題「名前」
 子供が無事産まれ、一週間入院した一護が退院した。
迎えに来た剣八は、おくるみに包まれた我が子とそれを抱く一護を見て弛みそうになる顔を必死で引き締めた。
「家に帰るぞ」
 と一護の手を引いて連れて帰る。

「ここが俺達の家・・・?」
「ああ」
 それは思っていたよりも大きかった。
「中に入って見ろ」
「う、うん」
 息子を抱き直すと玄関から入り、中を隅々まで見て行く。
「わあ〜!新しい畳の匂いだ。台所は?」
「こっちだ」
「おお!広いな!でっかい冷蔵庫も置けるな!」
 次は風呂を見に行った。
「わあ!此処も広い!あ、追い焚き機能付きなんだな!」
「次は俺らの部屋だな」
 と夫婦の寝室へ連れて行かれる。
「おお!何にも無いからすげえ広いな」
「まあな、家具も入れるからな」
「家具って今使ってるやつで良いんだよな?」
「ああ、お前が新しいのが良いなら買ってやるぞ」
「ん〜、今ので良い!新しいのは子供に買ってやろ?」
「そうか」

 その日のうちに引っ越した。
家具などは隊士達が運んでくれたので半日で済んだ。
「ありがとな!みんな!」
「おっす!姐さん!」
「なんで姐さんだ!」
 と突っ込みを入れつつ感謝の言葉を言う一護。

 さて無事引っ越しも終え、引っ越し蕎麦を食べ終わると大事な話があると一護が言った。
「大事な話?なんかあったか?」
「子供の名前だよ。考えなきゃ」
「ああ。そうだな」
 火鉢に炭を入れ、部屋を暖める。
「どんなのが良いかな?」
「取り敢えず、なんか書いて行くぞ」
 と半紙に色々と書いて行く剣八と一護。

『涼月』 りょうげつ。
『青陽』 せいよう。
『辜月』 こげつ。
などと一護が書いていく。

「なんだ、そりゃ?」
「うん?暦の読み方だよ。涼月が七月だろ、青陽が一月で、辜月が十一月」
「ほう」
「俺は『青陽』って良いと思うんだ。青って春を意味するんだって、コイツ春生まれだしさ。春の陽って優しい感じだし、春って色んな命が目覚めるだろ?」
 一護は横に寝かせている我が子の丸い黒曜石の様な眼を見て言った。
「その色んな命を照らすって意味で、どうかな?」
「良いんじゃねえか」
「じゃ、書いてくれ」
 真っ白な半紙に、

『命名・青陽』

 と力強く書かれた子供の名前。
「今からお前の名前は青陽(せいよう)だぞ。青陽」
「あー、あぅー!」
「は!一丁前に喜んでやがる」
 目を細め笑う剣八。

 翌日、祝いの品がどんどん贈られてくる。
その全てに『生誕祝・青陽』と書かれていたのが一際嬉しかった。
紙おむつや子供のオモチャ、粉ミルク、これから替えが沢山必要になるタオルなどが贈られた。
一番嬉しかったのは技局から贈られた電気ポットだった。
「・・・ていうかさ、まだミルクなのにお菓子って・・・。浮竹さん」
「お前が食えば良いんじゃねえのか」
「良いのかなぁ」
 と話していると青陽が泣き出した。
「うわあぁあん!うああぁあん!」
 舌を出し、手足をバタつかせて泣いている。
「はいはい、ミルクな。すぐだからな〜?」
 と粉ミルクを哺乳瓶に入れ、電気ポットから適温のお湯を注いでミルクを作った。
「ほ〜ら青陽、ミルクだぞ〜。お腹いっぱい飲めよ〜?」
「ん!んっく!んっく!んっく!」
「おうおう、良い飲みっぷりだな」
 ぷっくりした頬を突っつきながら感心している剣八。
「な〜。あ〜、しっこもしてるなぁ。たくさんしたんだなぁ」
 とゲップをさせるとおしめを替えていく。
「慣れたもんだな」
「入院中もやってたしな。はい、すっきりしたな?すっきり〜!」
「きゃあ!あ〜!」
「お母さんは哺乳瓶の消毒に行くから、お父さんに抱っこしてもらおうな〜。ほら、お父さんだいすき〜!」
「あう〜!」
 大きな剣八の腕に抱かれ、胡坐の中に納まる小さな体。
一護は紙おむつを捨てると哺乳瓶を消毒液に浸けた。

「後は、俺達のご飯と・・。問題は夜泣きか・・・。剣八大丈夫かなぁ?」
 討伐とかに障らなきゃいいけどと心配になる。

 3〜4時間ごとのミルクと夜泣きで起こされる一護。
寝ている剣八を起こさない様にそっと蒲団を出ると青陽をあやしながら隣りの部屋でミルクをやり、おしめを替える。
中々泣きやまない青陽にハラハラする。剣八もやちるも仕事なのにと。
「泣きやんで・・・、なんで泣くんだ?青陽、青陽」
「ああぁあん!ああぁあん!」
 言う事を聞いてくれない赤ん坊にイライラが溜まる。ただでさえ寝不足でストレスが溜まっているのに・・・。
「皆が起きちゃうよ!」
「うああぁああんッ!!」
 ヒステリックに叫ぶと釣られる様に青陽の泣き声も大きくなる。
「一護」
 後ろから聞こえた声にビクン!と強張る身体。
「あ・・・、剣八・・・。起こしてごめん!すぐだから、すぐ泣きやますから!」
「落ちつけよ。ガキなんざ泣くのが仕事だろうが・・・。お前がそんなんじゃ泣きやまねえだろ」
「だって、どうしたらいいか・・・!」
 泣き続ける青陽と同じ様に泣き出しそうな一護。
「こっち来い・・・」
 と自分の胡坐の中に抱きこむ剣八。
「気にすんな、お前はよくやってる。朝から、こんな夜中までずっとじゃねえか・・・」
 ポンポンと優しく一護の背中を撫でる剣八。
「う・・・」
「泣き疲れりゃ寝る、それだけだ」
「でも!お前もやちるも!みんなも仕事あるのに!」
「こんなんで討伐が出来ねえほどヤワじゃねえ。気を楽にしろよ」
「うん・・・」
 いつの間にか眠ってしまっている青陽。
「あ、寝た」
「お前もちゃんと寝ろ」
「うん、ありがと・・・」
 青陽をベビーベッドに寝かせると一緒に蒲団に入って眠る二人。
温かくて安心出来る剣八の腕の中ですやすやと眠る一護と暖かい色の髪に鼻を埋め剣八も眠った。

 モーニング・コールは青陽のミルクの催促だった。






11/02/28作 初めての子育てに右往左往する一護母さんとどっしり構える剣八父さん。
みんな微笑ましそうに見てるんだろうなぁ。
や、やちるが居ないぞ!



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