題「愛しい人の生まれた日」
 一護が護廷に戻って一週間が経った。一護の膝に甘えているやちるが一護に、
「あのね〜、今日は剣ちゃんの誕生日なんだ〜!」
と教えてくれた。
「誕生日、ですか?」
「うん!皆でね、お祝いするんだよ!お酒飲んだり、御馳走食べたり!宴会するの〜!」
「楽しそうですね」
と言いつつ、
(誕生日ってなんだろう?)
知らない単語に一護は卯ノ花に聞こうと思った。
「やちる様、俺は少し出掛けて来ますね」
「え、どこ行くの?あたしも行ってもいい?」
「構いませんよ。ご一緒に行きましょう」
「うん!」
手を繋いで四番隊まで一緒に行く二人。

 四番隊。
「卯ノ花様、少しお時間よろしいでしょうか?」
「あら一護、やちるちゃんも。何かあったのですか?」
「いいえ、お訊きしたい事がありまして・・・」
中に通され、出されたお茶に口を付けてから、
「誕生日、とはなんですか?」
「誕生日、ですか」
「はい、今日は剣八様の誕生日だとやちる様にお教え頂いたのですが良く分からなくて・・・。御目出度い事の様ですけれど」
「そうですわね。御目出度い事です。誕生日と言うのは生まれた日の事で、毎年巡って来るその日を記念日としてお祝いしたりするのですよ」
「そうなのですか。では今日は剣八様がお生まれになった日なのですね!まぁ!それでは俺もお祝いの品をご用意しなくては!」
「え〜!そんなの良いよ!剣ちゃんはいっちーが傍に居れば喜んでくれるよ!」
「そ、そうでしょうか?でも・・・、大切な日ですから・・・」
「そうですわね。貴方の気の済む様になさい。想いが籠っていればきっと喜んでくれますわ」
「はい・・・」
そうして四番隊を後にした一護とやちる。

そうか・・・。剣八様は今日この日に生まれたのか・・・。どうしよう?何が良いのかな?お料理も毎日作ってるし、お酒はきっと皆さんが用意されるだろうし・・・。

「一護」
「あ!剣八様!丁度良かった!」
「あ?」
「少し、出掛けて来たいのです。夕方までには戻ると・・・」
「俺も行く」
「え?それは・・・」
「なんだ?俺が居たら迷惑か?」
「そう言う訳では・・・」
ん〜・・・、と考え込む一護。
「ただの買い物ですよ?」
「ああ、ほれ、行くぞ」
と手を取られ、ずんずん前を歩く剣八。
「いってらっしゃーい!」
と手を振るやちる。

どうしよう・・・。二人で行ったらプレゼントが分かってしまう・・・。

「で、何買うんだ?」
「え!あ、まだ・・・」
「なんだそりゃ。まぁ良い、そこの甘味屋で茶でも飲みながら考えれば良いんじゃねえか?」
と暖簾をくぐる。
二人で栗ぜんざいを食べながら、どこか上の空の一護を見る剣八。
「お前、今日の宴会出んのか?」
「え?ああ!剣八様のお誕生日の宴会ですよね!出たいです!」
「誕生日、ねえ。あいつらはただ騒ぎたいだけだろうけどな」
「そんな」
「飲める理由がありゃいいのさ」
「でも、俺は・・・」
「で、買う物は決まったのか?」
「そうですねぇ・・・」
と外に目をやると綺麗に咲いている店先の花があった。
「あ、花・・・」
そうだ!花が良い!綺麗な花束とか!
「花か?んじゃ行くぞ」
「あ、はい!」
甘味屋を出て、護廷御用達の花屋へと行く。

店に着くと色とりどりの花達に出迎えられた。
「わぁ!綺麗です。それに良い香り」
喜んでいる一護を見ながら、
お前の方が綺麗だろう。などと考えている剣八。
「で、どんなの買うんだ?」
「えーと、えーと・・・。ちょっとお店の方と話して来ますね」
「ああ」
店の奥に居る店員を捕まえ、話をする一護。
ある花の鉢植えが欲しかったのだ。
「今はまだ花は咲いてませんよ?」
「良いんです。ありますか?」
「確か奥に・・・」
と店の奥から探してきてくれた。
「良かった。ではこれと花束を・・・」
数種類の花を選んで包んでもらう。
「リボンの色はどうされますか?」
「えっと、花束の方を紫で、鉢の方をオレンジで・・・」
「分かりました」
リボンを結び終わると、一護が素早く会計を終えた。剣八にどんな花を買ったのかバレないために花の部分まで包んでもらった。

「お待たせしました〜!」
「なんでぇ、呼べば払ったのによ」
「いいえ!これは俺が買わなければ!」
鉢植えと花束を両手で持つ一護。
「片方寄越せ」
「駄目です。これは俺の役目なのです」
早く帰りましょう?と言う一護を抱きかかえ、瞬歩で隊まで帰った剣八だった。

隊舎ではすぐにでも宴会が始められそうだった。
「あ、どこ行ってたんスか!今日の主役が居なかったら始めらんねえじゃないっすか〜!」
と一角に言われた。
「ああ、もう準備出来てんのか」
「今すぐ行けるッすよ!」
ニカッ!と笑いながら一角が言った。
「あ、では俺はこれを置いてきます」
「ああ・・・」
一護が家の部屋に入ると鉢植えを文机の上に置いた。
花束を袋から出し、整えて会場となっている道場へと向かった一護。

道場に着くともう宴会が始まっていた。
「おう!遅かったな一護!」
「ほらほら早く隊長の隣りに座って!」
弓親にグイグイ背中を押される。
「わ、わ、はい」
剣八の隣りに腰を下ろすと、
「遅かったな。それか?さっき買ってた花は?」
「あ、はい!お誕生日おめでとうございます!剣八様!」
と花束を差し出す。
「ありがとよ」
と受け取り、弓親に花瓶に活ける様に指図する。
「綺麗だけど、ちょっと大人しい感じだね?」
誕生日なのだからもっと派手なのでも良かったのではないか、と訊いてみる。
「花言葉で選んでみました」
「へえ!花言葉!どんなのか聞いても良いかい?」
「あ、はい。桔梗と百合で剣八様を、ホトトギスで、その、俺の気持ちを・・・」
「で?花ことばは?」
「桔梗は『優しい愛情』、百合は『荘厳・威厳』です」
「ふぅ〜ん。ホトトギスは?」
「あ、う、えと、あの!」
もじもじと照れている一護に剣八も、
「お前の気持ちなんだろ?言えよ」
と少し意地悪な顔で笑いながら促してくる。
「ホ、ホトトギスの花言葉は、え、『永遠にあなたのもの』・・・!」
カーッ!と紅くなった顔を両手で隠す一護と固まった剣八。
ヒュウッ!と口笛を鳴らす弓親。
「一護君らしいね。良かったですねー、隊長。こんなに愛されて」
「・・・うっせぇ」
くすくすと笑いながら花を花瓶に活ける為にその場を離れた弓親。
「じゃあいっちーはずうっと剣ちゃんの傍に居るんだね!」
やったぁ!と喜んでいるやちる。
わしわしと一護の髪を掻きまわす剣八。

 宴会は楽しく進んでいった。時刻も夜半となりやちるが寝てしまったので御開きと相成った。
花瓶に活けられた花を持って帰り、玄関に飾る剣八。
やちるを蒲団に寝かせ、戻ってきた一護。一緒に寝室に入ると、文机の上にあるオレンジのリボンの鉢植えに気付く剣八。
「おい、一護。これは?」
「あ、それもプレゼントなのです。まだ花期は先の事ですが、とても綺麗な花を咲かせるんです。本物は見た事が無くて・・・。でもこの花を貴方に渡したくて・・・」
「・・・花言葉、か?」
「はい。この花の花言葉は・・・」

愛される事を知った喜び。貴方に愛される喜び。

「・・・・・・」
「俺は、その、剣八様を愛せて幸せです。剣八様に愛されて幸せです。この気持ちをどう表現したら良いのか分からなくて・・・」
剣八は鉢植えを一護の手から受け取り、元通り文机に上に置くとぎゅッ!と抱きしめた。
「可愛い事してんじゃねえよ。加減が出来ねえじゃねえか・・・!」
「今日は、その、お好きなようになさってください。剣八様。生まれて来て下さってありがとうございます。貴方が生まれた今日この日に感謝致します」
「一護!」
「ん・・・!」
深く口付けると蒲団に押し倒した。

 宣言通り、好きにした剣八。明け方まで離してもらえず翌日は蒲団に臥した一護。
「おい一護、あの花、お前が育ててお前が咲かせろよ?」
「剣八様が仰るなら」
「俺がやると枯らしちまうからな」

玄関に飾られている花を見る度にニヤける剣八。






11/11/16作 鉢植えの方の花の名前は「アザレア」。綺麗っすよ。今回エロは省きました。
‘11の剣八誕生日話でした!



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