題「ホワイトデーの贈り物」京楽と白哉の場合
 3月14日、バレンタインデーから一ヶ月たった今日はホワイトデー。
白と、朝月、夕月にチョコレートを貰った京楽はお返しのプレゼントを用意していた。

居間で寛ぐ白に京楽が、
「はい!白、これホワイトデーのお返しだよ〜!」
と大きな箱を手渡した。突然の事に驚いたが、
「お、おう。サンキュ」
と受け取り、箱を開けると中から出て来たのは白貂の襟巻だった。
「おお、貂じゃねえか!真っ白だな」
と貂の小振りな顔や尻尾を触っては、
「気持ち良いな〜、巻いても良いか?」
「もちろん!君に似合うと思って選んだんだから!」
にこにこと笑いながら襟巻を巻く白を手伝う京楽。
「さ、これでいいよ」
「ん・・・、気持ちいい・・・」
すりすりと襟巻に頬ずりする白が気持ち良さそうに目を細めている。
「良かった、喜んでくれて」
「うん、ありがと。気に入った」
「あと朝月と夕月のなんだけど二人ともまだ家に居るかな?」
「ああ、何かごちゃごちゃやってたぞ。ウルはさっき出掛けてった」
「そう。朝月〜!夕月〜!おいで〜!」
と大きな声で二人を呼ぶと程なくして居間に現れた朝月と夕月。
「なあに?とと様」
「なんですか?パパ」
「うん、二人にホワイトデーのお返しをね」
と二人にもプレゼントを渡した。
「わ!ありがとう!とと様!なにかしら?」
「ありがとです!」
いそいそと箱を開ける二人。箱の中身は、
「わあ!可愛い!」
「なんですか?これ」
と夕月がそれを持ち上げる。
「それはね〜、毛皮のマフラーだよ。この紐で結ぶんだ」
と夕月の首にマフラーを巻いてやり、ポンポンの付いた飾り紐でリボン結びにしてやった。
朝月は自分で巻いている。
「わあ!ふわふわで気持ち良いです!パパ!ママ!似合うですか?」
「ああ、可愛いぞ、夕月」
「とっても良く似合ってるよ、夕月、朝月も」
二人お揃いの真っ白な毛皮のマフラー。
「かか様のそれはなあに?」
「これは貂の襟巻だよ」
「ふうん。あ、頭も尻尾も付いてるのね」
「可愛いです!ママ」
「おい、朝月。時間良いのか?」
とこそりと聞けば、時計を見た朝月が、
「あ!もうこんな時間!ねえかか様、この着物変じゃない?」
「ああ、良く似合ってるよ」
「良かった!とと様、これありがとう!じゃああたし約束あるから出掛けて来ます!」
「遅くならないようにね〜」
「はあい!」
と出掛ける朝月。
「十六夜ちゃんの所に行くのかな?」
「そうだろ。あ、そうだ、夕月、白哉ンとこに行くんだったよな」
「はいです!ママも行くです!」
「おお、春水、これサンキュな」
ちゅ、と頬にキスした白。
「うん。白も早く帰ってきてね。途中まで一緒に行こう」
「おお、仕事サボって七緒を怒らせるなよ?」
「はあい」
夕月を真ん中にして3人で歩く。夕月を繋いだ手で持ち上げると嬉しそうにはしゃいで何度も同じことを繰り返す。
「きゃっ!きゃあ!もっと!パパ!ママ!きゃあ!」
尻尾をぶんぶん振りながら喜ぶ夕月。
「ほぉら!」
「きゃあ!」
そんな3人を微笑ましそうに眺めている道行く死神たち。

八番隊隊舎に着いて、京楽を見送ると白哉の家に向かう白と夕月。
「じゃあね、夕飯までには帰るよね?」
「ああ、お前も仕事頑張れよ」
「パパ、お仕事頑張ってくださいね!」
「うん!」

白哉の家に着くと夕月が門の前で、
「びゃっくん居るですか〜?」
と大きな声で呼んだ。
すぐさま大きな門が開いて中へ通された。
「これはこれは、京楽様の奥方様にお嬢様。おはようございます。若は縁側に居られますよ」
と清家に案内してもらう。
「若、奥方様とお嬢様が来て下さいました」
「うむ、茶と菓子を」
「は・・・」
と静かに下がる清家。

「びゃっくん!お元気ですか〜?」
と飛びつく夕月。
「うむ、夕月も白も息災であるな」
「そくさい?」
聞きなれない言葉に首を傾げる夕月。
「元気であるという意味だ」
「はい!夕月もママもパパもにぃちゃもねね様も皆元気です!」
白哉の膝の上で家族が元気であると報告する夕月。
「そうか、良い事だ」
「びゃっくんも元気で夕月も嬉しいです!」
「そうか・・・」
なでなでと優しく髪を撫でてやる白哉。
「きゃあ」
「仲良いな、お前ら」
と隣りに座る白が呟いた。
「夕月はびゃっくん好きですよ?ママ」
「お〜お〜、春水が聞いたらうるさそうだな」
「確かにな」
「?パパも好きです。ママもねね様もにぃちゃも、みんなみんな大好きですよ」
「俺も夕月大好きだぞ」
と頬を撫でてやると、
「わあい!」
と嬉しそうに笑う夕月。
「あ!あのねあのねびゃっくん!これ今日パパに貰ったです!可愛いですか?」
と毛皮のマフラーを示す。
「うむ、お主の髪色に良く合っておる。似合うぞ、夕月」
「えへへ〜」
「白の襟巻もそうなのか?」
「ん?ああ、ホワイトデーのお返しだとよ」
うりうりと襟巻の尻尾を弄る白。少し照れている様だ。
「良く似合っている。さすがは夫と言ったところか」
「うっせ、ばーか」
そんな白の様子にふっ、と笑うと、
「私も夕月にチョコを貰っていたな」
パンパン、と手を叩くと従者が何やら桐の箱を持ってきた。
「なんだ?」
恭しく箱を置くと静かに下がる従者。
「夕月」
「なあに?」
「開けてみよ。これはお前の物だ」
「夕月の?わあい!」
ぴょん!と白哉の膝から降りると縁側に置かれた箱の蓋を持ち上げた。
「うわぁ・・・!」
箱の中身を持ち上げる夕月。
「お洋服ですか?真っ白です!かか様のお洋服みたいです!」
「あ?俺洋服なんか持ってたか?」
「パパとお出かけした時に着たって見せてくれたです。ふわふわのなが〜いの!」
「ああ、コートの事か。アレ洋服だったのか」
「着てみるか?」
「はいです!」
嬉しそうにいそいそと袖を通す夕月。白いそのコートは裾や縁にファーが着いているハーフコートだった。
「おお!似合ってんぞ!夕月」
「ママみたいですか?綺麗ですか?可愛いですか?」
興奮気味でその場でくるくる回る夕月。
「うむ、白にも劣らぬぞ」
夕月がくるくる回る度に裾がふわりと膨らんで一層可愛かった。
「おやおや、可愛いですな」
そこへお茶とお菓子を持ってきた清家。
「清家おじいちゃん!これびゃっくんがくれたですよ!」
「左様でございますか。お似合いでございますよ。その襟巻と相まって大変可愛らしゅうございます」
「うきゅう!」
感極まった夕月がその場でぴょんぴょん飛びはね、白哉に飛びついた。
「ありがとうです!びゃっくん!びゃっくん、だ〜いすき!」
白哉の首に抱き付いた夕月を受け止めた白哉が寸の間、瞠目したが次の瞬間には幸せそうに眼を細めて笑っていた。
「さあさ、お菓子を持ってきましたからお食べ下さい」
「おう!」
「はあい!」
白哉の膝に座り直すと出された本日の菓子は春を題材にした和菓子だと言う。
「春・・・」
「はる」
皿の上にあるのは薄緑と薄桃色、水色と萌黄色の干菓子だった。
「・・・春?」
と首を傾げて白哉を見る白。
「はる?」
同じ様に首を傾げる夕月。
「うむ、春だ」
「どこが?」
「その菓子はそれぞれ水辺の春霞と山辺の春霞を表現しております」
と清家が説明する。
「春霞?」
「はい、暖かくなりますと何やら遠くの方がもやもやとしている時がありませんか?」
「あ、あ〜。あるな。ふ〜ん、あれを表してんのか。なるほど」
と摘まんで口に入れる。
「ん、美味い。この前の長生殿だっけ?あれも良いけどこれも美味いな」
と茶を啜る。
夕月も倣って食べる。
「美味しいです、ママ、このお菓子美味しいです」
「ん、美味いな」
「はい!」
ぱたらぱたらと揺れる夕月の尻尾に目を細める白哉と清家が居た。
一頻り話をしてお菓子を食べると、
「お、昼飯の時間だな」
「帰るのか?」
「ああ、ウルと朝月に飯食わせねえとな」
「そうか、ではこの菓子の詰め合わせを持って帰るか?ウルキオラや朝月にも食べさせてやれ」
「良いのか!?サンキュ!白哉」
「にぃちゃもねね様も食べれるですか?」
「うむ、また今度家族で来るが良い」
「おう!白哉んちのお菓子美味いからな!」
とこちらは出ていないはずの尻尾が見える気がするほど喜んでいる。
「そうか、京楽がうるさければ一緒に連れて来ても良いぞ。まぁ勝手に入ってくるだろうがな」
「まあな。じゃまたな!」
「またね!コートありがとです!びゃっくん!」
手土産のお菓子を持たせてもらい家路に着く白と夕月だった。
「楽しいひと時でございましたな」
「そうだな。次はどんな菓子が良いであろうな」
「それを考えるのも楽しゅうございますね」
と穏やかに話す主従がそこに居た。


第2話へ続く



11/03/15作 まだバレンタインの続きもあるのにホワイトデー話。まだ続きますよ。
白は白哉んちにお菓子を食べに行ってる様なもんですね。子供達と遊べるので満更でもない若様です。むしろ餌付け?



きつねのおうちへ戻る