題「夜一さんの尻尾事件」
 青陽の名前が決まってから現世の一護の実家にも報告に行った。
今回は剣八と一緒で地獄蝶も付いてくるのですぐに行くことが出来た。
「あ〜良かった!子供抱いて断界通るのかと思っちまった」
「させるか、んなこと」
 と言いながら実家に報告した。
父も妹達も喜んで祝ってくれた。
一心は剣八と酒を飲んで何か話している。妹達は息子を可愛がっている。
「一にぃ、こっちの事は心配しなくて大丈夫だからね〜!」
「お兄ちゃんにそっくりだね!可愛い!」
 そして、
「一護、いつだって遊びに来ても良いんだからな?息抜きだって必要なんだ」
 と一心が言ってくれた。
「ありがとう!なるべく来るようにするよ!」
 と挨拶を済ませ、次は浦原商店へ向かった。
「おっす!浦原さん、居るか〜?」
「おんやぁ、黒崎さんじゃありませんか。お元気ですか?」
「ああ、子供生まれたから、見てやってくれ」
「おお、可愛いお子でございますな」
 とテッサイが眼鏡の奥で笑う。
「良い子が産まれたようですね」
 と帽子の奥の目が優しげに細められた。
「ああ」
 笑いながら頷き、後ろの剣八を見る。
「あ、そうだ。浦原さん、夜一さんに俺が妊娠してた事言って無かったよな?なんで?」
「だぁって、それ教えたら夜一さんだけ黒崎さんの所で遊ぶじゃないですかぁ〜。夜一さんだけなんてずるいッス!」
「なんだよ、その理由は・・・」
 はあ、と一護が溜め息を付くと、
「おい、もうすぐ腹空かせて泣くぞ」
 剣八が青陽を指差す。
「あ、もうそんな時間か。バタバタしてて悪いな。落ち着いたらまた来るから!」
「ハイハ〜イ、お元気でぇ〜」

 一護と青陽が新居に住むようになって良く来る客が居る。
客自体は色んな人達が来るのだが、その人はほぼ一日中居る。
尸魂界に帰って来た3人が家に入るとその客が居た。
「あ、夜一さん、来てたのか」
「まぁの、子供とどこに行っておったのじゃ?」
「ああ、現世の実家と浦原さんトコに挨拶に行って来た。あと他のやつらとか」
「そうか」
 パタン、と尻尾を揺らす夜一。剣八は仕事へと戻って行った。

「うあぁああん!」
「ああ、今用意するからな」
 と縁側に座布団を敷くとそこへ寝かせた。
「悪いけど夜一さん、青陽のコト見ててくれな」
「うむ、早うミルクを持ってきてやれ」
 座布団に寝かされた青陽の横に寝転がるとゆらゆらと尻尾を動かしてはあやしてやった。
薄っすらと見えているのか、目で追いかける青陽。
「可愛らしいのう」

 台所でミルクを作っていると、
『フギャア!』
という声が聞こえた気がした一護。
「ん?空耳かな?」
 廊下を歩きながらシャカシャカと哺乳瓶を振って戻ってくる一護。
「待ったか〜?青陽、ミルク出来たぞ〜」
 と暢気に言いながら縁側に戻ると、必死で尻尾を舐めている夜一が居た。
「どうしたんだ夜一さん?また尻尾が良く曲がる歯ブラシみたいになってんぞ?」
 ピクッと耳を動かし顔を上げる夜一。その鼻には横皺が刻まれていた。
「・・・なにか文句でもあるのか・・・?」
「い、いいえ。何にも?いつも通りの素敵な御尻尾です、はい・・・」
 余りの気迫に圧される一護。
「ふん!まったく・・・!お主の子にやられたのじゃ!手加減も無く思い切り握りおって・・・!」
 ブツブツ言いながら尻尾を舐めている。
「悪かったって。ほら、青陽、ミルクだぞ〜」
「ん!んっく!んく!んっく!」
「親子揃って儂の尻尾をこんなにしおって・・・。さすが親子じゃの、よう似ておるわ」
「・・・・・・」
 何も言い返して来ない一護を不審に思い、仰ぎ見ると嬉しそうに目を細め満面の笑みを浮かべている一護が居た。
「な、何を笑うておる。褒めておらんぞ!」
「うん、ごめんな。でも嬉しくてさ」
 どんなに叱ってもニコニコと笑っている一護に降参した夜一。
「まったく・・・。もう知らんわい、また今度ほっとけーきでも献上せい」
「うん、蜂蜜たっぷりでな」
「うむ!」
 そう言うとひらり!と縁側から降りると帰っていった。その後ろ姿に、
「また明日な、夜一さん!」
 と声を掛けると尻尾で返事をくれた。

 夕方になり、剣八とやちるが帰って来た。
「たっだいま〜!」
「帰ったぞ」
「あ!お父さんとお姉ちゃんが帰って来たぞ、青陽。お出迎えしような」
「あ〜、ぅ〜」

「お帰り、お父さん、やちるお姉ちゃん」
「う〜!」
 青陽を抱いて二人で出迎える。
「ただいま!いっちー、せいちゃん」
「おう」
「ほら、先に手洗いうがいして来いよ。夕飯出来てるぞ」
「はあ〜い!」

 二人が居間に入ると一護は、剣八に青陽を任せる。
「すぐ用意するからな」
 と大きな土鍋とコンロを用意すると中に入れる具材を持ってきた。
「鍋か、いいな」
「うん、寄せ鍋にしたから、肉も魚も食えるぞ!」
「あ、エビだぁ!やったぁ!」
 具材を煮て行き、食べごろになると3人でつつき合う。鍋の湯気で上気した頬をして笑いながら話をする一護。
「そんでな、今日も夜一さんが青陽と遊んでくれてさぁ」
「ふうん」
 剣八は自分の胡坐の中に居る青陽が小さな手を伸ばしてくるのをあやしてやっていた。
「俺がミルク作りに台所に行ってる間にこいつ夜一さんの尻尾を思いっきり掴んだらしくって、夜一さんの尻尾がよく曲がる歯ブラシみたいになっちまったんだよ」
「へえ、強えな青陽」
 と紅葉の様な掌を突いてやる。
「きゃあ!きゃっ!きゃっ!」
 一護が昼にあった事を報告すれば、やちるも今日は何をして遊んだとか色々報告してくれる。
「そうかぁ、やちるも楽しい事あったんだなぁ」
「うん!あのね、今日は卯ノ花さんの所にお泊りするの!」
「え、良いのか?昨日は乱菊さんの所だったろ?」
「うん!あ、そうだ!卯ノ花さんがね、もうすぐ一ヶ月検診だから必ず来なさいって言ってたよ」
「そうか、分かった。ありがとうな、やちる」
 具が無くなった鍋にご飯を入れて〆の雑炊を食べる。
「あ〜!もうお腹いっぱい!御馳走様!」
「お粗末さま。剣八は?まだ何か食べるか?」
「俺もいい。お前は風呂にでも入って来いよ、青陽は俺が見ててやるから」
「あ、うん。片付け終わったらな」
 とテーブルの上を片付け、洗い物を終わらせた。

 ゆっくり風呂に入って疲れを取る。
「ああ、いい湯だった」
 居間の灯りは消えていたので寝室へ行くと剣八と青陽が蒲団の上で遊んでいた。
「楽しそうだな」
「おう、あがったか」
「うん、お前も入って来いよ。疲れてるだろ?」
「ああ、そうだな」
 と入れ替わりで風呂へ行く剣八。
「お父さんに遊んでもらって良かったな〜」
「きゃあう!あっ!あっ!うっ〜!」
「ふふ。あ、もうそろそろミルクの時間か」
 言っているうちに泣き出した青陽。
「はいはい、すぐ作るからな〜」
 ミルクをやり、おしめを替えるとベビーベッドに寝かしつける一護。
「ねんねの時間だよ、良い子で寝ような〜」
 ぽんぽんと撫でながら子守唄を歌う。
最初は嫌がって寝てくれなかったが、次第に規則正しい寝息が聞こえて来た。
「可愛いなぁ・・・」
 とその顔を飽くことなく見守る一護。
「寝たのか・・・?」
「あ、うん・・・」
 風呂から上がった剣八が帰って来た。
「今のうちにお前も寝ろよ。夜中も起きるんだろ」
「うん、おやすみ剣八・・・」
 ぱたりと眠ってしまった一護。剣八も蒲団に入り二人で寝る。

 数時間後。
「うあああん、ああああん」
「ん?」
「あああん」
「飯か・・・」
 と剣八が起きるも一護が目を覚ます気配が無い。
「おい、一護・・・」
「ん〜・・・ミルク、ミルクな・・・」
 と夢の中で忙しく走り回っているようだ。そんな一護を見て、
「しょうがねえな・・・」
 と剣八が起きた。
「これを擦り切り一杯入れる訳か・・・」
 哺乳瓶を振って粉ミルクを溶かすと泣く青陽に含ませると力一杯飲み始めた。
「よく飲めよ・・・」
 飲み終わった後にげっぷをさせると、おしめも替えた。
「あとは寝るだけだな、寝ろよ」
「あぷ〜」
 ワキワキと手足を動かし寝る様子が無かった。
「・・・しょうがねえな・・・」
 と大きな手でポンポン撫でながら、一護がよく歌っている子守唄の旋律を思い出しながら、鼻歌を歌ってやった。
ウトウトし始めた青陽。
「ん・・・」
 今まで寝ていた一護が目を覚まし見たものは、青陽を寝かしつける為に鼻歌を歌っている剣八の背中だった。
(デケえ背中だな・・・)
「・・・けんぱち」
 首だけで振り返る剣八。
「なんだ、起きたのか」
「ん・・・。俺、あんたの鼻歌なんて初めて聞いた」
「そうかよ」
「ん・・・」
 その大きな背中に寄り添う一護。
「なんかさ、うれしい・・・」
「はん?」
「お前の後ろ姿見てて思った」
「寝たな。お前も寝ろ・・・」
「いっしょに?」
「当たり前だろ、ほれ」
 と一護を抱き込んで蒲団に潜りこんだ。
その夜は夜泣きをしなかった青陽だった。






11/03/01作 デ・ジャヴな夜一さんでした。子育て剣ちゃんと幸せいっぱい一護ママ。
疲れが溜まって起きれなかった一護ママでした。



文章倉庫へ戻る