題「歌を忘れた小鳥」 | |
最近歌を歌うと夕月が喜ぶ。 でも俺が知ってる歌は少ない。「あんよはじょうず」も飽きた頃だし新しい歌でも教えてもらうかな。と乱菊達に教えてもらったのは「歌を忘れたカナリア」と言う歌だった。 なんだか物悲しいな、と言うのが白の第一印象だった。 でも、優しい声で歌うレコードの歌を、一回また一回と繰り返し聴く白。 「歌を忘れたカナリアは〜」 「アラもう覚えたの?早いわね」 「そうか・・・?」 繰り返し聴いてるうちに頭を過ぎった事があった。 屋敷に帰り縁側で夕月達に歌を聴かせる。 「かか様のお声綺麗ねぇ〜」 「ママの歌、綺麗です」 「・・・・・・・・」 無言のまま目を閉じ、聞き入っているウル。 「ただいま〜、綺麗な歌声だねぇ。思わず聴き惚れちゃったよ」 と京楽が帰って来た。 「おかえりなさい、とと様」 「パパ!おかえりなさい!」 「お帰りなさいませ」 「・・・お帰り、春水」 いつもと違う白に気づいたが、二人きりになるまでそこには触れないでおいた京楽。 寝室 「どうしたの?いつもと様子が違うよ?体調悪いの?」 「・・・なぁ、もし俺がお前を忘れたら・・・どうする?」 「うん?」 「俺がお前を忘れたら、お前は俺をどうする?俺に何をくれるんだ?」 真剣な顔で見つめる白。 「お前は、象牙の舟と銀の櫂を俺にくれるのか?月夜の海まで連れて行ってくれるのか?」 真剣になるあまり京楽に詰め寄る形になり、寝巻の袷に縋っていた。 「・・・象牙の舟に銀の櫂かぁ〜。君を乗せるには大きな舟が要るだろうねぇ」 撫で撫でと頭を撫でる京楽。 「君が僕を忘れる、かぁ・・・。嫌だなぁ、それは・・・」 「・・・・・・」 「ねぇ白?僕は君に象牙の舟も銀の櫂もあげることは出来ないけど・・・」 「そうか・・・」 「だけど、君には僕をあげるよ」 「お前を・・・?」 「うん。君が僕を忘れて、僕を思い出せなくなっても、僕は君の傍にすっと居る。君の傍でずっと、ず〜っと君を愛してる。僕の人生と僕自身をあげるよ」 「今と変わんねえじゃん・・・」 「そうだね。でも命はあげられないよ」 「なんで?」 「命を差し出して君が僕を思い出しても、君の傍に僕が居なくちゃ意味が無いんだもの」 「あ・・・!」 「だからね。君が僕を思い出してず〜っと一緒に生きるために僕は自分の命だけは差し出さないんだ・・・」 「春水・・・!ごめん、変な事言って!」 「うん。でも大丈夫だよ。そのカナリアはちゃんと歌を思い出したでしょう?だからきっと君も大丈夫だよ・・・」 とあやす様な口付けを繰り返し、包み込むように抱きしめながら二人で眠りに就いた。 大きな手が白の背中をさすっていく。 まるで大切なものを守る様に、ゆっくりと優しく撫でていく。 俺はそんなに壊れ易くないのに。まるでほんのちょっとした事で割れてしまうガラス細工のように大切に扱ってくれる春水。 満ち足りる。 こういうのをそう言うんだろうか。春水が触れる所から暖かい何かが湧いてくる。 「・・・ふ・・・っ!」 「白?ど、どうしたの!?何で泣いてるの!」 「分かんね・・・。でも悲しいんじゃない・・・」 「白・・・」 背中を撫でながら、今度は髪を梳いてきた。 「春水、あぁ、春水・・・。そんな、優しくするな」 「白?どうして?」 「俺は、そんな壊れ易くねぇ、から!」 「知ってる・・・」 「だったら・・・」 「でも寂しがり屋だよね。優しくて、家族思いで、強くて弱い。僕の大事な人」 「あ、甘やかすな!これ、以上、弱くなったら、お前が居なくなったら、俺・・・」 「白・・・」 お前が居なくなるのを考えるだけでも怖いのに。 強くならなきゃ駄目なのに。 こんな、真綿に包まれて甘やかされて、いざ、お前が居なくなったら、俺はそれこそ壊れちまう。 その時、お前はもう、何処にも、居ないのに・・・。 今、満ち足りているこの感情は、お前が居なくなった瞬間から枯渇していく。 「それが怖い・・・」 「白」 ぎゅうっと白を抱きしめる京楽。 「大丈夫・・・。大丈夫だよ、白。言ったろう?君を一人残して消えたりしない、居なくなったりしないって」 「でも、お前は隊長で、仕事があって・・・」 「そんなの関係ないよ」 チュッと額に口付けし、前髪を撫でた。 「言ったでしょ?一緒に君を連れていくって・・・」 「うん・・・」 「地獄だろうと、来世だろうと、僕の歩く道の隣には君が必ず居るんだよ」 「うん」 「時々、下になっても上になっても良いけどね」 「?あ、この馬鹿!」 ばしばしと京楽を叩く白。その手を掴んで止め、 「だから、そんな心配はしなくて良いんだよ・・・」 と真摯な目で見つめられ、唇を奪われた。 「ん・・・」 京楽の手が明確な意思を持って動き出した。 「あ・・・ん・・」 「綺麗な声、カナリアも君の声には遠く及ばないよ・・・」 もっと聞かせて・・・、と耳元で囁いた。 終 11/10/16作 だいぶん前に日記で書いた小ネタに加筆しました。結構好きな話でしたので。 |
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