題「夕月のお散歩」
 とてとてとて。 
耳と尻尾が生えた小さな女の子がウサギのぬいぐるみを持って歩いている。その手をつないで歩くのはウルキオラ。
「今日はどこに行くのだ?」
「今日はこのウサギさんをくれた乱菊さんに会うです」
「なら十番隊だな」
「はいです」
十番隊。
「こんにちはです」
「失礼します」
「ここに乱菊さんはいますか?」
隊主室の扉をウルに開けてもらい中を覗く夕月。
隊主机で書類を片付けていた冬獅朗が顔をあげた。
「ん?お前は白のとこの・・・」
「夕月です。乱菊さんはいますか?冬獅朗のおにいちゃん」
「今は居ねえよ。サボってどっかの甘味処にでも行ってんだろ」
と眉間にシワを寄せて言った。
「そうなのですか。残念です。お仕事頑張ってくださいね。冬獅朗のおにいちゃん」
「ああ、ありがとな」
パタン。と扉を閉めて帰る夕月。
「残念だったな」
「そうですね。お礼を言いたかったのです」
「お礼?」
「はいです。このウサギさんは夕月の宝物なのです。大好きなのです。だからお礼を言いたかったです」
「そうか。歩いていれば会えるかも知れないな。八番隊の所まで行くか?」
「パパの所ですか?行くです!」

いつもは白と一緒に白哉の家や一護がいる十一番隊に行く二人だが今日は二人だけで護廷に来ていた。勿論白には断って出てきている。
白金に輝く髪と金色の目をした白と瓜二つの夕月と黒髪に翠色の目の美丈夫のウルキオラ。
二人が並んで歩いているだけでも人目を集め、うっとりとため息を吐く者も居るぐらいだ。

とことこ歩いていると前から見知らぬ死神が数人歩いてきた。
酒でも飲んでいるのか赤い顔に大きな声、そして酒の匂いに夕月が顔を顰めた。
「にぃちゃ、お酒の匂いがするです・・・」
「・・・静かに。見ない様にして離れるぞ・・・!」
小声で言い聞かせ夕月の手を握り、足早にそこを通り過ぎようとしたが、良くも悪くも夕月の容姿は目立つ。
へらへら笑いながら近づいてきた男たちは夕月に足を引っ掛け転ばせた。
「あうっ!」
ベしゃっ!と転んでウサギを手放してしまった夕月。
「ううう・・・」
転んだ拍子に手を擦り向いてしまい涙目になっている夕月。
「大丈夫か?夕月!」
「あい、大丈夫です。ウサギさんは?」
と回りを見回すと酔っ払いに拾われていた。
「あのう、返してください。それ夕月のです」
勇気を振り絞ってお願いした。だが酔っ払い達は、
「ああ?コレかぁ?」
「どうするかなぁ」
と嫌な笑みで見降ろしいる。
「返して!夕月の宝物です!」
ピョンピョン飛んで取り返そうとする夕月。その小さな身体を突き飛ばす男。
「きゃん!」
尻もちをついてしまった夕月。
「夕月!」
夕月を庇うように前に出るウルキオラ。
「そのぬいぐるみを返して下さい。良い大人が恥ずかしくはないのですか」
殺意を込めて相手を睨みつけながらウルが言えば酔って激昂した男が、
「んだと!このガキが!」
と怒鳴りながらウルを殴り飛ばした。
「にぃちゃ!!」
「退がっていろ。お前の大切なぬいぐるみは取り返してやるから」
そう言うとぬいぐるみを持っている男の向こう脛を容赦なく蹴った。
「いぃってええ!」
思わずしゃがみ込んだ男の手からぬいぐるみを奪おうとしたが、大人の力は強くそう上手く行かなかった。
「この・・くそガキがぁ!」
今度はウルを蹴りあげた。近くにあった塀まで蹴飛ばされたウルキオラ。
男達はウルを路地に連れ込んだ。
「ううう・・・!にぃちゃ、にぃちゃ!うわぁああああん!」
ついに大声で泣き出した夕月。その声に立ち去る男たち。
近くを通りがかった白哉と恋次が揺れる夕月の霊圧に駆け付けた。
「夕月、どうしたのだ!こんな所で泣いて」
白哉が泣いている夕月を抱き上げると夕月は抱きついて泣き続けた。
「泣いていては分からぬ・・・。喋れるか?」
優しく髪を撫でてやる白哉。
「ひっく!ひっく!にぃちゃ、が怖い人達に!そこの狭い所に〜〜!」
「恋次」
「はい!」
恋次が路地を覗くと倒れているウルキオラを見つけた。
「おい!大丈夫か!」
「う・・・夕月は・・・?」
「平気だ、今うちの隊長が見てる」
「そうか」
口の端の血をグイッと拭うとゆっくり立ち上がった。
「おい」
ヨロヨロと路地から出ると、
「にぃちゃ〜!」
と夕月がウルを呼んだ。
「・・・すまん。お前の大切なぬいぐるみを取り返したが・・・」
その手の中のぬいぐるみは無残にもボロボロになっていた。
「一体何があったのだ。恋次、京楽に連絡を四番隊に行くぞ」
「はい!」
京楽に連絡を入れ、恋次がウルを背負って四番隊に行くとすぐさま治療が始まった。
「一体何があったのです?」
穏やかに見えるがかなり怒っている卯ノ花。
ひっく、ひっくとしゃくりあげる夕月が、
「お、散歩してたら、っく!お酒の匂いのする男の人達が!夕月を転ばせたの・・・」
「まぁ!」
「夕月の大事なウサギさんを取ったの。返してって言ったのに返してくれなくて、にぃちゃが取り返してやるって」
すんすんと鼻を鳴らしながら説明する。
「にぃちゃ悪くないのに!う、ウサギさんも!うわあぁああん!」
「夕月!ウルキオラ!」
京楽が駆け付けた。
「パパァ〜!にぃちゃが〜!」
「うん、怖かったね。ウルは?」
「今治療が終わった所ですわ」
「そう、会える?」
「ええ」
病室に入ると椅子に座っていたウル。
「あ・・!申し訳ありません、俺が付いていながら・・・!」
「良いよ。君はまだ子供なんだから。ありがとう、夕月を守ってくれたんだね」
ポンポンと頭を撫でてやり安心させてやる。
「ですが、大事なぬいぐるみが・・・」
「大丈夫だよ。すぐ綺麗になるから。君も無事で良かった。君に何かあったら白が泣いちゃうからね」
ぬいぐるみは被服科の隊士によって綺麗に直された。

その後ウルの証言と目撃証言により犯人はすぐに捕まった。
知らせを受けた白は烈火のごとく怒り狂ったが卯ノ花と京楽により宥められ夕月とウルを優先させ、家に帰ると二人を抱きしめ慰めた。

「殺してやる!どこのどいつだ!春水!知ってんだろう!教えろ!」
「落ち着きなさい、白」
「落ちつけだぁ?これが落ち着いて居られるか!俺の子供が怪我させられたんだぞ!」
「分かってる!けど君にはもっと大事なことがあるでしょう?」
「なんだよ・・・!」
鼻息も荒く問いただす白。
「そうですよ、白君。貴方には貴方にしか出来ない事があります。そちらを優先なさってください」
「卯ノ花さんまで・・・。俺にしか出来ねえ事ってなんだよ?」
「ウルと夕月の傍に居てあげなさい。傍に居て安心させてあげて?これは君にしか出来ないんだよ」
「そうだ。不逞の輩など我らや刑軍が捕えよう。そなたは子等を第一に考えよ」
と白哉も白を窘めた。
「分かったよ」
漸く刀を引いた白が夕月とウルの待つ部屋へ向かった。

部屋ではぷるぷる震える夕月と、そんな夕月を健気にも元気づけるウルが居た。
それを見た瞬間、二人を抱きしめる白。
「お前が無事でよかった」
「ご心配をおかけして申し訳ありません」
「お前に何かあったら、ハリベルも悲しむ」
「ハリベルも、ですか?」
「そうだ。お前は俺の子だが、ハリベルもお前の母親だ。」
「・・・・母親」
「お前に何かあったら、俺もハリベルも悲しむ。夕月も、皆が悲しむ。それを忘れるな」
「はい・・!」
だから、無茶はするな。もっと自分を大事にしろ。そう言ってきつく抱きしめた。顔に何か熱い物が落ちて来たのでふと見上げると白の涙だった。
それを見てしまったウルは今まで我慢してきた物が崩れていくのを感じて、その腕の中で静かに泣いた。



捕まった3人の死神は・・・。
霊力を奪われ、報復出来ぬ様に記憶も奪われ流魂街に放逐された。








11/04/03作 165作目。白は人一倍家族想い。大切な家族を失う悲しみと痛みを知っているからこそ家族を傷つけるモノには容赦しません。




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