題「久遠の誓い」1
 これはまだ闇が色濃く残っていた頃のお話。
化け物が跋扈し、人間は闇を恐れていた。

とある村では子供達の元気な挨拶が聞こえていた。
「一護先生!今日もありがとうございました!」
「おーう!気ぃ付けて帰れよ!」
「はーい!」
子供達を見送るのは橙色の髪をした青年よりはまだ少年と言った方がしっくりくるだろう男だ。
名前は黒崎一護。この村で剣や空手を子供達に教えている。
両親ともに他界しており、畑仕事の他にこうやって副業をしている。まぁ体の良い保育園のようなものだ。
貧しいながらも一人で暮らしていくには充分な収入だった。

 そんな村にある夜、化け物が襲って来た。
身の丈2メートルを超し、髪が天を衝く勢いで四方に分かれている。
それの腕には死んだ牛が抱えられており、口の周りは血で真っ赤になっていた。
「きゅ、吸血鬼だぁ!」
誰かがそう叫んだ。
村の男達総出で立ち向かうが、まるで歯が立たない。
「一護せんせぇ〜!」
泣き叫ぶ子供達を護りながら戦う一護。
松明で追い払おうとする村の住人達と木刀で立ち向かう一護。
「へえ、結構やるじゃねえか」
グイ、と口の周りの血を拭き取るとニヤリと笑って言った。
「そりゃどうも!」
木刀を素手であしらう男が何やら楽しそうに笑う。

 何時間そんな戦いが続いたのか、天は村人達に味方したようで東の空から陽が射した。
「ぐう・・・!ちっ!くそ!折角楽しくなってきたってのによ・・・」
「?」
一護は男が何かを庇う様な動きをしたのに気付いた。
(子供?!)
倒れた男に歓声を上げる村人達。
「今のうちだ!焼き殺せ!」
「化け物を殺せ!」
と興奮している男達。
「・・・それは俺がやる。あんた達は家に帰って家族を安心させてやってくれないか?」
「先生、一人で大丈夫ですか?」
「もし何かあっても、俺一人の方が良いでしょ?さ、子供と奥さん待ってますよ」
と村人を遠ざける。
村人も一護の言葉に甘え、家族の元に帰っていった。
「さてと・・・」
男の身体を動かすと、やはり懐から小さな子供が見つかった。
「どういうこった?」
一護にはこの吸血鬼が悪い存在には見えなかった。一先ず、引きずって場所を替える。

 自分の家の納屋に寝かせると、服を脱がせ、それを魔除けの効果があると言われているニンニクや薬草と一緒に燃やした。
男には父親の形見の服を傍に置いておいた。
「ま、出ていくか、俺を殺すかは勝手だけど村人には手ぇ出すなよ」
と声だけは掛けておいた。
「・・・・・・・」
「一護先生!」
「ん?おう、おはよう」
「ねえ、昨日の吸血鬼は?」
と稽古に来た子供達に聞かれたので、
「ああ、ちゃんと燃やしたぜ。ニンニクとかと一緒にな」
と答えてやった。
「そ、それで!どうなっちゃったの!」
「灰になって飛んでっちまった」
「灰になったの?」
「ああ、元々朝日に当たって溶けかかってたからな。すぐだった」
「怖くなかったの?」
「んん?俺は先生だぜ?ぜーんぜん!」
と笑ってやる。
「あそこの黒くなってる所?」
「そう。近づいちゃ駄目だぞ?」
「はーい!」
「約束破ったら稽古の量10倍にするからな?」
「ええ〜!やだー!」
きゃっきゃっといつもの笑顔を取り戻した子供達だった。


第2話へ続く




13/03/28作 176作目です。随分前から書いてあった物です。




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