題「お年始ノイトラ」 | |
1月3日の夕方、ノイトラは手に紙袋を持って更木家の玄関に立っていた。 中から何やら小競り合いの様な声が聞こえて来たが、呼び鈴を押すとすぐに一護が出て来た。 「明けましておめでとう!ノイトラ。どうしたんだ?剣八に用か?」 「いや・・・。これ、持って来ただけだ」 ぐいっと差し出された紙袋を受け取っていると奥から剣八が出て来た。 「おう、なんだ来たのかよ。正月早々は戦ンねえぞ」 と言ったのを聞いた一護が、 「めっずらしいの」 とからかった。 「うっせえよ、んで何だそれ?」 「あ、なんだろ?」 袋の中を覗くと桐の箱に入った牛肉で、上書きに『松坂牛』と金字で書かれていた。 「ちょっ!おま!これ!」 「家に余ってたの持ってきた」 「なんで?こんな高級なもん貰えねえよ」 照れ隠しに横を向いていたノイトラがこちらを向いて、 「去年、木ぃ折っちまっただろ?その詫びだよ」 「そんなの、あの時の片付けで帳消しにしたのに・・・、子供がこんな気の使い方すんなよ」 と一護はポンポンとノイトラの頭を撫でた。 「まあ良いじゃねえか、丁度足んなかったんだしよ」 「あー、まあな、てかお前とグリが喰い過ぎたんだよ!ったく!」 「余分に買ってねえお前が悪い」 「これだよ!ったく。サンキュ!ノイトラ。助かったよ、今日すき焼きなんだけどさぁ、昨日しゃぶしゃぶしたら、あいつら肉ばっか食ってさぁ。足んなくなって困ってたんだ!良かったらノイトラも喰ってくか?」 「ああ?」 「あ、テスラと約束かなんかあるのか?」 「ねえけど・・、毎日一緒って訳じゃねえし・・・」 「じゃあ良いじゃねえかよ。上がって行け、お前が来なきゃ俺が買いに行かされてたトコだ」 と剣八も誘った。 「野菜も喰わずに肉ばっか食べるからだ。子供がマネすんだろ」 「そんな歳かよ」 そんな会話を聞きながら、良く分からない顔をしながらも一護に、 「お年玉だとでも思ってさ、腹減ってねえのか?」 と言われ、 「いや・・・、嫌がんじゃねえの?あいつら」 と奥に居る子供達を暗に示す。 「ああ、グリとウルは知らねえけど、やちるは喜ぶと思うぜ?」 な?と促され、 「あんたらって変だよな・・・」 と言いながらも漸く家に上がった。 3人連れだって居間に入るとグリが、 「あっ!ノイトラ!何しに来やがった!」 と声をあげた。 「はいはい、騒がねえの!ノイトラが肉持ってきてくれたぞ〜、これですき焼き出来るぞ、良かったな、グリ!」 「う・・・、なんでコイツが?」 「年始なんだろ、気にすんな」 と座りながら剣八が言う。 「ああ、好きな所に座れよ、ノイトラ」 と一護は言うとキッチンへ消えた。 「好きな所って・・・」 「ノイノイ!あたしの隣りにおいでよ!ここ!」 と自分と一護の間の座布団をばんばん叩いて呼ぶ。 「あ?あー」 のそりと横に座ると何が嬉しいのかにこにこしているやちる。 「お前いつも笑ってんな・・・」 「えへへー、そうかな?だって今日はいっちーのすき焼きだもん!すっごい美味しいんだよ!剣ちゃん達のせいで食べられないかと思っちゃった!ノイノイお肉ありがとね!」 「そりゃどうも・・・」 「グリ兄もウル兄もまだ食べた事無いのにお肉無いからお野菜だけになっちゃうとこだったんだよ?」 「あほだな」 「うっせえ・・・」 そんな話をしているうちに一護が鍋を持って来た。 「おーい、ココ開けてくれ」 「ほれ」 中に入ると用意されていたコンロに鍋を置くと火を着けた。 「よし!っと。生卵要るヤツ何人だ?」 「全員分でいいだろ」 と剣八に言われ、 「そおか?そうだな!」 と引き返す一護の後をウルが付いていく。 「手伝います、お母さん」 「ありがとう、じゃあ、この卵と食器類持って行ってくれ」 「はい」 笊いっぱいの卵と茶碗と器、自分達の正月箸と来客用の箸を持って居間に戻る。 カチャカチャと食器を並べて行き、名前の書かれた箸を配る。 「はい!ノイノイの分!」 「お、おお・・」 「卵は好きなだけ使っていいよ!」 「ふーん」 一人一個ずつ渡された卵。 「ワリィ、待たせたな」 とご飯の釜を持って来た一護。 「遅えよ」 「はいはい、ご飯入れるから茶碗寄越せ」 と家族全員にご飯をよそう一護。 「はい、ノイトラ」 と隣りのノイトラに渡すと鍋の蓋を開け、勝手に肉を入れるように子供達に言った。 自分の分のご飯をよそうと、やちるの卵を割ってやった。 「ありがと!いっちー!」 「ん、ほら剣八も」 「ん」 を割って解して渡した。 「ノイトラは?卵割るの得意か?」 「は?まぁ下手じゃねえと思うけど・・・」 なんだ?この甘やかしようは・・・。 「こいつら下手なんだよ。剣八なんか力加減出来ねえのか、全部割れちまうしな」 「ねー!」 「うっせえ、脆いからだ」 と肉を食う剣八に、 「ちゃんと野菜も食えよ、グリも!」 「へーい」 と返事するグリ。 ウルとグリが食べるのを見て、 「美味いか・・・?」 と尋ねる一護。 「ああ、美味い!」 とガツガツ食べるグリに、 「とても美味しいです、お母さん」 と笑うウルに一護も安心したように、 「良かったぁ、食べた事ないっていうから、口に合わなかったらどうしようかと思った!」 と満面の笑みで言う一護に、 「お母さんの作る物はどれも美味しいです。口に合わない物は無いです」 とウルが言った。 「ありがとう、ウルキオラ。おかわりしろよ?」 「はい」 とパクパク食べていくウル。 「おかわり!」 と茶碗を差し出すグリ。 「はいはい、ほらお弁当付いてるぞ?グリ」 と口の周りのご飯粒を取って食べてやった。 「はい」 「ん!」 じっと見てくるノイトラに、 「どした?美味くないか?全然減ってねえけど・・・」 「いや・・、美味いけどよ。いつもこんなんなのか?」 「うん?まあ大体そうだな」 と自分も食べる一護。 「ふうん・・・」 「あー!親父肉食い過ぎだ!」 「うっせえ、お前はネギ食えネギ!頭良くなんぞ」 「うるせえよ!お袋あんまり食ってねえぞ!」 「気にすんなよ、お前ら食えよ」 と焼き豆腐を食べている一護の器にどちゃ!と肉を入れられた。 ノイトラだ。 「食えよ、あんたに詫びとして持って来たんだからよ」 と照れたようにこちらを見もせずに言うノイトラ。 「うん、ありがと、いただくよ」 と食べる一護。 「ん!美味い!肉が良いからいつもより美味いな!」 「ふん・・・」 と食べる時に髪を押えているノイトラに気付いた一護が、 「ノイトラ、髪結んでやるよ」 とエプロンのポケットからゴムを出して、ささっと結っていった。 「これで食いやすいだろ?」 「あ、ああ・・・」 ちょっとびっくりした顔のノイトラ。 「早く食べないとなくなるぜ?」 と促す。 食べて減った具を足していくが、それももう無くなった。 「はいこれでおしまい!残すなよ〜」 と一護も腰を据えて食べ始める。 鍋が粗方カラになると、子供達は箸を置いて、 「ふぃ〜、ごっそさん!美味かった〜!」 「御馳走様でした」 「え〜?もう終わりなの〜?いっちー、おうどんはぁ?」 「あるよ、まだ食うだろ?」 「うん!やったあ!」 きゃいきゃいと喜ぶやちるにノイトラが、 「まだ食うのかよ、お前・・・」 「うん!まだまだだよ!この後おうどん入れて食べるんだ〜!ねっ!剣ちゃん!」 「ああ、まだ足んねえな」 「まじかよ・・・」 「ほら、お前らどうすんだ?食うの?食わないの?」 「うー、ちょっとなら入るかも・・・」 「俺も・・・」 「ん、ノイトラは?」 「俺もあんまり・・・」 「お前少食だなぁ、だから細いんだよ。その割にデカイけどな」 とけらけら笑ってうどんを用意する一護。 「10玉あるけど7玉でいけるよな?」 「充分だろ、残る心配はないと思うぜ、俺は」 とやちるを見て言う剣八。 「だな」 と、うどんを煮込んでいく。味が染みた頃、 「良し!出来た!遠慮せず食えよ!」 と子供達に促す。 「ほら、ノイトラも、ちゃんと食え」 「お、おう」 結局一番多く食べたのはやちるで、その場で寝てしまうくらいに食べた。 「ふふ、可愛いな。ほら、剣八、やちる抱いといてくれ」 「んー」 と剣八にやちるを任せると一護は片付けを始めた。 ウルもグリも手伝った。 「美味かったか?一護の手料理はよ」 とお茶を飲みながら聞いて来た。 「あ?ああ・・・、こんな賑やかに食った事なかったけどな・・・」 「ふうん、ま、俺もあいつと一緒になる前はこうなるとは思わなかったけどよ」 くくっと笑う剣八。 「変な、ヤツだよな・・・」 「まあな・・・」 「こいつも、なんでか、懐いてきやがるし・・・」 とやちるを見るノイトラ。 「ああ、俺がお前と遊んでんの見てっからだろ。俺が楽しそうにしてんの見るのが楽しいんだとよ」 「変なガキだ・・・」 「お前もな」 「ふん・・・」 「ま、今日は助かったぜ。肉も美味かったしな」 「けっ!」 どやどやと一護達が戻って来た。 「ああ、ノイトラ。今日はもう遅いから泊まってくか?」 「イヤ帰る。ここ、騒がしいし」 「そうか?」 「ああ」 と立ちあがり玄関に向かうノイトラ。 「じゃな、ごっそさん」 「ああ、またな。今度はテスラと一緒に来いよ」 「ああ、取りあえず言っとくよ」 「うん、おやすみ、気を付けてな」 「ん・・・」 見送る一護に挨拶を返すノイトラ。 マフラーを巻いて家路に着くノイトラ。 アイツ何が好きだっけ?野菜か?サラダばっか食ってる気がすんな。 などと考えながら、今度は菓子でも持って行くかと考えるノイトラだった。 終 10/02/19作 第133作目です。 ノイトラのお年始in剣八一家。肉の取りあいは付き物かと(笑) テスラってサラダばっか食べる気がするのは何故でしょう?草食系か。 |
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