題「小さな初恋・朝月編」
 初めて焼いたフォンダンショコラ。綺麗にラッピングして意中のあの子へ・・・。
「もうそろそろ時間かしら」
当日のバレンタインを迎えた朝月。

お気に入りの青いユリの髪飾りを付け出掛けた朝月。
十一番隊。
「こんにちは〜!十六夜、居る〜?」
「いらっしゃい、朝月!早かったのね」
「そう?十六夜はまだ行ってないの?」
「まだ。お昼休みになったら出掛けるわ。あ、すぐ呼んで来るわね」
「ありがと!」
パタパタと奥に行く十六夜を見送りながら手の中のチョコを見る。
「美味しいって言ってくれるかしら・・・?」
「あーちゃん」
後ろから声を掛けられた。パッ!と振り向くと愛しのあの子が立っていた。

「あれ?十六夜、朝月が来たんじゃなかったの?」
「かか様。うん、来てるわよ」
「いいの?幾望と遊んでて」
「良いの、良いの。あたしに用があるんじゃないから。ほーら幾望、美味しいクッキーあるわよ〜」
「わあい!」
「ふうん・・・?」
首を傾げる一護。

「朔!」
「どうしたの、わざわざこっちに来なくても言ってくれれば僕がそっちに行ったのに」
「ううん!良いの!あたしが来たかったんだもの」
「そう」
「朔、あの、これ」
白い手の中にあるプレゼントを差し出す朝月。
「ぼ、僕、に・・・?」
「うん。受け取って、くれる・・・?」
「もちろん!嬉しいよ!わぁ・・・!開けてもいい?」
「ええ」
金色の細いリボンを解き、ローズピンクの包装を細心の注意を払って丁寧に取ると中から白い箱が現れた。

蓋を取ると、フワリと香るカカオの香り。中には粉砂糖で化粧したフォンダンショコラが入っていた。
「うわあ・・・!すごい綺麗!美味しそう!コレってもしかして手作り・・・?」
「う、うん・・・!は、初めてだから、美味しくない、かも・・・」
「食べても良い?」
「え!うん」
箱から取り出すと、パクリと頬張った。
「ん・・・、中からなんか出て来たよ」
「そう言うお菓子なの」
「ふうん、美味しいね・・・」
「ほ、ほんと!?」
「うん。ふわふわしてて甘くってとっても美味しいよ」
ちゅ、と指に着いたチョコを舐め取り、にっこり笑って言いきる朔。
朝月がその笑顔に見惚れて顔を真っ赤にしている間にパクパクと平らげていった。
「ん・・・、美味しかった〜!ありがとう、あーちゃん。これから何か予定とか、ある?」
「え、無いけど・・・」
「良かったら、なんだけど・・・。僕、今から本屋さんに行くんだけど・・・」
「一緒に行くわ」
さっきの朔の笑顔に負けないくらいの綺麗な笑みを披露する朝月。
「良かった・・・。ちょっと待っててね、用意してくるから!」
手の中のリボン、箱、包装紙を綺麗に畳んで机に仕舞うと財布の入ったバッグを肩から掛け朝月の所へ急いだ。
ゆっくりと歩いて本屋さんへ行く二人。

「上手く行ったみたいね〜。あたしも狛むーの所に行こっと!」
「十六夜出掛けるの?」
「うん、幾望の事よろしくね、かか様」
「行ってらっしゃい」
今年もチョコを貰った狛村隊長は、
「今年も美味いチョコを貰ったな」
「美味しかった?」
「うむ、甘過ぎぬ丁度よい、儂好みの味であったぞ」
「良かった」
幸せな時間を過ごした十六夜だった。

京楽邸。
「にぃちゃ!コレあげるです!」
「これは?」
「チョコレートなのです。今日は好きな人にチョコをあげる日なのです」
「そ、そうなのか・・・。ありがとう、夕月」
「はいです!次はびゃっくんの所に行くですよ〜!」
「!?」
「その後はパパにあげて、このクッキーをおじいちゃんにあげるです」
(要するに・・・、これは義理チョコ、なのか?まぁ夕月が楽しんでいるから良いか)
うんうん、頷くと、
「では一緒に行こうか?」
「はいです!びゃっくんも喜んでくれると嬉しいです!」
「お前からチョコを貰って喜ばん生き物などこの世に居ない。安心しろ」
「にぃちゃも嬉しいですか?」
「ああ、嬉しいぞ」
「わあい!にぃちゃ大好き〜!」
ぴょんぴょん!飛び跳ねて喜ぶ夕月。
「早く行かないと日が暮れてしまうぞ?」
「はあい!」
手を繋ぎ、六番隊の隊首室に向かった二人。

「びゃっくん、居るですか〜!」
ぎぃ・・・、と扉が開くと白哉が立っていた。
「どうした?夕月」
「こんにちはです!今日はチョコを持ってきたですよ」
「ちょこ・・・?まあよい、寒いだろう、中に入るが良い」
「はい!失礼します!」
「失礼します・・・」

応接セットのソファに座らせると、温かいミルクを二人に出してやり、話を聞く。
「して、ちょことは、何の話だ?」
ふう、ふう、とミルクを冷まして飲んでいた夕月が、
「今日はバレンタインなのです。好きな人にはチョコをあげる日なのです。だからです」
「???」
見かねた恋次が補足説明をした。
「あ〜、ほら!乱菊さん達がはしゃいでたでしょ!現世の祭りで女が好きな男にチョコって菓子をやって思いを伝えるって!それっすよ!お世話になってる人とかにもあげるとかで」
「なるほどな・・・。そう言えばルキアも何やら台所を甘い匂いでいっぱいにさせていたな」
んくんく、とミルクを飲んでいる夕月の口の周りに着いたミルクの泡を拭ってやるウルキオラ。
「む、む、パパにもあげるですよ!びゃっくんにはにがいチョコが良いって乱菊さんが言ってたです。はい!」
と小さな手に乗っているチョコの包みを、細く綺麗な指が恭しく受け取った。
「有り難く頂こう。開けても良いか?」
「はいです!れんれんにはこっちのクッキーです」
「おお!サンキュー!」
「手作りなのですよ、そのクッキーはねね様が作ったです」
「へえ!女の子らしくなったんだなぁ。この間まで赤ん坊だったのに・・・」
二人が包みを開け、それぞれを口に運ぶ。
「お!うめえ!」
「ほう・・・!甘いかと思ったが程良い苦みがあるのだな・・・。美味であるぞ、夕月」
滅多に見れない微笑みを浮かべ感想を言う白哉。
「えへへ、良かったです。次はおじいちゃんの所に行ってくるです」
「ん?もう行くのか・・・。また白と屋敷の方にでも来ると良い。美味い菓子が手に入ったのでな」
「はいです!ミルクごちそうさまでした!またね!びゃっくん!れんれん!」
「おお。気ぃ付けて行けよ〜」
「暗くなる前には家に帰るのだぞ」
「はあい!」
「では失礼します」
ぶんぶん手を振りながら出て行く夕月を見送る白哉と恋次だった。

一番隊。
「おじいちゃん、居るですか〜!」
「おお、おお、どうしたんじゃ、夕月。久しいのぉ」
相好を崩して迎える総隊長。
「バレンタインなので、チョコを持ってきました。はいです!」
「ほお、儂にか?嬉しいのぉ。遊んで行くかの?」
「いえ、もう昼寝の時間ですので、申し訳ありませんが・・・」
「残念じゃのぉ。寝る子は育つと言うからの、良く寝るのは良い事じゃて。ではまたの、気を付けて帰るんじゃぞ」
「はいです!またね、おじいちゃん」
少し目をしょぼしょぼさせて手を振って帰る夕月とウルキオラ。

「疲れたか?」
元気なく垂れている夕月の尻尾を見て聞いた。
「んん・・・、しゅこし・・・」
ふ・・・、と息を吐くと、
「ほら・・・」
夕月の前にしゃがんだ。
「にぃちゃ・・・?」
「おぶされ」
「うん・・・」
ぽすん!とおぶさると、くぁ・・・、と小さな欠伸をした夕月。
そんな二人を微笑ましく見ている他の死神達。
「くぅ・・・、くぅ・・・」
背中の夕月が少し重くなって寝たのだと分かった。
家に着くと白が、
「なんだ、寝ちまったのか」
「今日は一番隊まで歩きましたから、疲れたんでしょう」
「そうか。お疲れさん、ウル。ほい」
「?」
「クッキーだよ。昨日俺が作ったんだ。晩飯までまだ時間あるから食っとけ」
「は、はい!」
そのクッキーと夕月に貰ったチョコをおやつに食べたウル。

夕方。
「たっだいま〜!」
と御機嫌な朝月が帰ってきた。
「なんだ、遅かったな?」
「うん、本屋さんで新刊選んでたらね〜。とと様は?」
「まだだよ。俺は部屋に帰ってるから」
「はあい!夕飯は一緒に食べるんでしょ?」
「・・・ああ」
「了〜解!」
にこにこと嬉しそうにお菓子作りの本を見ている朝月だった。
「次は、何を作ろうかしら・・・」
ぺらぺらとページを捲っては嬉しそうに笑っていた。








11/02/10作 第160作目です。 はい、朝月の想い人は朔でしたvv 
優しくてホントは頼りになる朔に気付いたら好きになってました。告白は意外?にも朔から。
お返事は「はい、喜んで!」
ひっそりとお付き合いをしているので知っているのは十六夜だけ。なんとなく見抜いてる白。



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