題「黒猫のままで・・・」
 剣八がでかい黒猫になって大分経つ。
コイツのお守を頼まれたのはコイツが誰にも懐かないからだ。誰も近寄らせないで暴れに暴れて俺が呼ばれた。
俺には現世での生活もあるから毎日四六時中ここに居る訳にはいかない。
だから平日は現世に帰って週末はコッチに来るようにしている。なのにコイツは俺が居ないと暴れたり、ストライキなのか飯を食わなくなるんだ。
2メートルもある黒猫を現世になんて連れてけねえし、俺だって心配してんだぞ?分かってんのか?

 何とか言い聞かせると暴れる事は無くなったけど、やっぱり飯は食わないんだと。一度縛道に掛けられて卯ノ花さんが点滴をする様な事態に陥った事があったそうだ。殴ってやろうか、この馬鹿は。

 それでもコイツがこの猫の間は俺だけの剣八になる。
十一番隊隊長の更木剣八じゃなく、ただの剣八で居てくれる。それが嬉しいって思っちまう俺が居る。
早く元に戻らないといけないって分かってるのに、このままで居たい気持ちの方が大きいんだ。
だって、きっとコイツの存在理由は『護廷十三隊・十一番隊隊長、更木剣八』で、生きる目的は戦う事。
其処に俺の入る余地なんて無いんだから・・・。こいつが生きる理由に俺は含まれないんじゃないだろうか。
そんな風に考えると今の状態が愛おしくなってしまう。
隊の士気にも仕事にも支障が出てるだろうに、いつから俺はこんな自己中心的な奴になった?
剣八だって元に戻りたい筈なのに、こいつを独り占め出来るこの状態が続いて欲しいと願う自分に気付いて厭になる。

 週末に瀞霊廷に行くと報告より先に剣八の所へ行く。
飯は食ったのか、元気なのかを聞くために。弓親に聞きに行くと、
「元気だけどご飯は少しだけ」
との事。少しでも食べる様になったのは進歩か?
報告を済ませて隊舎に戻ると縁側で寝てる剣八の所へ行った。
「剣八」
ピッ!と耳をコッチに向けて反応する。縁側に座るとその黒い毛皮に顔を埋める。日向の匂いがする。
「剣八・・・」
ごめん、とくぐもった声で言うと目を開けた剣八。
「ごめん・・・」
未だ剣八の毛皮に顔を埋めている一護の髪の生え際をざりざりと舐める剣八。
「擽った・・・」
漸く目を開け、剣八を見ると剣八もジッと一護を見つめていた。
何があったと問うているのか、話す様に促しているのか目が反らされる事は無かった。
「・・・早く人に戻らなきゃ駄目なのに・・・俺は・・・」
くしゃと顔を歪めると、
「お前の事、独り占め出来るんだって、このままで居たいって思ってる・・・。お前に、皆に迷惑、かけてる・・・」
だからごめん。
「ずっと一緒に居たいんだ・・・、ただの剣八で居てくれるから・・・。更木剣八じゃなく、十一番隊隊長でもない、ただの剣八で居てくれるから・・・!」
ギュッと剣八を抱きしめると、
「でも、お前は、隊長だから、俺だけの剣八じゃないから、早く元に戻らなきゃ・・・」
「ぐるる」
ざり、とひと舐めすると剣八は身体を起こした。
「剣八?」
すり、と身体を擦り付けると一護の口を舐めた。
「ん、ぷ」
のさっ!と一護を押し倒すとその胸の上で目を閉じた。
重いな、と思いながらもその身体を撫で続ける一護。
まるでお前一人の物だと全身で示しているかの様に無防備に眠る剣八が居た。
「剣八・・・ありがとう」






12/02/25作 187作目。一護の独白?結構独占欲が強い一護。剣八も強いけどね。
剣八がご飯食べないのは一護を独り占めする為じゃないかな?




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