題「成長」 | |
青陽が生まれて一年近く経った。 一護はミルクをあげたり、離乳食を食べさせたりと忙しくしている。 「あ、もう買い置きも無かったか〜」 と戸棚の中にあった青陽の離乳食が切れているのに気付いた一護。 「ん〜、他にも欲しいモンあるしな。なぁ剣八、今日非番だろ?」 「あん?何か用か」 「うん、あのさ青陽の離乳食切れたから現世に買いに行こうと思うんだけど・・・」 「一緒に来いってか?」 「うん、他にも欲しいヤツがあってさ」 「欲しいモン?」 「ん・・・、ベビーカー」 「べびーかー?なんだそりゃ」 「分かりやすく言うと乳母車だよ。まだ青陽歩けないし、買い物に行く時にあると楽だと思うんだ」 「ああ、なるほどな」 「買っても良い?」 「ああ。さっさと行くぞ」 と義骸に着替え現世に降りる。 現世に着いてから一護は、 「あ、山本のじいさんに何にも言ってねえな」 と思い出した。 「買い物だけだ、構やしねえよ」 「そっか。そうだよな!」 と青陽を抱き直すと近場のデパートに入っていった。 「ここでベビーカー買ってから、青陽のご飯買おうぜ」 一応出てくる前にミルクもあげ、おむつも替えたので最小限の荷物だけ持ってきている一護。 デパートのベビー用品売り場に来た3人。 「どれが良いかな〜?」 「好きなやつ買えよ」 「何色が良いかな?青陽はどれが良い?」 「あ〜?あ〜、きゃっきゃっ!」 「ん〜!可愛いなぁ!青陽は!」 「おい、早く決めろよ」 「あ、うん。丈夫なのが良いよな〜」 と色々見て回り、軽くて折りたたんで運べる丈夫な物を選んだ。 「色はブラウンで良いよな」 「ああ、良いんじゃねえか」 と決めたそれを会計してもらう。 「あ、すぐ使うんで、そのままで」 と言うとすぐ使える様にしてくれた。 「ほら青陽、これに乗ってお買い物だぞ」 「あう〜?」 青陽を乗せ、寒くない様に毛布を掛けると食料品売り場へ行く。 幸い泣きもせず買い物を続けられる一護と剣八。 「さてと、どんぐらい買おうかな〜」 と離乳食の入った瓶やパックを見比べる。 「野菜と〜、魚と〜、肉と〜」 とポイポイ買い物カゴに入れていく。 「あ、あとお菓子も!もう歯が生えてるからこれぐらいは食えるんだよな」 と赤ちゃん用のおせんべいとボーロを買った。 「どんだけ買うんだよ、お前」 「ん?作るのが難しいヤツはここで買おうかと思ってよ。青陽良く食べるから」 「そうか?」 「普通の3倍は食ってるぞ、コイツ」 ぷにぷにと青陽のホッペをつつく一護。 「きゃあぅ!きゃぁ!」 「んで、他は?」 「何か買ってくか?酒とか、あ!じいさんになんか買ってこう」 「あん?なんでだよ?」 「だって、絶対怒ってるって!無断でこっちに来てんだし」 「あ〜。別に良いんじゃねえの?ほっとけよ」 「だめ!なにが良いかな〜?和菓子とかなら向こうのが良いの知ってるだろうしな〜」 「酒にしとけよ。こっちの酒なら良いんじゃねえのか?」 と剣八が提案した。 「酒かぁ〜。そうだな、地階に酒売り場があったな。試飲もさせてくれるし、剣八選んでくれよ」 「ああ」 と会計を済ませ、地階へ行く。 「へえ、結構揃ってんじゃねえか」 「そうだな。あ、試飲してるぞ」 と売り子の所に行き、色々飲ませてもらう。 「ふん、これとこれ、それにこれ。樽でもらう」 「出来るか!ああ、すいません。え〜と1ダースずつもらえますか?」 「あ、はい!」 と計3ダースの酒を買って帰る。 「お送りしましょうか?」 「あ、いいです。剣八」 「あぁ」 ひょい!と担ぐ剣八に驚いている。 「そのうち一本はじいさんのだからな?」 「わあってんよ」 もうそろそろ青陽がお腹を空かせる時間なので急いで帰る。 尸魂界。 「あ!隊長!どこ行ってたんスか!総隊長がカンカンっすよ!」 と帰るなり一角に呼びとめられた。 「ああ、現世に行ってただけだ。騒ぐな」 「現世って!勝手にですか!」 「ワリィな、一角。青陽の離乳食の買い置きが無くなったんだ」 と一護が説明する。 「ああ、そうなのか。一護、青陽が乗ってるそれってなんだ?」 とベビーカーを指差す。 「現世の乳母車だよ。こっちで買い物する時とか便利そうだろ?」 「ふうん」 「うあああん!」 「ああ、ゴメンな、お腹空いたな、青陽」 「後で一番隊に来いって言ってましたよ、総隊長」 「あ〜、分かったよ」 家に入ると荷物を置き、手洗いうがいを済ませてから青陽のご飯を用意する。 剣八が青陽を赤ちゃん用の椅子に座らせていると、やちるや乱菊達が集まって来た。 「あ!剣ちゃんおかえり!」 「お邪魔します、更木隊長」 「ああ、なんか用か」 「いいえ、青陽君と遊びに来たんですよ」 「ふうん」 「あ〜、う〜、あ?」 「可愛い〜〜!」 「剣ちゃん、青ちゃんご飯なの?」 「ああ、一護が用意してる」 そこへ一護が戻ってきた。 「あれ、なんか声がしてると思ったら来てたんですね」 「来たわよ。ね、一護。ご飯あげるのあたしやってみても良いかしら?」 「え?別に良いですけど」 椅子に着いているミニテーブルにプラスチックのお皿に盛られた離乳食とお茶などを乗せると乱菊がスプーンで掬って青陽の口元に持って行く。 「はい、青陽。あ〜ん!」 「・・・・・・」 「あら、口開けてくれないわね。お腹空いてないのかしら?」 「さっきまで泣いてたから空いてると思いますよ」 「変ねぇ」 ともう一度持って行くが口を開かない青陽。 「青陽、ほら」 と口に付けると、 「やッ!やぁ〜!」 とぐずりだした。 「貸せ」 と剣八がスプーンを受け取ると口に突っ込む。 「む!むんむん」 と大人しく食べる青陽。飲み込むと次を貰う為に口を開ける。 「ほれ」 「ん!」 「あらぁ、やっぱりパパの方が良いのね〜。悔しいわ」 「剣八、野菜も食べさせて」 「ああ」 人参を食べさせると、少し嫌がる。 「む〜」 「こいつ嫌がってんぞ」 「好き嫌いさせるなよ。ほぉら青陽、お芋だぞ」 と一護も食べさせる。 「あむ!」 「はい、お茶」 「ん、ん、っぷ!」 「はいこれでお終いな〜。一杯食べたな〜。綺麗に食べて良い子だぞ、青陽」 よだれ掛けで涎を拭いてやり、良い子良い子と褒めてやる。 「きゃ!きゃあ!」 「じゃ、一番隊に行くか」 「面倒くせえな、おい」 「素直に怒られようぜ。またベビーカーに乗れるぞ、青陽」 「きゃう!きゃ!あ〜!」 お詫びの酒を持って一番隊に3人で行く。 一番隊に行くまで、珍しい乗り物に乗っている青陽は注目の的だった。行きかう人が皆見ていた。 一番隊。 「入るがよい」 「失礼しま〜す」 「なんじゃ、一護も来たのか」 「うん、今回は俺も責任あると思うし・・・」 と経緯を説明する一護。その間中、おもちゃで遊んだり、剣八の羽織を掴んで遊んだりしている青陽。 「で、勝手に出ていったお詫びと言ってはなんだけど、これ・・・」 とベビーカーの後ろから何かを取り出した一護。 「なんじゃ?酒か?」 「現世で買ったんだ。口に合うと良いけど・・・」 「ま、まあしょうがないわい。で、青陽が乗っておるのがべびーかーと言う物かの?」 「うん。出掛けるのに便利良いと思ってさ」 「ほうほう、青陽はどうじゃな?歩ける様にはなったか?」 「まだですよ。掴まり立ちがやっと出来るようになりましたけどね」 「そうかそうか、おお、歯も生えたのじゃな」 と初孫を可愛がる好々爺の様になっている。 「あ〜?う!う!」 「ん?おやつか?」 「う〜!」 一護は巾着から赤ちゃん用のせんべいを取り出すと、一口サイズに割って口に入れてやる。 「あ、む、む」 食べ終わると次を強請る。 「はい」 「きゃあ〜!」 「ああほら、落とさないの」 涎を拭いてやり、欠片を入れてやる。 総隊長だけでなく、その部屋に居た全員がそのやり取りに見惚れていた。 「はい、終わり」 「あ〜?」 「おいじいさんよ。もう帰っていいか?」 「お、おお。うむ、もう勝手に現世に行くことのない様に!」 「へいへい。おら、帰んぞ」 「あ、うん。お騒がせしました」 と帰る3人。 帰り道。 「あんまり怒られなくて良かったな」 「どうせ口実だろ」 「?なんの?」 「青陽と遊びたいんじゃねえの」 「まっさか〜」 「どうだかな」 「あ、晩御飯なにが良い?」 「あ〜、何が出来る?」 「んと、鰤があるから照り焼きにするか?それと味噌汁と、青菜の煮びたしは?」 「上等だ」 家に着くと夕飯の用意をやちるも手伝ってくれた。 先に食べた一護が青陽に夕飯を食べさせる。 「良く食うな」 「だろ?」 ご飯を食べ終わり、片付けを済ませる一護。 「ふう、洗い物も終わった!後は風呂かぁ」 風呂の用意を済ませ、一休みするために居間に戻る一護。 「あう〜!きゃっ!きゃっ!」 「仲良いな、お父さん」 「は、妬いてんのか?」 「さ〜てどっちにでしょうか?」 剣八の膝によじ登って遊んでいる青陽。着物の袷を掴んで立ち上がると、 「あ〜、う〜、う〜!」 「なんだ・・・?」 と大きな手でその小さな頭を撫でる剣八。 「あ〜、あ、とお」 「お・・・」 拙いながらも『とお』と呼んだ。それを聞いた一護とやちるが抗議した。 「ずるーい!剣ちゃん!」 「あー!ずッりぃ!俺は?青陽」 「あう〜?あ〜、かぁ」 「わ!そうだよ!青陽!お母さんだよ!ん〜〜!」 青陽を抱きしめ、うりうりと頬ずりする一護。 「きゃあう、かあ、きゃう!」 「もう一回!お父さんは?ね?青陽」 「うう〜?と〜お」 「可愛いなぁ!な!剣八!」 「・・・ああ」 「やちるお姉ちゃんは?」 「やぁ?う〜、ねえ」 「わあ!青ちゃんがあたしの事お姉ちゃんって呼んでくれたよ!わ〜い!」 「うん!うん!えらいなぁ、青陽は!」 「なんたって俺とお前の子だからな」 と誇らしげに言う剣八。 「うん」 と嬉しそうに笑う一護が居た。 終 11/03/18作 ベビーカーってあると便利だと思うんですよ。荷物が多すぎたら乗せられるし。 次はどんなお話にしようかな。 |
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