題「冬支度」
 木枯らしが吹き、紅葉も見頃を迎えた季節。
「随分と寒くなってきましたねぇ・・・」
ショールを首に巻き、買い物に出ていた一護が指先を吐息で温めながら呟いた。
最近やちるが蒲団が冷たいと言っては炬燵で寝ようとしているのを思い出した一護。
「どうしましょう・・・ん?」
金物屋の前を通るとそこの主人が何かを売り出していた。
「あったかいよ!あったかいよ!これがあったら一人寝の蒲団ももう冷たくないよ〜!其処行くお兄さん!一つどうだい!」
と若い死神に声を掛けている。
「あの・・・」
「はいよ!」
「これは何ですか?お蒲団に入れるんですか?」
と積まれている商品を指差して訊いてみた。
「おや、湯たんぽを知らないんだねぇ。ま、今の若い子はそうだろうね」
と陽に焼けた顔をくしゃくしゃにして笑うおじいさん。
「これはねぇ、中に熱湯を入れて蒲団や足を温める物さ。勿論火傷しないように布を巻かなきゃいけないよ」
「はぁ〜。なるほど!良いモノですねぇ!」
一つ湯たんぽを持ってじっくり眺めている一護。
「形は皆この丸い物しか無いのですか?」
「うん?いやいや可愛い物もあるよ。ほら、これなんか可愛いだろう?」
と見せてくれたのは真鍮で出来た湯たんぽ。猫が丸まっている形をしていた。
「まぁ・・・!まるで本物の猫のようです!」
「気に入ったかい?」
「はい!これを頂けますか?」
「はい、ありがとうね!火傷しないように気を付けるんだよ」
と包んでくれたそれを胸に抱きしめ家へと帰る一護。

 家に着くと夕飯の支度を始めた。
ざくざくと白菜を切ってざるに盛っていく。
エノキダケや飾り切りにした椎茸、豆腐、春菊、長ネギを用意して最後に鶏肉を切っていく。
「今夜は水炊きですよ」
と昼間に剣八とやちるに言うと、
「ねぇいっちー、つくねも入れてね」
と可愛くおねだりされたので作っておいた。
居間では大きな土鍋が用意されていた。
「お待たせしました」
「おう。またえれぇ量だな」
と笑う剣八が一護から笊を受け取る。
「はい、今夜は寒いですから沢山食べて下さいね」
と鍋を作っていく。
「あ!つくねだ!いっぱいある!」
「はい。たくさん食べて下さいませ」
「うん!」

 もうもうと上る湯気の向こう。剣八ややちるが頬を上気させ鍋をつつくのを見て満たされる一護。
「ん?何してんだ、お前も食え」
気付いた剣八が器に肉や野菜を入れてくる。
「頂いていますよ」
はふはふと食べている一護の頬も上気していく。そんな一護を見ながら、
「・・・今度ぁすっぽん鍋でも食いに行くかぁ?」
と一護を誘う剣八。
「すっぽん鍋ですか。まだ食べた事がないです」
楽しみですね、と笑う一護に今度の非番の日に連れて行こうと決めた剣八だった。

 食事が済むとやちるに風呂を勧める一護。
その間に湯たんぽを用意していると、
「なんだそりゃ?」
と剣八が声を掛けて来た。
「あ、剣八様。いえ、夜になると冷え込みもキツくなるのでやちる様にと今日買ったんです」
「ふうん・・・」
熱湯を注ぎ終えるとキツく栓を閉め、火傷しないようにと何重にも布を巻いた。
「よっと、これで大丈夫かな?」
「大丈夫だろ」
と剣八に言われ、安心しそれをやちるの蒲団の中に入れて置いた。
「お前のは買わなかったのか?湯たんぽ」
「え?はい、俺には剣八様がいらっしゃいますから」
とにっこり微笑まれた。
「そうかよ・・・」
くしゃりと一護の頭を撫でてやる剣八。
「いっちー、お風呂出たよー」
と出て来たやちるに温かいお茶を飲ませると、
「さ、湯冷めしてしまう前にお蒲団に入って下さいな」
「はぁ〜い」
自分の部屋に入ったやちるは蒲団がいつもより盛り上がっているのに気付いた。
「なんだろ・・・?」
掛け布団を捲って見ると中にはあったかい湯たんぽが入っていた。
「うわぁ!あったかぁい!いっちーだ!わぁ〜!もう冷たくない!」
いそいそと蒲団に潜り込み、朝になったらお礼を言おうと眠りに就いたやちる。

 翌朝、いつもの様に起こしに来てくれた一護にお礼を言うやちる。
「いっちー!湯たんぽありがとう!すっごくあったかかった!」
「それは良かったです。まだ温かいこのお湯で顔を洗ったりするそうですよ」
「そうなんだー。あ!にゃんこだ!この湯たんぽ!」
昨晩は布に隠れて見えなかった形を見て喜ぶやちる。
「気に、入って貰えましたか・・・?」
「うん!可愛いね!本物の猫みたい・・・!」

 その日から湯たんぽはやちるのお気に入りになった。
一護が作ってくれた黒猫の湯たんぽカバーもお気に入りだ。
女性死神協会の会議の時に自慢すると砕蜂にえらく羨ましがられたそうだ。






12/11/20作 ちょい短いけど湯たんぽで思い付いたので。
湯たんぽ良いですよ。私も使ってます。普通の丸型のヤツですけどね。半日以上あったかいですよ〜!
すっぽん鍋は食べた事ないけど、あれ食べたら本当にすごい事になるのかな?まあ一護は確実に翌日動けませんよね(笑)


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