題「子供の病気」 | |
剣八が非番の日、青陽は一日中その胡坐の中や懐の中に入って遊んでいる事が多い。 安心するのか、そういう日は大人しいので一護はゆっくり家の仕事に専念する。 「ああ、やっと洗濯が終わった!」 スラッ!と障子を開けて居間に入ると火鉢の横で青陽をあやす剣八が居た。 「ありがと、剣八。もうすぐミルクの時間だな」 哺乳瓶に粉ミルクとお湯を入れ、シャカシャカ振っているとぐずり出した。 「ふえ・・・うあぁ」 「ああ、ほ〜ら青陽、ミルクだぞ〜」 「あ、む!んっく!んっく!」 「ふふ!見てるだけで幸せだなぁ・・・」 幸せなひと時を過ごす一護。 翌日、急な討伐が入った剣八。やちるを残して一角、弓親を連れて出掛けて行った。 「すぐ終わらせる。何かあったら連絡寄越せ」 「分かったよ。ほら青陽、お父さんお仕事だって!いってらっしゃ〜い!」 「あ〜」 青陽を抱き上げて、小さな手を掴んでフリフリと振ってやる。一角や弓親の顔も弛んでいる。 皆を見送ると家の中に入る。 「さ!今日も夜一さんが来るだろうから、おやつはホットケーキだな」 「あたしが焼いてあげる!いっちーはせいちゃんに付いててあげて!」 「お!やちるお姉ちゃんが焼いてくれるのか?」 「うん!まっかせといて!」 「でも火がちょっと怖いから、後ろで見させてくれな?」 「見るだけだよ?」 「はいはい。美味しいホットケーキお願いしますね」 「は〜い!」 そしてお昼になり、青陽にミルクを飲ませて自分達もご飯を食べようとした時、青陽が火がついた様に泣き出した。 「うわぁああンッ!うやぁあああんッ!わぁあああ〜!」 「ど、どうしたんだ?青陽!熱ッ!なに?!急にこんな熱出して!」 「どうしたの!?せいちゃん!顔が真っ赤だよ!」 そのうち飲んだミルクを全部吐き出した。 「ああぁあん!わああぁああンッ!」 「ど、どうしよう!四番隊に!?」 「早く行こう!いっちー!」 「う、うん!」 青陽を抱くと走って四番隊に行く一護。 途中で誰かにぶつかった。 「あっ!悪い!急いでたから!」 と顔を上げるとそこに居たのは白哉だった。 「怪我は無いか?何をそんなに慌てて居る?」 「青陽が!青陽が!急に熱出して、ミルクも全部吐き出したんだッ!い、急がないと!四番隊に!」 ぐい!と腕を引かれたかと思うと抱き上げられていた。 「な!なにしてんだ!」 「お主の足より早い。舌を噛むぞ、黙っていろ・・・」 と見事な瞬歩で四番隊まで一護と青陽を連れていった。 すぐに卯ノ花が出て来て、診察してくれた。 「あ、ありがとう!白哉。俺、どうしようかと・・・!」 「もう良い、それより更木に連絡した方が良いのではないのか?」 「あ、でも、討伐だし・・・」 「構うまいよ。連絡が無ければそれでは奴も怒るだろう?」 父なのだから。と言われ伝令神機に連絡を入れた。 『おう、一護か。何かあったか?』 「今、今な、四番隊なんだけど・・・」 『・・・ああ』 「青陽が急に熱出して、ミルクも吐いちまって!う、卯ノ花さんが診てくれてるけど、俺!どうしたら」 『落ち着け一護。卯ノ花が診てんだな?今から帰る。そこに居ろ』 「分かった・・・」 震える指で通話を終わらせる。 「何と言っていた・・・?」 「すぐ帰るって、卯ノ花さんが診てるって聞いて安心したみたいだ」 へなへなとへたり込んでしまった一護。 「そうか、では私は職務に戻る」 「あ!白哉!ホントにありがとな!助かった!」 微かに頷くと自隊へと帰っていった白哉。 数分後に剣八が四番隊に現れた。 「一護!」 「剣八!ああ!ごめんな、俺、俺!」 「いい!青陽は?!」 「今、卯ノ花さんが・・・」 「もう大丈夫ですよ。中に入ってください」 診察室から声が聞こえ、二人で中に入るとベッドに寝かされている青陽が居た。 「青陽・・・!卯ノ花さん、青陽は!?」 「大丈夫ですよ、軽い消化不良と熱が出ただけですわ。もう治りましたから帰れますよ」 「良かった〜〜!あり!ありがとうございます!」 その場に泣き崩れる一護。 「手間掛けさせたな」 と言い、青陽と一護を抱き上げ、自隊に帰る剣八。 「う、う、ひっく、ふっ!」 「もう泣きやめよ・・・」 「う、うん!ごめ、ん!」 「くぁあ、っぷ」 「気楽なもんだぜ」 「でも、治って良かった」 「ああ」 隊舎に帰り、弓親と一角に報告書を書く様に言い付けると家に帰る剣八。 「帰ったぞ」 「おかえり、剣ちゃん」 「おう。一護と青陽は・・・?」 「お部屋だよ。ねぇ、せいちゃんもう大丈夫なんだよね?」 「ああ。心配すんな、卯ノ花が治してくれた」 「良かったぁ!」 「一護、入るぞ」 障子を開けると、ベビーベッドの横に居る一護が目に入った。 「様子はどうだ?」 「うん、気持ち良さそうに寝てる・・・」 「そうか・・・」 「白哉にお礼しなきゃ」 ぐずっと鼻を啜りながら言う。 「なんでだよ?」 「青陽を四番隊に連れて行く時に助けてくれたんだ。俺と一緒に担いで瞬歩で四番隊に連れてってくれたんだ」 「ほお・・・」 「俺だけじゃあんなに早く行けなかった」 「そうか、上等な酒でも贈っとくか」 「ん・・・」 きゅっと剣八の羽織を掴んだままの一護。 「こ、怖かった・・・!急に泣き出して、熱も高くて、ミ、ミルクも全部吐いちゃうし!」 「ああ、頑張ったな、一護」 一護の髪を撫でていると、目を覚ました青陽。 「あ〜・・・」 「あ、起きた」 「う〜、う〜」 「もう、あんなに心配させたクセに」 小さな手で指を握る青陽に安心した一護は昼食も夕飯も食べて無い事を思い出した。 「腹減った〜〜!何にも食ってねえし、作ってねえよ」 「出前でも取るか」 「ん、悪いけど今日はそうしてくれ」 出前で夕食を終え、いつも通りの生活に戻った更木家だった。 後日、白哉を自宅に招いた二人。 「おう!遅かったな、白哉!」 「うむ、何か用でもあったのか?」 「いやいや、この間の礼が言いたくってさ」 青陽は御機嫌に部屋でハイハイしている。 「気を使わずとも良かったものを・・・」 「でも助かったのは事実だ。ありがとう、白哉。本当に助かった」 コポコポとお茶を淹れる一護。 「剣八もなんか言えよ」 「ああ、ありがとよ」 それを聞いた白哉は一瞬目を見張るとお茶に手を伸ばした。 「茶を頂こう」 「ああ」 それを口に含んだ瞬間、テーブルの下から、ゴンッ!と言う音と共に、 「うああぁあ〜ん!わぁああ〜ん!あああ〜ん!」 と大音量で青陽の泣き声が聞こえて来た。 「あ〜あ、やっちゃった。ほら、こっち来い青陽」 「ぶわあぁあ〜ん!」 ずりずりと這い出て来た青陽は白哉の膝によじ登っていった。 「あ、こら!」 「気にするな・・・」 そう言うと優しく抱き上げてやった。 「お前、もう死覇装使いもんにならねえぞ」 と剣八が言った。 「うわぁ!うわぁ!わあああん!」 と泣き続ける青陽の涙と鼻水と涎でぐっちゃぐちゃになっていた。 「あ〜あ・・・」 まだ泣いている青陽を一護に渡すとタオルで顔を拭きながらあやしている。 「うぶぶ!う!えぶ!」 「はい、良い子、おねむが入ったな今ので。ねんねしような〜、はい、ねんね、ねんね・・・」 「ひっく、ひっ、く・・・」 とん、とん、と背中を撫でていくうちに眠ってしまった青陽。 「母親とはすごいものだな」 「そうか?ああそうだ。これやるよ」 と出されたのは現世のお菓子。 「なんだ?これは」 「現世のお菓子でさ、ハバネロつー辛い菓子だよ。試しに食ってみ」 「ふん・・・、茶請けにでも食す」 「恋次には出さない方がいいぞ」 「そうか、ではな一護。今度は子供を連れて我が屋敷にでも来ると良い。ルキアも喜ぶ」 「ああ、そうだな」 「なに亭主の目の前で他の男の誘いに乗ってんだ、こら」 「あほか」 「男の嫉妬は醜いぞ、更木」 「うっせえ、礼はしたぞ」 「うむ」 帰っていく白哉を見送り、青陽をベッドに寝かせる。 「子供はすぐ熱出したりするから、あんまり驚くなって言われてもな」 「まあな」 二人でベッドの青陽の寝顔を覗きこむ。 「さて・・・」 「ん?」 「このまま2〜3時間は起きねえよな?」 「え?ああ、だいたい昼寝はそんなもんだな」 「よし!この時間をフル活用すんぞ」 「へ?うあ!」 「心配すんな、寒くねえように炬燵でヤってやるからよ」 「そんな心配してねえよ!」 「すぐ隣だから起きたらす〜ぐ分かるぜ?」 「う」 「最近ご無沙汰だぜ、今日ぐらいはいいだろ?」 耳元で囁かれ、熱い吐息に感じてしまう一護。 「ん!もう、ばか・・・!」 久し振りに肌を合わせ、お互い満足出来た日だった。 終 11/03/02作 一応兄さまは汚れを拭いて行きました。子供の涎ハンパねえよ! 因みのこの日は「炬燵かがり」でお楽しみでした! |
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