題「勘違い」
 下校途中のウルとグリ。他のメンツにロイとイール、ザエルアポロが居た。
「なんで行きも帰りもテメエと一緒なんだよ」
ブツブツと文句を言うグリの一歩前を本を文庫本を読みながら歩くウル。
「文句があるのなら先に帰れば良いだろう。子供でもあるまいし」
「うるせえ」
バラバラに帰ると一護が必ず居ない方の事を訊いてくるのだ。
「良いじゃん、どうせ同じ帰り道なんだしさぁ」
とロイが窘める。
「ちッ!で、なんでテメエも居るんだよ?」
「別に?たまたま道が同じだっただけだよ」
フン!とそっぽ向くザエル。
はぁ・・・、と溜め息を付くウル。

 突然前を歩いていたウルがぴたりと歩を止めた。そのせいでウルの背にぶつかったグリが文句を言った。
「てめえ!いきなり止まってんじゃねえよ!」
そんなグリに反応せず目を見開いて前方を見たままのウル。
何を見ているのかと視線の先を見てみるとそこにはある建物の前に居る一護が居た。
「あれは・・・!」
楽しそうに話している一護とそこの住人。一護に懐いている風な子供達。

そこはかつて二人が暮らしていた孤児院だった。

「なんで・・・お袋が」
「母様・・・?」

「あっれー?ねぇアレって一護じゃない?」
「そうだな。何をしているんだ?」
「おやぁ?あの建物は君達が居た孤児院じゃないのかい?」
ビクン!と二人の肩が揺れたのを見たザエルが意地の悪い笑みで続けた。
「おやおや・・・、あんなに自慢にしてる母親が元の孤児院に何の用だろうね?まさか手に負えないから返すって言ってるのかな?」
「やめないか!ザエル!憶測で物を言うな!」
イールが語気を強めて止めるがもう二人の耳には入っていなかった。

 まさか、あり得ない。
だが、過去に何度もあった。
引き取り先が自分達をここに返した事を思い出した二人。
あり得ない。
あり得ない!でも・・・!

二人の心の奥底でいつまでも燻ぶり続ける過去の傷がジクジクと疼く。
茫然自失の二人は他の3人の存在など忘れ、一護の様子を見ている。

 二人で固まっていると話が終わったのか、会釈して帰る一護。
そんな一護に見つからないように後ろを付いていく二人。3人とはその場で別れた。
一護は夕飯の買い物をする為にスーパーに寄った。
二人もそこへ入っていった。
「・・・お母さん・・・」
「ん?おお!ウルにグリじゃねえか!丁度良かった!今晩何が食いたい?」
「あ、の・・・」
「なんでもいい・・・」
「何でもいいが一番困んだよな。あ、秋刀魚安いな!コレの塩焼きと炊き込みご飯にすっか!」
と二人のいつもと違う様子に気付く事なく活きの良い秋刀魚を選ぶのに集中している。

(違いますよね・・・。貴方は今までのあいつらとは・・・違いますよね・・・!)
(お袋・・・!嫌だ、嫌だ!俺は何かしたか?嫌な事したのか?悪い事をしたのか?)

「ん?なんだ?元気ねえなぁ。秋刀魚イヤだったか?」
「いいえ!何でもありません!秋刀魚は好きです!」
「おう!腹減ってるだけだ!」
「あは!じゃ早く帰って用意しないとな!」
買い物を済ませ家路に着く3人。

 キッチンで食事の用意をしているとウルとグリが二人して、
「何かお手伝いする事はありませんか?」
「なぁお袋、なんか手伝うぞ?」
と一護の傍を離れようとしない。それはまるで小さな子供が母親の後ろを付いて回っているようだった。
「なんだよ、そうだなぁ・・・。グリは洗濯物取り込んでくれ。ウルはこの鶏肉を小さく切ってくれるか?」
「はい」
「おう」
鶏肉を切っていくウルを見ながらごぼうの灰汁抜きをしていく一護。
「今日は鶏牛蒡の炊き込みご飯だけど嫌いなもんあるか?」
「いいえ。お母さんのご飯はどれも美味しいです」
「また嬉しい事言ってくれるなぁ!」
嬉しそうに笑う一護を見て心の底が暖かくなるウルキオラ。
他の食材を切っていると、
「お袋、全部取り込んだぞ。他は?」
「ん〜。今んとこねえな、ゆっくりしてろ。今日あった事とか聞かせてくれよ」
「ん・・・」
言われるまま今日学校であった事などを話していくグリ。
「でよ、またノイトラが親父と喧嘩させろってうちのクラスまで来てよ」
「あはは、相変わらずな奴だな」
ご飯の味付けをしつつ笑っている一護。
「さてと!次は秋刀魚だな。これはご飯が炊けてからで良いし・・・。お茶にしよっか?」
「はい!」
「おう!」
「今日はさ〜。色んなクッキー焼いたんだよな」
とプレーン、ココア、ジャムが乗った物、ナッツが入った物などを出してきた。
「美味しそうですね」
「おぉ!美味そう!」
ひょい!と一つ取って食べたグリ。
「あ。こぉら!摘まみ食いすんな。ホラ、紅茶」
「ん〜」
「ありがとうございます」
おやつを食べてから炊飯器のスイッチを入れ、洗濯物を畳む為に居間のほうへと移った。やはり二人とも付いて来てはタオルや自分の服を畳んでいる。
(何だかなぁ?なんかあったんだろうけど、言い難そうだしな〜)
「何か今日は特別良い子だな、二人とも。何かあったのか?」
「べ、別に何も・・・!」
「何もねえよ!た、ただ今日はヒマだったから!」
「ふうん、俺はまた喧嘩でもしたのかと思ったけど?」
「してねえよ!」
「分かった分かった。ありがとな、助かったよ。ほら自分の服、部屋に持ってけよ」
「はい・・・」
「おう・・・」
「あ、そうだ。剣八が帰ってきたらちょっと話あるからな。ご飯の時に聞いてくれな」
「ッ!!」
「ッ!!」
「どした?」
「なにも・・・」
「ん・・・」
何も、と云うが明らかに顔色が悪い。
「どうしたよ、顔色悪いぞ。風邪か?頭痛いか?」
と心配そうに二人の額に手を当ててくる。
「な!何でもねえ!他になんかやる事ねえか?」
「俺も手伝います」
「え〜・・・、なんかって、風呂沸かすのと食器出すのぐらいだけど・・・?」
「じゃあそれやる!風呂だな!」
「では俺は食器の用意を」
と各自の洗濯物を部屋に持って行くと慌ただしく動き始めた。
(な〜んか隠してるな。飯の後にでも訊くか)
といつもと違う息子の様子に心配しながらも見守った。

 剣八とやちるが帰って来た。
「たっだいま〜!お腹空いたよ、いっちー!ご飯何〜?」
「今日は炊き込みご飯と秋刀魚と豆腐と三つ葉のお吸い物だ」
「おいしそ〜う!早く食べたい!」
二人が着替えて居間に来る頃にはすぐに食べられるように用意されていた。
ご飯を食べながら二人の話を聞き、一護も今日の事を話す。
「今日はな、お兄ちゃん達がいっぱい手伝ってくれたんだぞ。ご飯の用意も風呂の用意もしてくれたんだ」
とニコニコ話す一護。だがその二人に元気はない。
いつもするおかわりもしない。
(やっぱ変だ!)

 食事が済み、食器を片付け終わると徐に一護が二人に話し出す。
「さっき言ってた話だけどな」
(来た!)
「う・・・」
「はい・・・」
力無く返事するウルとグリ。
「今度の日曜日にお前らが居た孤児院に行くんだ」
「ッ!」
「ッ!」
二人の肩がビクン!と跳ねた。剣八も気付いた。
「そんでな、そこでお前らの昔の写真を貰おうって思ってるんだけど、お前らはどうだ?」
と訊いてきた。
「え・・・?」
「なに・・・?」
しゃしん・・・?写真!?

固まった二人を見て、
「やっぱ嫌か?」
と申し訳なさそうに訊いてくる一護。
「え、や・・・、じゃ、今日、孤児院に居たのって・・・?」
「あ、なんだ見てたのか?ああ、偶に行って話しさせて貰ってるんだ。手紙だけだと味気ないだろ?」
と一護が自分達を引き取ってから月に一度、手紙を書いて二人の事を報告していたのだと知った。
「すげぇ喜んでくれるんだぜ。院長さん、お前らの事心配してっからさ。逢って話すとすげぇ嬉しそうに笑ってくれるんだ」
「あ・・・」
「う・・・」
自分達を育ててくれた院長。どんなに悪い事をしても、人の輪を頑なに拒もうと手を差し伸べてくれた人。
彼女が居なかったら一護達に出会えていなかっただろう。
「でさ、ウチで撮った写真とか増えてきたろ?アルバム作ろうと思って2冊買おうと見てたんだけどさ、お前らの子供の頃の写真って見たこと無いから今日見せて貰ってたんだ」
「はい・・」
「おう・・・」
「じゃあすっげえ可愛いんだもんよ!はしゃいで見てたら差し上げましょうか?って言ってくれたんだ。でも貰うだけじゃ不公平だろ?貰うならうちの写真もあっちにあげたいし、それにはお前らの承諾が要るだろ?だから今・・・」
と話を区切り二人を見ると泣いていた。
「ど、どうしたんだよ?お前ら今日変だぞ。何かあったのか?」
と心配そうな一護。
「いや、だって・・・!お袋がそんな事してるなんて知らねえもん!」
「今日、孤児院に居るのを見て・・・!また、返されるのかと・・・!」
ぐしぐしと泣いている高校生二人。
「なっ!返さないって言っただろ!なんだよ!もう二人して!」
「ご、ごめん!お袋、ごめん!」
「ごめんなさい!お母さん!」
ごめんなさい、ごめんなさいと泣き続ける二人を膝に抱いて泣き止むまで髪を撫でてやった。

 ひっくひっくと泣き止むと、
「で、どうする?行くんなら今週末に行きたいんだけど。剣八もやちるも非番だし」
「い、良いよ」
「俺も良いです」
「良かった。ありがとうな二人とも。ほら、お風呂入っておいで」
「うん」
「はい」
と促してやる。
「驚かせちまったな・・・」
「しょうがねえだろ。色々あったみてえだしよ。泣く程お前が好きってこったろ」
やらねえけどよと笑って一護を抱き寄せる剣八。
「俺も・・・、でも子供らは別」
「ふん。で何時に行くんだ」
「んー、お昼終わってからの方が良いだろうから午後かな」
「そうかよ」

 日曜日。朝から一護はたくさんのお菓子を作っている。
クッキーやマドレーヌを山のように焼いてバスケットに詰めていく。
「後は写真だけだな」
時間になり、5人で孤児院へと向かう。
「また大量に作ったな、おい」
「まーな!向こうさんは子供も多いしな」
と話しているうちに到着した。
「こんにちは、更木です」
「まあまあ、ようこそいらっしゃいました。ウルキオラもグリムジョーも大きくなって・・・」
と柔和な笑顔の院長先生。
「おひさしぶりです・・・」
「・・・っす・・・」
久し振りに会った院長は記憶よりも小さくなっている。
「あ、これ詰まらないものですけど皆さんで食べて下さい」
「まあ!ありがとうございます!一護さんのお菓子は皆の大好物なんですよ」
と受け取り、応接室へと案内した。

 一頻り話をすると二人の写真を持ってきてくれた。
「うわっ!可愛いなー!」
「だぁああ!それは見んじゃねえ!」
「どれ?」
「あ!くそ親父!返せよ!」
ぎゃーぎゃー暴れるグリを片手でいなし写真を見る。
「ふーん。コイツにもこんな時期があったのか」
「そらあんだろ。お、ウルも」
「あ、あんまり見ないでください」
「あはは!グリ兄ってば怒られてるー!」
ふくれっ面でそっぽを向いているグリの写真。一人で本を読んでいるウルの写真。クリスマスや正月の写真。
「これ本当に頂いても良いんですか?」
「ええ。貴方がたでしたら」
と一護が持ってきた写真を見て、
「こんなにも幸せになってくれて・・・」
目元を拭っている。

 帰り際、お互いにお礼を言い外に出ると、
「あ、お袋達、先に行っててくれ」
とグリが建物に入っていく。
「あ、俺も・・・」
とウル。
「じゃここで待ってるからな」
「「はい!」」
「どうしたんだろうね〜?」
「そうだな・・・」

「院長!」
「院長先生・・・!」
突然戻ってきた二人に驚く院長。
「まあ!どうしたんです?二人とも」
「あの、あのよ!今まで・・その、あんがとな、感謝してる」
「俺もです。ありがとうございます。今があるのは貴女のお陰です」
「まあまあ・・・。それを言いにわざわざ?本当にあの方達には感謝をしないと罰が当たってしまいますね」
院長も二人が幸せになった事を喜んでくれた。
「ちゃんと親孝行はしないといけませんよ?」
「おう!」
「はい!」
昨日までの二人にあった陰は無くなった。

 元気でと、挨拶を交わして待っている両親と妹の所へと戻っていった。
「ワリィ!待たせた」
「すみません」
「良いよ!さ、うち帰っておやつにしようぜ」
「今日のおやつなに〜?」
「ホットケーキ!お兄ちゃんに焼いて貰おうぜ」
「うん!ウル兄、グリ兄よろしくね〜!」
「げ、あれって結構難しいんだよな。俺すぐ焦すぜ」
「半生だしな。火が強すぎると何度も言っている」
「うっせえな!」
その日のホットケーキは綺麗なキツネ色でふっくらしていた。
「どうだ!こんちくしょう!」
「おお!綺麗綺麗!」
「美味しそう!」
「・・・片付けは?」
と一緒に作っていたウルが泡立てた生クリームを出してくれた。
「ちゃんとやるっつーの!お前もやれよ!」
「誰に言っている」
「喧嘩すんなー」
「はい!」
「おう!」
一護の淹れた紅茶で楽しいおやつとなった。






12/06/21作 だいぶ前から書きかけでした。院長は最初藍染にしようかと思ったんですが救いがねえ!と思ったので普通の人です。
あれ?剣ちゃんパパ、空気?一護ママは最強のようです。




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