題「親子で遠足」 | |
今日も今日とて朝からノイトラが来ていた。 せっかくだから朝飯でもと母様が誘って一緒の食卓に着くのを苦々しく思いながら平静を装おう。 ああ・・・、静かに朝食が食べたい。 今朝からウルキオラの機嫌が悪い。食後のコーヒーを飲みながら遠い目をしている。 庭ではノイトラと剣八のじゃれあいが始まっていてうるさいのが原因だろう。だとしたら俺も悪いのかも。 「ごちそう様でした・・・・」 カタンと立ちあがり食器をシンクに置くと部屋に帰って行った。 「あ、お袋。俺今日はイール達と出かけるから昼飯いらね」 「そうなのか?遅くなるならメール寄越せよ」 「ああ、うるさくてしゃーねえよ、アレ。良く我慢できんなぁ、お袋」 と庭を指差してグリが言った。 「あはは、ま、慣れかな。遅くなっても良いけど日付が変わる前には帰ってこいよ?」 「わぁーった」 とグリもキッチンから出て行った。軽く溜息を吐き洗いモノを片付けていると、 「あの、すいません・・・。こんな休日にまで・・・」 とテスラが話しかけてきた。 「うん?まあ良いんじゃね、剣八も非番で暇だったろうし、いい天気だからな」 「はあ・・・」 「さて!洗濯でもしますかね」 と一護は洗濯と掃除を始めた。 洗濯機が止まる頃には掃除を終え、洗濯物を干していく。 「あの、何か手伝います・・・」 「良いのに、じゃあ、これに靴下とか干してってくれるか?」 「はい!」 大きなシーツを家族分干して終わった。 「ふう!御苦労さん!助かったよ、ありがとさん」 「そんな!あれくらいで・・・」 「もうすぐ昼か・・・、まだ続きそうだな、アレ・・・」 「そうですね・・・」 と暴れる二人を眺める二人。 「あっ!そうだ、もうちょっと手伝ってくれるか?」 「僕に出来る事なら・・・。・・・?」 一護はキッチンへ向かうとサンドウィッチ用の食パンと具材を用意した。 「昼飯にサンドウィッチ作るから手伝ってくれ」 「え、良いですけど・・・、それだけですか?」 「あぁ、まあな」 一護は簡単にレタスのハムサンドとたまごサンドを作っていき、テスラがそれを切っていった。 「あの、量・・多くないですか?」 「ああ、良いんだよウチはこれで」 さっさか作っていく一護がなぜか弁当箱を二つ取り出してサンドウィッチを詰めだした。 「よし・・っと、あとは・・・」 釜に残っていたご飯でおにぎりを作っていく。 「あの、それは?」 「剣八の分だよ」 中に何も入ってない海苔だけのおにぎりだった。 「インスタントのコーヒーとかはそこの戸棚に入ってるから勝手に飲んでくれ」 剣八にメモを残して一護がキッチンから出て行った。 コンコンコン、とウルの部屋のドアをノックした。 「はい・・・」 幾分疲れが溜まっているような顔のウルが出てきた。 「どうかしましたか?お母さん」 「ん、いやな、今日天気いいし、外で弁当でも食わねえかなと思ってさ、あいつらアレだし、グリも出掛けてるし」 どうだ?と聞いてきた一護。 「そうですね・・・、籠ってばかりなのも飽きてきました。ご一緒します」 「良かった、じゃあちょっと待っててくれ」 と部屋に帰って行った一護。 大きめのショルダーバッグに先ほどのサンドウィッチの弁当と何故かタオルと折りたたみ傘を入れた。 「待たせたな!さ、行こうぜ」 「はい」 二人で近くの公園に出掛けた。一応テスラに言付けを頼んでおいたが・・・。 さやさやとしたそよ風が吹く天気の良い昼下がりの公園は休みのせいか、人も疎らだった。 「外は静かなもんだな・・・」 「そうですね、この時間は人が少ないんですね・・・」 「みんな家で飯食ってんじゃねえかな、ほい」 「あ、はい」 飲み物は自販機の缶コーヒーだ。久しぶりの静かな食事、それも一護と二人きりだ。そわそわする。 「秋だなぁ・・・」 とぽつりと呟いた一護。 「そうですね・・・」 と返すウルキオラ。 「後でドングリでも拾うかな」 「ドングリですか?」 「子供っぽいか」 「いえ、拾って遊んだ事が無いので・・・。楽しいですか?」 「ああ、子供のころは楽しかったな!あ、今でもか」 ハムッとサンドウィッチを食べながら話す一護。 「ごっそさん」 「ごちそうさまでした」 弁当箱を片付け、食休みしながら話しをした。 「最近は学校はどうだ?」 「あまり変わりないですよ」 「ふぅん、グリは?こないだ喧嘩した子は?」 「さあ、普通です。向こうも係わって来ませんし、グリムジョーに至っては忘れているかと」 「忘れてるってお前・・・」 「日常茶飯事ですから。喧嘩は」 「ああ。そういう・・・。ウル、ケチャップ付いてるぞ」 「え?」 と言われ右の頬を拭うウルに手を伸ばし、 「違う、こっち」 と左の唇の端を拭って、その指を舐めた。 「あ、りがとうございます、お母さん」 「いいよ、別に、さてドングリ拾えるとこ行こうぜ!」 「知ってるんですか?」 「おう!この公園でドングリの木が生えてるとこがあんだよ」 とベンチから立ちあがって案内する一護。 「ここ!」 「はぁ・・・、これが全部そうですか?」 ウルは空を覆い尽くさんばかりに枝を伸ばした木々を見上げて聞いた。 「うんそう、いろんな種類混ざってると思うけどな〜、おっ、一個見〜っけ!」 足元のドングリを拾い上げウルに見せる。 「へへ、これ始めると止まんなくなるんだよなー」 「そうなんですか?あ、ありました。なにか付いてます」 「おっ!帽子付き!すげぇじゃん」 何がすごいのか分からなかったが、嬉しかった。 「ドングリ拾いにもな、ランクがあるんだぜ。こういう普通のよりはお前の拾った帽子付きが上とか、大きいのが上とかな。後まだ青いのとか!」 「そうなんですか」 「競争しよう!ウル!今から30分の内にどっちが多くて良いモノ拾えるか!」 わくわくと顔に書いている一護を見て微かに微笑むと、 「いいですよ、俺もやったことがないですから、やってみたいです」 「よっし!じゃあ2時にアラームセットしてっと、あと5秒、4,3,2,始め!」 それから30分間、黙々と?ドングリ拾いをする二人。 「あ!帽子付きあった!」 「こちらは青いのがありましたよ」 などとしゃべっているうちに時間は過ぎていった。 ピリリリリ! アラームが鳴った。 「あ、時間切れだー。どんだけ取れた?ウル」 「あ、これだけです」 と、両手いっぱいのドングリを見せてきた。 「おお〜、すげえな、俺はこんだけ」 と同じくらいの量を見せた。 「じゃ、そこのベンチで数、数えようぜ」 と零さないように二人で座り、数えた。 「・・・29、30っと、丁度30個だ、ウルは?」 「まだあります・・・」 「すげえな、31、32、33、34、35、36、37、38っと、38個かぁ、しかも大物いっぱいだなぁ。帽子付きもこんなに!」 にこにこと自分が取った様に喜んでいる一護。 「お、お母さん、冷えて来ましたよ」 「ん?あ、そうだな曇ってきたな。雨降るかな?」 とウルの拾ったドングリをハンカチに包んでバッグにしまった。 「?お母さんの分は?」 「ああ、いいんだ、今日はウルの分だけで」 「どうしてです?」 「初めてのドングリ拾い、どうだった?」 「楽しかったです」 嘘偽りなく、そう言った。純粋に楽しかったし、一護も居たし、何より邪魔者が居なかった。 「記念、記念。あ、そうだ、この間のさ、プレゼントの本ってどこで買ったんだ?俺もその古書店行ってみてえ」 「えっと、ここからだと遠くなりますが、良いんですか?」 「あ〜、晩飯に間に合わねえか・・・、じゃ、また今度な!」 「はい!」 近くの喫茶店に入り、禁煙席に通して貰い、窓際の席に座る二人。 「え〜と、俺カフェ・オレのホット。ウルは?」 「ストレートのホットを」 「なんか食べるか?」 「あまり・・・」 「じゃ、このピザトースト半分こしようぜ、小腹空いたんだ」 「あ、はい」 「じゃ、それで」 「はい、少々お待ちくださいませ」 ウェイトレスが消えると、お絞りで手を拭く一護。 「はあ!楽しかった!」 「俺もです。初めてしましたが楽しいモノですね」 「ドングリ拾いか?なー、はまるよな」 「お待たせいたしました。カフェ・オレのお客様は?」 「あ、俺です」 「前、失礼いたします。ピザトーストです。こちらタバスコです。ストレート・ティーです。ではごゆっくりどうぞ」 「あ、丁度3切れずつだな、いただきます」 「いただきます」 一護が少しタバスコをかけた。 「ウルは?」 「あ、少しだけ・・・」 というので全体に少しずつかけた。 「ん、あひ、美味い」 「美味しいですね」 食べ終わると、くすくす笑って一護が、 「ウル、またケチャップ付いてる」 と口を拭ってやった。 「お母さんもですよ」 「え・・・?」 つい、と口の端を拭われ、その指を舐めるウル。 「ありがと」 「いえ」 ドンッ!と窓が音を立てたので見てみると、恐ろしい形相のグリが雨の中、立っていた。 「何やってんだか、入ってこい」 と口の動きとジェスチャーで伝える一護。すぐ入ってきたグリ。 「雨降って来たのか?びしょ濡れじゃねえか」 「・・・・・・・」 ブスくれて黙ったままのグリ。 「ほら座れ、なんか頼むか?」 ぷい、と横を向くグリの頭にタオルをかけて髪を拭いてやる一護。 「風邪ひくとダメだから、なんかあったいもん頼め、な?」 コクン、と頷いた。 「いい子だな、何にする?」 「・・・お袋と同じやつ・・・」 「うんうん、すいません、カフェ・オレのホットください」 「かしこまりました」 運ばれたカフェ・オレを口に運びつつ黙ったままのグリに、 「どした?グリ、どっか痛いのか?」 ふるふると首を振るグリ。 「子供でもあるまい。ちゃんと喋れ、鬱陶しい!」 「こら、ウル、言葉悪いぞ」 「ですが・・・」 「ま、そういう日もあるんだろ」 ポンポンと頭を撫でる一護。 「なんで・・・、こいつと、二人なんだよ・・・」 「うん?」 「・・・デート、みてぇじゃん・・・」 「デートつーか遠足に近かった様な気もすっけどなー」 「そうですね」 「今度はみんなで行きたいなー、やちると剣八とお前とウルと。お弁当もってさ」 「うん・・・行きたい・・・」 「カフェ・オレ、冷める前に飲めよ」 「ん・・・」 コク、コク、とあったかいカフェ・オレを飲んでじんわりあったまるグリ。 「何か食うか?」 「や、もうすぐ飯だし・・・」 「そうだな、あ、家に電話しよ」 ケータイで家に連絡を入れると、すぐに剣八が出た。 「あ、もしもし?剣八か?」 『一護か?』 「うんそう、そっちどうだ?ノイトラは?まだ居んの?ふーん。いや、晩飯どうすんのか聞こうかと思ってよ。うん、そいつら食うなら量要るだろ?寒いし、おでんで良いか?ん、ん、ああ、大丈夫だよ、ウルもグリも居るから、あ、じゃーな」 「さて、つーわけだ。今日の晩飯はおでん!材料買いに行くぞ」 「うん・・・」 「はい、あのノイトラとテスラも居るんですか?」 「居るってさ。なんかあったみたいだな、歯切れの悪い話し方だった」 材料を買い込み家へと帰る3人。 「なんだこりゃ・・・」 一護の第一声はそれだった。 「おう、帰ったか、一護・・・」 「帰ったかじゃねえよ!なんだよ!この庭の惨状は!」 「悪かったよ、俺もつい調子に乗ったんだよ・・・」 直後、一護の平手打ちが剣八の頬に入った。 「お前、あれがどういう木か分かって言ってんのか?なあ!」 「木?・・・あっ!」 「今頃かよ!さっさと片付けろ!そこのくそガキ!お前もだ!」 「なんで俺まで・・・」 「口応えすんな!お前もやったことだろうが!後片付けぐらいしろ!テスラ!」 「あ!はい!」 「お前はこっちで晩飯の用意手伝ってくれ。そこの片付けは剣八とノイトラでさせる!」 「ウル!グリ!キッチンで手伝ってくれ」 「はい」 「おう。おい、なんであんなに怒ってんだ?お袋」 「知らん、何か大事な物でもあったか」 「俺は牛すじ湯がいて灰汁取るから、後のちくわとか切ってってくれ」 「はい」×3 牛筋で取ったダシで他の具材が煮込まれていく。 「ん〜、時間なかったからゆで卵無いけど良いか?」 「構いませんよ」 「ああ、俺も」 「ただいま!いっちー!お庭のあの木どうしたの?あんなに大事にしてたのに!」 「剣八に聞いてこい・・・」 「あ〜・・・、ノイノイと遊んでて折っちゃったんだー。あーあ、折角、ウル兄とグリ兄がお家に来た時の記念に買って植えた木なのにねぇ」 「ほんとにな・・・、やちる、味見するか?」 「うん、するー!」 「熱いぞ、気を付けろ?」 一口サイズにちぎったちくわを口に入れてやった。 「はふっ!はふっ!美味しい!早く食べたい!」 「ほら、残りも食えよ」 と皿を渡すと庭の二人に声をかける。 「おい!もう飯出来たから、片付け良いから、手ぇ洗って来い!」 食卓に二人が現れる頃にはいつもの一護だった。 「おい、一護・・・」 「何?」 「悪かった・・・」 「後で聞く。今は飯の時間だ・・・」 「おう・・・」 7人で夕飯を食べた。 「おかわりは?ウル、グリ」 「ん、食べる。お袋、辛子くれ」 「ほい。剣八、おかわりは?」 「・・・ん」 「ちゃんと食えよ、明日からまた仕事だろ」 「ああ」 夕食が終わるとノイトラとテスラは帰って行った。 洗い物を済ませ、子供達も風呂を済ますと各自、部屋へと帰って行った。 「おい、一護・・・」 「んー?」 ガシガシと髪を乾かしていると剣八が話しかけてきた。 「記念の木の事だけどよ・・・」 「もういい。根っこが無事なら樹医さんに診てもらうから気にすんな。寝ろ」 「おう・・・」 翌日、樹医を呼び、再生できるようにお願いした一護。 「大丈夫ですよ、2本とも根っこは無傷ですから。この折れたところを綺麗に切って、薬を塗ってっと」 綺麗な切り株になっていく。そこに薬を塗って行く樹医。 「これで、来年の春には新芽を出しますよ」 「ありがとうございます。ああ・・・良かった・・・」 仕事から帰った剣八にその事を伝えると一護は、 「良かったな、これで済んで・・・。もし再生出来なかったら、去勢してたとこだ!馬鹿っぱち!」 と凄んだ。 「悪かった・・・。機嫌直せ、な?」 「ふんだ・・・」 「今度の休みさ・・・」 「うん?」 「近くの公園で良いからみんなで遠足みたいに遊びに行こう?お弁当持ってさ・・・」 「そうだな、嫌じゃなきゃ瀞霊廷の方が静かだぞ?」 「いいのか?うん、そっちの方が綺麗だよな!」 機嫌の治った一護を腕に抱いて寝る剣八。 こんな夜も偶にはいいか・・・。そう思いながら・・・。 終 09/10/01作 第119作目です。ほのぼの家族。 |
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