題 「夕立」
 放課後の恒例行事となった俺と先輩の追いかけっこ。
「部員になれ!」
「お断りします!」
俺が入学してから始まった追いかけっこ。これさえ無ければ良い先輩なのになぁ。

追いかけられて校外へと逃げ出した。にわかに空がかき曇り、強い雨が降ってきた。
「うわ!すげえ!」
「黒崎、走れ!」
二人で雨宿りすることになった。お互いびしょ濡れの濡れ鼠だ。濡れたシャツが肌に張り付いて不快だ。
「くっそ!今日降るなんて聞いてねえ!」
ぼやきながらシャツで顔を拭う一護。
「ついてねえな」
濡れた前髪をかき上げる剣八の隣から可愛いクシャミが聞こえた。
「っくしゅ!」
「…ここからだと俺んちが近いから寄ってけ」
「え?いや、大丈夫…っくし!」
「いいから来い」
怖い顔で凄まれて先輩のマンションに行くことになった。


「お邪魔しまーす」
「おう」
「あ!いっちーだ!」
「おう!久しぶりだな!やちる!」
先輩の見舞いに来た以来だから本当に久しぶりだ。
「剣ちゃんといっちーずぶ濡れだ!」
「あ~、急に夕立に降られちまってな。先輩が寄ってけって言ってくれてな」
「そっか~!大変だったねぇ」
やちると話していると先輩がタオルを持ってきてくれた。
「黒崎、風呂入ってけ」
「え!いいっすよ!タオルだけで」
「うるせえ。風邪ひかれても困るんだよ」
「いっちーお風呂入るの!あたしも一緒に入る~!」
「おう、入れ入れ。お前らの後に俺が入るからな。さっさとしろよ」
「え!いや先輩が先で良いっすよ!」
「うるせえ。そんな柔じゃねえんだよ。さっきからクシャミしてるお前が入れ!」
「はい!」
「いっちー、一緒に入ろ~」
「おう、良いぞ。じゃ行くか」
「うん!」

雨で冷えた体に熱いシャワーが気持ちいい。少しあったまってからやちるの頭を洗う。
「いっちーのシャンプー気持ちいいねぇ」
「そうか?」
「剣ちゃんのはちょっとだけ痛い。ちょっとだけだよ」
「ふふ!そうなんだ。お客様、かゆい所はございませんか~?」
「な~い!」
泡を流してやると自分で体を洗うやちる。俺も手早く頭と体を洗ってから一緒に湯船に浸かった。
「99、ひゃ~く!上がるか」
「は~い!」
お湯に浸かって一緒に100まで数えて上がる。

脱衣所に出たら先輩のTシャツ、短パンが出されてた。下着は帰り道にコンビニで買ったもの。
ありがたく借りたが大きすぎるのでは…?何食ったらこんなデカくなんの?
「先輩、これ…」
「おう、出たか…ぶは!」
Tシャツは膝丈、短パンはズリ落ちるから端を洗濯ばさみで挟んでる。
「笑うことないでしょう!先輩がデカすぎなんです!」
「クックッ…、俺も風呂入るぜ」
「あ、すんません。ほら、やちる。髪乾かすからおいで」
「はぁ~い!」
ドライヤーで髪を乾かしてやる一護。

先輩が風呂から出た。髪をタオルでガシガシと拭きながらソファに座る。
「出前取るか」
「簡単なのなら作れますけど?」
「いっちーのご飯食べたい!ねえねえ良いでしょ!剣ちゃん!」
「あ~…、黒崎は良いのか?」
「良いですよ。お風呂借りたお礼ってことで」
やちるに手を引かれながらキッチンへ行き、冷蔵庫の中を見せてもらう。
野菜にハム、卵。
「オムライスで良いか?」
「オムライス!食べたい!」
きゃあきゃあと嬉しそうにはしゃぐやちる。野菜を切っていると先輩に声を掛けられた。
「おい、黒崎。制服洗濯するぞ」
「え!良いっすよ!乾いたら帰りますから!」
「ええ~!いっちー帰っちゃうの!お泊りして!ねえ、お願いお願い~!!」
「ええ!いや、先輩も困るでしょ?」
「別に?なんも困んねえよ。つうかこれ、乾くか?」
先輩は水が滴る制服を持ち上げて言う。
「う…」
「泊ってけよ。丁度明日は休みだろ」
「…お願いします。後で家に連絡しますね」
「おう」
濡れた制服を持って先輩が洗濯しに消えた。
「えへへ~。いっちー、一緒に寝ようね!」
「そうだな~」
なんて話ながら料理の続きを作る。

卵をキレイに巻くなんて技術は俺には無いのでケチャップライスに薄焼き卵を乗せたオムライスと余った野菜で作ったみそ汁が出来た。
「おいしそう~~!」
ケチャップでやちるの名前を書いてやるとすごく喜んでくれた。可愛いなぁ。
「先輩の分はどうします?名前」
「いらん。適当にやるから置いとけ」
「えー!剣ちゃんもお名前書こうよ~!」
「って言ってますよ?」
「あ~も~。好きにしろ!」
「やったぁー!いっちー書いて書いて!」
「はいはい」
ひらがなで‟けんぱち”と書いた。自分のにも‟いちご”と書いた。一番喜んでいたのはやちるだった。
結構大きめに作ったのに二人ともカケラも残さず平らげた。
食べ終わったら洗濯物を干そうと思っていたのに既に干されていた。もちろん下着も…。
「自分の下着ぐらい干しますよ!」
「あ?お前メシ作ってただろうが」
「そうですけど!先輩にさせるこっちゃないでしょ!」
「うるせえなぁ。どうでもいいだろうが」
どうでも良くないと思ったが干された後では何も出来ないとお礼を言って終わらせた。

家に連絡を入れた頃、やちるが船を漕いでいた。
「やちる、眠いのか?」
「んん~…」
顔をしょぼしょぼさせてもう半分寝ているようだ。
「先輩、やちる寝かせてきますね」
「おう」
「やあ~!いっちーと剣ちゃんと寝るの~」
「え?」
「ねるの~!」
俺のシャツをギュッ!と握って離さないやちる。
「…俺のベッドで良いか?」
「うぇ!?良いって、3人寝れるんですか?」
「いけんだろ。お前細えし…」
「普通です!」
「んん~…」

先輩のベッドで3人、川の字で寝転んだ。
「でけえベッド…」
見舞いの時は気にならなかったが改めてみるとデカい。
「電気消すぞ」
「あ、はい」

暫くするとやちるが眠った。
「先輩、起きてます?」
「ああ…?」
「ちょっといいっすか?」
俺は起き上がって先輩に向かって座った。
「あん?」
「俺の頭、やちるの頭洗う時みたいにやってください」
先輩の長い腕が俺の頭に伸ばされる。
「……」
ワッシャワッシャ!
「ちょっと痛いです。もうちょっと弱く…あ、そんな感じです。…気持ち良いです」
わしゃわしゃ。
「……」
「少し痛いってやちるが言ってたんで…。お節介だと思うんですけど…」
「いや…、助かる」
「よかったです」
そのあと俺たちも寝た。

何か頭に触られてる感触で目が覚めた剣八。
「…んあ?」
なでなでと髪を梳く指先が地肌を撫でる、擽るような感触が心地いい。
(ああ…、撫でられてんのか……誰に…?)
顔をあげると一護の顔がすぐそこにあった。
「!黒崎?」
「すう、すう」
聞こえるのは規則正しい寝息だけ。カーテンからの光で朝なのだと分かる。
(…どうしたもんかね?)
懐かしい感触に今しばらくは甘えてしまおうと目を閉じた。

目が覚めてきた一護。
「ん、んん…?」
自分の胸にある黒いもの、なに?髪の毛、だれ?あ、せんぱい…。
「先輩!?」
「朝からうるせえ(結構前から起きてた)」
「あ、すんません。色々…」
「ふん。起きるぜ」
「あ、じゃあ俺も…」
一緒に起きて朝食を作る一護。
目玉焼きとウィンナー、みそ汁とご飯。
「サラダとか要ります?」
「いらね」
作ってる途中でやちるが起きてきた。
「おはよ~」
「おはよう、やちる。一人で起きられるなんてエライな」
「うん!えへへ!」
「ほれ、顔洗ってこい」
「は~い!」
朝からどんぶりで食べる先輩に驚きつつ、先輩らしいなぁと思った一護。

後日談:お風呂にて。
わしゃわしゃわしゃ…。
「剣ちゃんのシャンプー、いっちーみたい~」
「そうかよ」
わしゃわしゃわしゃ…。





22/09/30作 第211作目。
高校生の剣八は若剣バージョンです。二人は付き合ってません。まだ…。




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