題「貴方に愛を」
 節分を終えると何やら周りの女性が騒いでいるのに気付いた一護。
「どうかしたのでしょうか・・・」
いつものように書類を片付け、他の隊に回っていると乱菊に声を掛けられた。
「いっちご!久し振り〜!」
むぎゅう!と背中越しに感じるのは彼女の豊満な胸だろう。男であれば一度は夢見るような場面でも一護は平然としている。
「松本様、ついこの間の副隊長会議の時にもお会いしていますよ?」
「それぐらいじゃな〜い!いつでも遊びにいらっしゃいよ〜!」
「はあ」
「で?」
「?」
「今度のバレンタインはどんなチョコを渡すのよ?」
「チョコ?バレン・・なんですか?確かにチョコは好きですけれど・・・」
「え?あ〜、うん、分かったわ。しっかりレクチャーしてあげる!」
「はい?」
乱菊は一護の様子でバレンタインを知らないのだと気付いた。これは基礎から教えてやらねばと一護を引きずって行く。

 十番隊執務室。
「と言う訳で!バレンタインデーって云うのは好きな人にチョコと共に想いを告げたりする日なの。勿論夫婦でも恋人同士でもやるわよ」
「そうなのですか。では俺は剣八様にチョコをお作りしなければ!」
「色んなチョコがあるわよ〜」
とバレンタイン特集の雑誌を渡された。
食い入る様に雑誌を読み、どんなチョコであれば剣八が喜ぶだろうかと思い描いた。
「あ、これ・・・」
と一護の目を惹いたのは一口サイズのトリュフだった。
「あら、これにするの?これなら初めてでも簡単に作れるわよ、お酒も入るし更木隊長にぴったりね」
「はい・・・!」
乱菊が作り方を教えてくれると言ったのでその言葉に甘える一護。

 数日後、バレンタイン当日。
隊首室で遊んでいたやちるが思い出したかのように剣八にこう言った。
「ね〜え、剣ちゃん今日はバレンタインだよねぇ?」
「あ?そうか?」
「そうだよぉ!ね!ね!外国じゃあね、男の人が女の人にプレゼントあげたりするんだって!」
「はぁ〜ん・・・それで?」
「もう!剣ちゃんもいっちーに何かあげれば良いじゃん!いつもあたし達ばっかり貰ってる!」
「ああ・・・」
そう言う事かと納得した剣八。
「何かって何やりゃ良いんだよ」
「何でも!いっちーお花大好きだよ!それにね!それに・・・」
こしょこしょと剣八の耳元で内緒話をするやちる。
「なるほどな・・・。一緒に買いに行くか?」
「うん!」
ピョン!といつもの特等席に飛びつくと二人で出掛けた。

その頃の一護は・・・。
休み時間を利用して家でトリュフを作っていた。
冷蔵庫で冷やしていたトリュフを丸めて形を整え、ココアパウダーを振りかけて完成した。
「出来た!なんだか沢山出来てしまいましたが・・・」
用意した箱に詰めていき、なるべく涼しい所に置き隊舎へと戻り、就業時間になるのを待った。
隊首室へ入ると何やら、やちると剣八がソワソワしている。
「どうかなさいましたか?」
と聞いても、
「ううん!なんでもないよ!」
「どうもしねえ」
と異口同音に返される。
「そうですか?なら良いのですけれど・・・?」
そんな3人を訳知り顔の一角と弓親が微笑ましそうに見守っていた。
書類を片付け、隊士の怪我を治療していくうちに時間はあっという間に過ぎて行く。
途中、書類を届けに行った先の恋次や修兵に期待に満ちた眼差しで見られた気もするが早々に帰って来た。

 就業時間となり、久し振りに3人で買い物に出掛け、夕飯の材料を買いそろえた。
今日も寒いので鍋が良いと剣八が言ったので鶏の水炊きにする事にした。
3人で鍋をつつき、一護は剣八の晩酌に付き合う。
「今日は『久保田』か」
「はい、飲みたいと仰られていましたのでご用意しました」
「お前も飲めよ」
「御相伴にあずかります」
杯に注がれた酒をくいっと呷る一護。
「ああ・・・美味しい・・・」
にこりと笑うその笑顔に気を良くする剣八。

 食事も終わり、最後の風呂が済んだ一護が居間に戻るとやちると剣八が一護に座る様に促した。
「何か御用ですか?」
「まぁ、用っちゃあ用だがな」
「あのね、いっちー。今日ね、バレンタインって言う日なんだー」
とやちるが一護の膝にじゃれ付きながら言う。
「存じています。松本様からご教授いただきました」
「へえ」
「なんでも好いた方や恋人、夫婦が想いを込めてチョコを贈る日なのだとか」
「まあそうだけどよ」
ガシガシと頭を掻く剣八。
「やちる、持ってこい」
「はーい!」
やちるが居間を飛び出して行った。
「?」
すぐに、
「剣ちゃーん、開けて〜!」
と障子の向こうから声が聞こえた。
「ほれ」
スラッと開けられた障子の向こうには真っ赤な薔薇の花束があった。
「まあ!」
一護が驚いていると、よろよろとよろめきながらやちるが入って来た。
「えへへ〜!綺麗でしょ〜!」
「はい、とても・・・!」
「あのね、これね、あたしと剣ちゃんからいっちーへのプレゼントなの!」
「ええっ!」
やちるが抱えるその花束はとても大きくて、やちるの身体をすっぽりと隠してしまっている。そんな大きな花束を何故?
「いつもね、あたしや剣ちゃんの為にご飯作ってくれたり、お洗濯してくれたり、おやつ作ってくれたり、それからそれからいつも一緒に居てくれるいっちーにね、いっぱいのありがとうをあげたいの!」

一護が居てくれなかったら、いつまでも、誰も居ない暗く冷たい家に帰って来ては冷たい出来合いの食事を食べていたのだろう自分と剣八。
一護が居てくれるから家に帰るのが待ち遠しくなった。いってらっしゃいと言ってくれるから仕事に行くのも嫌じゃ無くなった。
たくさんの幸福をくれたから、たくさんのありがとうを言いたくて・・・。

「そ、んな!俺の方こそ!やちる様に!剣八様にたくさんのものを頂いているのに!」
「でもあたし欲しくても貰えなかったんだよ?あったかいご飯はお店で食べられるけどあったかいおうちはどこにも売ってないの。いっちーが居てくれるからなんだよ」
「やちる様・・・!あ、ありがとうございます・・・!」
一護の目からはポロポロと涙が溢れていた。
「泣かないで?嬉しくない?」
「いいえ、いいえ!嬉しいのです!嬉しくて、嬉しくて涙が止まらないのです。ああ!なんと愛おしいのでしょう!やちる様!やちる様!」
「えへへ!あたしもいっちーがいっちばん大好き!剣ちゃんと同じだけ好き!大好き!」
「一護、受け取れ」
やちるが剣八へと花束を渡すと、一護へと差し出す剣八。
「はい、ありがとうございます・・・!剣八様!」
大きな花束を受け取り、極上の笑顔を見せる一護。その一護の頬の涙を拭ってやりながら剣八が、
「一護、深紅の薔薇の花言葉は知ってっか?」
「花言葉・・・ですか?」
「ああ」
「えと、確か『熱烈な恋』・・・あ!」
みるみる頬が染まっていく一護。
「知ってたな。じゃあよ、その本数に意味があるってのは?」
「え?そ、それは知りません・・・」
「そうか・・・。じゃあそれは閨で教えてやる」
「じゃああたしもう寝るね〜!」
剣八に姫抱きにされ、そのまま寝室へと連れて行かれた一護。

 寝室では蒲団の上に座る剣八の胡坐の上に乗せられている一護。
一護の髪を梳き、ちゅ、ちゅ、とキスを繰り返す剣八に、
「あ、あの!俺も剣八様にお渡ししたい物があるんです!」
と一旦行為を止めさせる。
「なんだよ・・・」
「少しお待ちを・・・」
花束を文机に置くとパタパタと台所の方へ行く一護。
少しすると戻って来た一護の手には箱があった。
「んだそりゃ?」
「今日はバレンタインですから、剣八様にとお作りしたチョコレートです。お口に合うと嬉しいのですが」
と差し出される箱を受け取り、包みを破くと蓋を開けた。その箱の中には丸いチョコがぎっしりと詰め込まれていた。
(多いな・・・)
「剣八様・・・」
すい、と細くしなやかな一護の指がトリュフを一つ摘まんだ。
「あ〜ん・・・」
頬を染め、チョコを食べさせようをする一護に剣八は無言で口を開いた。
パクリ、と一護の指と共に口に入れると苦みと甘み、そして仄かな洋酒の香りが鼻孔を擽った。
「美味い」
「良かった・・・」
「一護・・・」
箱の中からチョコを取ると一護の口に入れた剣八。
「ん・・・」
噛んだ瞬間を逃さずその唇を塞いだ。
「ん!ん、あ!ふぅ、ん!」
お互いの口と舌の上で蕩けていくチョコ。
「ん、んく、んく、ん、ふぁ・・・」
とろん、と蕩けた目で見つめてくる一護に抑えが利かなくなった剣八。
そのまま押し倒すと一護の寝巻きを剥ぐ勢いで脱がせていく。
そしてトリュフを口に含むとそのまま胸を愛撫していった。
「あ!やあ!」
一護の体温ですぐに溶けるトリュフ。ぬるぬると両方の胸の小粒を這い、腹を這っていく。溶けて無くなればすぐに次のトリュフを口に含む。
臍までチョコ塗れにされた一護の身体を舐めていく剣八。
「ああ!やっ!そんな!ああっ!」
「ああ、さっきより甘くなったな。一護、美味ぇぞ・・・」
べろり、べろりと舐めていく剣八。
「ん!んふ!」
ちろちろと乳首のチョコを舐め取り臍へと下りていく。
「あ!あ!ひゃう!そこ、やぁ!」
臍の奥まで舌を差し入れ、綺麗にしていく。
「も、もうやぁ・・・」
「まだだぞ・・・?」
「ふぇ・・・?」
もう既に兆している一護の中心に視線を注ぐとトリュフを口に入れ、そのまま一護自身を含んだ。
「ひゃ!ひゃああ!なんてこと!や、や、ぬるぬるしてる・・・!」
ぐちゅ、ぐちゅ、と音が響く度に甘いカカオの香りが部屋中に漂い、酔っていく一護。
「ん、ん、あ、もう・・・!」
敏感な先端をトリュフで刺激され、腰が揺らいでしまう一護。
口の中のトリュフを飲み込み、一護の先端に残ったチョコを舐め取る事に集中する剣八。
尖らせた舌でぐりぐりとされては吸い上げられた。
「あ、も、イク・・・!」
ぴゅくん!と剣八の口内に吐精した一護。それを一滴も零さず飲み下す。
「一護・・・」
「うあ、剣八様・・・」
そろそろと一護の蕾に指を這わせる剣八。もうそこは剣八の唾液と一護の蜜でしとどに濡れそぼり、剣八の中指を難なく受け入れた。
「ああ・・・!」

 くちゅ、くちゅ、とそこを解していく剣八。
3本の指が入るくらい解れると指を抜き、熱く滾る自身を宛がう。
「いくぞ、一護・・・」
「あ・・・!きて、剣八様」
ぐ、ぐぷ、とゆっくり中に入ってくる剣八は酷く熱く、繋がったそこから溶けてしまいそうだ。
「ああ!熱い、剣八様、熱い・・・」
「ああ、お前も熱いぜ、おまけにとろとろに蕩けてる・・・!」
「んやぁ!そんな、言わな、で!」
いやいやと首を横に振る一護に口付ける剣八。
「ん、一護・・・、好きだ、好きだ・・・」
「ん、んあ、けん、ぱち、さま、好き、好きです!愛してます!」
「ああ、俺もだ・・・。一護、あの薔薇の花束な・・・」
「ん、ん、は、い・・・」
揺さぶられながら聞かされる睦言に耳を傾ける。
「999本の薔薇で出来てんだ・・・」
「たくさん、ですね・・・」
「ああ、999本の薔薇の意味はな・・・」
「意味、は・・・?」
剣八はぴたりと動きを止め、一護と見つめ合いながらこう言った。

「何度生まれ変わっても貴方を愛します、だ・・・」

それを聞いた瞬間、一護の中で何かが弾けた。
「ふ、ふぁああ!け、けんぱち様ぁ・・・!あ、あああ!んああぁああ!」
「クッ!こいつ・・・!」
一護の内壁が突然剣八を包みこみ、絡み付いて来た。
「あ!ああ!怖い!剣八様!溶けちゃう!おれ、からだ、とけちゃう!」
泣きじゃくりながら剣八にしがみ付いて来た。
「ばかやろ・・・!溶けんのは俺も一緒じゃねえか・・・っ!」
突然の事に剣八も達してしまい、どくどく!と熱を最奥に注ぎながら一護を抱きしめた。

 ふ、と目を覚ました一護は自分が気を失っていた事に気付いた。
「あ、おれ・・・」
掠れた声に驚きながらも隣りを見ると剣八がこちらを見ていた。
「大丈夫か?」
さらさらと髪を梳いてくれる優しい手に優しい眼差し。
「はい、喉が渇きました・・・」
「ああ、ちょっと待て・・・」
枕元にある水差しから湯呑に水を入れてくれる剣八。
「ん・・・」
次の瞬間、口移しで飲まされた。
「ん、んく、んくん・・・もっと・・・」
にこりと笑い、水を強請る一護。
「ああ・・・」
強請られるまま、繰り返し口移しで飲ませていく。
「ふぅ・・・」
「もういいのか?」
「はい、ありがとうございます」
すり、と剣八の胸に擦り寄る一護の額や頬にちゅ、ちゅ、とキスを繰り返す剣八。
「一護、ホワイトデーは3倍返しだ。お前でもいいぞ」
「え?でも俺も剣八様にチョコを贈っていますけれど・・・」
「じゃあ俺も3倍返しだな」
と意味深な笑みを浮かべられた。

「3倍返し・・・、何をお返ししましょう?俺でも良いとは一体・・・?」
それから一ヶ月悩む一護だった。







12/02/20作 ホワイトデーになったら分かるよ、一護。
「剣ちゃんと同じだけ好き」って言うのは剣八と同列って言う意味です。分かりにくいっすよね。すみません。



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