題「幸福」
 朝、ふと目が覚めた。いつもなら一護に起こされて目が覚めるのにどうした事か。
隣を見れば安らかな寝息を立てて一護が眠っている。その穏やかな顔に見入って髪を梳いているとその手に擦り寄ってきた。
「ん…」
あまりにも無防備で安心しきっている様子の一護。
「この俺相手にここまで安心しきるなんざ、やちるとお前ぐらいのもんだ」
そう言って愛しい存在を抱きしめた。

 次に目を覚ました時には隣に一護の姿はなく、台所の方から何やら楽しそうな声が聞こえて来た。
「なんだ…?」
むくりと起き上がり、賑やかな声のする方へ行ってみる。そこには一護とやちるが何やら大きなビンの中身を掻き混ぜていた。
「そうです。底の方から掻き混ぜる様にしてください」
「んしょ、んしょ、こう?こうで良い?いっちー」
「はい、お上手です。きっとこれも美味しく出来ますよ」
「ほんとに!?ねぇいっちー、ほんとに?」
「はい。やちる様が手伝って下さったのですから特別美味しくなるに違いありません」
「うわぁい!早く出来ないかな!楽しみ〜!」
「はい、俺も楽しみです」
冬の朝の柔らかな光の中でそんな光景を見た。黙って突っ立ったまま見ていると一護が俺に気付いた。
「あ、おはようございます。剣八様。今起こしに行こうかと思っていたのですが…」
「構わねえよ。飯は出来てんのか?」
「はい。ではやちる様、朝ご飯にしましょう」
「はーい!」
前を歩く二人を見ながら何やら思考の片隅で何かが引っ掛かる。不快ではないが気になる。

なんだ?これは…。

「剣八様、どうかなさいましたか?」
「あ?」
ふと気が付くと一護が不安そうな顔でこちらを窺っていた。いつもと違う自分に気付いたのだろう。
「何でもねえよ。味噌汁のおかわりくれ」
「はい」
それも飯を食って隊舎に着く頃には忘れていた。

 仕事も無事に終わり、三人で家へと帰る。
食事も済み、風呂も済ませると一護が何やら大きな瓶を持って居間にやってきた。
「なんだそりゃぁ?」
「はい、これはやちる様と作っていたジンジャーシロップ第一弾です。漸く完成したので皆で頂こうかと思いまして」
「あ?朝に台所でごちゃごちゃやってたあれか?」
「はい、あれより前に仕込んでいたモノです」
「わあ!出来たんだ!楽しみ〜!」
話している間に3人のマグカップにシロップを入れ、火鉢にかけていた鉄瓶からお湯を注いでいく。
「わぁ、いい匂〜い!」
湯気と共に生姜と蜂蜜、シナモンの香りがふんわりと漂う。
「どうぞ。剣八様には少し甘いかもしれませんが…」
カップをお膳に置き、隣に座った一護を引き寄せる。
「え?うわ!」
一瞬のうちに胡坐を掻いた足の中にその体を納めた。
「剣八様?」
「おめーはここに居ろ」
と言われた一護は驚きつつも嬉しそうにそこに落ち付いた。
「あー!剣ちゃんばっかりずるい!あたしもー!」
とやちるが一護の膝を占拠した。
「熱いですから気を付けてくださいね」
とやちるに声を掛ける一護とやちるは現世で購入したお揃いのパジャマだ。
袖口が長く指先まで隠れてしまっている姿は剣八のお気に入りとなっており、他にもセーターなどをパジャマと同じく現世出張の折に買っている。
一護の膝の上でふぅふぅとホットジンジャーを吹き冷ますやちる。そんなやちるを抱きしめている一護を見ながら剣八もホットジンジャーを飲んだ。
「甘ぇが悪くねえな」
剣八の言葉に一護は、
「良かった…」
と嬉しそうに微笑んだ。

 暖かい部屋とホットジンジャーを飲んで体も温かくなったやちるが一護の膝の上で舟を漕いでいた。
「もう寝ましょうか、やちる様」
「うん…」
もう半分夢の中なのだろう、目が開いていないやちるを抱いて部屋に連れていった一護。
「おやすみなさいませ、やちる様」
「おやすみ、いっちー…」
すぐに安らかな寝息が聞こえて来た。
やちるを寝かしつけ、居間に戻ってきた一護。
「よくお休みです」
と告げた。
「そうか。もうそろそろ炬燵でも出すか…」
「そうですね。朝夕と冷え込みますから…。剣八様、おかわり如何ですか?」
「いや…」
「このシロップはお酒で割っても美味しいそうですよ」
「…もらうか」
「はい!」
再び一護を胡坐に納め一緒に飲む。
「このお酒はホワイトラムというそうですよ」
「ふうん」
いつもの日本酒や焼酎とは違う風味を楽しみつつ、自分の胡坐の中に納まっている一護を見る。
長めの袖で見え隠れする指先。その細い指がカップを持ち、ふうふうと息を吹きかけホットジンジャーを飲む一護。
ほっこりと笑うその顔を斜め上から見ている剣八。ふと、

「ああ…幸せだ」

と思った。その思考にらしくないと自嘲したが満更でもない自分に気付く。今まで何も感じなかった。幸も不幸も…。
なのに今、自分はハッキリと幸せだと感じたのだ。今、この腕の中に居る存在のお陰で…。くしゃくしゃと一護の頭を撫でる剣八。
「どうかされましたか?剣八様?」
「いや…」
カップに残った酒を飲み干し、
「お前が欲しくなった」
と言うと一護を抱き上げた。
「え?あ…」
「お前を寄越せ」
と寝室へ連れていった。

 とさり、と蒲団の上に一護を押し倒すと口付けた。
「ん…ん、ん、ふぁ、んん…」
「は…甘ぇな…」
トロリとした互いの唾液が唇を繋ぐ糸となり二人の唇を繋いでいたが重力に従い、すぐにプツリと切れてしまった。
その濡れた唇を自身の長い舌で舐めると一護の首筋に顔を埋めた。
「あ…」
薄い唇から伝わる一護の脈動。ドクドクと常より早いそれに気を良くし、口の端を持ち上げる剣八。
「あ!ん、んん!」
その太い血管に吸い付き、赤い痕を付けては舐めた。
「ふ、ふあ!あ、熱い…ん!」
パジャマの裾から手を入れ、腹から手を這わしていく。
「あ、あ…」
常にない手順に一護の身体はびくり!と過剰に反応した。それに気を良くした剣八はそろそろと両手の平を脇腹や胸へと這わせる。
「ひぅっ!ん!ん!くう、ん!」
びく!びく!と震える身体、聞こえるくぐもった声に一護の顔を見るとその口元を手の甲で隠していた。
きゅ!と閉じられた目とその口を覆うは指先まで袖に隠された手の甲で、その袖を噛み締めているようだ。
「一護…」
その姿に己の欲情が余計に煽られた。逆効果しか齎さなかったその努力に柔らかく笑いながら、その頬を指で撫でてやる。
「ふぅんッ!あ…剣八様…?」
「声、抑えんな」
とその唇を啄ばんでやる。
「ん…でも…」
「良いから、聞かせろ」
そう言うと止まっていた愛撫を再開させる。
「ひあ!」
予告もなしに胸の小粒を指で摘まんでは捏ねてやった。
「お、もう固くなってたな」
「うぅん!はっ!ああ!」
上着を脱がせ、下肢へと手を伸ばせばそこも既に兆していた。
「ああ!」
「今日はいつもより敏感だな…?」
ズボンの上から緩く形をなぞり続けていると其処ははっきりと形を変えてきた。
「あ、あ、け、剣八様、ああ!」
このままでは下着もズボンも汚してしまいそうだな、と考えた剣八は素早くそれらを脱がせてやった。
「あ!」
プルン!と勢いよく飛び出した一護の中心は既に蜜を溢れさせていた。
「ああ…濡れちまったな」
それをやんわりと掴むと長い舌で先端を舐め、ちゅう!と溢れる蜜を吸い取った。
「ああっ!剣八様ぁ…!」
「一回イッとけ」
と口に頬張るとあっという間に一護をイかせた。

 粗方飲み干すとそのままヒクヒクと誘う可憐な蕾へと舌を這わせ、柔らかい其処へくにゅくにゅと舌を入れていった。
「ひあぁあ!あ!あ!やあぁあん!あ!あ!舌、入れちゃ、だめぇ…!」
「良くねえか?」
「そ、そんな!ああ!」
「…言えよ、一護?」
「ん、んん…!け、剣八様、意地悪です…!」
「くく!今さらだな」
と意地の悪い笑みを零すと今度は指で解してやった。
「あ!あああ!」
パタタ!と一護の腹に少量の白濁が零れた。ひくひくと自分の指を食む其処に早く自身を突き立てたいと珍しく気が急いている剣八。今日は自分も勝手が違うようだ。
「お前のせいだな…」
「え…?」
剣八の一人言にきょとんとした眼差しを向ける一護。だがその目は既に欲情に蕩けていた。
「なんでもねぇよ」
と呟くと一護の腰を抱え直し既に痛いほどに滾っている己自身を宛がい擦り付けてやる。
「は!あ!ああ!や…!もう、きてくださいまし…!」
擦り付ける度にくちゅくちゃといやらしい音を立てる。それはお互いの耳を犯した。
「ああ…!いくぞ」
ぐぐ…、とゆっくり中へと這入っていく剣八。
「ん、んああ…あ、あ」
「は…、あったけぇ…」
自身の全てを一護の中へと納め、一護の耳元で囁けば、
「ふ、ふぁ、は、あ、熱い…剣八様の…あつい、です…!」
涙を滲ませ、頬を朱に染めた一護が懸命にその熱を伝えてくる。震える愛しいその身体を抱きしめ、キスの雨を降らせる剣八。
「一護…一護…」
「ん、ん、ああ…剣八様ぁ…あ、あ…」
健気にも己を抱きしめ返す一護の髪を梳いては口付けし、その身体を撫でさすった。
「ん、ん、剣八、様、ああ…!」
「一護、お前の中はいつもあったけぇなぁ…」
すり、とその滑らかな頬に頬ずりし、その耳元で囁いた。
「ひん!」
その吐息にも敏感に反応し、中の剣八を締め付けた一護は次の瞬間に達してしまった。
「ひっ?ひあぁあ!あああ!あ、あーーっ!」
「クッ!てめぇ、いきなりかよ…」
予期せぬ強い締め付けに油断していた剣八も達してしまった。
「ふあ!ああ!あ、あ、け、剣八様の…奥に、ああ…きもち、い…!」
びくびくと食む様に締め付ける中ですぐに回復する剣八。その固さと脈動で一護は再び気をやった。
「あああ!やッ!だめぇ…!なんで…?あ!あ!やぁあああ!」
背を撓らせ、白く細い首を反らせる一護は歓喜の涙を流していた。
「あ…、はっ!はあ!ああ!剣!八!様ぁ!あ、あ、や!きょ、今日…変です!ああ!こ、こんな!や!ま、また!」
「イキっぱなしかよ…堪んねえな…!」
舌舐めずりしながら目の前の一護の首に噛み付き、一転して動きを激しくし最奥を突いた。
「ひぃッ!ああっ!ああっ!あっあっあっ!いい!奥、きもちいい!剣八様!ああっ!もっと…もっとして…!」
「ああ、気が済むまでやってやるよ…!愛してるぜ、一護…!」
「ああっ!お、俺も!俺も愛してます!剣八様!ああ!あっ!あーーっ!」
「くう!」
今度は二人同時に達し、暫くはお互いを抱きしめ動かずにいた。

 お互いの荒い息が整うとどちらからともなくちゅ、ちゅ、と啄ばむ様な口付けを繰り返した。
「剣八様…ん…ふ…」
「一護…一護…」
未だに一護の中に入っていた剣八の分身がまた復活した。
「まだまだ足らねえ…まだ離してやれねえな」
「ん…!どうぞ…お心のままに…俺を愛してくださいませ、剣八様」
「は…ッ!良い返しだな、一護。朝まで愛してやるよ…」
その言葉に背筋がぞくぞくするほどの幸福を感じ取った一護。
意識が飛ぶまで身も心も愛され尽くし気が付いた時は剣八の腕の中で寝ていた。剣八の寝顔を眺めながら、
「俺はなんて幸せなのでしょう…。ありがとうございます、剣八様」
と呟き、その胸に擦り寄りまた安らかな眠りへと戻っていった。
「俺のセリフだ、馬鹿野郎」
そんな囁きがあった事は知らない一護だった。






14/11/19作 本当は良い夫婦の日にアップしようかと思ってたんですが内容的に剣誕に捧げようと思い直しました。
この話を思い付いたのはタ/ゴールの『幸福』と言う詩の一節「幸福はいたって単純なものである」から閃きました。
2014年、剣八、誕生日おめでとう!



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