題「夏休みの1日〜後日談〜」グリの家出
 寝室で剣八に膝枕をし、団扇で扇いでいるとするすると膝を撫でられた。
「くすぐったい」
くすくすと笑いながら身を捩る一護。
「そうか?」
明確にその意思を乗せ、動いていく剣八の大きな手。
「痺れてねえのか」
「まだ、大丈夫・・・ん!」
ドッ!と客間から聞こえる声に一瞬固くなる身体にほくそ笑む剣八。
「団扇はもう良いからよ、こっち来い」
「あ!やッ!」
あっという間に押し倒され、組み敷かれる一護。
「今日は・・・」
「ガキどもなら気にすんな・・・」
「ん、んふ、ぁ・・ん、ん・・・」
口付けで拒否の言葉を遮ると寝間着の袷から手を差し込み開いていく。
「ん・・・あ」
鼻に掛かった甘い声に、落ちたと思ったが遠くから聞こえる声の中に「一護は?」と聞こえるとすぐに醒める一護に舌打ちしそうな剣八だ。
「安心しろ、こっちにゃ来ねえよ。灯りも落としてるんだからよ」
と愛撫を続ける。
「ん!で、も!」
ひく!ひく!といつもより過敏なのは良いが集中しやしない。
「一護、集中しろ」
「だって、声・・・」
「声が気になんだったら猿轡でもしてやろうか?」
一護の唇を撫で、くつくつ笑いながら言うと、
「お断りだ」
と返してくる。

「ん・・ふぅ、ん!あ、ん!」
手の甲で口を押さえ耐える一護。
「んだよ、声出せよ・・・」
「んんッ!や!聞こ、える!」
頑なに声を押さえる一護の唇を口付けで塞ぎ、奥を突く剣八。
「んん!ん!んッ!ンーーっ!」
性急な追い上げにあっけなく吐精した一護。
「ん、あ、はぁ・・・」
「おい、風呂行くぞ」
「ん・・・」

力の入らない一護を抱き上げ風呂に連れていく剣八。
そこでも抱かれたが、気もそぞろだったので今夜はここまでとした剣八だった。
「お前、気にし過ぎだ・・・」
「そんなこと言われても・・・」
二人で縁側で涼んでいると、
「いっち〜・・・剣ちゃん・・・」
と声を掛けられた。
「やちる、どうした?もう寝てなきゃ駄目な時間だぞ?」
「んん〜・・・」
一護に甘えるように抱き付くと、
「だぁってグリ兄達うるさいんだもん・・・」
と目をしょぼしょぼさせながら言うと大きな欠伸をした。
「ああ・・・なるほどな・・・」
「俺達の部屋で寝るか?」
「良いの?」
ちら、と剣八を見るやちる。
「別に構わねえよ」
と剣八も言えば、
「じゃあウル兄も一緒に寝ても良い?」
「ん?良いんじゃね?あいつも寝れてそうに無いからなぁ」
「・・・やちるの隣りなら良いけどよ」
「またお前は・・・」
「あたし呼んで来るね」
とウルの部屋へと向かったやちる。
「一緒に寝たことグリには言わない方が良いよな・・・」
「あ?そうだな。ややこしい事になりそうだ」

すぐにウルとやちるが部屋に来た。
「すいません、お母さん、お父さん。お邪魔してしまって・・・」
と自分の枕を持参してきたウルが言った。
「別に良いよ。さ、早く寝よう」
「はい。おやすみなさい」
「おやすみ、いっちー、剣ちゃん」
「はい、おやすみ」
「おう」
剣八、一護、やちる、ウルキオラの順で並んで眠った。こう言う時、特注の蒲団は助かるなと一護も眠りに就いた。

翌朝。
いつもより人数が増えているので早めの起きて朝食の用意を始める一護。
「ふぁあああ・・・、ねむ・・・」
子供らはパンで良いか、後は剣八のご飯のおかずと・・・。と考えながら用意しているとキッチンに剣八が現れた。
「早えな、おい」
「あ、おはよ。今日はいつもより子供が多いからな」
と食事の用意を進めていく。
「おはようございます、お母さん」
「おはよう、ウル」
「おう」
「あ、おはようございます、お父さん」
剣八にも挨拶をすると、
「何か手伝います。今日は人数が多いですし・・・」
「そうか?助かるな。やちるは?」
「まだ眠っていました」
「そっか」
卵をどうしようか悩む一護の横でサラダを作っていくウル。
「卵は何にしようか?剣八は玉子焼きだよな。う〜ん」
「目玉焼きはどうですか?」
「目玉・・・、とベーコン?ウィンナー?」
「ウィンナーで」
「オッケー!後は野菜のコンソメスープで良いよな!」
「はい」
くつくつとスープの良い匂いがキッチン中を漂い始めた頃、やちるが起きて来た。
「おはよ〜、みんな早いねぇ」
「おはよう、今日はちょっとお寝坊だったな」
「良い匂い〜、いっちーオレンジジュースある〜?」
「あるよ。先に顔洗っておいで」
「うん!」

剣八の玉子焼き、焼き鮭、漬物、海苔を用意して、目玉焼きを焼いていく。
「お母さん、ウィンナーを茹でますね」
「あ、頼むな。お前も料理上手くなってきたよな」
「いえそんな・・・」
全員分の用意が済み、後はトーストを焼くだけだ。
「さて、あいつら起こして来ますかねぇ」
と客間に向かった一護。
「おらおらおらっ!さっさと起きた起きた!朝飯出来てんだぞ〜!」
「うわぁ!びっくりしたぁ!あ、おはよ〜、一護」
「おはよう、ロイ、イール。顔洗ってキッチンに行けよ」
「は〜い」
「ああ・・ふぁ・・」
次に目を覚ましたのはテスラだった。
「ううん・・・!おはようございます・・・」
「はい、おはよう、テスラ。ノイトラ起きてるか?」
うつ伏せで寝ているノイトラを覗きこむテスラ。
「まだですね」
と苦笑を浮かべる。
「ホントにグリと良く似てるなぁ」
「誰がだよ」
「なんだ、起きてたのかよ」
「あんなでっけぇ声で起こされたらそら起きるわ」
ガシガシと頭を掻きながら起きたノイトラ。
「あはは!起きたんなら早く顔洗ってキッチン行けよ。朝飯冷めちまう」
「おお」
テスラとキッチンへ向かうノイトラ。最後まで起きなかったグリの耳を摘まみあげ大声で起こす。
「おっきっろ!ご飯が冷める!」
「・・・いってえなぁ。飯なに?」
「目玉とウィンナーとサラダとスープ。早く来いよ」
「ん〜」

漸く全員が集まるとパンを焼いていく。テーブルの真ん中にバターとジャムを置いて勝手に使う様に言う。
和やかに食べているとやちるが、
「昨日グリ兄達がうるさくて眠れなかったよ〜」
と言い出した。ヤバいかなと剣八に目配せする一護。ほっとけと目が言っている。
「でもお陰でウル兄と一緒にいっちーのとこで寝たんだよ!」
と自慢しだした。
「何だと・・・」
ギッとウルを睨むグリ。目の端にも入れないウル。
「なんでだよ!ずっりい!」
「喚くな、うるさい。大体お前等が夜更けまで馬鹿騒ぎするのが悪いんだろうが」
フン。と澄ました顔でコーヒーを飲むウルキオラ。
丁度食事も終えた所だった。
「はいはい、朝から喧嘩は無しな。涼しいうちに課題でもやってろ」
と後片付けを始める一護。
「手伝います」
とウルキオラ。ブスくれているグリムジョー。

次は洗濯と掃除を始める一護。終わるころにはお昼になっていた。
「さて、何食うかな?」
「あ、一護、俺達帰るね〜」
「何だよ、昼飯食ってけよ」
「そんな図々しい・・・」
「ガキだし良いじゃねえか」
と剣八が言う。
「昼はサンドウィッチしようかと思ってんだけど」
「ん〜、でも、今日は帰るよ。また今度御馳走してよ」
「そうか?じゃな、気を付けて帰れよ」
と見送ってやる。
「ちょっと待て。俺も行く」
とグリが出て来た。
「あ?どこに」
「イールん家!」
「え?」
とイールも驚いている。
「別に構わんが・・・。グリムジョー?」
「んだよ、良いから行くぞ!」
と3人連れだって出ていった。
「どうしたんだ、あいつ・・・」
「なんだ?」
「あ、剣八。グリがイールの家に行くってさ。夕飯までに帰ってくればいいけど」
と言う一護、何となく気付く剣八。
居残り組と一緒にお昼を食べ、テスラとノイトラも帰って行った。
「急に静かんなったよな〜」
と夕飯を作る一護。
電話が鳴った。
「はい、更木で・・、ロイ?」
「あ、一護。あのさ、今イールん家なんだけどさ、グリムジョーこっち泊まってくって」
「え?良いのか急に?」
「良いよ、俺たちだって急だったじゃん」
「そうかぁ?じゃ、よろしく頼むな」
「うん、分かった。」
と電話を切った一護。
「なんの電話だった?」
「あ、剣八。ん、グリがイールの家に泊まるんだってさ」
「はぁん・・・(家出か)」
「さ、晩飯出来たし、食おうぜ!」
「おう」

イールの家。
「グリムジョー、夕飯だそうだ」
「あ?ああ」
イールの部屋でマンガを読んでいたグリがロイと一緒にリビングに行くと、イールの弟のザエルアポロが先にテーブルに着いていた。
「なんだい、来てたのかい。挨拶ぐらいするもんだよ」
「けッ!」
「もう良いから、座れ」
食事が運ばれ、話をしながら食べているとザエルが口を挟んできた。
「マナーが成ってないね。親の顔が見たいよ」
いちいち細かい事に文句を言ってくるので、顔を顰めながらグリが、
「うっせえな、飯なんか食えりゃ一緒なんだからよ!」
と言えば、フンと鼻で笑い、
「やれやれ、君の家みたいな所はそれで良いだろうけど?うちは一流シェフが腕を揮ってるんだよ?考えて欲しいよ、まったく」
と続けた。
「その割には美味くも無いけどな。やたらと脂ぎってるしよー」
「なッ!」
「塩気も多いし?不味い」
「グリムジョー・・・、そこまでにしないと一護が標的になるぞ」
「おっと、やべ・・・」
イールに言われ口を噤むグリ。
「なら、君の言う美味しい料理を作ってくれる人を紹介しておくれよ」
「ああ?嫌だね、メンドクセえ!お前がこれで満足してんなら良いじゃねえかよ!」
と突っぱねたが、諦めた様子ではなかった。

食事も終わり、部屋で寝ていると、
「明日には帰れよ、グリムジョー。一護が心配していたぞ・・・」
「ん?ああ・・・」
そんな話をした。
翌日、昼食を食べ、課題を少しやった後、家に帰ったグリ。

「・・・・・ただいま」
家の帰ると一護が丁度出迎えてくれた。
「あ、おかえりー!今から晩御飯だから丁度良かった」
テーブルには肉じゃがや味噌汁等が並んでいた。何故だか涙が滲んできた。
「ほら、手洗いとうがいして来い」
「おう・・・」

テーブルに着くと剣八がニヤニヤしながら、
「なんでぇ、もう帰ってきやがったのか。長い家出だな、おい」
とからかって来た。
「うるせえな!飯が不味かったんだからしょうがねえだろ!」
「な〜に喧嘩してんだ?飯だぞ、腹いっぱい食えよ〜!」
といつもの通り、山盛りのご飯を渡してくれる一護。
「いただきます・・・」
一口食べると、
「美味いか?」
と聞いてくる。
「美味いよ」
と答えれば、満面の笑顔で返してくれる。
「そっかぁ!昨日の分もいっぱい食えよ?」
と言ってくれた。家族で食べる食事。今日あった事を話しながら楽しく過ぎていく。やっぱり家が一番だと再認識したグリだった。

数日後。
またもや家に客が来ている。
イール、ロイ。そして何故だかザエルアポロが居た。
「なんでザエルが居るの?」
とロイが隣に居るイールに聞けば、
「この間グリムジョーにうちの食事を馬鹿にされてただろう」
と溜息交じりに言えば、
「まさかそれで一護のご飯食べに来たの?やな感じだね〜」
「まあな・・・」
その珍客に一護は、
「で、君は何が食いたい訳?」
といつもより冷ややかな口調で尋ねた。
「一護、怒ってない?」
「そんな感じだな・・・」
ロイとイールがひそひそ言っているとグリが、
「ちげえよ、アイツがイールを追い詰めてる事知ってっからだよ」
と教えた。
「なんでも良いさ。僕が満足出来るものならね」
とザエルが言うと一護は、
「ふぅん・・・」
とだけ呟いた。

その日のメニューは、長ネギの味噌汁に鯵の塩焼き、夏野菜の煮物だった。
味噌汁に入っているネギがいつもの切り方と違ってブツ切りで入っていた。
「ロイ、ネギ食べる時気を付けろよー?」
「なんでー?」
「なんでだろうな?考えてみ」
「う〜ん・・・ザエルは分かるー?」
「・・・こんな簡単な事も分からないのかい?」
と小馬鹿にした様に言えば一護が、
「だったら言ってみ。何に気を付けるんだ?」
「馬鹿馬鹿し過ぎて、答える気にもならないね」
と答えない。
「お前頭良いんだろう?」
「まあね、天才と言っても過言じゃないね」
「じゃあ分かるだろ。言ってみ」
と一護にしてはしつこいくらいに食いさがった。
「うるさいね!こんな物危ないはずがないだろう!毒でも仕込んであるのかい!?」
ヒステリックに叫ぶザエルに呆れる一護。
「んな訳ねえだろ・・・。分かんねえなら分かんないって言えよ」
ロイが、
「あ、はーい!一護、分かったぁ!あのねあのね」
と一護に耳打ちする。
「噛んだときに中身が飛び出して火傷しちゃうから?」
「正解!頭良いなぁ、ロイ!」
わしゃわしゃと頭を撫でてやる一護。えへへー、と嬉しそうに笑うロイ。
「お前は?まだ分かんないのか?」
「そ!それが客人に対する態度なのかい!だからそいつもガラが悪いんだね!」
「あ、地雷踏んじゃった・・・」
それを聞いた一護は絶対零度の微笑みを浮かべたままザエルに向き合う。
「・・・誰の事?」
「そこの水色頭だよ!まったくテーブルマナーもなっちゃいない!野良犬だね!」
「へえ・・・マナーがなってなかったか」
ゆっくりとザエルに近づく一護。
「な、なんだい・・・」
ガッ!と頭を掴んで目を合わせると、
「いくら表面上のマナーが出来ていようがお前みたいに人の心にズカズカ土足で上がり込んでくる馬鹿には育てねぇから安心しろ・・・」
と言うとパ!と手を離した。
「冷める前に飯食えよ。残されても困る」
全員にご飯をよそい始めた。
「一護ー、怒ってるの?」
「ん?ちょっと違うけどな。おかわりは?」
「あ、うん。ちょうだい」
「はいよ。グリは?」
「おう」
「馬鹿なガキだな。一護の逆鱗に触れるなんざ・・・」
剣八がぼそりと呟いた。
「何か言ったか?剣八」
「いんや、俺も飯」
「おう、ザエルは?」
「い、いや、僕は・・・」
「飯食わねえからそんなにヒョロヒョロなんだよ。遠慮しねえで食えよ」
「そうだよ〜、一護のご飯美味しいんだからさ。俺、嫌いなネギの味噌汁好きになったよ」
「やっぱ嫌いだったんか。嬉しいこと言ってくれるな」
なんも出ねえぞ?と言って笑う一護。
「お世辞じゃないよぅ!俺、野菜も食えるようになったんだよ!」
と人参を食べるロイ。
「おー!えらいえらい!グリは?」
「ちゃんと食ってるよ!」
「イールは?おかわり」
「ああ、貰おう」
和やかに進んでいく食事の時間がそこにあった。








11/07/02作 147作目。去年から書いてて漸く書き上がりました。ほのぼのですね〜。
グリの家出模様でした。ザエルも入り浸るのかな?




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