題「お花見しましょ」
 春爛漫の瀞霊廷では花見をしようと計画が持ち上がっていた。

料理は女性陣が、酒や飲み物を男性陣が用意すると言う物で、朝食の時にその話を聞いた白は、
「ふ〜ん、楽しそうだな。いつやるんだ?それって」
と訊いた。
「そうだねぇ、今度の日曜日に皆集まるって言ってたよ」
「あと2日か・・・」
と呟いた。

食事が済み、京楽も仕事に行く。花見に出るためにいつになく仕事に励んでいる。
「ちょっと出掛けるからよ。朝月、夕月の事頼むぞ」
「は〜い。遅くなるの?」
「どうだろうな、すぐに済むと思うけど・・・」
「分かったわ」
さて白の行先は?

「姉さま〜。居るかぁ〜?」
と訪ねたのは京楽本家。声を掛けるとすぐに、
「まぁま、嬉しいお客様ね」
とにこやかに白を出迎えた兄嫁。
「こんちは、姉様。あのさ、今度の日曜日って用事あるか?」
「特に無いと思いますわ。そんな事より中に上がってくださいな。おじいちゃんも居ますわよ?」
と招くと兄嫁の後ろから顔を出して挨拶する春水の兄。
「やっぱり私はおじいちゃんなんだねぇ。久し振りだね、白君。元気かな?」
「おう、おじいちゃんもな!じゃ、ちょっと邪魔するな」
と縁側から上がり込む白。
出された茶を飲みながら白が今日来た理由を話す。
「あのさ、今度の日曜日に花見やるんだって春水が言ってたんだ」
「まぁ、お花見ですか、良いですわね」
「でな、女が料理作って、男が酒やら飲み物を買ったりするんだと。姉様とおじいちゃんも来ないか?」
「おや、私達も行って良いのかな?」
「良いんじゃねえの?春水の家族なんだし。それに姉様の料理美味いしな。また食いたい」
「まぁま!嬉しい事!わたくし腕によりを掛けて作りますわ!ねぇあなた!」
と夫に話し掛ける。
「そうだな。私も秘蔵の酒を用意しよう。今年の花見は楽しくなりそうだな」
と二人とも喜んでくれた。


当日。
この日の為に貸し切りにした食堂の厨房では一護や白、十六夜、朝月も手伝っている。兄嫁も白から紹介され順応している。
「てゆーかよ、俺ら男だよな?こっちで良いのか?」
と当たり前な疑問を白が口にすると乱菊が、
「良いのよ。気にしないの、口より手を動かす!」
と白をせっつく。
「へーいへい」
「良いじゃない、お料理楽しいよ?にぃに」
「一護がそう言うならいいけどよ」
巻きずしを巻いている一護が白に言う。
兄嫁は、鯛を使った料理に専念している。メニューは、
『鯛の木の芽焼き』 『鯛と菜の花のカルパッチョ』 『鯛の散らし寿司』 『鯛の蒸し物・春野菜あんかけ』などなど。
「ほ〜ら、あんたも料理する!京楽隊長も今日の為に物すっごく仕事頑張ったんだから!」
「それで残業ばっかしてたのか、あいつ」
と兄嫁の手伝いをしながら呟く白。
十六夜と朝月は七緒に煮物を教わっている。

女性陣が料理をしている間、男の子達と一緒に居る夕月。小さすぎるのでまだ危ないだろうと言う事で此処に居るのだが些か不機嫌だ。
「どうした?夕月。機嫌が悪いようだが?」
とウルが聞くが、
「何でもないです・・・」
と返事が返ってきた。だがその尻尾は不機嫌だと如実に表す様に揺れては緋毛氈をたし!たし!と叩いている。
「何でもないようには見えん。俺には言えないか?」
と優しく聞いてやる。
「・・・どうして夕月だけ除け者ですか?夕月もママとねね様と一緒にお料理したいです・・・!」
むぅ、とむくれている。
「ああ、そうだな。一緒にお願いしに行くか?」
と言ってやればパァッ!と顔を輝かせた。
「本当ですか?にぃちゃ!行くです!ママの所に行くです!」
「そうか。朔、夕月を連れていくぞ」
「うん、分かった」
幾望と遊んでいた朔に一言言うと夕月と一緒に台所に向かった。

かちゃかちゃ、ことことこ、とんとん、とんとん。
料理をする音と腹の虫を刺激する匂いが漂う厨房に着くと声を掛けた。
「すいません。ちょっと良いですか?」
「あ〜ら、ウルじゃないの!夕月も!なぁに?お腹すいた?」
「いえ、その、夕月が一緒に料理したい様なので・・・」
と言うと横に居た夕月が、
「夕月も一緒にお料理したいです!夕月も女の子なのに除け者はいやです!」
ぷくっ!と頬を膨らませ怒っている夕月。
「あらぁ、ごめんなさいねぇ。今日は人数が多くて危ないと思ったのよ、除け者にしたわけじゃないのよ?」
「でもママが居ないのいやです・・・」
「白〜!夕月が来てるわよ、こっち来て」
「あん?おう、夕月、ウルも来たんか。どした?」
「寂しいんですって。一緒にお料理したいみたいね」
「ふうん、良いんじゃね?ほら、夕月も作ろうぜ。ウルは?」
「いえ、俺は他の用事をしています」
「そっか、あんがとな」
とウルの頭を撫でてやった。ウルは花見の席で食器などの用意に戻った。

「さてと、じゃあ俺と夕月は何するかな」
手伝いはもう既に済んでいる。乱菊が、
「おにぎりでも一緒に作れば良いんじゃないかしら?この間「お弁当の歌」覚えたんでしょ?」
「ん?あー、そうだな。夕月、ママと一緒におにぎり作ろうぜ」
「ハイです!パパに食べてもらうです!にぃちゃに食べてもらうです!びゃっくんにも!」
「そんなにいっぱい作れるか?春水のはママが作るぞ?」
「はい!ママ、おにぎにはどうやって作るですか?」
「えーと・・・」
と説明していく。
「ご飯熱いから気をつけなさいよ〜」
「おう」
「はい!」
この後二人で歌いながら沢山のおにぎりを作った。
「ママのおにぎに大きいです!」
「夕月のは可愛いな」
二人が作った形も大きさもマチマチなおにぎり。

出来あがった料理を花見の席に運んでいく。一角や弓親、恋次、イヅル、檜佐木などが並べていく。
「おお〜!すっげえ豪華だなぁ、おい!」
「本当!どれも美味しそうだね!」
「どれ、味見、味見・・・イテ!」
「行儀悪いよ、阿散井君」
つまみ食いしようとした恋次の手を弓親が叩いた。
「全く!隊長達もまだなのに!」
「ちぇ〜」
「は〜い!これで最後よ!さ!宴会始めましょ!」
今まで料理を頑張って作っていた女性陣が後片付けを済ませ、漸く現れた。
「パパ!夕月もお料理頑張ったですよ!」
「おやいい子だねぇ。どれを作ったんだい?」
「おにぎに作りました!食べて食べて!パパもにぃちゃもびゃっくんも!」
さっきまで不機嫌に揺れていた尻尾は打って変わってご機嫌にパタパタ振られている。
「この大きいのも夕月が作ったのかい?」
「それはママが作ったです!パパにって!」
「夕月!余計な事言わなくて良い!」
白が言うも既に鼻の下を伸ばしている京楽には聞こえていなかった。
「嬉しいな〜。白こっちで一緒に食べようよ」
「しゃぁねえな」
と隣りに座る白の今日の着物は桜に負けないくらい綺麗な物だった。淡い桃色の地に濃い桃色や撫子色で桜が描かれていた。
「あぁ桜の精が具現化したみたいに綺麗だよ、白」
「やかましい!外で言うな!」
(家なら良いんだ・・・、素直)
「なんだかんだ言って仲良いよなぁ」
と微笑ましく見ている皆。
「おい、一護。お前は何作ったんだ?」
と剣八が横に居る一護に聞いた。
「えっとね、から揚げと巻きずし!初めてだからあんまり綺麗に巻けなかったけど」
「どれ・・・」
と口に入れる。
「美味えぞ。味が良いんだ、気にすんなよ」
「うん!」
とこちらも甘い空気を出している。

「狛むー!これあたしが作ったの!食べて!」
と肉じゃがを差し出す十六夜。
「おお、ありがとう。いただこう」
と大きな手で器を受け取る。
パクパクと食べていくがある物だけ箸を付けていない。
「どうしたの?美味しくない?」
「いや。美味であった」
「でも人参残ってるわよ?」
「・・・これは・・」
と困っている様子に射場が小声で教える。
「あ、そうなの?へ〜、意外・・・。狛むーってば可愛い!じゃあそれはあたしが食べてあげる」
「な?あ!」
と言っているうちに人参を食べる十六夜。
「嫌いな物を無理して食べることなんてないわ。大人なんだしね。美味しいって言ってくれて嬉しかった!」
「う、む・・・」
「はい、お酒。今日は狛むーも飲んでいいんでしょ?」
「ん?ああ」
「いつも狛むーだけお仕事して大変なんだもの。お疲れ様!」
海に行けなかったことなどを暗に言う十六夜。
「む、ありがとう」
と盃を飲み干す狛村。

「朔、この料理どうかしら?」
と朝月も朔の所で自作の煮物を差し出している。
「うん、とっても美味しいよ。あーちゃんお料理上手だねぇ」
「ありがとう!」
と良い雰囲気だ。
グリとノイは一護が作ったから揚げや、女性陣が作った料理を平らげていく。
「あんた達美味しそうに食べるわね〜」
「一護も毎日作り甲斐があるでしょ?こんなに美味しそうに食べてくれて」
「うん!嬉しいよ!」
そんな一護の頭をくしゃくしゃと撫でてやる剣八。

「白ちゃん、このお料理どうかしら?」
と兄嫁が料理を勧めている。
「おお!姉様の寿司だ!頂きます!」
ともりもり食べる白。
「〜〜!美味え!この寿司も美味え!ほら春水食ってみろよ!」
「ん?あ〜ん」
「ほれ」
と食べさせている。
「美味しいねぇ。お弁当付けてるよ、白ってば」
「ん」
「春水、秘蔵の酒を持ってきてやったぞ」
「わぁ!昔は僕には飲ませてくれなかったくせに!」
「そういうな」
「浮竹、飲んでみるかい?この酒は兄貴のとっときの酒なんだ」
「ほう!御相伴にあずかろう!」
白は兄嫁の手料理を食べてご機嫌だ。

「にぃちゃ、夕月のおにぎに美味しいですか?」
「ああ、初めて作ったとは思えんくらい美味しいぞ」
「わあい!びゃっくん!びゃっくんも!」
「食べているぞ。可愛い形だな、塩加減も良い」
「うきゅう!ママのおにぎには中にいっぱい入ってるですよ!」
「中に?」
「はいです!梅干しと鮭と昆布とおかかが入ってるです!」
「だからあんなに大きいのか・・・」
向こうの方で京楽が頬張っているおにぎりを見た2人。嬉しそうに食べる京楽を嬉しそうに見ている白。
「春水!コレも食え!俺が手伝った姉様の料理だぞ!」
とまるで餌を詰め込まれるガチョウの様に口に突っ込まれている。
「白ったら京楽隊長でフォアグラ作りそうな勢いねぇ」
と酒を飲みながら乱菊が呟いた。
「ホントですねぇ〜」
そのうち白が酒を飲み始めた。
「あら、結構飲めるのねあの子も」

数分後。
「しゅんすい〜!お酒もっと〜!」
と出来あがった白が上機嫌に京楽に抱き付きながら杯を差し出す。
「はいはい、飲み過ぎちゃ駄目だよ?」
「は〜い!白哉〜!お菓子〜!」
とお菓子も強請る。
片手に酒、片手にお菓子を持って御満悦な白だったがいつの間にやら京楽の膝で眠ってしまっている。
「あらあら、よほど楽しかったのね。笑ったまま眠ってますわね」
と卯ノ花隊長が覗きこんでいる。
「そうだね。風邪引くといけないから・・・」
といつも羽織っている女物の着物を白に掛ける京楽。
「ん・・・」
すりすりと擦り寄る白。
「可愛らしいこと」
「本当に・・・」
と兄嫁も白を撫でる。
「かかさま・・・」
と寝言で呟いた白だった。

「あれ?にぃに寝ちゃってる・・・」
子供達がお菓子を食べに浮竹と白哉の所に行っているので剣八と差し向かいで飲んでいた一護が気付く。
「あ?珍しいな、アイツがあんな無防備になるなんてよ」
「そうだね。きっとそれだけ京楽さんを信頼してるんだね」
「そんなもんか」
ゴロン、と横になると一護の膝枕を独占する剣八。
「剣八?眠くなった?」
「ちぃっとな・・・」
「お昼寝する?」
「ああ・・・」
目を閉じた剣八の髪を撫で、咲き誇る桜を見上げる一護。
「今年のお花見はにぃにも居てくれて嬉しいな・・・」
膝の上の剣八の頬に付いた花びらを取っては嬉しそうに髪を撫でる一護が居た。

次の日、しっかり二日酔いになった白が京楽に看病されていた。
「うう・・・、頭痛いぃ〜・・・」
「大根の雑炊作ろうか?」
「うん・・・」

後日、花見の様子を写真に撮っていた女性死神協会のメンバーが大量の写真を持ってきた。






11/04/08作 第167作目。お花見の様子でした。纏まり無いなぁ〜。
夜は夜で啼かされてますよ、きっと。夫婦の花見ですな。



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