題「子猫、子供になる7」夏の一コマ
 梅雨が明け、毎日暑い日が続いている。
大人はへばっているけど子供の一護君は元気で毎日走り回っている。
けど卯ノ花隊長に注意はされている。こまめな水分補給と外で遊ぶのなら必ず帽子を被らせる事など。
云い付けはきちんと守らないと後が怖い。

 今日も朝から虫カゴと一角に作ってもらった虫取り網を持って蝉を取りに行っている。勿論つばの広い麦わら帽子を被らせている。
さっきまでは敷地内の木に止まっている蝉を狙って、そ〜っと網を近づけてバッ!と被せる瞬間に逃げられ悔しがっていた。
「ん〜、ん〜、・・・みゃっ!みゃぷっ!」
あ〜、蝉のおしっこ掛かったね、あれは。
「むぅ〜!うみゃあ!」
一護君のお陰でうちの隊舎にはほとんど蝉は居なくなった。そのせいか、敷地外に出ていった一護君。お昼までには帰ってくるでしょ。昼になると蝉も鳴きやむしね。

 予想通りお昼前に帰って来た一護君。あ〜あ〜真っ赤な顔して汗びっしょりだね。
「お帰り一護君、こっちおいで」
「みゃー」
帽子を取って、網を受け取ると虫カゴを見せて来た。その中には今日の戦利品である数匹のセミと何故かカナブンが入っていた。
「いっぱい捕れたんだねぇ」
と汗を拭きながら褒めてあげると顔中に笑顔が広がる。
「隊長や一角にも見せておいで」
「うみゃ!」
さて、一護君に飲み物作ってあげないとね。

 一護君に飲ませるドリンクを作って執務室に入ると蝉を一角に見せている所だった。
「へえ!こんだけ捕れりゃ立派なもんだぜ、一護!」
ぐしゃぐしゃと頭を撫でられ嬉しそうな一護君に、
「良かったね一護君、はい、汗掻いたからコレ飲んで」
とソルティレモンウォーターを差し出す。
「みぃ!」
氷の入った冷たいソレを美味しそうに飲んでくれる。
「んっく!んっく!んっく!」
これは卯ノ花隊長に教えて貰った塩と砂糖を入れた水にレモンを絞った物。
ただの水とかよりも吸収が良くて汗で出て行った塩分の補給にも良いんだって言ってた。
「ぷはぁ〜!えっぷ!」
「全部飲んだね、良い子だよ」
氷が入ったコップが冷たくて気持ち良いのか頬っぺたをくっ付けている一護君の耳がへにゃりと垂れて可愛い。
「もうすぐお昼ご飯だから此処に居てね」
「みゃあ」
すると一護君はこの部屋の一番涼しい所、来客用のソファに寝転がった。
「ふにゃぁあむ・・・」
と大きな欠伸をすると寝てしまった。

 お昼ご飯も済んでまた遊びに行く一護君。
でもすぐに帰って来た。
「どうしたの?面白く無かったのかい?」
「みみゃ〜・・・」
顔が赤い。
「ゆみみゃ〜、みゃぁ、みゃぁぅ」
ぐいぐいと死覇装の袖を引っ張って来る一護君。暑くて暑くてイライラしてるみたい。
「うっせえぞ、何泣かせてんだ」
「あ、隊長。いえ、一護君暑くて顔が真っ赤なんですよ」
「あん?」
「うみゃぁ〜・・・」
とてとてと剣八の方へ行くと足に抱き付いて離れない。
「あち・・・、おい弓親、一角に言ってデケェ盥持って来させろ」
「はい」
そう言うと隊長は一護君を抱えて縁側の方に行った。
「は?タライ?」
「うん、そう」
「何に使うんだよ?」
「多分一護君に行水させるんじゃないかな。今日も暑いし」
「なるほど。で、お前はぬるま湯の用意か」
「そ!」
井戸の水じゃ冷たすぎるからそこにお湯を入れてぬるくさせないとね。
庭に行くと一護君は既に着物を脱がされて隊長の膝の中でうちわで扇がれて気持ち良さそうにしていた。
「おう、来たか」
僕らに気付いた隊長。僕らは盥にお湯と水を入れ準備を済ますとタオルと着替えを置いて業務に戻った。
「みゃあう!」
一護君が僕らに笑顔でお礼を言ったみたいだ。
「ほれ、暑いんだろうが、入れ」
と剣八が一護を盥に入れると尻尾がピンッ!と立って喜んでいるのが良く分かる。

 パシャ!パシャパシャ!と飛沫を上げながらお気に入りのアヒルのオモチャと遊ぶ一護を見ながら剣八もゴロリと横になる。
ジーワ、ジーワ、シャワシャワシャワ、ミーンミーンミンミンミン、ジー・・・と蝉の鳴き声を聞きながら行水する一護。
じょうろで一護に水を掛けてやる剣八。
「みゃッ!みゃあう!キャッキャ!にゃーう!」
おやつの時間になり、冷えたスイカを弓親が持って来た。
「はい一護君、もうおやつの時間だから行水はおしまいだよ。着替えようね」
「うみゃー?」
「もうすぐ夕方になるからね。風邪引いちゃうよ?風邪引いたら卯ノ花隊長におっきな注射されちゃうよ!」
と脅かす。
「みゃっ!や〜あ!」
と素直に出る一護。
「ふふ!良い子だね、一護君は」
一護の髪と身体を拭いてやるとかぼちゃパンツを穿かせてやる。もこもこのかぼちゃパンツを穿いた一護はとても可愛らしく、特に女性隊士達に人気がある。

 西瓜の匂いに誘われたのか一角とやちるも加わっておやつになった。
「はい一護君」
と西瓜を手渡してやる。しゃぷっ!と西瓜に齧り付く一護。
「うみゃあ〜!」
手と顔をベタベタにしながら美味しそうに食べているのを見るのは楽しい。
「お前顔中西瓜の汁だらけじゃねえか」
隊長が笑いながら一護君の顔を手拭いで拭いてやる。
「んぷっ!みゃぁう!」
「嫌じゃねえよ、ったく」
いつも思うけどなんで隊長と副隊長は一護君の言ってる事が分かるんだろ?
西瓜を食べてお腹いっぱいになったのか、胡坐を掻いてる隊長の膝の中で丸くなる一護君。
「・・・寝たんですか?」
「寝た」
「はや・・・」
「すぷー、すぷー」
と可愛らしい寝息が聞こえてくる。
「花火でも買って来ます?」
と一角が訊く。
「そうだな。ガキが喜びそうなヤツ見繕って来い」
「はい!」
一角も隊長も一護君に甘いんだから。勿論それは僕もだけど。

「くちゃん!」
一護君がくしゃみをしたので浴衣を着せる。
「所で、一護君が捕って来た蝉とカナブン、どうするんです?」
「一護が起きるまでほっとけ。勝手に始末するとうるせえ」
「はいはい」
昼寝から起きた一護君に逃がしてやるように言うと、
「いにゃー!」
「一護君・・・」
「いにゃあー!」
ぶんぶん!と頭を横に振る一護君。
「あのね、一護君」
「う?」
「蝉は一週間しか生きられないんだ・・・」
「み?」
「うん。だから逃がしてあげよう?」
「ふみゅ・・・」
耳をぺたりと倒すとカゴの蓋を開け、蝉を逃がしてやる一護。
「良い子だね、一護君」
「一護、こっち来い」
「剣にゃん・・・」
剣八の膝に収まると、
「まだカナブンはいるんだろ」
「ふみ」
「ほれ」
一護が食べた後のまだ少し赤い所が残っている西瓜の皮をカゴの中に入れてやる。
「そいつらはまだ長生きだ。飼うか?」
訊かれた一護は少し考えてふるふると頸を横に振った。
「そうか」
「み」
ぐしゃっと髪を撫でてやる剣八。

 夜に花火をして元気になった一護君はきっと明日も元気に遊ぶんだろう。
明日は何して遊ぶんだろうね?






12/07/24作 第190作目。ひっさびさのちび子猫です。今回は弓親目線でお送りしました。良いお兄ちゃんですよね。







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