:RE

夜話

 夜眠れなくなったらしいウソップが、不寝番のゾロのところまで来た。
 昨日までウソップが不寝番だったので、睡眠のリズムが狂ったままなのかも知れない。それとも、この気温のせいかもしれない。夜もなおぬるい風をたたえたこの海域は、たしかにざわざわと神経を逆なでる。
「男のロマンは無頼にあると思うんだが!」
 という、甚だよく分からない第一声とともに見張り台に体を滑り込ませたウソップが 、そのまま口を動かしながら酒瓶を差し出す。倉庫からくすねてきたのだろう。
 ゾロはまたあのうるさい眉毛に蹴りかかられるなぁとは一応思ったが、思っただけでありがたく酒を頂戴する。
 ウソップが栓抜きを出す前に、ゾロはせっかちに歯で開けた。ぷいと抜いた栓をはき出すとウソップが笑い出した。
「うはは! 栓抜きなら持ってるっつーの! 野獣な!」
「魔獣だ」
 訂正してみるが、実のところ他人がゾロに付けた名前なのでそれほどこだわりはなかった。
「魔獣ねぇ。ま、せいぜい眠りすぎのマリモだって世間にばれないようにしておけよ!」
 ウソップはそう笑うと、自らの分を栓抜きで開けて、ゾロと同じにらっぱにして口を付けた。
 満月を背にしたウソップの陰が床に落ちる。ゾロは天辺に着いている海賊旗を仰いだ。
「無頼な」
「そそそ。他に頼るモノのねぇならず者のことだ! ちんぴらじゃねぇぞ」
 ウソップは無頼漢とちんぴらの違いについて蕩々と語り始めた。
 ゾロはウソップの話を適当に聞いてはいたが、あまり頭に内容が入らないなと思った。それはウソップが立て板に水で話しまくっているせいもあるし、ウソップのよこした酒は喉を焼くような度数だったので、珍しくほろ酔いの気分になったというのもあった。
 ウソップも酔っているのかも知れない。
「ウソップ。元気だな。しゃべりすぎると余計眠れねぇだろ」
 適当にゾロが区切りを入れると、ウソップは少し肩をすくめた。
「まーな。眠れねぇってのは本当だけどな。オレはてっきりゾロのところに来たら眠くなると思ったんだが」
 ゾロは多少心外だった。
「俺はいままで子守歌を歌ったことはねぇ。お望みなら力ずくで眠らせてやってもいいが」
「おいおい。物騒な奴だな! オレはな、眠れないときは退屈な話をするのがいいと思ってるのさ。その点ゾロはこの船で一番退屈な話をする男だからな」
 ゾロはウソップの言葉に心外に心外を重ねた。確かにおもしろおかしい話は得意ではないが、退屈な男と言われる筋合いもない。
 ゾロが黙ると、ウソップが再び口を開いた。
「な。お前といると話が弾んでうれしいよ」
 ゾロと同じに船首の方向を向いたウソップが鼻歌を歌いだした。ルフィと時々歌っている、その時々で歌詞の違う海賊の歌だ。曲の方は元があるのかも知れない。
「ウソップがそう言うんなら、俺が話をするか。眠くなるような奴を」
 ウソップはゾロに向き直ると鼻歌をやめて口笛を吹いた。
「へぇ! 例えばどんな」
「無頼漢の話だな」
「話が分かるな。それはちょっとオレも聞きたい気がする」
「眠くなるんじゃねぇのか」
「ま、つまらなかったら眠るさ。つまらなくなくても、オレは面白かったと思って、どっちにしろゾロのことをありがたく思うぞ」
 ウソップはそう調子のいい結論をつけると、ゾロの話を促すように首をかしげた。
「そいつはな、陸の上で海賊をやってるおかしな野郎だった」
「おい、ゾロ」
 ウソップは即座に頬をふくらませた。
「まぁ聞けよ。退屈な話だ」
「……」
「生い立ちはしらねぇ。まぁ、あんまり普通じゃなかったんだろ。若い割に家は一人暮らしだったみたいだし、子分といえばガキばかり。なのに変な任侠心だけはあって、自分が大して幸福でもねぇってのに、村のお嬢さまに自分が出来る限りの幸福を分けてやったり、村を守ろうとしたりした」
 ウソップは不機嫌そうに話の先を促した。
「それで」
 止めはしないらしい。
「俺はてっきり、たまたまその村に流れ着いていた海賊を当てにして大口をたたいてるのかと思ったが、そうじゃなかった。そいつの任侠心は本物だった。他に頼るところがないってのに、かないそうにない相手に挑むという。ちょっとそこらにいない無頼だった」
「そうだろう」
 ウソップは胸を反らせて威張った。
「流れ着いた海賊の剣士は思ったわけだ。少しうらやましいってな。剣士は船長に出会うまで無頼を気取ってた男だった。実際負け知らずだったし、恐れられてた。だが、今は群れてる。良かったか悪かったかはまた別の話だ。で、陸の海賊が今度は子分も引き連れずに、一人で海に出ようとしていたときに剣士は思った。これ以上こいつに無頼を気取らせたくはないってな。そのまま放っておけば、こいつは本当に無頼を極めちまう」
 ウソップが笑い出した。
「なんだよ! ゾロ! それでお前オレに声を!」

:RE
続きは同人誌で