題「初めてのバレンタイン」 | |
今日は2月14日。バレンタインデー。 女の子なら誰でもそわそわ、そわそわ。 意中の人へどうやってチョコを渡そうか。想いを告げようか。きっと前の日からそわそわ。とっても楽しいイベント。 この子も例に漏れず・・・。 2月13日 「ねえ、かか様。お菓子の作り方教えてくれる?」 十六夜が恥ずかしそうに台所に居た一護に話掛けた。 「ん?お菓子?ああ!バレンタインかぁ。俺も剣八と朔と幾望にあげなきゃいけないから一緒に作ろうか?」 「いいの?良かったぁ」 「じゃ、一緒に材料とか買いに行こうか」 「うん!」 二人で連れだって乱菊に教えてもらったお店で、お菓子の材料とラッピングの材料を買いそろえた。 「色々買えたね!かか様」 「そうだな〜、狛村さんには何をあげる気なんだ?」 「えっとね、カップケーキ!これだったら幾つも作れてとと様達にもあげられるでしょ!」 「そっか!そうだな。美味しいの作ろうな!」 「うん!」 台所にて。 「よ〜し!作るぞー!」 「おーっ!」 二人で台所を占拠して明日の為のお菓子を作る。 小麦粉、卵、砂糖、ココアパウダー、揃えてさあ作りましょ! 卵を泡立ててメレンゲを作って篩った小麦粉をさっくり混ぜ合わせ、ココアパウダーも混ぜてチョコ味に。 プレーン味も作ってオーブンへ! 二色のカップケーキが焼けて美味しそうな匂いが漂った。 「上手く焼けたかな?」 「ドキドキするね!」 取り出して、竹串を刺してみる。何も付いてこない。ちゃんと火が通った証拠だ。 「味見してみよう!」 「うん!」 チョコ味とプレーン味を一個ずつ半分こして味見する。 「ん!」 「ん!おいしい!」 成功だ! 冷めてからラッピングする。2個ずつ可愛い袋に入れてリボンを結んでいく。 「十六夜は幾つ持って行くんだ?」 「えっとね、狛むーと射場さんとで2個かな」 「んじゃあとは、剣八達とにぃにとで4つか。ん!出来た!」 チョコ味とプレーン味。人数分ラッピングして、余った分は一角や弓親達隊士の分。明日のおやつにでも渡そう。 14日、本番。 昼休み、七番隊へ行く十六夜。今日はおめかししている。いつものやちるのお下がりの死覇装ではなく、可愛い着物。 薄桃色の地に菜の花の絵が描かれた春らしい着物にさくらんぼの髪飾り。 手には大事そうに抱えた二つの袋が・・・。 「行ってきまーす!」 元気よく出掛けていった。 「こんにちは!狛むー居ますか?」 「おお。十六夜か、今日も元気じゃのう。いつもの縁側で待っちょれ」 「ありがと!あ、そうだ、射場さん!はいコレ!」 「なんじゃ?」 「今日はバレンタインでしょ!だから!HappyValentine!」 「おお!ありがたいのう!こんな可愛い子から貰うたんは初めてじゃ!」 ぽんぽんと十六夜の頭を撫でてやる射場。 「じゃあ、あたし縁側で待ってるね!」 と縁側に座って待っている間、ドキドキしてそわそわと落ち着きなく待っていた。 「おお、十六夜来ておったか」 「狛むー!」 パッ!と立ちあがると手に持っていた手作りのカップケーキが入った、キレイにリボンを結んだ袋を差し出した。 「なんだ?儂にか?」 「う、うん」 受け取ると縁側に座り、 「開けてみても良いか?」 「う、うん。いいよ」 すとん、と隣りに座るともじもじし出す十六夜。隊士たちは遠巻きながら見ていて和んでいた。 特に女性隊士たちは、十六夜を応援していた。 「ほう、可愛い菓子だな。食べても良いのか?」 「うん、そのために持って来たんだもん」 「ありがとう、では早速頂こうかな。十六夜はどうする、こちらで用意した菓子で良いか?」 「うん!」 そこへ女性隊士がお茶を持ってやって来た。 「失礼します。お茶をお持ちいたしました」 「うむ」 大きな狛村の手には小さすぎるように見えるそのカップケーキを見て、 「あら可愛い、もしかして手作り?」 と聞いて来た。 「え!あ、あの!えと・・・」 「やっぱり!ラッピングも自分でしたのね。可愛いわ」 「なんと!十六夜の手作りであったか。では心して味合わなければな」 と優しい目で見つめられ、何を言っていいか分からなくなった十六夜は俯いてしまった。 「あら、あたしはお邪魔ですね。失礼いたします」 そう言ってその場から消える女性隊士。 ぺりぺりと薄紙を丁寧に剥がし、ケーキを食べる狛村。 「ふむ、十六夜は良い奥方になれるだろうな」 と呟く狛村。 「え?」 と顔をあげる十六夜。 「とても美味しいぞ。ふわふわと柔らかいな、このような菓子は今まで食べたことが無い。いや、まっこと美味」 「あ、わ、良かったぁ〜!初めて作ったから美味しくなかったらどうしようかと思ってたの!」 と幾分赤い顔で笑う十六夜に、 「それに今日はまた可愛らしいな。いつもそのような着物を着れば良いのに」 「だって、今日は特別な日・・だし・・・」 「特別?何かあるのか?」 「ううん!こっちの、女の子のお話よ!あたしの用はもう済んだし!」 楽しい時間を過ごし、いつもの時間に帰る十六夜。 「じゃあまた明日ね!」 「うむ、気を付けてお帰り」 と門まで送る狛村。 隊首室に戻ると、ふと、特別な日とはなんであるのか気になった狛村。 「鉄左衛門、今日は何かの日だったか?」 「へ?ああ、バレンタインですな」 「なんだそれは?」 「おなごが好いとる男にチョコやら菓子を贈って告白する日やそうで。後、世話になっとる人にも贈るちゅうとりましたわ」 「ほお、そんな日があったか。ん?では・・・十六夜は?」 「さて、ワシにゃあ何とも分かりませんなぁ。ああ後、3月14日に男がお返しを贈るそうですわ」 「そうか・・・」 では儂も何か贈るとしよう。と思った狛村。 十六夜の気持ちはまだ届いていないが、十六夜もまだ言う気はない。 まだ子供と見ているのなら、まだ時間がある。それまでは甘えられるまで甘えよう。 大人になってこの想いを告げて、どうなるか分からないが簡単に諦める気は、さらさら無いのだから。 その日の夜。 「おう、一護、ケーキ美味かったぞ。お返しは何が良い?」 「剣八が決めてよ。俺が喜ぶ物!」 「ふうん、まあいい、今夜は可愛がってやるよ」 とこちらも甘い夜でしたとさ。 「白?今日は何の日か知ってるかなー?」 「あ?何かあんのかよ」 もぐもぐと一護が持ってきたケーキを食べながら聞く白は全くの素だ。 「今日はねぇ、バレンタインって言ってさ、女の子が好きな人にチョコとか贈る日だったんだけど、知らなかったんだね」 「知るわけねえだろ。んなもん」 ぶ〜、と膨れて白の膝に顔を埋める京楽。 「・・・俺から欲しかったのかよ・・・」 「当たり前じゃないの・・・」 顔をあげもしないで呟く声はくぐもっていた。白は、しゃあねえな。と残ったチョコ味のケーキを、 「ん・・・」 「ん?」 「やるよ、一護からの貰いもんだけどよ・・・」 「ほ、ホントに?いいの?」 「良いよ!良いから黙って食え!」 「うん!嬉しいなぁ、一護君には悪いけど・・・。とっても嬉しい!」 「春水・・・」 「なあに?」 ケーキを一口大に千切ると口元へ持って行ってやった白。 「白・・・、あーん、ちゅ・・・」 と指まで食われた白。 「やっ!馬鹿春水!」 「おいしい・・・。白も食べていい?」 と甘く囁き抱き締める京楽。 「ん・・・、いい、よ」 とこちらも甘い夜を過ごしたようで・・・。 終 10/02/15作 第135作目です。 十六夜、一護、白、それぞれ始めてのバレンタインデーでした。 |
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