題「青陽、初めてのおつかい」
 一護が現世で買ったビデオカメラの調子を見ている。
「ふん、電池も満タンだ!おい、虎白!出て来てくれ」
「んだよ・・・ふわぁあ〜」
「なんだ、寝てたのか?あのよ、頼みがあんだよ」
「頼みぃ〜?」
 ぼりぼりと後頭部を掻きながら話を聞く虎白。
「ああ、明日青陽が初めてのお使いに行くんだけどな、その様子をこのビデオに撮って欲しいんだよ」
「はん?」
「録画ボタンはココな。はい!」
「青陽は知ってる・・訳ねえか」
「ああ、だから隠れて行ってくれ」
「簡単に言ってくれるな」
「お兄ちゃんなんだろ?弟のためだ!」
「へーいへいへい」
 録画ボタンの位置を確かめながら返事する虎白だった。

 翌日、わかめ大使のリュックを背負った青陽に一護が、
「いつもお母さんと行くお菓子屋さん解るか?」
 と確認する。
「うん!」
 興奮気味に頬を赤くして答える青陽。
「そこでお母さんとお父さんとお兄ちゃんお姉ちゃんが食べるお菓子を買ってきて欲しいんだ。勿論お前の分も買って良いぞ」
「うん!」
「青陽ももう3歳だもんな?一人でおつかい出来るよな?」
「できる!」
「よし!寄り道すんなよ?いってらっしゃい!」
「早く帰ってこいよ」
 と玄関に凭れた剣八も見送る。
「うん!いってきます!」
 初めてのおつかいに張り切って出掛ける青陽。
「大丈夫かね?」
「平気だろ。ほら」
「うん?」
 一護が示す場所には虎白ともう一人、風死が『こそこそ』と言う文字が見えそうなほど隠れて青陽を見ていた。
「あいつら・・・」
「ちなみに虎白にビデオ撮ってもらってから。後で風死もお茶に誘うか」
 青陽が進んで行くと二人も後を追って行った。
「ヒマなのか、あいつら?」
「青陽が可愛いんだよ。ほら、お茶の用意するから、家に入れよ」
「おう」

 道行く青陽を見つけた仲の良い死神が話しかけてきた。
恋次と白哉が道を歩く青陽に声を掛けた。
「おう!青陽じゃねえか!どこ行くんだ?」
「おつかい!お母さんとお父さんとお兄ちゃんとお姉ちゃんとぼくのお菓子買いに行くの!」
「へえ!すげえじゃん!エライなぁ、青陽!」
「えへへ!」
「む?そのリュックは?」
「あのね、これお母さんが作ってくれたの!」
「ほお・・・」
 それはワカメ大使のぬいぐるみに巾着状の袋に肩のベルトが縫い付けられているリュックだった。
「一護のヤツ器用っすね」
「そうだな。青陽気を付けるのだぞ」
「うん!じゃあね!びゃっくん!れんじ!」
 二人と別れた青陽の後を追う虎白達に声を掛ける恋次。
「何やってんだ、おまえら」
「一護に頼まれた仕事だ」
 ジーとビデオを回す虎白。邪魔するなと言わんばかりだ。
「オイ虎白、行っちまうぞ!」
「おお」
 青陽には気付かれない様に追いかける。
「ヒマな奴ら・・・」
「・・・」
 どことなく付いて行きそうな白哉。

 行く先々で声を掛けられ同じ質問と同じ答えを返す青陽。
「頑張って!」
「えらいぞ」
 と褒められながら店に着いた。
「こんにちは!お菓子ください!」
 中から店の女将が出てきた。
「はいはい、あらまぁ可愛いこと。なんのお菓子ですか?」
「えっとね?お母さんとお父さんとお兄ちゃんとお姉ちゃんと青陽のお菓子なの」
「おつかいなのね、偉いわねぇ坊や」
「坊やじゃないの青陽なの」
「青陽くん、お母さんから何か預かってないのかしら?」
「んっとんっと・・・」
 背中のリュックを外すと中を探す。必死で中を探す青陽の子供特有のふっくらした頬や可愛い口元を見て優しい気持ちになる女将。
「ん?」
 暖簾の影から中を覗いている二人に気付いた女将。ビデオを撮っているのを見て家族だな、と理解した。
「あった!これに書いてる!」
「じゃあおばちゃんに見せてくれるかしら?」
「うん!」
 メモに書かれた和菓子を用意していき、
「青陽君のお菓子は?どれにするのかな?」
「えっと!えっと!え〜と・・・あ!」
 青陽の目に入ったお菓子。
「これ!これください!」
「はいはい」
 そのお菓子を袋に入れてもらうと満面の笑顔を披露した青陽。
会計を終え、財布とお菓子をリュックに入れてもらう。
「少し重いから気を付けて帰ってね?」
「うん!ありがとう!」
 店を出る青陽に見つからないように場所を移動する二人。
『無事に買い物終わったな』
『ああ。後はちゃんと家に帰るかどうかだな』

 帰り道でも死神に話しかけられ、褒められる青陽。
十一番隊隊舎が見えて来て安心する虎白と風死。
『どうやら無事に帰って来たようです。・・・ってうわぁっ!』
 いきなり背後で叫ばれ驚いた虎白が後ろを振り返る。
『うっせえなあ、って白哉!なんでここに居んだよ!』
 其処には背後霊よろしく白哉が混ざっていた。
『気にするな』
『いや、気にするなって、あんた・・・隊長がなにやってんだよ』
 風死も呆れていると、
『あー!見つけましたよ隊長!急に霊圧消して居なくなったと思ったら!やっぱ青陽の後追っかけてたんスね!』
 帰りますよ!と恋次が大慌てで回収していった。
『なんだったんだ、あいつは・・・』
『白哉も青陽が可愛いんだろ。端午のお飾りやら買ってやったみてえだし』
『へえ、意外だな』
 そんな話をしているうちに青陽が家に着いた。

「ただいま!お母さん!おつかいできたよ!」
「お帰り青陽!えらいなぁ!ちゃんと出来たんだな!」
 わしゃわしゃと頭を撫でて褒めてやる一護。
「おう、帰ったか。ちゃんと買えたのか?」
「うん!お父さんのお菓子もちゃんと買ったよ!」
 リュックを下ろして中身を見せようとする青陽に、
「青陽、先に手洗いうがいな。その後見せてくれ」
 と一護が言った。
「あ、うん!」
 剣八がリュックを持って居間に行く。一護は青陽の手洗いうがいを手伝ってやる。その間に虎白がビデオを剣八に渡し、何食わぬ顔で座っている。
とたとた走って居間に青陽が入ると虎白と風死の姿を見つけ、
「虎白兄ちゃん!風死兄ちゃん!来てたの!あのね!あのね!今日ね、おつかいしたの!」
「青陽がか?ちゃんと買えたのか?」
「うん!お兄ちゃんのお菓子も買ったの!風死兄ちゃんのもあるよ!僕とおそろい!」
「へえ!嬉しいね」
 んしょんしょとリュックの中からお菓子を出していく。
「これがお母さん達の!これが僕の!」
 青陽が誇らしげに取り出したのは『ワカメ大使人形焼き』だった。
「コレね、あんことクリームなの!風死兄ちゃんどっちがいい?」
 キラキラと輝く目で訊いてくる青陽に周りは突っ込めない。
「あ〜、青陽先に選べよ。お前が買ったんだしよ」
「ん〜・・・、じゃあ半分こ!そしたら二つ食べられるでしょ!」
「ああ、そうだな。ありがとな」
 この後一護が用意したお茶でお菓子を食べた。

 やちるが帰って来た時、
「えー!ずるい!あたしも皆とお茶したかった〜!」
 と羨ましがっていた。
おつかいで疲れた青陽はぐっすりと眠っている。
「ふふ、ちゃんと成長してるんだよな」
「そうだな」
 と青陽の部屋の障子を閉じ、寝室へと帰る剣八と一護。
「あ〜あ、なんかすぐに離れそうでやだなぁ」
「なんだ?もう一人作るか?」
 と一護を押し倒す剣八。
「うわぁ!バッカ!もう十分だよ。やちるに青陽に虎白が居んだぜ?充分さ」
「そんなもんか?」
「お前も居るし?」
 両手を剣八の首に絡ませる一護。
「上等だ。可愛がってやんよ」
 夫婦の夜が更けて行く。






11/10/06作 青陽、初めてのお使いでした!後日、ビデオを見た一護は爆笑してるんでしょうね。
「何やってんだこいつら〜!」って(笑)
妖さんの小ネタもあるんですけどね。載っけても良いんじゃないって方が居たら載せます。まず妖さんがOK下さったらの話ですけどね。



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