを見て、
 つい私は、笑っちゃった。

「なにがおかしいんですか」
「ううん、二人は本当に仲がいいんだ、とか思って」

 それは本当に思う。はたから見てて憎たらしく思うほど仲がいい。
 それを表に出すから、いつも私にちょっかい出されるのにね。

「で、ちゃんとHしてる?」
「してません!!」
「してないです…」
「あら。ちゃんとHして、繋ぎ止めないとだめよ、お互いに…。
 なんなら貴子ちゃん、色々と技を教えてもいいけど」

「技ですか…」

 貴子ちゃんは、結構興味を持ってくる。でも今までも、
 「みきちゃんに聞かないと…」で、結局かわされてるんだけどね。

「そう、技。お金が取れるほどの技をいくつも教えてあげるよ」

 こう言いながら、自分にそこまでの技があるとは、思ってない。
 貰えるお金の中で一番比率が多いのは、年齢に対して貰える額だと思う。
 21歳の雅は、私より綺麗で、Hも上手なのに、私よりずっと安くしか売れないし。
 この計算だと、貴子ちゃんはどのくらいかな。私の倍くらい取れるかもね…。

「まだ貴子のこと狙ってるんですか…」

 みきちゃんが、あきれたように言った。

「ううん、みきちゃんの事も、狙ってるけど?」
「……」
「両方とも狙ってたのに、よりによって、その二人がくっついちゃうなんてね。
 まあ残念だけど現実を受け入れて、せめて二人を応援したいの」

 二人とも、ちょっと照れてるみたい。やっぱり可愛い。

「そういうわけで、Hの面倒なら見てあげるから、気が向いたら言ってね」
「結局、それですか…」

 こんなふうに二人をからかってたら、携帯メールの着信音がした。
 …やっと来た、お仕事のメール。きのうの掲示板の反応じゃなくって、
 何回か買ってくれてるお得意様からだったけど。

 名前と、家に4時頃来れるか、としか書いてないそっけないメールに、
 私もすぐ、行くことだけ伝えるそっけないメールを返した。


「さて、用事ができたから、今日は帰るね」
「お仕事、ですか?」

 貴子ちゃんが聞いてくる。私はうなずいて、更衣室に入った。

 いったん化粧を全部落として、服も着替える。
 いつもだったら、面倒だから下着はそのままでいるんだけど、今日はだめ。
 目の前で、裸になって着替えるところからしないといけない相手だから。

 女の子から男の子に戻るのは、その逆より、ずっと短い時間ですむ。
 僕は、部室にいる二人を、またちょっと冷やかしてから、
 今日のご主人様の家に向かった…。



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