題「子猫のままで・・・」
 一護の中身が猫になって暫く経つ。
当初はすぐに元に戻るだろうと放っておいたが、戻る気配がない。周りも戻す様子がない。
別段俺は不便でもないし、不満も小せぇ事ぐらいはあるが殆んどない。

「んにゃ〜ん!」
縁側で昼寝をしていた俺の背中に一護が圧し掛かって甘え出す。
首筋に擦り寄ってきて、日向の匂いがする髪の毛が擽ったい。
「擽ってェ、こっち来い」
隣りに寝かせてやると目を細めてぺろりと俺の唇をひと舐めすると、スリスリと擦り寄って落ち着く場所を見つけては寝始めた。
「すう、すう・・・」
無防備な寝顔を昼間から見れるなんざ思っても見なかった。
いつだって眉間には消えない皺が寄っていた。年相応のあどけない顔を見る事が出来るのは褥の中だけだった。
日の高いうちからこんな顔を晒すコイツは今でも他の誰かが近づくと、途端に眉間に皺が寄る。それを見て密かに優越感に浸る俺は大概末期だなと一人笑う。

 コイツがこのまま、猫のままならずっと此処に居るんだろう。感情を抑えること無く素直に甘えて、怒って、拗ねて、それを俺にぶつけるんだ。
女の匂いさせて帰って来た時の嫉妬は凄まじかった。浮気でも何でもねえ。四番隊で付いた薬と微かな香水の匂い。
それを嗅ぎ取ったのか、帰ってきて抱きついて来たかと思うといきなり引っ掻かれた。
「何しやがる」
と腕を掴んで止めさせようにも暴れて鳴き叫んで聞きやがらねぇ。
「うー!うー!うう〜〜!」
と唸りながら治療を受けた辺りを頻りに引っ掻いて羽織も死覇装もずたずたにしやがった。
露わになった包帯を巻かれた肩と剥き出しの腕に顔を擦り付けては舐め続けた。まるでそこにある匂いをこそげ取るかのように。
そこで漸く気付いた。
ああ、コイツは今、嫉妬しているのだと。
「一護・・・」
腕を動かすと、ビクッ!と震えて耳を倒して泣きそうな顔でこちらを見上げる。
「怒ってねぇ。女の匂いでもしたんだろ?」
「うにゃ・・・」
ぺろぺろと傷の上を舐めながら泣きやがるから笑っちまう。
「怒ってねえって言ったろ。浮気じゃねえぞ、ただの治療だ。匂いが嫌なら消えるまでくっ付いてろ」

 一護を抱きあげると自室に帰り、ぼろぼろになった羽織と死覇装を全て着替えた。処理を弓親に言い付けると部屋で一護を胡坐の中に抱き寄せる。
「みあ・・・」
肌蹴られた俺の胸に頬をくっ付けて抱きついて離れなくなった。尻尾も身体にくっ付けて丸まって身を預けるこいつが愛おしい。
人に戻したらこんな風に嫉妬を見せなくなるのなら、このままで良いかと思っちまう俺はこいつに骨抜きにされちまったようだ。






12/02/25作 186作目。猫の日に思いっきり遅れたにゃんこ話。相も変わらずラヴラヴです。
一護がこれだけ甘えるのは剣八にだけ。卯ノ花さんにも甘えるけど一線引いてます。




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