題「端午の節句」 | |
四月の花見も終わった4月下旬。青陽の為に剣八が押し入れの中から節句の飾りを出していた。 「な〜に朝からガタゴトやらかしてんのかと思えば・・・言えば俺も手伝うのに」 青陽を抱きながら居間に入ってきた一護が声を掛けた。 のそっと押し入れから顔を出した剣八が、 「うるせぇ、お前は青陽と買い物にでも行ってろ」 「はいはい。頑張れよ?お父さん」 「あ〜?うぅ〜」 「良かったな、青陽。お父さんお前の為に頑張ってお飾り出してくれてるぞ〜!買い物から帰ったら鯉のぼりさんも出すんだぞ〜?」 と話掛けてやれば、まだ分からないにしても嬉しそうに笑う青陽。 「きゃあ!きゃ!きゃ!とぉ〜!」 「おう。楽しみしてろ。早く買い物行って来い」 「は〜い。さ、青陽、お母さんと一緒にお買い物に行こうなぁ〜」 「あ〜う!」 青陽をベビーカーに乗せ、買い物に行く一護。 出先で乱菊達に会った。 「あ〜ら!一護と青陽じゃないの!お買い物?」 「あ、はい。色々と」 「そ!もうすぐ5月ねぇ、子供の日はどうすんの?」 「あ、今剣八が色々準備してますよ」 「良いお父さんねぇ〜。ふふ、去年のこと思い出すわね〜」 「そうですね・・・」 去年の青陽の初節句の事を思い出す一護。 「ねぇ一護、一緒に甘味処に行かない?去年の事色々思い出しちゃったわ」 「あ、俺もですよ」 といつも行く甘味所に入る一護達。 各々甘味を注文し運ばれてくると乱菊が、 「そう言えばこの前のお花見って青陽のお食い初めの延長だったんですってね?」 「あ〜、聞きました?そうなんですよ。現世で剣八と一緒に実家に行った後、こっちで山本のじいさんとか白哉がやりたいって言いだして・・・」 「朽木隊長が・・・。総隊長は分かる気がしますが・・・」 「よねぇ」 「アイツ結構子供好きみたいですよ。よく青陽にオモチャとかくれるんですよ、な!青陽」 「あぅー!」 と握り締めているのはワカメ大使のぬいぐるみだ。お気に入りなのか、涎でベトベトだ。 「初節句の時も山本のじいさんと一緒になって、やれ鯉のぼりを買おう、鎧兜もだって言ってさ」 「すごかったわよね」 「ふふ!今思い出してもね」 と青陽の柔らかい髪を撫でてやる。 「あ〜!」 「そうね」 2度目の青陽のお食い初めを一番隊隊舎で終えると総隊長が、青陽を撫でながら質問した。 「次は初節句じゃのぉ。更木よ、もう用意はしたのかの?」 「あ?まだ四月じゃねえかよ」 まだ早いんじゃねえのかと剣八が言えば、大きな声で怒鳴る総隊長。 「馬鹿者!節句などの飾りは最低でも2週間前には用意するもんじゃ!一夜飾りなど以っての外!」 「そうなのか?」 と一護を見やる。総隊長の声で泣きだした青陽をあやす一護が、 「そう言えば、早めに出してたな」 と記憶を溯る一護。 「じゃあ今日買いに行けば良いじゃねえか。丁度良いだろ」 「そうだな!すぐに行こうぜ」 と3人でその場を離れようとすると、 「その必要は無い」 と引き止められた。 「あ?」 「はい?」 訝しげに振り向く剣八と一護。 「儂と朽木双方でもう用意しておる」 パンパン!と手を叩くと奥から何やら大きな荷物が運び込まれた。 「な、なんすか?これ・・・」 と一護が聞けば総隊長が鷹揚に、 「開けてみなさい」 と促した。 剣八と一護が大きな桐の箱を開けていくと・・・。 「う、わあ・・・!」 「なんじゃこりゃあ」 中身は大きな鯉のぼりと絢爛豪華な鎧兜だった。 「青陽の初節句の贈り物じゃ。受け取ってくれんか?」 「そんな!だって!こんな豪華な物・・!」 恐縮してしまう一護。 「本来ならばお主らの両親が揃えるべき所・・・。じゃが更木には居らんからの。代わりと言っては何じゃが儂と朽木から贈る事にしたんじゃよ」 「っけ!余計なことだぜ、じいさん」 と言いつつも言葉に棘は無い。 有り難く受け取ると一護が、 「五月五日。来てくださいね」 と嬉しそうに二人に言った。 そして五月五日の青陽の初節句。 剣八と一角達が庭に大きな鯉のぼりを飾り、居間では一護と弓親が鎧兜や太刀と弓矢を飾っていた。 「ふうっ!これで一段落だね。お料理とかは大丈夫なのかい?」 「あ、うん。昨日から色々準備してたから。それと出前の寿司な」 綺麗に飾られた床の間の鎧兜。青陽抱き上げ話しかける一護。 「これは青陽の為のお飾りなんだぞ。良かったなぁ?」 「あ?あ〜?」 「おい一護!青陽連れてこっち来い!」 と庭から剣八が呼んだ。 「おう」 青陽を抱き、庭に出ると上を見ろを言われた。 「う・・わぁ!」 「あ〜!」 そこには初夏の風を受け、雄大に空を泳ぐ鯉のぼりがあった。 「すげぇ・・・」 「あ〜!あ〜!」 大きな魚が泳ぐ姿が面白いのか小さな手を空に伸ばし、はしゃぐ青陽。 「カッコイイだろう?あの一番大きいのがお父さん鯉で、次の緋鯉がお母さん鯉、一番小さいのが子供の鯉なんだぞ」 「お〜、お!お!」 「そう、お父さん鯉な。お前のお父さんみたいに大きいなぁ」 「あ〜!」 その後に、総隊長と白哉が訪ねて来て、眩しそうに空を見上げていた。 次々に客が来てはお祝いの言葉を言ってくれた。 そのうち、一角や恋次、乱菊等が酔い始め、いつもの様な宴会となったのだ。 「楽しかったわよね〜」 と乱菊が懐かしそうに言った。 「今年もちゃんとしますから、来てくださいね」 「もちろんよ!」 もうそろそろ夕飯の支度をしなければと言えばそこで解散となった。 「楽しかったな、青陽」 「うぅ〜?」 カラコロとベビーカーを押しながら家に帰る一護。 家の近くに付くと道行く死神が空を眺めていた。皆一様に穏やかな顔で眩しそうに目を細めている。 一護も上を見ると去年と同じ様に泳ぐ鯉のぼりがあった。 「なるほど・・・」 家に帰ればきちんと飾られた鎧兜が床の間に鎮座していた。 「ただいま」 「おう、帰ったか。早く飯作れよ」 「ああ、剣八も御苦労さん」 「ああ」 初夏の風に身を任せ悠然と泳ぐ鯉のぼり。今年も騒がしくなりそうだ。 終 11/04/26作 青陽の初節句のお話でした。難しかった。 やちるは柏餅を頬張って御満悦。菖蒲湯には入った模様。 |
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