題「お見舞い」 | |
まだ風の冷たい4月。 部活中、やけにだるくて寒気がすると思っていたら風邪を引いていた。 稽古で汗を掻いたのをそのままで、話し込んだのが悪かったようだ。夜に熱が出た。 「あ”~くそ…っ!めんどくせぇ…」 朝には下がってるだろうとそのまま寝た。 起きたら熱は上がってやがった。主治医に連絡するとすぐ往診に来てくれた。 「珍しいですね。あなたが風邪だなんて…」 「…うるせえ…」 「お薬を置いていくので少しでも良いので何か食べてから飲んでください。やちるちゃんは学校まで送って行きますね。では、お大事に」 ぐずられると思っていたので助かった。面倒くせえが学校に連絡を入れて寝た。 主治医とやちるが家を出て後のシン…とした部屋で、 「腹の底が冷えるな…」 と一人呟く。 外から子供の声や車の音、朝の喧騒が聞こえてくる。 布団に潜りこみ、ため息を吐いた。 「これがあるから嫌なんだ…」 そう呟いて暖かな暗闇で目を閉じ、眠りに落ちた。 放課後、剣道部の主将である更木剣八先輩からまた追いかけられると身構えていると斑目先輩と綾瀬川先輩が手招きしてる。 「なんすか?班目先輩、綾瀬川先輩。更木先輩は…?」 「その先輩の事で君にお願いがあるんだよ」 「はあ…?」 「実はよぉ、隊長が風邪引いたんだよ」 「え、そうなんですか」 「でね、筋違いだとは思うんだけど、君にプリントを届けてもらいたいんだよ」 更木先輩が風邪を引いて休んでるのでプリントを届けてくれと頼まれた。 「なんで俺が?」 と断ろうとするが、 「僕らも行きたいんだけど、もうすぐ大会だし…。うつるとさ、隊長絶対怒ると思うから…。お願いだよ」 とお願いされてしまうと断りにくい。 「それでね、悪いんだけどお見舞いもお願いしたいんだ。あの人寝て治そうとすると思うからスポドリとか差し入れて欲しいんだ。お金は週明けの月曜にでも請求してくれたらいいから!この通り!」 「あ~、なんか分かります。良いですよ。レシートで良いですか?」 「大丈夫だよ!ああ、良かった。黒崎、本当にありがとう!」 「お前だけが頼りだったからなぁ」 「じゃあ、これ。隊長のマンションまでの地図と部屋番号。一応連絡しておくからね」 「あ、はい。へえ、学校の近くなんですね」 「そうなんだ。じゃあお願いね」 「よろしくな」 先輩たちと別れて更木先輩の見舞いに行く。 一護と別れた後、先輩宅に連絡した弓親。 「じゃ、そういう事だからね」 ピッ! 「あ!黒崎にやちるちゃんのこと言うの忘れてた!」 「お前な…」 「一角だって言わなかったじゃないか」 「むう」 「まあ、黒崎なら大丈夫でしょ」 「そうだな」 そんな事を話しながら稽古へ向かう二人。 一護は一度家に帰って着替え、買い物をしてから先輩宅へ向かった。 初めて先輩のマンションに訪れた一護はその大きさに驚いていた。 「でけえ…」 マンションのエントランスで部屋番号を押すと応答がきた。 「だぁれ?」 子供特有の高い声だった。 「ん⁉え~と更木先輩のお見舞いに来たんだけど…」 「ん~…?あ!剣ちゃんのだね!いま開けま~す!」 「剣ちゃん…?」 エレベーターで目当ての階に着き、部屋の前へ。インターホンを押すとすドアが開いた。 「いらっしゃい!剣ちゃん寝てるよ」 ドアを開けてくれたのは小さな女の子だった。妹だろうか? 「こんにちは。俺は黒崎一護。先輩の後輩で今日はお見舞いに来たんだよ。君は?」 目線を合わせるためにしゃがんで話しかける。 「いちご…。じゃあいっちーね!あたしはね!やちるだよ!」 そんな話をしてると奥からTシャツとスウェット姿の先輩がのっそり現れた。 「誰だ…」 「あ、剣ちゃん。起きたの?」 「先輩!寝てなくて大丈夫ですか?」 「黒崎か…?」 先輩がふらついたので慌てて支えにいった。 「あっつ!熱は測りましたか?」 「知らねえ…」 「取り合えず寝ましょう」 肩を貸して寝室へ運ぶ。 先輩を寝かせてから手洗いうがいをする一護。 買ってきた物を冷蔵庫に入れさせてもらう。スポドリは冷えすぎてると飲みにくいかも知れないので数本は常温で置いておく。 「やちるちゃん、体温計はあるかな?」 「あるよ!」 救急箱から体温計を出してくれた。 寝室の扉をノックして入ると先輩は起きていた。 「…なんだ…?」 「熱、測りましょう。あと水分補給もしないと」 「…」 俺が差し出した体温計を無言で受け取った先輩。 ピピピ!ピピピ! 電子音が聞こえたので体温計を受け取る。 「はぁ⁉39.5度⁉」 「うるせえ…」 「あ、すんません。先輩、食欲はありますか?」 「…無ぇ」 「ですよね。とにかく水分補給しましょう。ね?」 ストローを差したペットボトルを差し出したら結構な量を飲んだ。やっぱり喉とか渇いてたんだな。 「先輩、汗掻いてますから着替えましょう?」 「あ?ああ…」 着替えの場所を聞いて新しいシャツと下着、スウェットを取り出し、ついでに体も拭こうと思い付いた。 「先輩、身体も拭いちゃいましょう。お湯とタオル持ってきます」 「は…?」 すぐ部屋を出てやちるちゃんに風呂の場所を聞いた。 「こっちだよ~」 「ありがとう」 風呂場の脱衣所の棚にタオルがあったので2~3枚取ると大きめの洗面器に熱いお湯を溜めて部屋へと戻った。 「先輩、入りますね」 と部屋に入ると先輩がベッドの上でTシャツと絡まってダウンしてた。 「せっ!せんぱーい!」 「……」 先に脱ごうとしてくれたらしいが、汗で湿ったシャツが張り付いて脱げなかったらしい。 「大丈夫ですか?よっと!熱が出てるんだから無茶しないで…」 シャツを脱がすとお湯で絞ったタオルで先輩の顔から拭いていった。 「ん…っぷ」 「熱くはないですか?」 「ああ…」 首元から背中、胸まで拭いていくと急に腕を掴まれた。 「後は自分でやる…!」 「あ、はい。分かりました」 さすがに男同士とはいえ、他人にされるのは嫌だよなぁと新しく絞ったタオルを差しだす。 体を拭き終わって着替えが済んだ。 「先輩、汗が出るでしょうから首にタオル巻いときましょう」 そう言いながら先輩の首にタオルを巻いた。 リビングに出るとやちるちゃんが待っていたので、 「やちるちゃん、先輩は病院に行ったのかな?」 と訊く。 「朝に卯ノ花さんが来てお薬くれたよ」 とのこと。 「うのはなさん?お医者様かな?」 「うん!あたしや剣ちゃんのこと診てくれるんだよ!」 なるほど、かかり付け医だろうな。薬があるなら安心だけど何か食べてもらわないとな。 食欲がないって言ってたし、林檎の擦り下ろしなら食べられるかな? 買い物に行く前に先輩の様子を見る。 部屋に入ると先輩は寝ていたので枕元に水とメモを置いていく。 『やちるちゃんと買い物に行ってきます。黒崎』 額の濡れタオルがぬるくなっていたので絞り直した。 冷たいタオルに気持ち良さそうに息を吐く先輩。 「やちるちゃん、買い物一緒に行こう」 「はーい!」 玄関まで来たやちるはセーターだけだった。 「やちるちゃん、寒いでしょ?上着とかは…?」 「寒くないよ!大丈夫だよ!」 「でも心配だから、これだけ巻いてくれる?」 一護は自分のマフラーを取り、やちるの首に巻いてやった。 「いいの?これ、いっちーのでしょ?」 「いいよ。俺は上着着てるからね」 「…ありがと!」 手を繋いで近所のスーパーへ行く。 スーパーにて。 「なに食べたい?」 「う~ん?」 「先輩も食べられるのが良いよなぁ?」 「剣ちゃんああいう時は熱いの食べてるよ」 「熱いの?うどんとか?」 「そう!なんかねー、お腹が冷えて嫌なんだって」 「そうなんだ。…あのさ、やちるちゃん。先輩が心配だから今日泊っても大丈夫かな?」 「良いよー!あたしと剣ちゃんしか居ないから!」 「え、二人暮らしなの?」 「そうだよー」 「そっかー…」 シャンプーと歯ブラシ、下着をカゴに入れる。 「ちょっと家に電話するね」 「うん!」 家に連絡する。 「親父か?学校の先輩が高熱出して心配だから泊ってく。…。男だよ!うん、小さい女の子だけだから、うん、二人暮らしだって。…。やちるちゃん、お医者さんの名前なんだっけ?」 「卯ノ花さん!」 「ありがとう。うのはなさんだって。…、ああ、そうなのか。分かった、じゃあ」 通話を終わらせ、買い物を再開する。 「う~ん、雑炊とかだと食べやすいかな?それと卵焼きとか?」 「う…」 喉がひり付いて目が覚めた。頭を動かすと濡れたタオルがずり落ちた。 「やちる…?」 シン…、と静まる部屋、テレビの音も聞こえない。居ねえのか?とふと、横を見るとメモが目に入った。 『やちるちゃんと買い物に行ってきます。黒崎』 あぁ…。買い物か…買い物?なんだ、誰も居ねえのか…。 むくりと起き上がる。背中が痛い。頭が重くて痛い。熱い。…寒い。 腹の底が…冷えていく…。 枕元のサイドボードに水の入った洗面器とペットボトルが置かれていたので、喉の渇きを癒す。ついでにトイレに行った。 薄暗いリビング、何の音も、誰の声も聞こえない。 「…ちっ!」 思わず舌打ちがもれた。 ベッドに戻り、目を閉じる。ベッドの中は温かったが爪先から腹の底が冷えていくような錯覚に陥った。 ベッドの中に潜り込み、丸くなる。 腹の底から凶暴な感情が沸き上がる。何かを壊したい、そんな衝動が沸き起こった。 起き上がり、枕元にあったペットボトルを握りしめる。 ペットボトルからひしゃげるような音がした時、玄関からガチャガチャと鍵を開ける音が聞こえた。 「あ…?」 ガチャ!バタン! 「ただいま~!」 「やちるちゃん、静かにね」 「あ!いっけな~い。剣ちゃんねてるんだった」 そんな会話が聞こえた。ああ、帰ってきたのかと遅れて思考が戻ってきた。 暫くして部屋のドアがノックされた。 「先輩、起きてますか?」 ドアが開き、明かりと共に黒崎が顔を出したが光が眩しくて目を眇めた。 「あ、起きてた。ただいまです。熱の方はどうですか?」 「…あ?」 部屋に入ってきた黒崎が枕元に落ちたタオルを洗面器に戻した。 冷たい手が俺の前髪をかき上げたと思ったら黒崎の顔が目の前にあった。 「!?!?!?」 額同士を合わせ熱を測ったようだ。 「まだ熱いっすね。ご飯どうします?」 「ごはん…?」 「お粥と雑炊とうどん。食べられそうなやつあります?」 「あ~…、雑炊…?」 「じゃ、それにします。だるかったらまだ寝ててください。出来たら起こしますから」 「ああ…」 起き上がってた俺を寝かせて絞ったタオル乗せて出て行く黒崎。冷たいタオルが気持ち良かった。 キッチンにて。 「じゃあ雑炊作るか。やちるちゃんはテレビでも見てなよ」 「作ってるとこ見てて良い?」 「え?良いけど、面白くないと思うよ?」 「ううん、見たいの」 「そう?じゃあそこの椅子に座る?」 「うん!」 買ってきた野菜をみじん切りにしていく。玉ねぎ、白菜、人参、シイタケ、ちくわ…。ご飯は炊飯器の中にあったのでそれを洗ってぬめりを取る。 出汁で野菜を煮込んでいく。柔らかく、クタクタになるまで。ちくわとご飯を入れてさらに煮込み、醤油で味を調えた。 「後は弱火で…っと。やちるちゃん、卵焼き食べる?」 「食べる!!」 「じゃあ焼くね」 冷蔵庫から卵を取り出す。 「一人2個でいいか?」 卵焼き機が無かったのでフライパンで焼く。 「フライパンは初めてだからなぁ。不安だ…」 味付けした卵液をフライパンに流し込む。ジュワッ!と音を立てる卵を手早く巻いていくが、形が…。 「あ、やっぱり失敗した…。くそぉ。やちるちゃん、お皿を3枚出してくれる?」 「はーい!」 皿に焼きあがった卵焼きを乗せて切っていく。失敗したのは自分の分。成功したのはやちるちゃんと先輩の分。 「よっし!出来た!」 「おいしそうだねぇ」 「やちるちゃん、端っこ食べる?」 「いいの!食べる!」 「はい、あ~ん」 「あ~ん!…おいしい!」 「ふふ、良かった」 雑炊と卵焼きが出来たので先輩の部屋へ行く。 「先輩。出来ましたけど、食べれそうですか?」 少し寝てたのか、起きて気付いた。 「食べる…」 小さい土鍋と器とれんげ、少し形の崩れた卵焼きをトレイに乗せて部屋に入る。 ベッドに起き上がった先輩の傍へ行き、雑炊を器によそい、卵焼きと一緒に小さめのトレイに乗せて差し出した。 トレイを膝上に置いて食べようとした所で一護が、 「心細かったですか?」 と聞いてきた。 「あ…?」 心底分からないという顔で一護の顔を見る。しばらくして視線を手元に移し、 「…腹の底が冷えるだけだ」 と一言。その後は無言で雑炊を食べる先輩。一杯分を食べ終わって、 「何でそんなこと訊く?」 と質問。 「いや、なんか、そんな顔してたんで…、気になって…」 「ふぅん…」 空の器を差し出して、おかわりを要求する先輩。 「おかわりっすか?」 「ん」 「食べられて良かったです。少し回復してるみたいですね。はい、どうぞ」 受け取って食べる先輩。結局土鍋にあった雑炊を完食した。 「次は風邪薬っすね」 と薬の入った袋と水を差しだす。受け取ったものの飲む様子が無い。 「薬飲まないんですか?」 「…飲むけどよ…。くっそ苦いんだよ、これ」 顔をしかめる先輩。 「…プリンありますよ。口直しに食べましょう」 「…ガキじゃねえぞ」 「まだ未成年っすよ、俺ら。それに病気の時は良いじゃないっすか、ガキになって甘えたら」 「…」 薬は粉薬のようで分包された薬を飲んだ先輩。 「~~~!!」 「え?そんなに⁉」 苦虫を噛みまくったみたいな顔で水を飲んでいる先輩。 「あ~~、クッソ苦え…」 「プリン取ってきますね」 食器を片づけ、部屋を出る一護を見送る剣八がふと違和感を覚えた。 「…なんだ?」 考えているとプリンを持った一護とやちるが部屋に入ってきた。 「あたしも一緒に食べる」 「そうかよ」 「ふふ、仲良しですね」 「ふん」 プリンを受け取り食べる。ひんやりとした優しい甘みが喉を滑り落ちていく。 「おいしいね、剣ちゃん、いっちー」 「うん、美味しいね」 「まあな」 プリンを食べ終え、しばらくすると眠気が訪れた。 「眠そうですね、先輩」 「ん…」 「薬が効いてきたんですね。きっと明日には良くなってますよ」 ベッドに潜り込んだ俺の額に濡れタオルを乗せ、 「おやすみなさい」 といい、部屋から出て行く一護とやちる。 とろとろと気持ちの良い微睡みに身を任せていると違和感の正体に気付いた。 「…腹の底が冷えてねぇな?」 むしろ、これは…。 「あったけえな…」 そう呟いて眠りに落ちた。 先輩が眠ってから俺たちも食事をした。やちるちゃんは、 「おいしい!おいしい!」 と何度も言ってくれて何度もおかわりをした。 食後、食器を洗い終え、一緒にお風呂に入った。脱いだ服を洗濯機に入れ洗う。 「やちるちゃん、頭洗おうか」 「はーい!」 やちるの小さな頭を洗う一護。 「これ、いい匂いだねぇ」 「気に入った?ここに置いていこうか?」 「いいの~?」 「うん」 泡を流し、次は背中を流してやる。 「んふふ!剣ちゃんもね、洗ってくれるんだよ」 「そうなんだ。優しいね」 「うん!剣ちゃん大好き!」 タオルを渡し、やちるが自分の体を洗っているうちに手早く頭を洗い終え、体を洗って一緒に湯船に浸かった。 「いっちーも洗うの早いねぇ」 「先輩も早いんだ?」 「うん、早い」 だろうなぁと思った。小さい子をほったらかしには出来ないだろう。 十分温まってから上がる。やちるちゃんの体を拭き、髪を乾かして気付く。着替えが無いと。 「あ、着替えどうすっかな?」 「剣ちゃんの借りればいいよ!あたし取ってくる!」 「え!ちょっと!」 止める間もなく飛び出していったやちるちゃん。すぐ戻ってきて先輩のだろうパジャマを持ってきた。 「良いの?」 「良いよ!剣ちゃんそれ全然着ないの」 「ふうん。ありがとう」 ありがたく袖を通す。 「でか…」 上着だけでも大丈夫では?と思うほどデカいパジャマ。そうもいかず下も穿く。 洗濯が終わっていたので乾燥機に入れた。朝には乾いてるだろう。 「ふわぁ…」 と大きなあくびをしているやちるちゃん。 「もう寝よっか」 「うん、いっちーも一緒に寝よ~」 グイグイと腕を引っ張られて部屋まで連れて行かれた。 「やちるちゃん、一人で寝てるんだね」 「うん、そうだよ~」 やちるには大きいベッドも一護と二人で寝るには丁度いい。 「じゃ、お邪魔します」 そう言いながらやちるの隣に寝る。 「ふふ!誰かと一緒に寝るのってひさしぶり!」 「そっか…」 何とも言えない気持ちになった。まだ小さいのに…。 一護の隣に寝る小さな体を抱き寄せ、妹たちにしていたように背中をぽんぽんと撫でる。知らず子守唄を歌っていた。 「おうた…きもちいいねぇ…」 そう言って眠ったやちる。やちるの体温で眠くなった一護もすぐ眠った。 翌朝。 「朝か…」 目が覚めた時には体の不調はどこにも無かった。 「相変わらず良く効くな…。クッソ苦えけど」 部屋を出てやちるの様子を見に行った。 「入るぞ…」 やちるの部屋に入ると一緒に黒崎が寝ていた。 「あん?」 ああ、昨日泊まったのかと合点がいった。すやすやと寝ている二人の頭を撫で、もうひと眠りするかと自分の部屋に戻った。 次に目が覚めた時には黒崎が起きて飯を作っていた。 「あ、おはようございます!先輩、起きて大丈夫っすか?」 「ああ、クソ苦いだけあって良く効く薬だからな」 「ふふっ。元気になって良かったです。朝ごはんは食べれそうですね」 「おう」 出されたのは目玉焼きとウィンナー、みそ汁とご飯。3人で一緒に食べる。 目玉焼きを半分食った辺りで飯が無くなったので 「剣ちゃん!あたしも!」 「ん」 受け取って注いでやる。黒崎が少し驚いた顔をしていた。席に戻った俺に、 「みそ汁も、おかわり要ります?」 と聞いてきたのでやちると二人で 「いる」 と答えた。黒崎は笑いながらみそ汁を注ぎに立った。 「それだけ食べれたら安心ですね」 とそう言った。 先に食べ終わった黒崎が、食器を流しに置いた。 「昼ごはんはうどんで良いですか?」 と聞いてきた。 「うどんの他に何かあるか?」 と聞けば、 「昨日買った総菜の唐揚げがありますよ」 「んじゃあ、それでいいんじゃねえか?」 「んじゃそうします」 黒崎が洗濯するからと着替えろというので着替え、洗濯物を渡す。 昼になり、うどんを作る黒崎とそれを眺めるやちる。俺は大事を取って寝ろと言われたので寝た。 「お昼ですよ~」 と起こされ、リビングに行けば飯の用意がされていた。 うどんと唐揚げ。足りそうにないなと、 「黒崎、飯は残ってるか?」 と聞けばあると返ってきたので注ぎにいった。 「え、大丈夫です?」 「いける」 「そっすか」 また3人揃って飯を食う。 「コレ食ったら帰りますね。先輩が復活して安心しました」 「そうか…。世話かけたな」 「いいっすよ」 飯を食い終わり、風邪薬を飲み終わると食器を洗い終えた黒崎が帰ると言った。 「夕飯は昨日の雑炊が残ってるんで食べてください。熱が下がってもちゃんと薬飲んで、あったかくして寝て下さいね」 「おう。正直助かったぜ。ありがとよ、黒崎」 「いえいえ。じゃあね、やちるちゃん」 「いっちー、あたしの事やちるって呼んで!」 「え、いいの?」 「うん!仲良しさんとはそうだよ!」 「そっか。じゃあそうするね」 「わあい!」 「じゃあ、また学校で」 「おう」 黒崎が帰った後、昨日あった事をやちるが話す。 「いっちーね、フライパンで卵焼き作ったんだよ」だの、「一緒にお風呂入った」だの、「一緒に寝てね、おうた歌ってくれたんだよ」だの嬉しそうに楽しそうに報告するやちる。 「良かったな」 と言えば満面の笑みで、 「うん!」 と返ってきた。 随分と懐いたもんだとその小さな頭を撫でてやった。 了 22/11/08作。風邪を引いた先輩でした。分かり難いけど一護が来た日は金曜日です。 |
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