題「ORANGE・TAIL」7 | |
翌朝一護が起きると剣八はもう起きていた。 「ん、おはよう、剣八・・今日は居た・・・」 と抱き付いては剣八の頬に自分の頬を擦り付けた。 「一護、今日は討伐で出払うからメシは外で食え。後で弓親に連れてってもらえ」 ガシガシと頭を撫でられながら言われた。 「うん、分かった!帰るの遅くなるの?」 「晩飯までに戻れたらいい方だ」 「じゃあ今日は一人なんだね」 しょんぼりしてそう言った。 「そうしょげんな、たった一日だ」 「そうだね!」 弓親に連れられて一護は食堂に来ていた。そこでどうやってご飯を買うのかを教わって晩御飯までの分のお金を渡された。 「はい、一護君じゃあお箸の使い方を教えるよ」 「はい!」 素直な一護に優しく箸の持ち方から動かし方を教えてやった。 「え・・と、こう?」 「うん、持ち方はあってるよ」 「それから、こうやって・・・」 「そうそう、上手い上手い」 次は実践とばかりにご飯を渡してくる。 「ん・・と・・・」 ぽろぽろと落としては口まで辿りつけなかった。 「あう・・・」 おかずのお味噌汁も熱くて飲めないし、肉じゃがは芋が転がっていく。それを手で取って器に戻して挑戦を続ける一護。 「むずかしい・・・」 「うん、そんなに力まなくてもいいんだよ」 「でも力入れないと掴めないよ・・・」 しゅん、と落ち込む一護に、 「じゃあ、僕はこれから任務だからここまでだね」 と言って席を立つ弓親。 「え・・・?」 「ゴメンね、仕事が無かったら見ててあげられるけど、今日は全員が出るんだ」 「そうなんだ・・・」 ぽすっと目の前に置かれたのは、何かの包み。 「なぁに?これ」 「今日のおやつだよ。ご飯食べ終わったら食べても良いよ」 「中、見ても良い?」 「どうぞ」 包みを開けると、中に入っていたのは、串団子だった。 「わぁ!あんことみたらしだ!」 「一護君、好きでしょう?」 「うん!大好き!ありがとう!弓親」 「ただし。ちゃんとご飯食べてから食べること!分かったかい?」 「うん!分かった!」 一護は団子の包みを丁寧に戻すとにこにことしながら、 「じゃあ、ちょっとさみしいけど、お仕事頑張ってね!」 「うん、今日中には戻るよ、行ってきます」 「行ってらっしゃい!」 と手を振り、送り出した一護。 「よ〜し!頑張るぞ!」 と食事に取り掛かる。 お昼時。食堂に恋次が現れた。何を食うかと考えていると目の端に派手な色が見えた。 「ん?一護じゃねえか」 「え?あ、恋次・・・」 「どうした?元気ねえな」 「ううん・・・何でもないの・・・」 とジャガイモを弄っている。 「なんだ?嫌いなのか?」 「違うの、食べれないの」 「嫌いじゃねえのにか?」 「お箸で掴めなくて・・・」 「あ〜・・・なるほどな。今日はみんなは?仕事か?」 「うん、全員出払うって言ってた」 と話しながら人参を掴むが上手くいかない。 「冷めちゃった・・・」 ずず・・・と味噌汁を啜る一護。 「折角の飯だ。そんな辛気くせえ顔して食うなよ」 「うん、でも朝から半分も減って無いの・・・」 「あさから・・・」 「お箸の使い方下手なのかな。弓親は上手いって言ってくれたけど・・・」 と手の中の箸を見つめる一護。 「恋次!何やってんの、あんた」 「乱菊さん。イヤこいつと話ししてたんですよ」 「だあれ?」 「あたしは松本乱菊って言うの、よろしくね!」 「俺は一護って言うの」 「ああ、あんたが・・・」 「なぁに?」 きょとん、と首を傾げる。 「可愛いわね、で、どうしたの?」 「あのね、お箸使って上手くご飯が食べれないの・・・」 半泣きの顔で見上げて一護は説明した。 「あらぁ、ほら、手貸してご覧なさい」 「?」 乱菊は一護に箸を持たせると上から手を握り、力加減を教えてやった。 「こうやって、こう・・・、茶碗を使って食べるのもありよ」 「え、とこう?」 震える手でジャガイモを取って食べる一護。 「わ、美味しいねぇ」 と笑った。 「初めて食べれた・・・!」 「で、この包みは?」 「それね、今日のおやつなの。ご飯食べれたら食べなさいって弓親がくれたの!」 「そう、頑張ってね一護」 「うん」 いつの間にか恋次も乱菊も食べ終わり、また一護一人になっていた。 「頑張らなきゃ・・・!弓親も乱菊さんも教えてくれたんだから」 と、芋や人参と格闘する一護だった。 隊舎。 「あーっ!疲れたぜぇ!弱いくせに数だけは多かったなー今回は」 「そうだね、あ、隊長、お風呂お先にどうぞ」 「・・・ああ。おい一護は?」 「は?居ないんですか?」 「居る気配がねえな」 「そうですね・・・、どこかで遊んでるんでしょうか?」 「にしても、お前こんな時間までか?夕方までに帰れって隊長に言われてから守ってんぞ?あいつ」 「そうだね・・・、どこ行ったんだろ?」 「あ、あのぅ・・・失礼します・・・」 と控えめな声が聞こえた。 「ん?」 「なんだい?なんか用なの?」 「ええ、あの、今朝橙色の髪の子をお連れになりましたよね?」 と弓親を見て聞いてきたのは、食堂で働く女性だった。 「え、うん連れて行ったけど?」 それが?と先を促すと、 「言い難いんですけれど・・・、もうお店を閉めたいので、その、迎えに来ていただけると助かるんですが・・・」 「まだ夕飯食べてるの?一護君」 「やっぱまだ早かったんじゃねえの?箸はよ」 と一角が言っていると言いにくそうに、 「いえあの、朝食なんです・・・」 「はあ?!」 「朝に注文頂いたものをずっと一人で食べてるんです・・・、もう泣いてしまって・・、見ていられなくて・・・。こちらに来たんです」 と言った。 「そんな・・・、半日以上ずっと!?」 「はい、途中お昼に阿散井副隊長や松本副隊長とお話してましたが、後はずっと一人きりで頑張ってるんです」 「行くぞ・・・!」 と剣八が先に立って食堂まで迎えに行った。 暗くなった食堂から、ぐずぐずと鼻をすする音と、しゃくりあげる声が聞こえた。 「おい!一護!居るのか!」 「ひっ!け、剣!八!っく!」 提灯で照らされた顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった。 「おっ、おかえ!り!なさい!」 無理矢理笑おうとするが出来なかった。 「あーあー、いい、いい、無理すんな。どんだけ食えたんだ?」 「う!」 慌てて隠そうとしたが、 「ふーん、半分以上は喰えてんだな」 「ご、ごめんなさい!ごめんなさい!ちゃんと食べれなかった!」 「あん?なんで謝んだよ?」 「だって!弓親も教えてくれた、乱菊さんも教えてくれたのに!お、俺、上手く出来なかったもん!俺、悪い子だ!」 「初めてだったんだろ?しょうがねえよ。おら、帰んぞ。弓親が特別に雑炊作ってくれるってよ」 「う!うう!うわあぁあ〜ん!怖かったよう!寂しかったよう!置いてかれるのやだよ〜!」 「ああ、ああ、悪かったよ。もう閉店時間だ、帰るぞ」 「でも残しちゃった・・・」 「良いから帰るぞ」 「うん・・・」 抱っこされるとぎゅううと抱きついて離れなくなった一護。団子の包みも忘れずに持って帰る剣八。 くすんくすん、と肩口のあたりで泣き止みそうな一護の頭を撫でてやりながら、歩く剣八。 「ほれ、着いたぞ」 「うん・・・」 「一護君、お帰り」 「弓親、あの、ごめんなさい・・・」 「なにが?」 「俺、上手く使えなかったよ」 と目を伏せた一護。 「良いんだよ、一護君は一生懸命頑張ったんでしょう?大事なのはそこだよ」 「あう、ありがと・・・」 「擦ったの?目の周りが真っ赤だね、後で冷やした方が良いね」 ん?と剣八の持っている包みに目をやる弓親。 「おやつも食べなかったの?」 「だって約束・・・」 「ああもう!いい子だなぁ!一護君は!」 と抱き締める弓親。 「おい、早く飯喰わせてやれよ」 と剣八に言われて、 「はーい、じゃ一護君、居間で待ってて?」 「うん」 運ばれた雑炊をぺろりと平らげると、 「ご馳走様でした、弓親、美味しかった!」 「ありがとう、このお団子どうしようか?もうカチカチになってるよ」 「食べれないの?」 「うーん、どうだろう」 「置いとけ、あっためりゃ食えんだろ」 という剣八が焦げないように炙ってくれた。 「ほれ」 「ありがとう」 はふはふ、と食べたそれはやはり固かったけれど一護にはとても美味しく感じられた。 「美味しい・・・」 にっこりと幸せそうに笑う一護にホッと胸を撫で下ろす弓親だった。 剣八と一緒にお風呂に入って、部屋に帰る一護。 掛け布団で遊ぶ一護に剣八が、 「こら遊ぶな」 というと、 「だって、かーちゃんと居た時のこと思い出したんだー」 とにこにこしながら言いだした。 「何を思い出したんだ?」 「あのね、かーちゃんが狩りに行く時のこと!」 「ほお・・・」 「かーちゃんはね!狩りに行く時俺を隠すの!穴を掘って、そこに俺を入れて、上に葉っぱを置くの」 そう言うと掛け布団を頭に被って剣八の上に乗る。胸の所から顔を出すと、 「こうやって俺は耳と鼻が出るとこまで葉っぱに埋まってかーちゃんを待つの。声を出しちゃ駄目って言われたから、かーちゃんが帰ってくるまでずーっと黙って動かないで待ってるの」 「そうか・・・」 「でね、かーちゃんが帰ってきたら俺すぐ飛び出るからよく怒られたの。危ないって」 「確かにな」 と笑って相槌を打つ。 「俺、今も幸せだけど、かーちゃんと居た時も幸せだったよ。早く大きくなってかーちゃんにお腹いーっぱいに食べさせてあげたかったけど、出来なくなっちゃったね」 「その分、お前が食えば良いだろう」 「良いのかな?」 「良いんだよ」 「かーちゃん狩りがあんまり上手じゃなかったから、ゴミ箱も漁ってたよ。良いのがあるとお乳が出たけど、水を掛けられる事もあったの。ずぶ濡れで帰ってくる事もあった」 「冬じゃなくて良かったな・・・」 「そうね!今日はなんだか疲れちゃった・・・。何でだろうね・・・」 「あんだけ泣きゃぁそうだろ」 「ふうん・・・眠いや」 「今日は寝るか?」 「うん・・・、剣八、あったかい・・・」 しあわせ・・・。と呟いて眠りに落ちた一護。そのあどけない寝顔に口付けし、 「俺の上でこんなに無防備に寝る奴ぁ、やちる以外じゃてめえだけだ、一護」 愛おしげにさらさらと髪を撫でてやった剣八。 幸せな寝顔で、幸せな夢を見た一護。 母とお腹一杯になるまで、ご馳走を食べる。 そんな夢・・・。 周りには、剣八もやちるも、一角も弓親も、皆が居た。 とてもささやかで、幸せな夢。 09/09/01作 最終話はエロが無かったですな。こんなんもありかなと。 |
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