題「芽生え」1 | |
俺は白という名の人魚だ。この名の通り俺は髪から尾鰭まで真っ白だ。 双子の兄である一護は俺の尾鰭が好きで良く光に透かしては飽きるまで眺めていた。俺は暖かな日の光に似た一護の尾鰭の方が好きだ。それを言うと、 「ありがとう。俺は白の尾鰭も天鎖の尾鰭も大好きだよ。だって二人ともとっても綺麗だもの」 とそれこそ綺麗な笑顔で返してくれた。 大事な大事な俺の片割れ。何物よりも、誰よりも大切な存在。だから俺はどんな災厄からも一護を守ると決めたんだ。 それなのに…!それなのに、この海の奴らは一護を売りやがった。この南の海の安全と自分達の保身のために! 許さねえ、許さねえ、絶対に許さねえ。おまけにコイツラは口々に、 「これは一護の幸せのためだ」 「一護の幸せのためには仕方が無い」 と繰り返した。違うだろう?お前たちの幸せのためだ。お前らは自分達の幸せのために一護を売った!俺の兄を、たった一人の兄弟を! 俺の片割れは北の海の支配者である藍染に輿入れという形で売られた。アイツの狙いは一護の真珠だ。 一護の純潔を奪い真珠を奪った後、あいつは確実に一護を捨てるだろう。最悪、殺すぐらいはする。そういう奴だ。 俺は一護が居なくなってから何もする気が起こらなくなった。一族に対する怒りは軽蔑する事と見限る事で納めた。 そんなある日、河口の近くを泳いでいたら目の端を煌めく物が過っていった。 「ん?」 それを手に取り、良く見てみると大きな鱗でオレンジ色をしていた。それは一護の色だった。 「これは一護の鱗だ!」 一瞬で一護と符合した。俺は喜び勇んで天鎖にも教えてやった。なのにアイツは信じなかった。信じてくれると思ったのに…。 俺はその日のうちに海を出た。河口から川を上った。上って上って、泳げなくなる所まで上って…、泳げなくなったら陸に上がって歩いた。 初めて足で歩いた。一歩歩く度に足先に激痛が走った。まるで爪先に何本も針を刺されているかのような痛みだったけど、そんなもの関係なかった。俺は一護を探すんだ。俺の片割れを、たった一人の兄を探し出す。その為にはこんな痛みになんか関わってられねえ。 俺は歩いて歩いて一護を求めた。俺の足は血で真っ赤に染まった。爪も剥がれて、石や木の枝を踏み抜いて熱が引かなくなった。 歩けなくなって座りこんだら今度は立てなくなった。ちくしょう…。俺はこんな所で終わるのかよ。一護、一護ぉ…。 暫く経った頃、茂みの向こうから人間が現れた。とぼけた顔したそいつから一護の匂いを嗅ぎ取った俺はそいつを脅して一護の居る所まで案内させた。 そこは護廷という所で人間が沢山いた。皆一様に黒い着物を着ていた。 「ここに一護が居るんだな…。早く、早く見つけねえと」 俺は隠れながら移動していった。足の傷はさっきの奴が治療してくれたが痛くて仕方が無い。水に入れば何とかなるのに…。 そう思いながら移動していると大きな池を見つけた。水も澄んで綺麗なそこに俺は飛び込んだ。 久々の水の中を俺は堪能した。暫く泳いでいると池の中心に建っている建物から誰かが顔を出した。俺は潜ろうとして水面を尾鰭で叩いた。その時の水しぶきがそいつに当たった。そいつも俺を見つけて目を丸くしたけど次の瞬間そいつは、 「え〜と、お饅頭食べるかい」 と言ってきた。そして、ここにも人魚が居るのだとも言った。そいつに掴みかかり人魚の名を聞いた俺は歓喜に打ち震えた。 その人魚は俺が探し求めた一護本人だったのだ。 白い髪の男の後ろから別の男が顔を出した。そいつは俺の姿をジッと見てきやがった。ムカついたから水をぶっかけてそのまま潜って姿を消した。 何やら二人で喋ってたけど、そいつが俺に向かって声をかけてる様だった。水面に寄って聞いてみると一護に会わせてやると言っていた。 水面から顔を見せると抱きあげられた。いきなりの事で俺は暴れに暴れてやったがそいつは俺の傷を治してくれた。 そいつの名前は京楽春水といった。京楽からおおよその一護の事を聞くと明日会わせてあげるとそいつの屋敷に連れて行かれた。 そいつは約束通りに一護と会わせてくれた。久し振りに会えた一護は元気そうで俺に会えたことを喜んでくれた。俺はそれが一番嬉しかった。 一護、一護、俺の大切な片割れ。俺の大切な兄弟。漸く会えた。俺はずっとここに居ると一護に言った。 あんな裏切り者達の居る海になんか帰るものか。俺はずっと一護と共に生きるのだ。 大切なこの片割れと共に…。 でも最近俺は何だかおかしいのだ。俺は一護が一番大事で大切だったはずなのに知らない感情に振り回されてるのに気付いた。 何なのか分からない、正体不明のこの感情は俺を自分の屋敷に住まわせてくれている男が傍に居る時に発生するようだ。 訳が分からないから離れている時間を多くしようと自分から離れるが、そうすれば余計に気になってしまう。 ああ、イライラする。この気持ちはなんなのだろう?一護は知っているのだろうか?知っていたら教えてくれるだろうか。 第2話へ続く 14/06/05作 202作目です。人魚のスピンオフ、白ちゃんの場合です。 |
|
文章倉庫へ戻る |