題「まらうど来たりて・・・」
 ふと、温かい何かが俺に触れている感触で意識が浮上した。
なんだ?この温かいモノは?俺が知っているのは無機質なビル群と冷たい雨だ・・・。こんな温かな物は知らない。

俺は知らない・・・。

 目を開いてみると、そこには赤ん坊が寝ていた。俺の指を握りながら・・・。
(なるほど・・・、コレのせいか)
 と納得しながら赤ん坊を見る。
黒崎一護と死神との子供。顔は相棒とそっくりな黒髪の赤ん坊。時折腕を動かし、顔を擦ったりしてムニャムニャ言っている。

 パチッ!と音がしそうな勢いで赤ん坊が目を覚ました。クリクリとした大きな目で周りを見て、俺を見つける。
「う、お・・・」
「・・あ〜?・・・かぁ?うう?」
 きゅう、と指を強く握って来た。
少し驚いて俺は自分の指を引き抜こうと動かした。それがくすぐったかったのか、
「う?きゃ、きゃあ!」
 と無邪気に笑いやがった。
「離せよ・・・」
 ともう一度指を抜こうとした。
なんだって赤ん坊ってのはこうも柔らかいんだ?すぐに壊れちまいそうじゃねえか。そのくせ力が強い。指が痺れてやがる。
「青陽〜!起きたか〜?ミルクだぞ〜」
 と間抜けな声で部屋に入ってきた一護は、その光景に一瞬息を飲んだ。
「お前・・・」
「よう。御無沙汰だな?王よ」
「なんで、ここに?」
 そう聞かれて俺は赤ん坊を見てから、
「さあ?」
 と答えた。
「さあ、って」
「気付いたら此処に居た。お前のガキが俺の指掴んで離さねえから逃げられねえしよ・・・」
 青陽の手と一緒に指を動かした。
「きゃう!あ〜、ま〜!かぁ〜!」
「え?あ!青陽、指離せ」
「やあ〜!」
「や〜、じゃないの!ミルク飲めないだろ?ほら、離せ」
「や!うやぁ〜ッ!ああ〜ッ!やあ〜ッ!」
「うるせ・・・」
「何がそんなに気に入ったんだ?」
「俺が知るかよ、大方顔が似てるからだろ?」
「そんなもんかな?」
 漸く青陽から白い指を引き剥がすと大泣きする青陽をあやす一護。
「はいはい、良い子だから泣き止もうな〜?はい、ミルク」
「うぶ!えぶ!うっ!あぶぅ・・・んく」
 んくんくと泣き止んでミルクを飲んでいく青陽。
「で、いつまでこっちに居るんだ?お前」
「あ?」
「暫く居るんなら部屋あるぞ。お前が青陽見ててくれるなら俺も家の仕事に専念出来るし?」
「警戒しねえのか?」
「何を?お前が青陽に何かするのか?さっきまで何もしなかったのに?」
「は!これからどうなるか分かんねえぜ?」
「・・・」
 一護は黙ってミルクを飲み終えた青陽にげっぷをさせる。
「んっぷ!」
「はい、おむつも変えようなぁ〜。ほら、見とけよ。次はお前がやるんだから」
「んな!ふざけんな!」
「あ、うんこしてる」
「げっ!」
「いっぱいしたな〜。綺麗にしような、キレイキレイ〜」
「あう〜」
「ちょ、おま!臭くねえのかよ!」
 縁側まで飛んで逃げた白い一護が叫んでいる。
「そりゃあな。もう慣れたよ」
 テキパキと新しいおむつに変えてやる一護。
「信じらんねぇ・・・」
「自分の腹痛めて産んだ子だぜ?なぁ?」
 新しいおむつに変えて貰ってご機嫌な青陽に話し掛ける一護が思い付いたかの様に言った。
「青陽がお前を怖がらない理由分かったわ。腹ん中に居る時に何か感じてたんだと思う」
「はあ?!」
「だぁーからぁ〜。お前は俺の内なる虚だろ?で、青陽は俺の腹ん中で育った。そん時に何か感じたんじゃねえの?お前の事」
「それだけかよ」
「ああ。身近に感じたんなら怖がらねえだろ。なぁ?青陽。お兄ちゃんが来てくれて嬉しいか?」
「あう〜!きゃっ!あっ!きゃ〜!」
「だってよ」
「ちっ!」
「お前の事これからなんて呼ぼうかな・・・。白いしな。俺は黒崎だし・・・」
「おい、まさか・・・」
「よし!これからお前の事は白崎と呼ぼう!名前は後で考えるとして名字はそれで良いだろ!うん!」
 我ながら良いコト言った!みたいな顔で頷いている。
「ふっざけんな!俺は帰るからな!」
「帰り方知ってんだ。じゃあいつでもこっち来れるよな〜」
「あ!あ!あぶぅ〜」
 未だに障子の向こうに居る白崎に小さな手をめいっぱい伸ばす青陽。まるで紅葉の様な手の平・・・。
「別にそんなに構えなくても良いじゃねえか。俺はお前が誰かを傷つけたりしなきゃ良いよ」
 そんな話をしていると剣八が帰って来た。

「帰ったぞ一護。・・・そいつ誰だ?」
「お帰り。やちるは?ん〜、俺の力の一部で内なる虚だよ」
「泊まりに出てる。なんでここに居る?」
「乱菊さんとこか?青陽に呼ばれて来たみたいだぜ?」
「ああ。青陽に?」
「ああ。お兄ちゃんに遊んで欲しかったみたいだな」
「兄貴だ?」
 器用に会話を交わす一護と剣八。だが訝しげに問い掛ける剣八。
「ああ、コイツは俺の内なる虚だからなぁ。お腹に居る時から『存在』を感じてたんじゃねえかな?」
 そうなると斬月のおっさんはお祖父ちゃんになるのか?と自分で言って首を傾げている。
「ふ〜ん、どっちにしろ青陽に害が無いならどうでも良いがな」
 大きな手であやしてやる。
「とぉ!とぉ!」
 嬉しそうにじゃれる青陽。
「早く着替えて来いよ。すぐ晩御飯にするから」
「おう」
 剣八が部屋から出て行き、一護が声を掛ける。
「飯の用意するから青陽見ててくれ。お前も食ってけよ?」
「だから!・・・!」
「あう〜?」
 白い袴をキュッと握ってくる小さな手。今にも泣きそうな顔。それを見て、
「見てるだけだからな・・・!」
 降参したその姿を見て一護も少し急いで台所へ消えた。

「くそッ・・・!」
「う、う〜」
 じゃれようと両手を伸ばしている青陽。そこへ、
「なんだ、結局居るんじゃねえか」
 着替え終わった剣八がやってきた。
「うっせえよ、はげ」
「ふん・・・。おら青陽、こっち来い」
「あう〜!」
 大きな手で青陽を抱き上げてやる。
「ちっとは重くなったか?」
「あ〜!あ、あ、うう〜?」
 ペチペチと剣八の頬を小さな手で触る青陽。
「飯出来たぞ〜!」
 と一護が声を掛けて来たので居間へ行くために剣八が立ち上がった。
「テメェも食うんだろ。付いて来いよ」
「ちっ!」

 居間に着くと3人分の食事と青陽の離乳食が並べられていた。
「はい、青陽はこっち〜!お母さんと食べような」
「あう!」
 4人で食事を始める。
「・・・食わねえのか?」
「冷めると美味くねえだろうが、さっさと食えよ」
「・・・・・・」
 無言で箸を付ける。
一護は青陽に食べさせながら自分も食べる。
「あむ、ん、ん〜」
「お前コレ好きだよな〜」
 と離乳食のかやくご飯をぺろりと平らげる青陽。
「もうすぐ俺らと同じモン食えるのか?」
「うん、卯ノ花さんも言ってた。そしたら美味しいモンいっぱい作ってやるからな?青陽」
「うう〜?」
 そんな家族の様子を見ていると一護が、
「ああそうだ。お前の名前、考えないとな〜」
「名前?」
「うん、こいつ俺の内なる虚だろ。名前ねえんだ」
「ふう〜ん」
 ずず・・・、とお茶を啜る剣八。
「どんなのが良いかな〜。剣八も考えろよ」
「あ〜。こいつはどんなのが良いんだよ?」
「さあ?どんなのが良いんだ?」
「知るか」
 プイッとそっぽ向いた。
「王が付けるって言ったんだ。責任持って付けろよ?」
「む!言ったな!」
 ムキになってウンウン考える一護。
「白、は?」
「安直だな」
 フン、と鼻で笑われた。
「む〜!剣八は?」
「あ?コハクは?」
「コハク?ってあの琥珀か?」
「そうだって言やぁそうだけどな。字で書くとこうだ」
 さらさらと紙に書いていく。

「虎白」

「これでコハクだ」
「なんでコレな訳?」
「こいつはお前の事、王って呼んでんだろ?じゃあ、こいつは王じゃねえ訳だ」
「ん?うん」
「琥珀から王の字を取ったら虎白になるし、こいつも白いだろ。それに、琥珀はお前の目の色だ」
 良いだろ?と自信満々な顔で言っている剣八。
「虎白・・・。良いな。良し!これに決まり!お前は今から白崎虎白だ!」
「好きにしろよ・・・」
「うぅ〜?こ・・にぃ?」
「青陽もこれが良いってさ!」
「アホらし・・・。もう帰るぜ・・・!」
「また来いよ。青陽が泣くぜ〜?」
 後ろを見れば、ニコニコと笑う青陽が手を伸ばしていた。
「・・・たまにならな・・・!」
 それだけ言うと、ふわりと消えた。
「素直じゃねえの・・・」
「お前に良く似てんじゃねえか」
「そうかぁ〜?」
「にぃ〜?」
 何が起きたのか分かっていない青陽に、
「お兄ちゃんはまた今度遊びに来てくれるってさ。今度はおじちゃんも来てくれるかもな」
 良かったな?と話し掛けてやれば、嬉しそうに笑う青陽だった。

 虎白がやって来るのは割と近い日だったりする・・・。






11/05/28作 白崎さんの登場です。彼はこれから頻繁に呼び出されると思います。主にこの夫婦のデートの為とかにね!
文句言いながらも青陽には絆されてる虎白さん。
斬月さん、子供も居ないのに一気におじいちゃんですか^^
まらうどは漢字で書くと客人です。他にまろうど、まれびと、とも言うそうです。



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