題「あきらめません」
 「十六夜〜、手伝って〜!」
「なあに?かか様」
「あのね、この書類を七番隊へ持って行って欲しんだけど」
「ああ・・・、うん、いいよ!」
快諾すると書類を渡された。
「これだけ?」
「うん。朔が居たら行ってもらってたんだけど・・・」
「平気よ、幾望のお迎えに行ってるんでしょ?」
「うん、じゃお願いね」
そう言われて十一番隊を出る十六夜。

「七番隊に行くのも久し振りね・・・」
ぽつりと呟いていると後ろから、
「お姉ちゃ〜ん!」
と声を掛けられた。振り向くと朔と幾望が手を振っている。
「どこ行くの〜?」
「これから七番隊に書類を届けにね」
と手にした書類を見せる。
「いっちゃん、大丈夫・・・?」
「兄さん、あれから何年経ったと思ってるの?それに遊びに行くんじゃないわ」
「だけどさ」
「私ももう十六よ?目の前しか見えてなかった子供じゃないわ。大丈夫だから、ね?」
「お姉ちゃん、狛むーのトコ行くの?」
「そうよ、なんなら二人とも付いてくる?」
「いいの!」
「止めとくよ。かか様待ってるよ?幾望」
「あう、おやつ・・・」
「先に食べてていいからね」
「うん!」
「じゃ、気を付けてね」
「は〜い」
二人と別れ、七番隊まで来た十六夜。

「失礼します。十一番隊より書類をお持ち致しました」
門番が門を開けるとそこに立っていたのは、美しい黒髪の少女だった。
切れ長の涼しげな目元、透き通るような白い肌、ふっくらとした桜色の唇。髪は後ろで束ねられているだけだった。
着ている物は黒地に裾に大輪の紅椿の刺繍の施された着物。帯は深紅、帯締めは薄桃色で濃い緑色の翡翠の帯留めがあしらわれていた。
「あ、あの、どちらさまで・・・?」
そう言われて少し驚いた顔をした十六夜。
「十六夜です。子供の時ここに良く遊びに来ていた更木十六夜です」
苦笑しながら、
「中に入っても?」
と訊ねた。
「どうぞ!書類ですね、隊首室までお願い出来ますか?」
「ええ」
にこりと笑い、記憶のままの隊内を進んでいく。ノックをした後、
「失礼致します、十一番隊の書類をお持ちいたしました」
「入れ」
「はい、失礼します」
静かに開けられる扉、中に入り隊首机にて書類をしたためるこの部屋の主を目にするのも実に6年振り。
「お、おお、どこのもんじゃ?」
「いやだ鉄さんまで!あたし十六夜よ?そんなに変ったかしら?」
ころころと鈴が鳴るように笑う十六夜。
「なんとまぁ!女子ちゅうんは変わるもんじゃのう!」
「ふふ!でもお久しぶりね、鉄さんも左陣さんも・・・」
懐かしそうに目を細める十六夜。
「十六夜・・・?大きくなったな」
「ええ、もう十六だもの。でも背の高さは兄さんが大きくなっちゃったわ」
小首を傾げ笑う。
「そうか・・・。もうすぐ大人だな。綺麗になったな」
「ありがとう、学院も卒業したの。どこに配属になるかは分からないけど、死神になった時はよろしくお願いします」
「う、うむ」
「ほうか、ほうか!十六夜が儂らの後輩にのぅ」
サングラスの奥のその目は嬉しそうに細められているのだろう。子供の時と同じようにポンポン頭を撫でてくれた。
「まあゆっくりしていくがええ。久し振りなんじゃ、積もる話もあるじゃろ?」
「お仕事の邪魔にならないかしら」
「・・・昼休みを取ろうと思っていたところだ。急ぎの様がなければ」
「じゃあ、お言葉に甘えます」
「では縁側へ」

二人で縁側に出ると射場がお茶を入れると場を離れた。
「・・・・・・」
「ここも少し変わったわね。うちも隊士の何人かが入れ替わったわ」
「そうか」
「お茶です」
お茶とお茶請けを出すと射場は席を離れる。
「ありがとう、鉄さん」
お茶を啜り、
「うちはいつも騒がしいわ。ノイトラがとと様に勝負を挑むし、グリはやたらと道場に穴を開けるし、おかげで稽古の時間が少なくて・・・。朝月に無理言って八番隊の道場借りてるのよ!?」
「ほお、元気過ぎるようだな」
「元気って言うのかしら、あれ。体力、霊力が有り余ってるだけじゃないかしら」
「朝月とは仲良くやっているのか?」
「うん、学院でも良く一緒に居たわ。今は幾望と夕月が頑張ってるわね」
「そうか・・・」
「あたし斬術と鬼道が上達したの。朔にぃは鬼道と白打ね、斬術は普通かしらね」
「十六夜は白打は?」
「あたしは、ん〜〜、普通かしら?朔にぃには敵わないもの。朝月も斬術がすごく綺麗なの!斬魄刀が素敵なの、京楽さんの刀を少し細くし様な感じね」
喉を潤す為にまた一口お茶を飲んだ。
「楽しそうで良かった。元気であるとは一護から聞き及んでいたのだがな」
「あたしは元気よ、何か心配することがあったのかしら?・・・左陣さん」
「!!」
驚いて隣りを見ると、優しい顔で笑ってこちらを見つめる十六夜と目があった。
「いや、あの・・・」
「あのこと=E・・まだ気にしてるの?」
「まあ、な・・・」
「忘れてって言ったのに・・・。真面目ねぇ。ま!そんな所に惚れちゃったんだから、仕方ないわよね!」
「十六夜!」
くいっ!と最後のお茶を飲み干すと、
「御馳走様!久し振りにたくさんお話が出来て楽しかったわ」
「そ、そうか・・・」
すっくと立ち上がると少し伸びをした。
「ん〜!・・・ねえ、あたし少しは大人になったかしら?」
「うん?そうだな、大人になってきているな」
そう答える狛村の前に立つと、
「覚悟しといてね。もう逃さないから!」
と宣言した。
「な!何を言っておる!」
「好きって言ったでしょ?忘れたの?」
「6年も昔の!お主は子供であった!」
「もう、子供じゃないわ。変化(へんげ)しなくてもこの身体だし、あたしの気持ちはあたしが決めるの」
左手を腰に当て、右手は胸に当てて狛村を真っ直ぐ見据えた。
「一回振られたぐらいで心変わりするような尻の軽い女じゃないわ」
困惑する狛村の耳はぴるぴると落ち着き無く動いている。
「貴方に本当に好きな人が出来て結婚したなら祝福するけど、そうじゃないなら諦めない。出会った頃から今までずっと好きよ」
照れているのか少し毛皮が膨らんでいる狛村。
「だが、儂とお主では歳が離れすぎておる」
「とと様とかか様だって離れてるけど愛し合ってるわ。ホント、男の人って詰まらないことに拘るのね」
溜息を吐きつつ言うと狛村は、
「詰まらんことではない」
「いいえ、詰まらない事よ。人生にもしもはないけど、あたしは貴方が年下であろうが同じ歳であろうが同じく好きになってる。たまたま年上だっただけだわ。ここに貴方は一人しか居ないの。あたしはたった一人しか居ない貴方を好きになったの」
「・・・・・・」

「あきらめませんから」

そう言って帰る十六夜。
「あ、そうだ」
「?」
少し離れた所で立ち止まり、振り返って、
「とと様の事は心配いらないからね!かか様と白にぃが味方だし!乱菊さん達も応援してくれてるから〜!」
「ッ!!」
「またね!」
今度こそ帰った十六夜。残された狛村は大きな息を吐き出した。
「まいった・・・!」
大きな手で頭を掻いた。
「強い女子になりましたな」
「鉄左衛門か・・・、さすが一護と更木の子よな」
「ですなぁ、一途で強引で・・・じゃけん女子らしゅう弱い所もありますけん。隊長が支えてやらんと」
「儂が・・・か・・・」
ふう、と息を吐きつつ十六夜の去った後を見つめ、
「儂で良いのか。幸せにしてやれるのか分からんのだぞ・・・」
「それは儂らが決めるこっちゃありませんわ。幸せになるんは十六夜ですけぇ」
「そうか・・・」
そう呟き天を仰ぐ狛村が居た。

「ただいま〜!」
「お帰り、遅かったね。おしゃべりしてたの?」
「うん。久し振りにたくさんお話したわ。ちゃんと宣戦布告もしといたからね」
「へえ!じゃあ後は狛村さんの気持ち次第だね!頑張って十六夜!」
「ありがとう!かか様」
「なんの話してやがる」
「あ、剣八。お帰り」
「お帰り!とと様。ちょっとした事よ、左陣さんの心をどうやって落とそうかなってね」
そう言いながら部屋に帰る十六夜。
「んな!ちょっと待て十六夜!俺は認めねえぞ!まだガキのクセに!」
「剣八、俺が剣八の所に来た時十六だったよ」
「ぐ・・・!関係ねえ!お前は男であいつは女だろうが!」
「それこそもう大人だよ。もうすぐ発情期だろうしねぇ」
「なぁっ?!アイツ外に出すな!」
「無理だって。大丈夫だよ、狛村さんしか頭に無いし、目に入ってないから」

他の男なんてOut・Of・眼中。

「だからだろうが!」
「剣八、十六夜はちゃんと幸せになるよ。それに会えなくなるわけじゃないんだからさ」
「なんでお前はそんな落ち着いてられんだよ!」
「母親だもん。それにあのブローチが十六夜に渡るのは分かってたことでしょ?」
「・・・」
「今すぐって話じゃないよ。狛村さんも固い人だからさ、自分の気持ちに気付くの遅いと思うよ。それまでは俺達の娘だよ」
「・・・ちっ・・・!」
「落ち着いた・・・?祝福してね?俺は剣八と祝言挙げて皆に祝福されてすごく嬉しかったよ。子供達も産まれて祝福されてさ。すっごく幸せ。俺をこんなに幸せにしてくれたのは剣八なんだよ」
「わあったよ!くそ!一発ぐらい狛村殴らせろよ」
「前も殴ったのに?」
「うるせえ。あれとこれは違う」
「しょうがないなぁ、十六夜に嫌われないようにね?」
くすくす笑いながら剣八に寄りかかる一護。
「なるべくな」
その肩を抱く剣八。
そう遠くない未来に思いを馳せる一護と剣八だった。







10/09/25作 150作目。六万打記念でフリーです。ちょっぴり未来のお話でした。
気に入った方、どうぞお持ち帰りくださいませ。
乱菊さん達と言う事は当然卯ノ花さんも入ってますよ。

10/09/28ちょこっと修正。十六夜の唇の表現の所を直しました。まだ十六の娘さんだったの忘れてた。


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