題「愛する者の誕生日」
 ある日、やちるが一護に問いかけた。
「ねーいっちー、いっちーのお誕生日っていつ〜?」
それに対しての一護の答えは、
「お誕生日・・・ですか?俺にもあるのでしょうか?分からないです」
と心底困った様に言った。
「そうなの」
「はい、申し訳ありません」
と逆に謝られてしまったのだ。
やちるはそれを剣八に相談した。すると、
「卯ノ花に聞きゃあ言いだろうが。あいつが母親なんだしよ」
と言われ一緒に四番隊へと赴いた。

 四番隊。
「おう、卯ノ花は居るか?」
「は、はい!」
近くに居た隊士に声を掛けていると本人がやってきた。
「あら更木隊長にやちるちゃん、どうされました?お怪我ですか?」
「違えよ。一護の事だ、ちっと良いか」
「一護の・・・、ええ、どうぞ」
と個室に案内した。

「で?一護がどうかしましたか?」
茶を出されてから聞かれた。
「あのね〜、いっちーのお誕生日っていつなの?今朝訊いたら分かんないって言ってたの」
「一護のお誕生日ですか・・・。そうですわね、人になった日をそうとするのなら確か・・・7月の・・そう、15日だったかしら」
人形として作られた日は分かりませんし、と付けくわえた。
「7月15日か・・・」
「後一週間だね!プレゼント何にしよっか!」
「だなぁ・・・」
「あらあら楽しそうですわね。宴会をなさるのなら私も少し顔を出しますわね」
「うん!来て来て!絶対にいっちー喜ぶから!ねっ!剣ちゃん」
「ああ。じゃあな、邪魔したな」
と帰って行く剣八とやちる。そんな二人を笑顔で見送る卯ノ花隊長だった。

 剣八とやちるが家に帰ると先に帰っていた一護が夕飯の支度をしていた。
ご飯の炊ける匂いと共に香ばしい油の匂いが漂っていた。
台所を覗くと一護が大汗を掻きながら天ぷらを揚げていた。
(このくそ暑い中なんだってわざわざ暑い思いして天ぷらなんざ・・・)
と考えているとやちるが、
「いっちー、剣ちゃんが朝に言った事覚えてたんだ〜」
と呟いた。
そう言えばと思い出した。朝食の時に、
「夏になるとなんかこう、油モンが食いたくなるな。天ぷらとかよ」
と言ったのだ。
あんなどうでも良い一言で大汗を掻きながら楽しそうに天ぷらを揚げている一護を見て、どうしようも無く愛しさが募ってきた。
「あ、お帰りなさいませ、剣八様、やちる様」
「おう・・・」
「ただいまー!いっちー!」
「もうすぐ出来あがりますのでお待ちくださいね」
と額の汗を拭う一護。
ああ、なんと愛おしいのだろう。この愛しい伴侶を喜ばせる為なら何でもしようと柄にも無く考えてしまい、思わず一護を抱き寄せ頬に口付けをした。
「剣八様?」
「お帰りのキスが遅かったからな・・・」
と誤魔化すとさっさと居間に消えてしまった。
その日は一護の揚げたての天ぷらに舌鼓を打ちながらも何をやれば喜ぶだろうと考えていた剣八だった。

 7月15日。
漸く贈る物を決めた剣八だったが緊急の討伐が入ってしまい、一角と連れだって流魂街に来ていた。
「あー、畜生、なんだって今日なんだよ!空気読めよな、馬鹿虚がよ」
と一角がぼやいていると、
「あほか、こう言う仕事だろうがよ」
と剣八に言われてしまった。
「すんません、隊長」
(隊長が一番悔しいんだよな、なんてったって一護の初めての誕生日なんだし・・・)
「ボケッとしてんじゃねえぞ!一角」
「はい!」

 十一番隊の道場では宴会の用意が女性メンバーと弓親達によって進められていた。
「今日でなくともねえ・・・」
「何も更木隊長じゃなくても・・・」
と言った声も聞こえていたが一護は何も言わなかった。
任務の報を聞いた時、十一番隊隊長・更木剣八の妻として、また剣八自身を愛している一護として戦いに赴く夫を止めるという選択肢は無かった。

戦いを愛する夫、強いモノと戦う事が至上の喜びだと知っている。止める事など出来はしないから一護は戦いに赴く剣八を笑顔で送り出したのだ。

「ちょっと一護、良いの?」
「何がですか?」
「何がって!今日はあんたの誕生日でしょう!そこに旦那が居ないだなんて!」
「ああ・・・。良いのです。剣八様はちゃんと祝って下さいますから」
にっこりと笑う一護。
「一護・・・」

 宴会に来てくれた沢山の死神達にお祝いの言葉を貰い、御馳走やケーキを食べ、プレゼントを貰った。
だがまだ其処に剣八の姿は見えなかった。
夜も更け、もうそろそろ解散かと言う時刻になり、羽織りを血だらけにした剣八が漸く帰還した。
「隊長!」
「更木隊長!」
出迎える者に目もくれず、
「一護」
とその名を呼んだ。
「お帰りなさいませ、剣八様。ご無事で何よりでございます」
一護が出迎えた。
「おう。ほれ」
と差し出されたのは鉢植えの花だった。
「これは・・・?」
初めて見る鮮やかな花にその真意を問う一護。
「今日はお前の誕生日だろうがよ。どんな物贈って良いか分かんねえし、お前育てんの好きだろ」
「剣八様・・・!俺は・・・!貴方がご無事であれば、無事に生きて帰って来て下れば・・・!それが何よりの!剣八様!良く、良くご無事で・・・!」
「知ってんよ。けどそれに胡坐掻いたままじゃ男が廃るだろうがよ」
一護は剣八に抱き付いて泣いてしまった。
「剣八様、剣八様ぁ・・・!」
そんな一護を抱きとめ、
「一護・・・、コイツの花言葉はお前が調べろ」
と一護にだけ聞こえる声で囁いた。
「はい・・・!」
剣八自身に怪我は無く、一角も無事でそこから宴会はまた盛り上がった。

 日付が変わる頃、解散となり家に帰る剣八とやちると一護。
「剣八様、この花の名前は何と言うのですか?」
「ブーゲンビリアだとよ」
「ブーゲンビリア・・・」
庭に鉢植えを置くと家の中に入り、風呂に入ると二人の寝室に入った。
「一護・・・。誕生日・・・」
中に入るなり、剣八に抱きしめられ耳元で囁かれた。
「あ・・・っ」
ふわりと蒲団に押し倒され、深く口付けられた。
「ん、ん、ふぅっん、あ、はぁ・・・」
はっ、はっ、と息の乱れている一護の首筋に吸い付き、所有の印を付けていく。
「ん!あ、剣八様ぁ・・・あ!」
薄らと目を開けると行燈の光に照らされた剣八の姿があった。剣八の目は真摯で一護の全てを見据えていた。
「あ、やぁ・・・見な、いで・・ああ・・・!」
「駄目だ、一護、一護、見せろ。お前を、お前の全部を俺に見せろ・・・」
「俺の全ては剣八様のです・・・!」
「一護・・・!」

「んっはぁ・・・!あっ!あっ!あっ!やっ!また、イク!剣八様!」
「一護・・・」
その夜の剣八は乱れる一護の姿を全て見ていた。

恥ずかしくて身を捩る一護

達する時にシーツを掴んで背を反らす一護

縋る物が無く剣八に両手を伸ばす一護

感じすぎて泣いてしまった一護

「一護、一護、お前だけだ・・・、一護、好きだ、愛してる。俺に惚れてこの姿になってくれてありがとよ・・・」
「ふ、ふぁあ!け!剣八様ぁ!」
「誕生日、おめでとう・・・」
「あ!ああぁあぁあっ!」
二人同時に達すると一護は気を失ってしまった。
「やり過ぎたか・・・。まあ良いか・・・」
自分だって照れくさいと一緒に風呂に入ると新しい蒲団で一緒に眠った剣八。

 後日、ブーゲンビリアの花言葉を調べた一護。
その日一日、剣八の顔を見ては赤くなり、花を見ては一人照れる一護が見られた。

ブーゲンビリアの花言葉は・・・

『貴方しか見えない』






12/07/12作 Happybirthday!一護!剣八は物よりも生きて繁栄する花を選びました。
近所にものっそい茂ったブーゲンビリアの木があります。冬でも咲いてるのにはちょっとびっくり。



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