題「愛し子の誕生日」
 2月にやちる様のお誕生日があると教えてくれたのは綾瀬川様だった。
初めての結婚記念日を終え、お正月を迎え次はバレンタインだと考えていると綾瀬川様に、
「ねぇ一護君。もうすぐ副隊長のお誕生日だけどプレゼントとか考えた?」
と尋ねられた。
「え?」
「ん?あれ?もしかして一護君、知らなかったの?」
「は、はい・・。やちる様の、お誕生日・・・お誕生日!い、いつですか!?それは!」
「落ち着いて。2月12日だよ。まだ時間はあるから」
慌てる一護を窘める弓親。
「そんな、去年もお祝いしておりません。俺は・・お二人にあんなにも祝って頂いたのに・・・」
しゅん・・・、と落ち込む一護。
「隊長も副隊長も教えてくれなかったのかい?まあね、あの二人は自分の誕生日なんて気にしてないだろうし、去年は色々あったからね」
と慰めるが一護は、
「いいえ!いいえ!俺がきちんとお聞きしなければいけなかったのです!やちる様は俺の家族なのに!」
「そうだね。じゃあ今年は去年の分もお祝いしなきゃね」
「はい!頑張ります!」
ようやく元気になった一護は12日の為に仕事を片付け、誕生日プレゼントや御馳走を考えるのだった。

 仕事が終わると一護は剣八を捕まえた。
「剣八様!」
「おう。どうした?そんなに慌ててよ」
「はい、あのやちる様は?」
「ああ、先に家に帰ってる。なんだ?」
「あのですね、2月12日はやちる様のお誕生日だとお聞きしたのです。ですが俺は今日まで知らなくて・・・。去年はお祝いすることが出来なかったのです」
「ああ・・・。そういやぁ、やってなかったな」
「そうなのです!俺や剣八様のお誕生日はお祝いしましたのに・・・。きっと寂しい思いをさせてしまったと思うのです・・・」
お優しい方ですから。と俯いてしまった一護を抱き寄せると、
「じゃあ今年はその分も祝ってやれば良いじゃねえか。美味い飯作ってやれよ。お前の作るもんならアイツも喜ぶだろうしな」
と言ってやった。
「そうでしょうか・・・」
「お前はアイツの母親みてぇなもんだろうが。喜ばねえガキが居るかよ」
そう言って頭を撫でてやった。
「はい!有難うございます!剣八様!」

 次の日から一護はやちるのプレゼントを探しを始めた。一つはもう決まっている。
柊南天の鉢植えだ。派手な花ではないがその花言葉がとても気に入った。それと後は何か形に残る物が欲しかった。
「料理やケーキは全部食べてくれるだろうし・・・何が良いかな?」
と色んな店を覗いてはコレを贈られたらやちるは喜んでくれるだろうかと想像した。

 そして誕生日当日。
非番を貰った一護は朝から御馳走を準備し、特別なケーキを焼いてやちるが帰って来るのを待った。
「たっだいまー!いっちー!」
「お帰りなさいませ!やちる様!」
「おう、帰ったぞ」
「お帰りなさいませ!剣八様!」
仕事から帰った二人を満面の笑みで出迎えると、
「さあ早く手洗いうがいをなさってください。すぐにご飯に致しましょう!」
「はあーい!」
「おう」
二人が着替えている間に居間にはたくさんのごちそうが並べられていた。そのどれもがやちるの大好物だった。
「うふふ。やちる様喜んでくれると良いなぁ」
と呟いていると明るい声が近付いて来た。
「いっちー!お腹減ったよ〜!今日のご飯なぁに〜!」
スターン!と勢い良く障子をひたいたやちるの目に入った光景は・・・。
「う・・わあ〜〜!なにこれなにこれ〜!美味しそう!あたしの好きなのばっかだぁ〜!うわぁ〜!どうしたの?今日なんかの日?」
興奮し頬を赤くしながら一護に問い掛けるやちる。
「今日はやちる様のお誕生日でしょう?」
と言われて漸く今日が自分の誕生日だと思い出したやちる。
「あっ!そうだった!」
「そうですよ。さあ、ご飯の後はお誕生日ケーキもありますからね」
「やったぁ!あたしの?あたしの?」
「はい。やちる様の為の特別なケーキですよ」
「わぁあ〜い!」
身体全体で喜ぶやちるを見て一護も嬉しくなった。
「おう、何はしゃいでんだ」
「あ!剣ちゃん!今日ね!今日ね!あたしの誕生日だったの!それでね!いっちーがこんなに御馳走作ってくれたの!ケーキもあるの!」
剣八の足に飛びついて説明するやちる。
「ほう、良かったな。ほれ」
と大きな包みをぽすっ!と桃色の頭に乗せる剣八。
「?」
「あんま一遍に食うなよ」
包みを開けると中から出て来たのは色とりどりの金平糖だった。
「わあ!ありがとう!剣ちゃん!」
「おら、早く飯食うぞ。腹減ってんだよ」
「うん!」

 食事が済めば次はケーキだ。
「ケーキですよ〜」
「うわ〜い!おっきい!」
2段重ねの誕生日ケーキには砂糖菓子で出来たバラや人形が乗っていた。
「これってもしかして剣ちゃんといっちーとあたし?」
「はい。あまり上手くないですけれど・・・」
「そんなことない!わぁ〜・・・これ食べれるの?」
「はい、バラもお人形も食べられますよ」
「すごいね〜」
「さあケーキも食べて下さいね」
「うん!まだまだ食べられるよ!」
自分の為だけに作られたケーキを大切な人と食べ、幸せな時間を過ごすやちる。
「ふわぁ〜!もうお腹いっぱい!いっちー、ご飯もおケーキも美味しかった〜!」
と一護の膝に甘えるやちる。
「あの、やちる様。プレゼントもあるのです。受け取って頂けますか?」
「え!ホントに!うん!欲しい!」
「では少しお待ちになってください」
と居間を出て行った。
「プレゼント・・何かな」
一護が出て行った後の障子をじっと見つめるやちるを剣八はいつになく優しい顔で見ていた。

「お待たせしました」
と戻ってきた一護の腕には何かの鉢植えと小さな箱があった。
「いっちー、その鉢植えなぁに?」
「これは『柊南天』の鉢植えです。花言葉が素敵だったので是非やちる様にと・・・」
「ひいらぎなんてん」
「はい、この木の花の花言葉は『愛情は増すばかり』というのです。俺のやちる様への愛情は増える事はあっても減ることはありませんからピッタリだと・・・やちる様?」
「うぇえええ!うれしいよう〜!いっぢ〜!うぇええええ〜ん!」
その大きな目から滝の様な涙を流しながらやちるが泣いていた。
「やちる様・・・!あ、あの、もうひとつプレゼントがあるんです」
「ふえ?」
差し出されたのは小さな箱だった。
「あ、あけてもいい?」
「ええ、どうぞ」
ぐずぐずと鼻を啜りながら箱を開けると中から出て来たのはブローチだった。
「あ、これ、ピンクダイヤだ・・・」
それは金で出来た台に大小様々な大きさのピンクダイヤで出来たブローチだった。
「やちる様はあまりアクセサリーをお持ちでない様なので。これはいつかのベビーリングと同じ石ですから気に入って頂けるかなと思いまして」
と話している一護に抱きついたやちる。
「いっちー、ありがと。大好きだよ。剣ちゃんもいっちーも大好き!」
「やちる様。去年はきちんとお祝い出来なくて申し訳ありませんでした。こんなにも大切な貴女の生まれた日を俺は人に聞くまで知らなかった」
一護もその小さな身体を抱き締めた。
「いいよ!そんなのいいよ!だって今年は、今日はお祝いしてくれたもん!嬉しい!」
「やちる様!」
抱きしめ合う二人を見ていた剣八が、
「おいやちる。俺からももう一個やる。今日は一護と一緒に寝ても良いぞ」
と言った。
「剣ちゃんは?」
「あん?」
「剣ちゃんも一緒に寝よ?」
「剣八様」
「・・・今日だけだからな」
にっこりと笑う二人には勝てず、その日は剣八と一護の寝室で親子の様に川の字で寝たのだった。






13/02/12作 やちるの誕生日でした。リハビリでーすー。




ドール・ハウスへ戻る