題「初めての花見」
 一護が人形から人になって半年余り。季節はもう春になっていた。
書類を粗方片付け、給湯室で簡単なお昼ご飯を作っていると一角に言われた。
「お花見・・・ですか?」
丼のご飯に千切りキャベツを敷きながら聞き返す。
「おう!今週あたり桜が満開になるみてぇだからよ。一護もどうだ?」
「はぁ・・・その前に一つよろしいですか?」
キャベツの上に豚の生姜焼きを乗せ、付け汁を掛けて出来あがった食事をお盆に置くと少し考え、言葉を口にした。
「なんだ?」
「お花見とはなんですか?」
と言われてしまい絶句した一角と弓親。
(あ〜、そうか、コイツ人形だったからなぁ)
(お花見した事なかったんだ・・・)
「? あのぅ・・・」
小首を傾げる一護に弓親が説明する。
「お花見って言うのはね、綺麗に咲いた桜の木とかの下で楽しく食事をしたり、お酒を飲んだりしながらその花を愛でる事を言うんだよ」
「そうなのですか。俺はまだ桜の花も見たことが無いので楽しみです!」
と嬉しそうに笑って洗い物を済ませる。
「え?見たこと無いの?」
「はい、本や写真などで見ただけで本物は見たことがありません」
と話している所へ剣八とやちるが帰ってきた。
「お帰りなさいませ、更木様、草鹿様」
「いっちー!呼び方違うよ!ちゃんと名前で呼んで!」
「あ、申し訳ありません、癖になっている様ですね。ではもう一度、お帰りなさいませ、剣八様、やちる様」
「ん〜、「様」がまだ付いてるけど良いや!ただいま!いっちー!」
「おう」
「今日のお昼ご飯なぁに?」
「今日のご飯は『豚の生姜焼きのキャベツ丼』です。出来あがった所ですよ」
と応接セットのテーブルに乗せられた3人分の丼を示し、一護はお茶を入れに給湯室へ行った。

「いただきまーす!」
と大盛りの丼を平らげていく二人。
「お味はいかがでしょうか?」
「美味しいよ!ね、剣ちゃん!」
「ああ」
「良かった。この後、デザートにバウムクーヘンがありますので」
「ほんと!やったぁ!」
「落ち着いて食え、やちる」
「は〜い」
食後のお茶を飲んでいると一護が、
「剣八様、今度お花見があるそうなのですがお聞きになられましたか?」
「あ?ああ」
「俺は初めてです。楽しみですねぇ。腕によりを掛けて料理しますね!」
「一角、いつやるか決まったのか?」
「あ、はい!取り敢えず日曜日に企画してますね。皆来るんじゃねえですかね」
「ふうん・・・」
「日曜日・・・。やちる様、何かリクエストはございますか?」
「ん〜、いっちーが作ってくれる物全部!」
「それはちょっと・・・。巻きずしと、他に旬の物で何か作りますね」
「うん!」

当日。
朝から料理に励む一護。
重箱の中には所狭しと、鶏のから揚げや春野菜の天ぷら、玉子焼き、ウィンナー、ハンバーグ、高野豆腐、煮しめ、そして剣八が褒めてくれた金平ごぼうを詰めていく。
「さて次は・・・」
と海苔を用意して巻きずしを作っていく。食べやすい大きさに切って切断面を見る。
「良かった!成功してる」
巻きずしも詰めていき、約束の場所に向かう一護。

「いっちー!待ってたよ〜!早く早く〜!」
「お待たせしました。皆さんもう始めてらしたんですね、遅かったですか?」
「ううん!そんな事無いよ!ねっ!剣ちゃん!」
「あ?ああ」
見事な桜の木の下で敷物を広げ十一番隊隊士達が宴会を始めていた。
「ねえねえ、早くいっちーのお弁当食べたい!」
「そうですね、いつもと変わりありませんが、どうぞ」
と風呂敷を広げ、お重を広げる。
「わぁ〜!美味しそう!あ!おすしだぁ!」
とやちるが巻き寿司を一切れ手に取ると驚いた声を出した。
「うわぁ〜!なにコレなにコレ!このお寿司、お花だ〜!」
「おや、飾り寿司だね。美しいね」
「わぁ〜!食べるのもったいないよ〜!あ!こっちはちょうちょだ!」
中身が花を模っている物や、蝶を模っている巻き寿司に喜ぶやちる。
「食後には練り切りを作ってきましたので、コレもどうぞ」
と別の器に盛られている和菓子を示す。
「わぁ!楽しみ〜!」

食事が始まるとどこからともなく集まってきた乱菊や恋次達。そのうち呼ばれた一護がそちらに行った。
「一護〜!これ美味しいわ〜。どうやって作るのよ」
「和菓子も綺麗ですね!」
と女性陣と楽しくおしゃべりしていると、
「一護」
と剣八に呼ばれた。
「はい」
すっ、と立ち上がると剣八の前に座るが腕を引かれて隣りに座らされた。
「わ、と!どうかなされましたか?」
きょとん、と首を傾げ見上げる一護。
「別に・・・」
ぐいっ!と酒を呷る剣八。
「そうですか?お料理はお口に合いましたか?」
「ああ、美味い」
「良かった」
にっこり微笑む一護。その笑顔にそこに居た者全員が見惚れた。
「ど、どうかしましたか?」
「いや、お前も食えよ。まだ続くぜ」
「はい、頂きます」

そんな二人の様子を見ていた乱菊達。
「更木隊長ってば一護を一人占めね〜」
「お似合いですけどね」
等と言っている。

昼から始めた花見。楽しい時間は瞬く間に過ぎて行く。日も沈み、夜が来ても宴は続いた。
ふと、肴が無くなっているのに気付いた一護が、
「何か簡単な物でも作ってきます」
と隊舎へ消えた。

お盆に幾つかの肴を乗せ一護が戻ってきた。
「お待たせしました」
と差し出されたツマミは、スライスチーズと海苔を巻いた物やローストビーフ等が並べられていた。
「おお!美味そうじゃねえか!」
と恋次が手を伸ばす。
「あ、お待ちを、阿散井様。あ・・・」
赤いピックが付いたチーズを口に放り込んだ恋次が口を押さえた。
「〜〜!かっれ〜ッ!何だコレ!」
「ああ、ですからお待ちをと。こちらの赤いピックが付いた海苔チーズには豆板醤が塗っています。緑のはワサビです。黄色のピックはチーズと海苔だけですと説明しようと思ったのですが・・・」
と困った顔をする一護。
「何でこんな辛いモン持ってくんだよ〜!」
「はぁ。朽木様はお辛い物がお好きですし、ご意見を頂こうかと」
赤いピックが付いた海苔チーズを白哉に差し出すと、
「如何ですか?」
と勧める一護。
「・・・頂こう」
と静かに口に運ぶ白哉。
「美味いな。ワサビの方は・・・」
「どうぞ!」
「うむ、こちらも酒と良く合うな」
と杯を呷る。
「良かった!剣八様もどうぞ」
とワサビ味を差し出す。
「ふん・・・」
と言いつつ口に入れる。
「ん?」
ふと一護を見ると不安そうに見上げていた。
「・・・美味えよ」
その一言に心底嬉しそうに笑う一護が居た。

「くちゃん!」
と後ろの方でやちるがくしゃみをした。
「冷えて来ましたか?やちる様」
「うん、少しだけ」
「そうですか。・・・あの善哉があるのですがお食べになりますか?温まりますよ?」
「いっちーが作ったの?」
「はい、白玉も入っておりますよ」
「食べる!ねーねー、皆も食べる〜?」
「あら良いの?」
「はい、多めに作っておきましたから。どうぞ、御遠慮なさらずに」
「そうね、頂くわ。恋次!あんた手伝ってやんなさい!」
「なんで俺?」
「どうせあんたが一番食べたいんでしょ!」
「へーい」
「お手を煩わせてしまって・・・」
「良いよ。お前の菓子美味いしな!」

「お待たせしました〜」
と大鍋にいっぱいの白玉ぜんざいを持った恋次と食器を持った一護が戻ってきた。
各自がお椀にぜんざいを入れ食べていると、口の周りを餡でベタベタにしたやちるが、
「ね〜、なんでいっちー善哉も作ってたの?お菓子はもうあったのに」
と聞いた。
「え?ああ・・・、夜まで続くと思いましたし、まだまだ寒いですから。皆さんがお風邪を召すといけませんから」
と答えて口の周りを拭ってやる。
「そっか!」
と小豆を掻きこむやちる。一護はまた乱菊達に呼ばれ剣八の傍を離れた。
「ほら一護。あんた全然飲んでないじゃないの」
乱菊が一護に酒を注いだ。それは桜色に色付いた日本酒だった。
「あ、このお酒綺麗な色ですね」
白い猪口に注がれた酒に桜の花びらが一ひら舞い落ちた。
「何かの果実を漬けたのですか?とても甘くて美味しいです」
「違うわよ、一護。これはね、赤米って言うお米を原料に使ってるからよ。綺麗でしょ?」
「はい、とても」
クイッ!と杯を空ける一護。ほんのりと頬が色付いて艶めかしい。

そこへニュッと白い何かが近づいた。
「良い飲みっぷりだなぁ!俺にもくれよ」
と白い蛇が目の前で喋っている。
「蛇尾丸!てめえなんで具象化してんだ!」
「やかましいわ、宴となれば無礼講だろうが」
と狒狒が言う。
「?蛇尾丸様と仰いますか?初めまして一護と申します。お酒ならまだありますよ」
と蛇に杯に注いだ酒を勧める。
「おお!気が利くな!」
くい!と煽る蛇。
「は!甘い酒だな!」
「でも美味しいですよ」
「不味いなんて言ってねえだろ」
「儂も飲む」
「はあ、ではこれはいかがでしょう?剣八様がいつも飲んでいるお酒ですが」
と注いでやる。キュッと杯を呷る狒狒。
「五臓六腑に染みわたる。さすがに良い酒じゃな」
「はい。剣八様のお酒ですから」
「ふ〜ん・・・」
と蛇も興味深げだ。
「あのぅ・・・お願いしてもよろしいですか?」
「あん?なんだよ、言ってみ」
杯を咥えながら器用に喋る蛇。
「お身体を触ってもよろしいでしょうか?」
「何だ、そんな事かよ。好きにしろよ」
と言われ一護は蛇に触る。
「わぁ・・・。スベスベしていらっしゃるのですね。それに冷たい・・・」
「蛇に触ったことねえのか?」
「はい。今まで触った動物は犬の五郎と黒猫の夜一様だけです」
「ふぅ〜ん。なぁなぁ、猿も触ったことねえんだろ?こいつ触れよ」
と狒狒を指して言う。
「な!貴様!」
「よろしいですか?」
わくわくと顔に書いてある一護に渋々触られてやる狒狒。
「わぁ・・・、ふわふわですね。気持ち良い」
もこもこと頭を撫でる一護。
「くすぐったい・・・、もう良いだろう」
「はい、ありがとうございます。貴重な体験でございました」
と頭を下げる一護。顔を上げると剣八と目が合った。にっこりと笑う一護。
「蛇様蛇様、お菓子は如何ですか?」
「お!食う!食う!」
一護は自作の和菓子を黒文字で切ってやると蛇の口へ持っていった。
「あむっ!ん〜!うめえ!こりゃ美味えな」
「良かった!猿様も如何ですか?」
「・・・猿ではない。儂は狒狒だ」
「これは失礼いたしました。狒狒様はお菓子は如何ですか?」
「食う」
「どうぞ」
季節の花を模った練り切りを差し出す。
「・・・美味いな」
「ありがとうございます。あの・・・、猿と狒狒ではどこが違うのですか?」
と一護が質問した。
「狒狒の方が猿より体もでかいし、力も強い・・・」
と答えた狒狒。
「はぁ〜、では狒狒様の方がお強いのですねぇ」
と感心する一護の腕を引きあげた剣八。
「わ!剣八様。どうかなされましたか?」
「・・・・・・」
無言のまま一護を抱き上げると元の席に戻る剣八。胡坐に一護を納め、酒を飲む。
「???」
きょとん、と剣八の顔を見上げる一護。
「あの、けんぱ・・・ん・・・」
名前を呼んでいる途中で口付けされた。
「ふっ・・・!んぅ!ん!ん!っはぁ!何を・・・あっ!」
次は首筋に吸い付いた。
「あ!剣八様・・・!お戯れを!おやめくださ・・!」
ギリ!と歯を立てる。
「うッ!あ・・・!」
目を開けると皆がこちらを見ていた。
「!!剣八様!お止めください!皆さまがッ!あう!」
ふるっ!ふるっ!と震える一護の息も乱れて来た。
「帰るぞ・・・」
「はい・・・」
剣八は一護を抱きかかえると自室に帰っていった。

「なんだあれ?」
「さあの」
「ざ!蛇尾丸!てめえのせいだぞ!」
恋次が慌てる。
「あ〜あ。剣ちゃんのヤキモチ妬き〜!」
「一護、大丈夫かしらね・・・」
「一応お風呂の用意は済んでるし、隊長も分かってるでしょ。僕らは隊舎に近づかなきゃ良いんだよ」
と弓親が言った。
「そうね・・・」

寝室では。
「あの・・・、怒っていらっしゃるのですか?」
裸で組み敷かれた一護が圧し掛かる剣八に問う。
「・・・。別に?」
「ですが・・・、なんだかいつもと違います・・・」
「何がだよ・・・」
カリッと赤い跡を付けた場所を噛む。
「あっ!んん!せっかくのお花見なのに・・・、ずっと怒った顔をしていらっしゃいました・・・」
いつだって眼が合うとまるで怒っている様に睨んでいる剣八が居た。
「・・・」
そこまで分かっていながら自分の不機嫌の理由は分からねえんだなと肩を竦める剣八。
「剣八様?俺はいつだって貴方のモノです。俺の身体も心も・・・」
「ああ・・・」
「ですから・・・、そんなに悲しそうなお顔をなさらないでください・・・」
「一護・・・」
「はい・・」
「一護」
「剣八ッ、さ!まっ!」
「もっと呼べ・・・」
「け、剣八・・!ひっ!ああ!」
「もっとだ・・・」
「あ、あ!け、けん、けんぱち!さま!」
「一護、一護、一護!」
「あ!あ!あ!剣八様ぁ・・・」
甘いお仕置きは一護が意識を飛ばすまで続けられた。

自分の隣りで眠る一護の、白い背中に散る己が付けた赤い華に、
「ふん・・・、こういう花見も乙なもんだな・・・」
と酒を呷る剣八が居た。






11/05/03作 一護の初お花見。剣ちゃん、斬魄刀にジェラシーって・・・。どんだけ独占欲強いの。
自分の傍に居ないのと自分を見てない一護と周りに嫉妬した剣ちゃんでした。


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