題「疑問」
 剣八と恋人同士になった一護には一つ分からない事があった。
(俺は剣八様が好きだ。あの方に恋してヒトになった。剣八様も俺を好いて下さって恋人同士になった。恋愛をしてるって言うけど恋と愛の違いってなんだろう?俺は剣八様を愛しているのかな?剣八様は俺を・・・)

「愛ってなんだろう?」
そんな事を考えながらいつものように仕事をしていた。
「おい一護、昼飯食いに行くぞ」
と剣八が一護を誘った。
「あ、はい!すぐに」
お重を持って剣八と一緒に食事に出た一護。最近は気を使ってか、やちるは乱菊達と食べに出ている。

隊舎の縁側で二人で食べる。
「いかがですか?」
「美味い」
「良かったです!」
ニコニコと笑う一護。
食事が済み、お茶を飲んでいるとやちるが帰って来た。
「ただいま〜!ねー、うっきーの所にお菓子食べに行こ!」
と一護を誘った。
「よろしいですか?」
剣八に聞くと、
「構わねえよ。仕事には間に合えよ」
と言われたので久し振りに雨乾堂へと足を運んだ。

「こんにちはー!うっきーお見舞いに来たよー!」
「こんにちは、お加減はいかがですか?」
と御簾を上げて中に入ると京楽も来ていた。
「京楽様、ご機嫌麗しゅう」
「まあね〜、そんなに固くならなくても良いよ」
「そうですか」
「うっきー、お菓子ー!」
「ははは!たくさん有るからな!一護君も遠慮せずに食べなさい」
「はい、頂きます」
暫くお菓子とお茶で歓談していたが、そのうちやちるが飽きたのか他の所へ遊びに行ってしまった。
「やれやれ、草鹿はいつも元気だなぁ」
とにこやかな浮竹。
「やちる様はいつも健やかで見ているだけで元気になります」
と微笑む一護。

「そう言えば」
と今まで疑問に思っていた事を聞こうと京楽に向き直った。
「京楽様にお聞きしたい事がございます」
「ん〜〜?何だい、一護君」
「『恋の花咲く事もある』と言う言葉がございます。恋が花だと言うのなら、愛とは何でございますか?」
と訊いた。京楽は少し目を見開いてから顎を摩った。
「難しい事聞くねぇ・・・」
「京楽様でもお分かりになりませんか?」
一護は少し困った様に首を傾げた。
「どうしてボクなら分かると思ったんだい?」
「京楽様は恋多き人とお伺いいたしました。なのでお分かりになるのではと・・・」
「ふう〜ん・・・」
「花は咲けば実を結ぶもの。恋が花なら、愛とは実を結ぶ事でしょうか?それとも結ばれた実の方でしょうか?」
「うう〜ん・・・」
京楽はガシガシと頭を掻いた。
「人それぞれとしか言いようがないねぇ。僕には分からないな。ごめんよ、力になれなくて」
「そうですか・・・。いいえ、俺の様なものの話を聞いて下さっただけでも有り難い事です。お気遣いなさらないで下さい」
「一護君、そんな風に言うもんじゃないよ」
「ですが、俺は『愛』と言う物が分からないのです。それはどういう感情なのでしょうか?『好き』と言う感情は学習したのですが分からない事だらけなのです」
「好きって言う気持ちが分かるんならきっともうすぐ分かるよ」
安心しなさい。と励ました。
「ありがとうございます。俺はこれで暇乞いをさせていただきます」
と言って十一番隊に帰る一護。隊舎に帰ると残った書類を片付けた。
「一護、飯食いに行くぞ」
「はい」
いつもの居酒屋へと繰り出した。

暖簾をくぐり、店へ入るといつもの席へと座る。
「取り敢えず酒だ。後は適当に出してくれ」
「へい!」
「お前は?」
「あ、えーと、何かお勧めはございますか?」
「そうだねぇ、旬の太刀魚が入ってるからそれの塩焼きなんか美味しいよ」
「では、それとご飯とお味噌汁を下さい」
「へい!」
やがて酒と一緒に色々運ばれてきた。
一護の頼んだ太刀魚と味噌汁、他に里芋の煮っころがし、焼き枝豆、手羽元と大根の煮物、きのこの時雨煮などが出された。
「美味しそうですね。頂きます」
と手を合わせ食べる一護。剣八は里芋と枝豆を肴に酒を飲んでいる。

何も残さず食事を終えた一護に剣八が杯を差し出す。
「飲めよ」
「はい」
きゅっと酒を飲み、煮物に箸を付ける一護。
「あ、おいしいですねぇ」
「そうだな。この手羽元ときのこはイケルな」
と口に運ぶ剣八。
「ちょっと失礼します」
と席を立つ一護。
カウンターの所まで行くと店の親爺と何か話している。
「何やってんだ?」
と見ていると小さなノートに何かを書き留めている。
「すみません」
「何やってたんだ?」
「いえ、この料理の作り方を教えて頂いておりました」
「はん?」
「剣八様がこの料理がお好きな様なので作れる様にと思いまして」
「なんでそんな・・・」
「剣八様に美味しいものを食べて頂きたいからです。その為には俺はいくらでも勉強いたします」
にっこりと笑ってノートを直した。
周りに居た者は羨ましそうに剣八達を見ていた。
「帰んぞ」
「あ、はい」

帰路に着く二人。四番隊の前まで一護を送った。
「剣八様、今日も御馳走様でした」
「構わねえよ。またな」
「はい、おやすみなさいませ」
自室に帰るとシャワーを浴び、教わったレシピに目を通すと本棚から本を取り出し読み耽る一護。

愛の詩集や小説など沢山読んだ。

「分からない・・・、やっぱり俺では『愛』を理解出来ないのかな・・・」
と少し悲しくなった。

翌朝起きて十一番隊に行く前に卯ノ花隊長に会った。
「おはよう一護。あら、目の下に隈がありますね。夜更かしはいけませんよ?」
「おはようございます、卯ノ花様・・・。あの」
「はい」
「お聞きしたい事が・・・」
「なんです?」
「その、『愛』とは一体何でしょう?恋とどう違うのですか?」
「『愛』と『恋』ですか?」
「はい。俺は剣八様に恋をして人になりました。俺はあの方が好きです。でもこの想いは『愛』ですか?俺はあの方を愛していますか?愛せますか?剣八様は俺を・・・愛して下さいますか・・・?」
「一護・・・」
「愛がなんなのか知りたくて色んな本を読みました。でも何も分かりません。俺では無理ですか?」
「本に書いてある物が貴方の『愛』ではありませんよ、一護」
「でも、俺はこうしなければ学習出来ません・・・。どうすれば良いのですか?」
「一護・・・。答えはもう出ています。後はそれに気付くだけですわ。更木隊長と一緒に居る時あなたはどんな気持ちです?良く掘り下げて感じてみなさい」
「・・・はい」

卯ノ花隊長に助言を貰い十一番隊に行く一護。
「おう、遅かったな一護」
「おはようございます。斑目様、綾瀬川様」
「僕らも名前で読んでくれて良いのに」
「努力します。更木様は・・・?」
「隊長なら隊首会だよ」
「ではやちる様も?」
「そうだね。今のうちに書類片付けちゃお」
「はい」
書類仕事をしているうちに剣八とやちるが帰って来た。
「お帰りなさいませ」
「ああ」
二人に冷たい麦茶を出してやる。
「隊長、なんか決まりましたか?」
「討伐は来週の頭だとよ」
「じゃあ、書類整理ですねー。給料明細サボらないで下さいよ」
「うっせえ」
そんな様子をくすくすと笑いながら見ている一護。
「一護。今日は残れよ」
「はい、お手伝いですね」
「おう」

定時になり他の隊士は帰って行き、夜勤組だけとなった。
隊首室には剣八と一護が残って決済書類を片付けていた。
「更木様、お願いですからこういう書類は後回しになさらないでください」
「わあったよ」
漸く残業が終わり、帰る準備をする二人。
「飯食いに行くぞ」
「あ、はい」
居酒屋に行く道すがら卯ノ花に言われた言葉を思い出した。
(剣八様と一緒の時の気持ち・・・)
大分慣れたとは言え、やはり好きな人と一緒に居るとドキドキする。歩いているのにふわふわする。心があったかい。
色々頭の中で羅列していく。
食事中も自分を観察していく。
剣八の仕草が、声が、視線の全てにドキドキする。
(あ、やばいかも・・・)
一旦思考を止めにした一護。

「ありやとやしたぁーー!」
店を出て、二人きりで歩く。
てくてく、てくてく。
一護の歩幅に合わせて剣八はゆっくり歩いて行く。
「あ・・・」
改めてその事に気付くと何かが溢れて止まらなくなった。
「どうした?一護」
「い、いえ!何も!」
「?じゃあさっさと・・・」
剣八が近づいて来る。一護の顔は真っ赤に染まる。
「おい?」
「すみませッ!」
「な!なに泣いてんだ!」
「すみません。と、止まりません」
「何かあったのか?」
と一護の頭を撫でる。
「違います。ただ・・・」
「ん?」
「剣八様の事を考えていたら、胸がいっぱいになって、気付いたら涙が溢れていました」
「・・・・家に帰るぞ」
そう言うと一護を抱き上げ、瞬歩で自宅まで帰った。

「着いたぞ」
「はい」
すん!と鼻を鳴らした一護。家に入ってもまだ泣いている一護。
「一護・・・」
剣八が一護の頬に手を添えた。
「剣八様・・・」
唇が触れあった。
「ああ・・・、剣八様、俺は、俺は・・・」
「ああ・・・」
「俺は貴方が愛おしい・・・。愛しい愛しい・・・と心が言うのです。その気持ちが溢れて止まらないのです」
涙を流しながら告げる一護。
「一護・・・」
そんな一護を抱きしめる剣八。
「俺は今まで『愛』が分からなかったんです。あなたに恋した時とは違うこの感情が分からなかった。恋した時は貴方に会いたくて会いたくて・・・、逢えたら嬉しくて、自分の事ばかりでした」
「・・・・・・」
「想いが通じて、貴方に抱かれて幸せで、貴方に幸せになってほしくてあなたの為に何かしたくて・・・!」
「もう良い。分かった」
「剣八様、剣八様・・・貴方を愛しても良いですか?こんな俺があなたを」
「馬鹿野郎。まだ悪い癖が治ってねえな。あんま言わねえから聞き逃すなよ」
「はい・・・」
「愛してるぜ、一護」
「っ!あ、ああ!剣八様、愛しています。剣八様、けんぱちさま・・・」
「一護、一護、一護」

「ん、あ!はぁ、はぁ、ん・・・」
「は、お前ん中ぁ、いつもあったけぇな・・・」
「剣八、様はいつも熱くて、俺は溶けてしまいそうです・・・んあ!」
一護の中で質量を増した剣八。
「可愛い事言うじゃねえか」
「あ、ああ!そこは!」
前立腺を攻めては撓る一護の背に口付け、跡を残していく。
「お前は俺のだ、一護。お前は俺だけ愛してろ」
「ん、ん・・・あ、俺の心は、あなたに、捧げております・・・!」
「一護!」
「んあ!あ!あ!や!あぁ!ンッ!も!もう!」
「イけよ・・・!俺もイく!」
「ひっ!やあぁああ!」
「くうっ!」

剣八に腕枕され髪を撫でられる一護。
「ん・・・、剣八様、愛してます。でも俺はやちる様も愛したいです。貴方の大切な方ですから」
「おまえもうやちるの事愛してんだろうがよ・・・」
「そうですか?確かに好きですけれど・・・」
「自分のガキみてえに扱ってんじゃねえか」
「家族が居ないので解かりかねますが、とても大切な方です」
「それで良いんだよ。もう寝ろ・・・」
「はい・・・」
ふぁ・・、と小さく欠伸をして眠る一護。
そんな一護の寝顔を見ながら、
「一緒に暮らすか・・・」
と計画する剣八が居た。






11/08/11作 泉の様に湧き出て溢れる想いを形にしたら『愛』になったそんな感じですかね。
こんなにストレートに愛を告げられたのは多分初めてじゃないかな、剣八は。ますますメロメロですね!



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