題「お弁当日和」
 一護と剣八が結婚してからやちるは気を遣っているのか、昼時になると女性メンバーの所に行くようになった。
今まで一緒に昼食を食べていたのにと一護は少し寂しがっている。
「だっていっちーと剣ちゃんは新婚さんなんでしょう?邪魔しちゃだめーって言われたもん」
 と明るく言っていた。
せめてお弁当は同じものをと一護はやちる用にお弁当を詰めてやる。その事にやちるは大喜びしていた。

  だが夕飯時に、
「いっちー、あたし可愛いお弁当が良い」
 と言い出したのだ。
「美味しくなかったですか?」
 と一護はしょんぼりとして聞いてしまった。
「違うの!とっても美味しいよ!でも、皆のお弁当、すごく可愛いんだもん・・・」
 と手をもじもじさせながら俯いてしまったやちる。
そう言えばお弁当の中身自体を残してくる事は全く無かった。
「詳しく訊いてもよろしいですか?」
「え?うん、あのね・・・」
 と話し始めた。

 今、女性メンバー同士ではお弁当を作ってくるのが流行っているのだそうだ。それの火付け役になったのは一護のお弁当なのだが本人は知らない。
女性らしく華やかなお弁当や可愛いお弁当の中身に加えて、お弁当箱も可愛らしい物が多かった。
いつもならそんな事に頓着しないやちるなのだが皆と食堂で食べていると知らない女隊士が、
「草鹿副隊長のお弁当って純和風ですよね」
 と言った。
「なんだか大人のお弁当みたいですね」
 悪気は無かったのだろうが、その一言に何か引っ掛かったのだ。周りのお弁当を見てみると何やら可愛い形のウィンナーやら蒲鉾やらが入っていた。
「でもいっちーのお弁当凄く美味しいよ。これは剣ちゃんといっちーの食べてるお弁当と一緒なんだよ」
そう言い返すが、
「ああ、だからですか」
 とそれだけ返された。
その後はいつもの美味しいお弁当も何だか味気ない物になってしまったのだ。勿論乱菊達が慰めたのだが一旦気にしてしまうともう駄目だった。一緒に聞いていた剣八は呆れた様に、
「いきなり何言ってんだ。今まで通りで良いだろうが」
と取り合わない。
しょんぼりとしているやちるの頭を撫でながら一護は、
「やちる様、明日俺と一緒にお買い物に行きましょうか」
 と言った。
「え?」
「一緒に可愛いお弁当箱を選びましょう?やちる様専用のお弁当箱です。どうですか?」
「良いの!いっちー大好き!」

 翌日の終業後、やちると連れだって買い物に出かけた。
弁当箱を売っている店を見つけ、どれが良いか選ぶ二人。
「やちる様はどのような物がよろしいですか?」
 と訊ねる一護。
「んーとんーと、どれにしようかなぁ?いっぱいあって迷っちゃうな〜!」
「そうですねぇ。あ、これは如何です?」
 と漆塗りの弁当箱を見せた。
「え〜、何の絵も無いよ?」
「そうですね、あれ?」
 蓋を開けた一護が変な声を出した。
「どうしたの?」
「ええ、中に模様が・・・」
「見せて見せて!」
 やちるに見せてやる。それの内側には雪の結晶や花の模様が浮き上がっていた。
「綺麗だねぇ」
「本当に・・・。どうやって作っているのでしょうね」
「ね〜」
 あれも綺麗、コレも綺麗と品物を見ていると一護にある弁当箱が目に留まった。

  それは赤い漆塗りの曲げわっぱで蓋に可愛らしい二羽の兎の絵が描いてあった。
「やちる様!これは如何でしょう?とても可愛らしいです!」
 と見せられたやちるもそれを気に入った。
「わぁ!可愛い!」
「はい!これだと2段になっていますからご飯もおかずも沢山入りますね。それにやちる様が今お使いのお箸も兎さんの絵ですからお揃いで良いのではないでしょうか?」
「うん!これにする〜!」
「はい!」
 二人とも満足な買い物が出来てご機嫌に家路を急いだ。

  家に着くと、
「遅い」
 と不機嫌そうな剣八に出迎えられた一護とやちる。
「たっだいま!剣ちゃん!」
「ただいま帰りました」
「おう」
 ただいまのキスをしている二人の横を通り過ぎ、さっさと居間に行こうとするやちる。
「やちる様、先に手洗いとうがいを」
 と声を掛ける一護。
「は〜い!」
 返事を返すやちるの胸には先程買った弁当箱が大事そうに抱きしめられていた。
「あれか?」
「はい、とても気に入られたようです」
 一護も嬉しそうにやちるの後ろ姿を見ている。
「ふう〜ん。飯は?」
「あ、すぐに作ります」
 一護が夕飯を作っている間にやちるは剣八に新しい弁当箱を披露していた。
「可愛いでしょ〜!いっちーが選んでくれたんだよ〜!」
「へえ、良かったな」
「うん!」
 食事の間ずっとにこにこしているやちるが居た。

  翌日、新しい弁当箱を持って出勤するやちる。
ぴょんぴょん飛び跳ね、まるでやちるも兎のようだ。
「やちる様、あまり飛んではお弁当の中身が崩れてしまいますよ」
「あ!はーい!」
 それでも嬉しさを抑えきれないようににこにこと満面の笑みだ。
そんなやちるを見て自然と一護の顔も笑顔になる。

  そしてお昼休みになり、隊舎を飛び出していったやちる。
「喜んで下さると良いのですが・・・」
「どんなの作ったんだ」
「俺達のお弁当にも少し入ってますよ」
 と重箱に蓋を開ける一護。
「へえ、芸が細けえな」
「うふふ」
 さて中身は?

  女性メンバーと食堂で昼食を食べるやちる。
「乱ちゃん!今日は新しいお弁当箱だよー!」
「あら、一護に買ってもらったの?」
「うん!えへへ」
「良かったですね」
 と他の副隊長も安堵している。そしてお弁当の蓋を開けたやちる。
「わあ〜!」
「あっら!可愛いじゃないの!」
「本当!」
 お弁当の中身は玉子焼きにカニさん、タコさんのウィンナー、茹でたウズラの卵で作ったひよこ、茹でたブロッコリーとエビが入ったミニグラタン、鶏のチーズ焼き、野菜の煮物等などレタスが敷かれた中に所狭しと詰められている。
「やちる、ご飯は?」
「あ、うん!」
 とご飯を見てみると、卵そぼろと鶏そぼろと桜でんぶの色鮮やかなそぼろご飯がぎっしりと入っていた。
「わあ〜!美味しそ〜!」
 きらきらと目を輝かせ、お弁当を見つめるやちる。
「ほら、早く食べないとお昼休み終わっちゃうわよ?」
「うん、でも・・・なんか夢みたい・・・」
と中々手を付けなかったが、空腹には勝てなかったようだ。一口食べると、
「ん〜〜!!」
 と幸せそうな声を上げ、パクパクと平らげていった。

「御馳走様〜!」
 と手を合わせるやちる。
「あんたものの見事に綺麗に食べたわね〜」
 飯粒ひとつ残っていない弁当箱を見て乱菊も楽しそうだ。
「毎日これじゃあ一護も作り甲斐があるわよね」
「いっちーのご飯はね、毎日美味しいんだよ!世界一なんだから!」
「はいはい、良いお母さんよね」
「うん!大好き!」

 家に帰って一護に空っぽになった弁当箱を渡すやちる。
「いっちー!お弁当美味しかった!すっごく可愛くて食べるのもったいないぐらいだったよ!」
「そうですか、喜んで頂けて俺も嬉しいです」
 にっこりと笑う一護。
弁当箱を洗う為に開けると隙間を埋める為に使ったレタスも残らず食べられていた。
「まあ・・・」
 本当に綺麗に何も残さず食べて来たやちるに心から微笑む一護がいた。


 余談。
この後一護は、可愛いお弁当作りに嵌ってしまい、最終的には桜でんぶでやちるを、海苔で剣八を、薄焼き玉子で自分をご飯の上に描いてやちるを喜ばせた。






12/04/21作 やちるのお弁当でした。一護は器用だからキャラ弁ぐらい作れそうな感じですよね。





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