題「人ならざる者」12
 一護の傍らに常に寄り添う剣八。優しく口付け、睦み合う。
睦み合う事で一護の体調は少しだけだが快復する。けれどそれも長くは続かない。
「はぁ・・・んっ、熱い、剣八の、あつい・・・っ!」
「お前の胎内(なか)もな・・・」
「ひん!やぁ・・・っ・・・あ!」
 その夜も愛し合い、お互いに満足して眠りに就いた。

 翌日、縁側で剣八の膝に抱かれながら日向ぼっこをする一護。
「良い天気だ・・・」
「ああ・・・」
 確実にその身体は軽くなっている。髪を撫で、額に口付けてやる剣八。
「ん・・・くすぐった・・・あったかい・・・」
 くすくす笑いながら、剣八の胸元に顔を擦り寄せる一護。そんな仕草が堪らなく愛おしかった。
「剣八」
「ん・・・?」
「愛してるぞ・・・」
「知ってる」
「お前は言ってくれないのか?」
 悪戯な笑みを浮かべて剣八の薄い唇に指を這わす一護。
「・・・」
「ん?」
 黙ったままだった剣八が、己の唇をなぞる一護の手を取り、指先に口付けてから耳元で、
「愛してる。お前だけだ・・・」
 と囁いた。
その声と言葉にぞくぞくと背を戦慄(わなな)かせ、とろりと潤ませた瞳で剣八を見つめ、
「ああ・・・、なんて幸せなんだろうな・・・」
 と熱い溜息と共に呟いた。
「幸せか?」
「ああ。お前と共に居るからな。やちるも居る。それで充分だ・・・」
「欲のねぇ奴だぜ・・・」
「ふふ・・・」
 そして啄ばむ様に、触れ合うだけの口付けを繰り返した。
そんな二人を哀しそうに見ている崑崙と紅。今こうしている間にも一護の命は確実に零れていくのだ。絶望的に時間が足りなかった。
「一護様・・・剣八様・・・」
「我らがもっとしっかりしていれば・・・こんな事にはならなかったものを・・・!」
「悔しい・・・!」
「ああ、口惜しい・・・」
 そんな二人が何かを感じ取った。
「これは・・・!?」
「まさか・・・っ!」

 次の瞬間、瀞霊廷中に警報が響いた。
ガンガンガン!ガンガンガン!
「緊急警報!緊急警報!現在、瀞霊廷へと向かう強大な霊圧が二つ接近中!繰り返します!」
 繰り返し警報が流された。

―――オオォオオォオオオォォ―――
大気を震わせながら、遠くから物凄い勢いで何かが近付いてくる。
青い影と黒い影がどんどん近付いて来る。
「な、なんだアレ・・・ッ!」
「ば、化け物・・・!」
 片方は白い身体に青い長髪の男。獣の様な耳に長い尻尾がある。
もう片方は大きな黒い蝙蝠の翼とやはり長い尾を持っていた。
その身から溢れる霊圧はその場に居る死神達に瞬時に悟らせた。隊長格でないと太刀打ち出来ないと言う事を・・・。

 上空に止まった二つの影は眼下にある瀞霊廷を睨み据えた。
「ここか・・・」
「さっさと行くぞ!」
 と青い影が突撃する。
ドゴォオンッ!
と物凄い衝撃音と煙があがった。
「ちぃッ!何だぁ?結界か!?」
 足下の見えない壁をガンガン!と蹴っていると上から声がした。
「そこを退け・・・。馬鹿猫」
 キュォオオ・・・ッ!と手の間から光が漏れ出している。
雷霆の槍(ランサ・デル・レランパーゴ)
 キュン・・・ッ!とその手から放たれた槍は瀞霊壁の遮魂膜を焼き払った。
「行くぞ・・・」
「仕切ってんじゃねーぞ!」
 目にも止まらぬ速さでそこから消えた。
「なんだったんだ・・・今の・・・」
 その場には腰を抜かしたヒラの死神の呟きだけが残った。

 十一番隊の上空に現れたその二つの影は目的の存在を見つけると瞬時に消えてまた現れた。
一護を抱いている剣八の左右に崑崙と紅が片膝を着き、(こうべ)を垂れる。
「一護様・・・」
「おお・・・ウルキオラ、グリムジョーも。久し振りだな」
「一護!テメェ!こんな状態になってんのになんで戻って来ねえんだ!」
「うん、ゴメンな・・・」
 申し訳なさそうに眉根を寄せ、詫びる一護。
「黙れ馬鹿猫。今はそれどころではないだろう」
「チッ!」
 ウルキオラが一護の前に跪くと徳利を差し出した。
「優の甘露です。お飲み下さい」
「あ、ああ・・・」
 杯になみなみと注がれた甘露を飲み干す一護。
「ふ、はあぁ・・・」
 透ける様に白かった顔色に赤味が差していた。
「さ、お次はこちらを・・・。(ゆかり)の甘露です」
「ん・・・」
 ゆっくりと飲み干す一護。未だ不安定だった一護の霊圧が紫の甘露によって安定を取り戻した。
「一護、大丈夫なのか・・・?」
 剣八が心配そうに問うた。
「ああ、優と紫の甘露のお陰で俺の中に溜まった瘴気も毒も消えた。大丈夫だ」
「一護・・・ッ!」
 ぎゅうっ!と一護を抱きしめる剣八。そんな二人を他所に静かに口を開くウルキオラ。
「さあ、御山に帰りましょう、一護様。ここは貴方様のお身体には危険です」
「ウル・・・」
 きゅう・・・、と剣八の着物を握り締める一護。
「余り心配を掛けさせないで下さい。帰りましょう」
「でも・・・」
「取り敢えずです。貴方様のお身体の事もお考えください・・・!御山の事も、斬月様の事も!白様の事も!」
「・・・うん」
 力なく頷く一護。
「剣八・・・。ごめん、俺・・・」
 泣きそうな顔で剣八を見る。
「・・・気にすんな。すぐに帰ってくんだろうが」
「剣八・・・。その、待っててくれる、か・・・?」
 不安そうに、縋る様な眼差しだ。
「当たり前だろうが!お前は俺とやちるを何年待った?何十年か?何百年か?それに比べりゃ一瞬だろうが!とっとと治して、とっとと帰って来やがれ」
 ぐしゃぐしゃと一護の髪を掻き混ぜた。
「うん!すぐ!すぐに帰って来るからな!絶対、絶対!」
「ああ、分かってる」
「剣八、剣八ぃ・・・」
 自分の胸元に顔を埋め、泣いている一護の髪を撫で、旋毛に口付ける。

 やちるが居なかったので、帰って来るまでは剣八の傍に居た一護。
帰って来たやちるに事情を説明したが、
「ヤダァー!」
と泣いて話を聞いてくれない。
「やちる・・・」
「聞き分けろ。やちる・・・」
「ひぐっ!剣ちゃん!だって!いっちー、いなくなる!やだやだやだよぉー!」
「良いか、やちる・・・。このままだといつか一護は死ぬ。それも近いうちに、だ」
「ッッ!」
「だけどな、今のうちに山に帰って養生したらまた此処で暮らせるようになる。お前はどっちが良い」
「どっち・・・?」
「このまま此処で一護が死んで二度と会えなくなるか、ちっとの間辛抱してまた一緒に暮らすか、だ」
「いっちー死んじゃやだぁーーッ!」
「だったら辛抱しろ」
「う、うう、うわああー!わああん!わああん!」
 散々泣いた後、
「ひっく、ひっく、いっちー、帰ってきてくれる?絶対に?剣ちゃんとあたしと居てくれる?前みたいに、今みたいに・・・?」
 真っ赤に腫れた目で聞いて来るやちる。
「ああ・・・!俺は帰ってくるよ。此処に、いつになるかは分からないけど、それだけは約束する。剣八とやちるは俺の約束を守ってくれた。俺も守る、絶対に・・・!」
 その言葉に、やちるは小さな小指を差し出した。
「?」
「指切り・・・しよ・・・」
 一護はその小さな小指に自身の小指を絡ませ、指切りをした。
「「指切りげんまん、嘘付いたら針千本、飲〜ます!指切った!」」
「約束だからね!」
「ああ!」
 懸命に笑おうとするやちるの頭を撫でてやる一護。そして剣八に向かい合うと、
「浮気、すんじゃねーぞ?」
 とおどけてみせた。
「誰がするか。それよりお前は帰って来た時の自分の心配でもしやがれ」
「心配?なんの?」
「はっ!寝かせてやらねえからな。覚悟してろ・・・」
「あ・・・!ばか!ん・・・」
 ちゅ、とその唇を塞いでやった。
「ん、剣八・・・」
 すぐに離すと真摯な目で一護を見つめこう言った。
「愛してる・・・」
「・・・知ってる・・・」
 そしてお互い深く口付け合った。深く深く、長く長く・・・。

 長い口付けが終わると一護は、
「じゃあ、行ってくる」
 と言い、剣八は、
「行って来い」
 と返した。

 ウルキオラとグリムジョーを従え瀞霊廷を去って行った一護。
そして、崑崙と紅は元の椿の木へと戻った。
「しばしのお別れにございます、剣八様、やちる様」
 恭しく頭を垂れ、静かに消えていった。

 一護が戻るのはいつの事になるのだろうか。


第13話へ続く



12/04/16作 漸く書けました〜。次は御山での様子、かな?
崑崙と紅が椿に戻ったのは一護の霊力が其処に無いからです。維持出来ないんです。




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