題「慶事」
 新婚旅行から帰って一週間がたった頃、白が自分の身体の異変に気付いた。
身体が女から男へと戻らないのだ。一護はもうとっくに戻っているというのに・・・。
「ん〜・・・、もしかすっとなぁ・・・」
自分のお腹を擦りながら呟いた。
「一護んとこに行くかぁ」
と重い腰を上げ十一番隊へと向かった白。

「おい、一護居るか?」
「あ、にぃに!どうしたの?」
「ちょっと話あるんだけどよ・・・」
「じゃ縁側に行こ。お茶淹れてくるね」
「あぁ」

「おまたせ!どうしたの?にぃに」
一護はお茶と茶菓子が乗った盆を置くと白と自分の座布団を出した。
「ん、あのよ・・・、子供がな、出来たみたいなんだ・・・」
茶碗を持って、幾分もじもじしながら呟いた。
「ええ!ホントに?卯ノ花さんには診てもらったの?京楽さんには言ったの?」
「まだ・・・お前が最初だ。朝月の時は言えなかったから・・・」
「にぃに・・・!ありがとう。嬉しい!でも京楽さんに言って卯ノ花さんに診てもらお?安定期まで危ないからね?」
「一護・・・!」
「嬉しいな、にぃに、おめでとう!」
「気が早ぇな・・・。朝月にも言わなきゃな、お姉さんになるんだぜって」
「そうだね、きっと喜ぶよ」
「ああ、春水もな」
和やかにお茶を飲み、白は帰っていった。

 夕飯時、お手伝いさんがご飯を作ってくれていた。台所の方から良い匂いが漂って来ていた。
「ん・・・美味そうな匂い」

「かか様ただいまー!」
「お帰り、朝月。手ぇ洗えよ」
「はーい!」
「ただいま、白、朝月!」
「お帰りなさい!とと様!」
「お帰り」
「ん?今日は機嫌が良いのかな?どうしたの、白」
「良いから、飯喰おうぜ・・・」
「うん、着替えてくるね〜」

 部屋着に着替えて、ゆったりとした気分で食卓の前に着いた京楽。
「いただきま〜す!」
「いただきます!」
「いただきます」
目の前の二人が夕食を食べながら、
「美味しいねぇ」
「うん!美味しい!」
と言っている様子を見ながら、言うのは後のが良いな。と考え自分も食事に集中した。
「あ、茶ぁ淹れてくる・・・」
最近はお茶ぐらいなら淹れれる様になった白。
「ありがとう、白」

 3人分のお茶を持って居間へと戻ってきた白は、朝月と遊ぶ京楽の隣りに座ると、
「あ、あの、な、春水・・・」
「なぁに?どうしたの白?」
「えと、あの、ふ、二人目、で、出来たんだぜ・・・」
「ホントかい!白!」
「かか様?ほんとに?朝月お姉ちゃんになるの?十六夜みたいに?」
「あぁ、朝月もお姉さんだ」
「嬉しいな!嬉しいな!あたしね!女の子でも男の子でも良い!かか様スゴい!赤ちゃん作れるんだ!」
「とと様も居なきゃ無理だったぞ・・・」
「でも産んでくれるのはかか様なんだよねぇ」
やんわり笑う京楽。
「検査は?受けたのかい?」
「まだ・・・、春水と一緒に行こうかと思って・・・」
「そっかぁ、ハネムーンベイビーだね、嬉しいなぁ」
「なんだ?それ」
「新婚旅行の時に出来た赤ちゃんの事だよ。ふふふ、頑張ったもんね」
「馬鹿・・・!」

 翌朝、二人で四番隊にて卯ノ花隊長に診てもらった。
「おめでとうございます。妊娠していますよ」
とにっこり笑って告げてくれた。
「良かった・・・!もう動いてるのは分かってたけど、もしかしたらって思って・・・」
「ちゃんと宿っていますよ。先の妊娠の時よりは勝手が分かっているとは思いますがくれぐれも安定期までは無茶を為さらないで下さいね?」
「は〜い」
「はい」
「新しい母子手帳です。定期健診も来て下さい。おめでとございます、白君」
「あ・・・、あり、がとう」
「ありがとう、卯ノ花さん。さ、朝月が待ってるよ」
「うん・・・!」
診察室を出ると朝月が駆け寄ってきて寸でで止まった。
「どう?どうだった?かか様!赤ちゃん居たの?」
「ああ、ちゃんとここにいるって卯ノ花さんが言ってくれたぞ」
と誇らしげにお腹を撫でる白。
「ここに?赤ちゃん居るの?やっぱりかか様すごい!あたし朔と十六夜に教えてくるー!」
「あ。おい!こんな朝早くから・・・」
「まあまあ、子供だし良いんじゃない?おめでたい事だしね・・・」
ちゅっと頬にキスして窘めた。

 十一番隊。
「朔!十六夜!聞いて聞いて!あたしね!お姉さんになるのー!」
「おはよう、あーちゃん本当に?スゴイね!おめでとう!」
「おめでとう!朝月!いつ産まれるの?」
「まだ分かんないけど、順調だって!卯ノ花さん言ってた!」
「卯ノ花さんが言うなら大丈夫ね!かか様ーぁ!」
「なぁに?朝から大きな声出して、あ、朝月おはよう」
「おはよう、一にぃ!あのね!かか様がね!子供出来たんだって!」
「そっかぁ!良かったぁ、じゃあ、産まれるのは秋か冬頃だね、美味しいものいっぱい食べて良い子産んでもらおうね!」
「うん!あたしもお姉さんになるの!嬉しいな!」
「おう、うっせえな、朝からよ。ん?京楽んとこの」
「朝月です!あのね!剣八さんかか様に赤ちゃん出来たの!その報告に来たの!」
「ほお、そりゃめでてえな!後で上等の酒贈っとくぜ」
「ありがとう!」
「朝月、もう朝ご飯じゃないの?」
「あ、ほんとだ!帰らなきゃ!じゃ、また後でねー!」
「うん!まったねー!」
「やっぱ出来たか、どっちが産まれるかね」
「どっちでも、にぃに嬉しそうだったから・・・」
「そうか・・・、俺らも飯喰うぞ」
「あ、うん」

 隊首会にて。
「浮竹、聞いて聞いて!」
「なんだ、にやにやして気持ちの悪い」
「ひどいなぁ、あのねぇ、僕達に二人目が出来たんだぁ」
「それは、白君との間にか?」
「あったり前でしょう!他に誰が居るの!やあ、嬉しいなぁ、朝月だけでも僕には過ぎた幸福だと思ってたのにね」
「京楽・・・、近く祝いの品を贈らせてもらうよ」
「良いよ!そんな事してもらう為に教えたんじゃないよ」
「勘違いするな、お前にじゃない。これから大変な白君にだ」
「僕も結構大変になるんだけどなぁ・・・」
と口の中だけで呟いた。

 会議が終わって京楽は総隊長の所へと行き、報告をした。
「そうか・・・、皆、帰るのは少し待て、新たな報告がある」
「ちょ・・!山じい?」
「こ奴に二人目の子供が出来たそうじゃ。まだ妊娠の段階じゃがめでたいこと故、今ここで報告とした。春水、子供と奥方を泣かすでないぞ・・・。より一層の精進が必要じゃな」
「うん、絶対泣かせないよ・・・、ありがとう先生」
「うむ・・・」
そこに居る全員から祝いの言葉を貰った京楽だった。

 京楽邸。
「し〜ろ!居る〜?」
「あん?ああ、あんたか。まつ、もとだっけ?」
「そうよ、乱菊で良いわよ?それより聞いたわよ!二人目ですってね!おめでとう!」
そこにはメンバーが全員集まっていた。
「おめでとう!」
「う、あ・・、ありがと」
「でね、お祝いなんだけど、何が良いか分かんないからみんながそれぞれ買って来たわ。あたしはコレ!」
とウサギのぬいぐるみを二つ。
「朝月とお揃いよ、朝月の時何も出来なかったでしょう?」
「いや、あの、そんな・・・」
「あたしはこれを・・・」
勇音が差し出したのは紙おむつ。
「たくさんいるようになると思いまして・・・」
「・・・・・・」
「あたしはね!コレ!」
やちるは金平糖を瓶にいっぱい。
「・・・・・・・」
「あたしはね、寒くなる季節だから、まだ早いけど、ちゃんちゃんこ!これも朝月と色違いで!」
清音だ。
「・・・・・」
「私はこれを、白さんに、ねんねこ半纏です。赤ちゃんを背負ったまま着れるんですよ」
と七緒。
「・・・・・・・」
「私からは・・・、これだ」
と砕蜂から渡されたのは猫と蜜蜂のぬいぐるみ。
「・・・・・・・」
「私からは、これを。どういうものを差しあげれば良いのか分からなかったので、皆さんと相談して・・・」
出されたのは、高級すし店の招待券だった。
「・・・・・・・・・」
「どうしたの?白?気に入らなかったかしら」
「違!嬉しい、よ。でもなんかここが、苦しくて・・・、なんだ?これ?なんで俺なんかを祝うんだよ?」
胸を押さえて泣いている白。
「ああ、泣かないで・・・。あたし達はアンタが好きよ白。一護が大好きで朝月が大好きで京楽隊長が大好きで仕方ないあんたがとっても好き。だからもっと幸せになっていい子産みなさい、お願いよ」
乱菊が白を抱き締めながら、頭を撫で、言い聞かせた。
「う、ん。うん!あり、がと!乱菊」
「どういたしまして、もうすぐ旦那様が帰って来るわ、あたし達はこれで。またね」
「ああ・・・」
縁側で贈り物に囲まれて幸福に浸る白。そこに一護が訪れた。
「にぃに!うわ、すっごいね、どうしたの?これ」
「メンバーの連中がよ、祝ってくれた」
「ふうん、良かったね!にぃに。あ、俺もお祝い持って来たの」
がさごそと紙袋から出したのはクッションだった。
「こないだから作ってたの、にぃにと朝月と京楽さんと赤ちゃんの分!腰が痛くなっちゃうでしょう?」
「あんがとな、一護。綺麗な柄と可愛い柄だ・・・」
「えへへ、俺はこんなのしか出来ないから。あのねにぃに、俺ね、ここに来てすごく幸せになったんだよ?剣八に逢えて、皆に逢えて、子供が産まれて、にぃにがここに居てくれて・・・、すごくうれしい・・・」
「一護、俺もだ。お前探してここに辿りついて良かった。アイツに出会えて良かった、朝月が生まれてくれて良かった、お前が幸せで良かった、もう一人出来てまた幸せだ・・・」
「にぃに・・・」
こつんとおでこを合わせて、目を閉じた。
「何やってんの?二人してずるいな、僕も混ぜてよ?」
「春水・・・」
怒って来ない・・・。
「京楽さん、じゃまたね、にぃに」
「ああ・・・」
「どうしたの?具合悪い?」
「いいや、それよりこれ見ろよ、メンバーがさ、祝ってくれたんだぜ?」
「すごいねぇ・・・嬉しいね・・・」
「うん」
二人で居ると続々と荷物が送られてきた。
「な、なんだ?」
「え〜と、これは浮竹だねぇ、こっちは朽木君だ。おや、日番谷君のまで、こちらは狛村さんだね」
「まだ、来んのか?」
「多分ね〜」
言っているうちに総隊長からも。
「おや、山じいからも来たよ、ふふ!みんな気が早いなぁー、産まれるのはまだ二ヶ月は先なのにねぇ・・・」
「な、なんで?なんで俺にこんなにするんだよ!」
「みんな、君を認めて、君が好きなのさ・・・一番は一護君、僕も同じくらいにね」
「しゅ、しゅんすい、しゅんすい〜」
「ああ、泣かない泣かない・・・、ああでも嬉し泣きなら良いよね。いっぱいお泣き」
「うん!うん!嬉しい!嬉しい!」

 次の日には、道で恋次に鯛焼きを袋いっぱい貰ったり、修兵に絵本を貰ったりした。どっちも、
「いい子産めよ」
「健康な赤ん坊産めよ」
とぶっきらぼうではあったが、顔を赤くして祝ってくれた。
「ありがとう」
とふわりと笑った白。

お祝いはまだ続きそうだった。







09/08/22作 第111作目です。
祝!!二人目!この後鉄さんに一護と一緒に広島風お好み焼きでも奢られたりしてんじゃないでしょうか。子供達も!
射場さんのお手製で。




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