題「雛祭り」 | |
2月も終わろうかと言う寒い日に、一護は四番隊である物を見た。 そう言えば、ココは他の隊よりも女性が多かったなと思い、ふとやちるの顔が過った。 「そう言えば・・・、お家にはあるのでしょうか?」 急いで隊舎に帰ると隊首室の剣八の所へ行った。 「剣八様!」 「おう、どうした。そんなに慌てて」 「あの、買いたい物があるのですが一緒に来ては頂けませんか?」 「買いたい物?今すぐか?」 就業時間までまだ少しある。 「良いですよ、隊長。一護君のお願いなんて珍しいじゃないですか」 と弓親。 期待の眼差しで見つめてくる一護。 「んじゃ行くか。後はテキトーに上がって良いぞ」 「分かりました。行ってらっしゃい一護君、隊長」 「はい、ありがとうございます!」 のっそりと椅子から立ち上がると一護と連れだって出掛けて行く剣八。 道中話しながら歩いた。 「で?何が欲しいんだ」 「え、あの雛人形、なんですが・・・」 「・・・。やちるにか」 「はい。あの、もうお持ちでしたか?」 「いいや無えよ。そうか、節句か・・・」 今まで勝手に何処かで祝われてくるからと放っておいた事を思い出し、剣八は無言のまま、一護の頭を撫でた。 「わ、なんですか?剣八様」 「何でもねえよ」 などと話している内に店に着いた。 流石に季節がら雛人形ばかりが置いてあった。 「わあ!たくさんですね!」 「そうだな」 店の敷地に所狭しと飾られた雛飾りを見て回る。 「どういうのが良いでしょうか?」 「あんまでかくてもな」 「そうですね。あ、これは?」 と一護が指差したのはガラスケースに入った三段になっている雛飾りだった。 「人形のお顔も、飾りもとても綺麗です」 「そうだな。これにすっか」 「では代金を払って来ますね!」 「おい、俺が出す」 「いえ、俺が言い出したのですから、ここは」 言い出したら引かない二人。ん〜、と考えた一護が、 「では折半と言うことで宜しいですか?俺と剣八様からの贈り物と言うことで」 「ああ、それで良い」 二人で雛飾りの代金を支払い、家に届けてくれるよう頼むと家路に着く二人。 てくてくと歩きながら話をする。 「どこの部屋に飾りましょうか?」 「そうだなぁ、居間・・か、客間だろ」 「そうですね!綾瀬川様や斑目様もお呼びして楽しくお祝い致しましょう!腕を揮います!」 「やちるも喜ぶだろうよ」 「はい!」 家に着くともう荷物が届けられていた。 「あ、お帰り〜。剣ちゃん、いっちー。なんか荷物届いたから居間に置いといたよ」 「まあ!ありがとうございます」 居間に入ると剣八と一緒に客間に移した。 「ね〜ね〜、アレってなあに?」 夕飯を食べながらやちるが聞いてくる。 「明日までの内緒です」 にっこりと笑って一護は人差し指を口の前で立てた。 「ふう〜ん?いっちーが言うなら明日までガマンする〜!」 夕飯も済み、入浴を済ませるとやちるはすぐに床に就く。 やちるがぐっすり眠った所を見計らうと剣八と一護は客間で雛飾りの梱包を取り除いていく。 「結構ごちゃごちゃしてやがんな」 「色々飾りもありますね」 緋毛氈が敷かれた雛段に人形を飾って行き、上座に設置した。 「喜んで下さると嬉しいのですが・・・」 「喜ぶだろ。あいつの雛人形なんだからよ」 「そうですね。もう寝ましょう」 「ああ・・・」 包装や梱包材を片付けると二人も眠った。 翌朝、いつもの通りにやちるを起こし、3人で朝食を食べていると、 「ね〜、昨日のはまだ内緒なの?」 と聞いてくるので、 「そうですね、では洗顔が終わったら客間に来てください」 「うん!」 やちるが歯を磨いている間に食器を片づけ、客間に行く一護。 とたたたた!とやちるの足音が聞こえ、客間の障子が勢いよく開けられた。 「いっちー!何があるの!あ!」 「やちる様」 やちるが客間に入って最初に目にしたのは、雛飾りの前に座り優しく笑いながらこちらを見ている一護だった。 「どうしたの、これ。いっちーの?」 一護の横まで来たやちるが訊ねる。 「まさか。これはやちる様の雛人形ですよ」 と教えてやる。 「え!あたしの?なんでなんで?あたしの?ホントにあたしのなの?!」 きらきらと目を輝かせ一護と雛段を何度も見る。 「はい」 「うわ〜!うわ〜!あたしこんな綺麗なお人形持った事ないよ〜。わあ〜」 一番上には内裏雛が鎮座している。二の段には三人官女が、三の段には右大臣と左大臣がそれぞれの隣りには橘と桃の木の飾りが置いてある。 「わあ〜・・・!」 「やちる様、三月三日の雛祭りには誰をお呼びしますか?」 「え!う、うちでやって良いの?」 「はい。御馳走も作りましょう。何が食べたいですか?」 「え?う?あ?な、なに、何がいいかな!?」 分かんない!と困った顔で笑うやちる。 「では俺が好きに作ってもよろしいですか?」 「うん!いっちーのご飯だったら何でも良いよ!あたし大好きだもん!」 「ではそのように。雛あられも沢山買いましょう。それにやちる様のお着物も」 「い、良いよ!そんなの!いつもので充分だし!それに!」 「それに?」 「き、綺麗な着物なんて似合わないよ、きっと」 寂しそうに呟くやちるに一護は、 「そんな事はありません!やちる様はこんなに可愛らしい方なのですからどんなお着物も必ず似合います!」 力強く言い切った。 「そう、かな?」 「はい!」 「じゃ、じゃあいっちー一緒に来てくれる?」 「喜んで!では今日のお昼休みに買いに行きましょう」 「うん!」 3人並んで出勤すると先に来ていた弓親と一角を見つけると、 「ゆみちー!つるりん!おっはよー!あのねあのね!今度の雛祭りうちでやるんだ〜!来てくれる?」 「おや、いつもは四番隊に行っているのに、どうしたんです?」 弓親が聞くと、 「うん!あのね昨日剣ちゃんといっちーがあたしの雛人形買ってくれたんだよ!あたしの!」 頬を赤く染め、興奮気味に聞かせるやちる。 「へえ、良かったじゃねえか!おっし!一丁祝ってやっか!」 「うん、僕も行くよ!」 「わあい!あとは、卯ノ花さんとー、乱ちゃんとー、ネムネムでしょ?えっとえっと!」 「何人でも呼びゃぁ良いだろうが」 呆れたように剣八が言う。 「そうですよ。お友達はたくさんの方が楽しいです」 と一護も言う。 「うん!ありがとー!いっちー!」 その日から家に帰ると雛飾りの前から動かないやちるが居た。まるで夢でも見ているかの様ににこにこ笑いながら眺めている。 そして雛祭り当日。 新しく買ってもらった着物を剣八に着付けてもらいはしゃぐやちる。華やかな紅い着物に大きな牡丹の絵が描かれていた。 一護はお昼から来る客の為に料理を作っている。 鯛の散らし寿司に、ハマグリの吸い物、山の様な唐揚げに何種類ものサラダ、酒の摘まみにチーズと胡瓜を生ハムで巻いた物や、鮪と鯛の和風カルパッチョ、アサリの酒蒸し、筍と蕗の煮物等など・・・卓袱台の上に所狭しと並べられた。 「わあ!美味しそー!」 「剣八様、お酒の方は足りそうですか?」 「ああ、あいつらも用意してくるだろ」 そして時間になり、一番に来たのは弓親と一角だった。 「お邪魔します」 「隊長、来ましたよ」 「おう、早かったな」 「ええ、楽しみにしてましたから!」 「ゆみちー!こっち来て!あたしのお雛様見て〜!」 「はいはい、おや、綺麗なお顔だね」 「でしょー!」 えへへ!と嬉しそうに笑うやちる。一角も見に来ては、 「へえ、良かったな。着物も似合ってんじゃねーか」 わしわしと頭を撫でられるやちる。 そうこうしているうちに他の客もやって来た。 ほとんどの副隊長が来てくれた。休み時間だけと言う短い時間で隊長も来てくれた。 「やちる!おめでとう!可愛いお雛様に着物じゃないの!良かったわね!」 「うん!ありがとう、乱ちゃん!」 白哉も来てくれて、紅白の金平糖をやちるにあげ、少し料理を食べると帰ってしまった。 「びゃっくん忙しいんだね」 「そうですね。でもよかったですね、来てくださって」 「うん!嬉しい!」 総隊長も顔を出してくれた。頻りに雛人形の顔を褒めていた。 「良い面相をしておる。良い物を選んで貰ったの、草鹿」 「うん!ありがとう!おじいちゃん!お料理食べてね!いっちーが作ったんだよ!全部」 「ほう!この量をか」 散らし寿司を食べ、ハマグリの吸い物を飲み、 「美味いのぅ、さて儂は仕事に戻るかな。楽しかったぞ」 ポンポンとやちるの頭を撫で帰って行く一番隊主従。 気が付くと残っているのは弓親、一角、乱菊、恋次等のメンバーだった。 遅れて非番だった浮竹が来て大量のお菓子をプレゼントしていた。 「わあ!ありがとう!うっきー!」 一護の所に報告に行くやちる。 「いっちー!これ貰ったー!」 「まあ、良かったですね、お礼は言いましたか?」 「うん!」 良い子良い子と頭を撫でてやる一護。 他の者は既に出来あがっているのか、既に宴会へと様変わりしていたがやちるは楽しくてしょうがなかった。 「夜になったら京楽がまた来ると言っていたぞ」 と浮竹も言っている。きっと他のも来るのだろう。夜の部はこれ以上に無礼講になりそうだった。 「やちる様、明日になったらお雛様は片付けてしまいますよ」 「え!なんでぇ!」 「3日も過ぎて飾っているとお嫁に行き遅れると言われているのですよ。だからです」 「う〜。もっと見てたいなぁ。剣ちゃんといっちーの結婚式みたいなんだもん・・・」 雛段の前で一護の膝に座ったやちるがパタパタと足を動かしながら言う。 「俺と剣八様の祝言、ですか?」 「うん、あの時のいっちーすっごく綺麗だったよ!」 「きっとやちる様の花嫁姿も綺麗ですよ」 「いっちーみたいに?」 くりん、と見上げてくるやちるのおでこにキスをすると、 「俺以上に美しい筈です」 と言ってやった。 「えへ!なれるかな?」 「なれますよ。俺が嘘を吐いた事がありますか?」 「え?んん〜、ない、かな」 「ね?」 「うん!」 乱菊達に呼ばれ、そちらに行くやちる。 「一護・・・」 「あ、剣八様」 一護を後ろから抱き、胡坐に納めると、 「なんの話してた?」 「やちる様がこのお雛様が俺と剣八様の祝言みたいだと仰って」 「へえ・・・」 「きっとやちる様の花嫁姿もお美しいでしょうね」 「は!考え付かねえ・・・」 「まだ、一緒に居たいですね」 「そうだな・・・」 この後、仕事を終えた修兵や京楽等も参加しての宴会となり、酔いつぶれた者たちに毛布を掛けてやる一護。 「さあさ、松本様はやちる様のお部屋で寝て下さいね」 「はぁ〜い・・・」 後片付けを済ませ、朝食の仕込みを終えると一護も剣八と眠った。 翌朝、大所帯になった更木家では朝食が終わった後、各々仕事に出ていった。 一護と剣八とやちるは、雛飾りを一緒に片付けていた。 「また来年会えますよ」 「うん!楽しみ!」 「この押入れの下の段が空いてっから、ここに仕舞うぞ」 「はい!」 後日、皆で撮った写真を見てはにこにこ笑う一護とやちるが居た。 終 12/03/03作 なんか纏まりが無い話になっちゃったような・・・。 |
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