題「桜」
 カツ、コツ、カツ、コツ、と規則正しく廊下に響く冷たく硬い音―。
自宮へと向かう男の名は、第4十刃、ウルキオラ・シファー。
最近結婚し、新しく妻と暮らすための宮を作り、ソコに移り住んだ。

 部屋に着き、寝室に入ると、ベッドには先に妻が眠っていた。風呂に入って良く乾かさなかったのか髪が湿っている。 
(何度言っても聞かんやつだ・・・)
しどけなく口を開き眠る妻の髪をタオルで拭う。
元々明るいオレンジ色の髪がさらに色濃くなっている。

「んん・・・」
まだ起きる様子がない妻の名前は黒崎一護。元は死神代行だったがほぼ無理矢理に連れて来られてウルキオラの妻となった。

まだだらしなく口を開けて寝ている一護に口付けてみると、自分から舌を絡ませ、腕を首に巻きつけて来た。
「ん・・、ウル、キ、オラ・・・?」
「いつまで寝ている?起きろ・・・」
「ん?うわ!お前何やってんだよ!」
「自分の妻に口付けして何が悪い?それより髪は乾かして寝ろと言ったはずだ。何度も同じことを言わせるな」
「う、うるせぇな、眠かったんだよ・・・、飯は?」
「済ませた。寝る」
「・・・なあ・・、お前休みってねぇの?」
「なんだ、いきなり」
「いや、その、買いたいものあんだけど・・・一緒にって・・・」
ウルキオラの服の袖を摘まんでくる一護。
「買いたいもの?なんだ」
「・・・海苔の佃煮・・・、お前の弁当に使ったら無くなったから、何か食いたくなって・・・」
「なら他の破面に買いに行かせれば良いだろう。俺は忙しい、お前を現世に連れて行くつもりもない」
「あ・・・そう・・・」
「寝るぞ、こちらに来い」
「何すんだよ?」
「夫婦の営みに決まっているだろう?何を言っている」
「・・・忙しいんだろ?さっさと寝て疲れでも取れば?お前の好きな藍染サマの命令は明日もあんだろ?」
フン、と背を向けて寝る一護。
「・・・何を拗ねている。分からん奴だな。お前を満足させるのに疲れなど感じる訳がないだろう」
「俺は寝たい・・・」
きゅっと身体を丸めて寝てしまった一護。
ウルキオラは心底分からないという顔をして隣りで眠った。

翌朝、一護は一言も喋らずに朝食の用意をして二人で食べ、弁当を持たせてウルキオラを仕事に出した。
「行ってくる・・・」
「ん・・・」
ウルキオラが居なくなればここは本当に一護一人だけ・・・。静寂と風の音だけだ。
「気が狂いそうだな・・・」
話し相手も居ない。グリムジョーの名前など出そうものなら、静かに怒って夜にどんな目に遭わせられるか分からない。
「あ〜あ・・・、今頃向こうは桜の季節か・・・」
柄にもなくウルキオラに満開の桜を見せてみたくなった。
どんな顔をするんだろう?あの目には桜の花びらはどう映り込むんだろうと思ったから、遠回しに現世に誘ってみたらアレだ・・・。味も素っ気もねぇ・・・。

素直に理由を言ったら、一緒に行ってくれただろうか?だが自分の性格上言えない気がした。
「馬鹿みてぇだな・・」
溜息と共に呟いた一護。あいつにとって妻ってなんだ?俺ってなんなんだろう・・・。
ただの性欲処理、あいつにそんなんあんのかと思ってたけど、結構絶倫だしな・・・。
宮の外で一人、砂で遊ぶ。手で掬っては落とした。サラサラと落ちて行くその感触はあいつの髪に似てると思った。
「こんなに乾いてたら、山も城も作れねえな・・・」
寂しそうな笑みを零し、砂を握り締めた。
「何をしている・・・?」
突然後ろから声を掛けられて驚く一護。
「ウルキオラ!なんで?仕事は?まだ昼過ぎだぞ」
「終わらせた・・・。それより現世に行く、付いてこい」
「へ・・、だって昨日は駄目だって・・・」
「早く用意しろ。それとも着替えさせてほしいのか?」
「違うわ!あ、もう義骸着てんだ・・・」
俺は現世の服に着替えて用意した。何か嬉しくなった。現金だな、俺って・・・。
「俺と出掛けたいのなら、始めから素直に言え・・・」
「う・・・!言ったら、連れてってくれたのかよ。仕事中毒・・・」
そっぽ向いて可愛げのない事を言う俺に、
「さあな、仕事の量によるだろう。早く行くぞ」
「あ、おう!あ、金・・・」
「俺が持っている」
「あ、そうか・・・」
虚圏の空に黒い空間が開きそこへ歩き出す俺達。何か生温かい視線を感じた様な・・・。

現世に降り立った俺達は最初にデパートに行った。
久し振りに見る現世の服に、興奮して楽しくなった。
「なあ、これってお前に似合うんじゃね?」
とTシャツとGパンを宛がい、見立ててみる。
「知らん、服など着られれば良いだろう」
「ちぇ、おしゃれ心の分かんねえ奴、お前結構いい男だからこういうの選ぶの楽しいんだけどな・・・」
と、ぽつりと呟いた一護。深い意味はなかったがウルキオラにはそうは聞こえなかったようだ。
「買えばいいだろう・・・、貴様の分もな・・・」
「あ。おう!わ、どれにしようかな」
Gパンと気に入ったTシャツを試着室に持って入って着てみる。
「なあ、これどうだ?」
比較的身体にフィットするタイプの服だったので一護の身体の線が浮き出ていた。
「・・・他のにしろ、身体の線が浮いている」
「いや、こういう服なんだけど、それの俺こういう服の方が好きなんだけどな・・・」
渋々、普通の服に変えた。
「これは?」
「それならばいい・・・」
何なんだ?と思いながら、
「あ、お前も試着しろよ?細えーんだからサイズみろよ」
「面倒な・・・」
言いつつ試着室に入るウルキオラ。
「これでいいか・・・」
「ああ、似合う似合う!やっぱ細いからフィットするタイプが似合うな。後コートな、ハーフタイプのトレンチなんかいいかな?」
まだ寒いしな・・・。と言いながら黒のトレンチと白いタートルネックのセーターを持ってきた。
不思議そうな顔をするウルキオラに、
「な、なんだよ?」
「いや、楽しそうだと思ってな。後、俺達に暑さ、寒さは関係ないぞ」
「一緒に歩いてて、イヤだろうが!ったく、ほれ、着てみろよ」
「またか・・・」

「これでいいか」
「おお!いいじゃん!襟ちょっと立てて・・・と。ほれ似合ってんじゃん!」
鏡の中の無表情の自分と満面の笑みの一護を見比べ、来て良かったなと思ったウルキオラ。
「ではこれを買うか・・・。お前は?」
「俺はこれがあんじゃん」
着てきたコートを示す。
少し眉を顰めて、
「お前も買え・・・」
と言った。
「え?なんで?まだ買いもんあんだぞ」
「自分の妻の分の服も買えないほどではない。好きな物を買えばいい」
「う、うん」
頷いて自分も、スプリング・コートを選んだ。
「これが良いかな?」
濃い、ベージュに胸の辺りに同系色で獅子の刺繍がしてあった。
「なあ、これってどうだ?」
「お前が良ければいいだろう?」
「見立てくらいしてくれよな、まあいいや試着しよ」
鏡の前でくるくる回っておかしくないか見た。
「ふん・・・。コレで良いや!」
脱いで着てきた服に着替える。
「俺はこれにするわ。お前もそれでいいか?」
「ああ・・・。着て行かんのか?」
「お前はどうする?せっかくだし着て歩くか?」
「そうだな・・・」
と言って会計を済ませると着替えて並んで歩いた。

一護の口元が先程から弛んでいるのに気付いてウルキオラが、
「何がおかしい?」
「いや、おかしいんじゃねぇよ・・・。嬉しいだけ」
「嬉しい?何だそれは。久し振りの現世だからか?」
「それもあるけどさ。お前が俺の選んだ服着て歩いてんのがさ・・・」
どうせ今日だけだろうけど・・・。
「お前は藍染からの服しか着ないから・・・」
少しの本音。
「他に着る物がないだけだ。気にする事でもない」
「ふうん・・・。あ、次は地下で食料品な。その前に喫茶店入るか、喉乾いた」
「好きにしろ・・・」
「やっぱ紅茶なのか?」
「さて、たまには違いものでも飲んでみるか」
「俺はカフェ・オレ。お前は?」
「・・・。同じのでいい」
「ふうん、じゃあ、カフェ・オレ2つとサンドウィッチ2つで。良いか?」
「ああ」
「かしこまりました。少々お待ちください」
「・・・言っとくけど、海苔は挟まってないからな」
「そうなのか、現世の食い物は良く分からんな」
「ま!俺が作るよりゃ美味いよ」
ガリッとお冷の氷を噛み砕いた。

暫くして、注文の品が運ばれた。
「お待たせ致しました、カフェ・オレとサンドウィッチでございます。こちら明細です」
そう言うとウェイターは下がった。
「食わねえのか?」
「食べるが」
「カフェ・オレならそのまま飲むか砂糖入れろよ」
サンドウィッチに齧り付きながら言った一護。
「なあ、怒んなよ?」
「なんだ?」
「なんでお前って俺が他の奴の名前出すと、怒るわけ?」
ギロリ、と睨んできた。
「まだ名前出してねえんだけど・・・」
「係わる必要が無いからだ・・・」
「ま、誰も来やしねえけどな・・・、今日は楽しい」
カフェ・オレを飲みながら呟いた。
「サンドウィッチ、美味くねえのか?食ってねえけど」
「食ってないのに味が分かる訳がないだろうが」
と言って食べた。
「あまり美味くないな・・・」
「そうかぁ?普通だとおもうぜ?じゃあ、後で買いもんついでに材料買うか」
喫茶店を後にして地階の食料品売り場にやって来た。
「うわ、寒。コート着てて良かった」
「そうか、で何を買うのだ」
「えーと、レタスと胡瓜とハムか。後は赤いウィンナーと卵と・・・」
ふんふん、と鼻歌を歌いながら買い物を続けた。
「あ、晩飯どうすっか?」
「どうせ可もなく不可もない味だ。好きにしろ・・・」
「悪かったな・・・、料理の上手いヤツ嫁にすりゃ良かったじゃねぇか・・・」
久し振りに和食が食べたくなった一護は、鮭の切り身と味噌を買っていった。
「おい、これは良いのか?」
「え?」
差し出されたのは海苔の佃煮。
嫌味では無く純粋に要るものとして見なされているようだ。
「あ、ああ、さんきゅ」
大体の買い物が終わったので、デパートを出た。
「人間の多いところだな・・・」
「疲れたのか?」
「気分を害しただけだ・・・」
「・・・ワリィ、そこに公園があるから休もうぜ・・・」
「早く帰れば良いだけの・・・」
振り返ると一護はもう居なかった。
そこで立っていると手に何か持って帰って来た。
「ベンチに座って待ってりゃいいのに」
「構わん・・・、行くぞ」
「お?おお・・・」
公園に入り桜の木の下のベンチに座る二人。
「ふう・・・、楽しかったけど確かに疲れたな・・・」
「何だこれは?」
「缶コーヒー、飲んだことねぇか。開けてやるよ」
タブを開けてやり渡す。自分も開けて飲む。
ウルキオラも飲んだ。
「美味いのか?」
「可もなく不可もなく。俺の料理と一緒!」
「ふ・・・ん」
一護はぼんやり桜を見ては、隣のウルキオラを見た。
「何だ・・・」
黙ってウルキオラの目を見た。深い緑色の目に映った桜吹雪は想像以上に綺麗だった。
「いや・・・、ほんとはさ、この花見せたかっただけなんだ」
「花・・・?」
ウルキオラは頭上の咲き誇る桜を見た。
「ん、何も言うなよ?どうせ何言うかなんて分かってから」
「・・・・・・」
「この季節しか咲かないし、散る時のさ、雪みたいな花びらとか好きで、お前の眼にはどう映るのかなとか、お前の目に映り込んだ桜吹雪とか、見たいなって思ったんだ。疲れさせてゴメン。明日も仕事あんのに・・・」
「別に構わん・・・、帰るぞ」
「ん。あ、ちょっと待って・・・」
「なん・・・」
ついっと伸ばされた一護の指に桜の花びらが摘まれていた。
「髪に付いてた。黒髪だから目立つな」
ふっと吹き飛ばすと、
「帰ろっか・・・」
と言った。
「ああ、さっさと食事でも作れ」
「そうだな・・・」

虚圏に戻ると自分達の格好が珍しいのか、何人かの破面が集まって来た。
「へえ、ウルキオラもそんな格好するんだ」
「陰気な奴が暗い色の服着てると余計に暗く見えるな」
とグリムジョー。
「俺が選んだんだけど。そんなに暗いかな?俺の趣味も悪いな・・・」
「・・・行くぞ。相手にするな」
「でも・・・、ごめんな」
「どうでもいい事だ。帰るぞ」
「あ、うん」

自宮に着くと、
「飯、作るわ・・・」
といつもの白い服に着替えた一護。
「何故着替える?」
「?いつもこの格好じゃねえか。それにコートは外着だし・・・」
「そうか・・・」

一護は鮭の塩焼きと、野菜の味噌汁、かぼちゃの煮物を作った。
「出来たぞ、さっさと食えよ」
「ああ、いつもと違うな」
「和食が食いたくなったんだよ。・・・魚の骨は取れよ?」
「ああ・・・」
意外にも箸の使い方は上手かった。

食べ終わると、風呂の用意をした一護が、
「おい、疲れてんだろ。先に入れよ」
「・・・」
風呂場へ向かうウルキオラは一護の腕を掴んで一緒に風呂へと引きずり込んだ。
「な、何だ!一人で入れよ!」
「疲れた、お前が洗え」
「俺はお前の従属官じゃねぇ・・・」
「そうだな、俺の妻だ・・・」
「妻、ね。はいはい旦那さま」

服を脱いで浴室に入ると、ウルキオラの髪に櫛を通して髪を洗った。どこぞの男を思い出す。会う度に喧嘩を吹っ掛けてきた。でかいその肩には小さな女の子が乗っていたっけ・・・。遠い昔の様だ・・・。

いきなり手を掴まれた。ギリリと強い力で骨が折れるかと思った。

「痛い、痛い!何だよ、突然!」
「何を考えていた・・・」
「何を?あれ?何だっけ」

思い出せなかった。

「手ェ離せよ、お湯掛けらんねぇ」
すっと離された。赤くなっている。シャワーで泡を落としていく。
「顔に掛けるぞ」
断ってから、湯を掛け、顔の泡も落とした。
「終わったぞ、身体くらい自分で洗えよ」
「お前も入っていけばいい」
「そうだな・・・、時間もったいねえしな、未だ片付けあるしな」
二人で風呂に入り、一護が出るとウルキオラも出た。

ガシガシ髪を服一護、さっさと着替えると、食器の片付けを始めた。
「湯冷めするだろう」
「すぐ終わるよ・・・」

終わると、すぐさまベッドに押し倒された。
「うわ!お、お前疲れてんだろ?こんな事してるヒマがあんなら寝ろよ」
「・・・昨晩も抱いていない、聞けない話だな」
「何だよ、それ・・・、ん!」
一護の抗議は口付けによって塞がれた。
「ふぅっん!ん、んん、あっ、はあ・・・」
「やらしい顔だな、我慢出来ないか?」
「うるせえ、やるなら黙ってやれよ!なんで今日はそんなにしゃべんだよ」
「さあな・・・、昼間のお前が可愛かったからか・・・」
首筋にチリッとした痛みを感じたかと思ったら、そこかしこに同じ痛みで跡を付けられた。
「ふ、ん!あう!あ、あ、やあっ!」
いきなり一護の中心を口に含んだウルキオラ。
「や、ヤメ・・!はぅん!やっ!イク!」
ビクビクッと身を震わせウルキオラの口内に吐き出してしまった。
「相変わらず、堪え性の無い奴だ・・・」
ぺろり、と口の端を舐めながら言うウルキオラ。
「う、うるせえな・・・!な、慣れてねぇんだからしょうがねえだろ!」
「ふん・・・、次はおまえだ。期待はしていないがせめて勃たせてみろ・・・」
「くそ・・・!じゃあしなくてもいいじゃねえか!」
一護の髪を鷲掴みにすると、
「俺はやれと言っている。やれ・・・、同じ事を言わせるな」
一護は諦めて何も言わずに口に含んでは、拙い口淫を施した。
「ん・・・!ふっ!くぅ・・、ん、ん、あ・・ふ」
「相変わらず上達もしないな・・・」
「勃たせたくせに、文句言うなよ・・・。それとも他の奴に教えてもらったらいいのかよ・・・」
「それをやったらどうなるかは分かっているんだろうな?黒埼一護」

ああ・・・、まただ、コイツは結婚しても俺をフルネームで呼ぶ。

癖なのかとも思ったがなんだか他人行儀で嫌だ。と言えば、「どうでもいい事だ」の一言でおしまいだった・・・。
「ふん・・・。俺を殺すのか?その直前にお前が俺の名前を呼ぶんならいいぜ・・・」
「何を言っている?くろ・・」
「うるせえ、続けんぞ」
強引に話を終わらせウルキオラを舐め上げる一護。
「もういい・・・、後ろを向け・・・」
「・・・」
ジェルを手に取り、一護の蕾を解していくウルキオラ。これがこいつの優しさなのか、それとも慣らさないと自分が苦しいからなのかも分からない。

「ふっ!くうぅ・・・、うあ!」
「ここか・・・」
見つけた前立腺を執拗に弄られる。
「うあっ!あっ!あっ!嫌!だっ!」
「何が嫌だ・・・、こんなにも濡らしておいて・・・。それにお前のここは物欲しそうにヒク付いているではないか」
「ちくしょう・・・!誰がこんな身体にしたんだよ・・・!」
「お前の身体だろう・・・?もう入れるぞ・・・」
ぷちゅっと音と共にジェルが滴る。
「あう!」
熱く滾った物が一護の蕾に当たったと次の瞬間には奥まで貫かれた。
「あ、あーーっ!あっ!あっ!ウ!ウル!キオラァ!熱い!熱いよ!」
「そうか・・・」
突かれる度にグチャグチャとジェルが音を立てた。
「んあぁ!もうイク!」
「好きにイケ・・・」
「ヒク!ヒ!あああん!」
びくっびくっと痙攣する中へと注ぎ込むウルキオラ。
「いやぁ!熱い!」
普段のこの男からは思いもよらないほどの熱さに一護は泣くしか出来ない。
「ハッ!ハッ!あ、あうう・・・」
「まだ終わらんぞ・・・」
「す、好きにしろよ・・・、ウルキオラ・シファー」
「・・・・その呼び方はやめろ」
「お前はやめないのにか?」
ハッ、と自嘲の笑みを浮かべる一護。
「どうでもいいじゃねえか、ウルキオラ・シファー。さっさと終わらせれば?」
目を閉じて昼間の事を思い出した。桜の花が舞う中で見たこいつの目は綺麗だったなと思っていると目元に触れられた。
「なんだ・・・?」
「お前こそなんだ?何を泣く?そんなにフルネームで呼ばれるのが嫌なのか?」
「・・・『妻』に対して使わねえだろ、普通。お前だって嫌がってんじゃん」
「そうか・・・。一護・・・」

ぴくん、と反応を返す身体に何度も繰り返し呼ぶウルキオラ。

「一護、一護、一護・・・」
「ん・・・、あ、し、しつこい・・・!」
「呼び度にお前が俺を締め付けるからだ・・・」
「ば、ばかや・・んん!」
後ろを振り向いた瞬間に口付けられた。
「ん、あ、うるきおらぁ・・・」
「それでいい・・・」
「もっとぉ・・・、欲しいよ・・・」
「満足させてやる・・・」

一護が気絶するまで続けられた。

翌朝、起きると既にウルキオラは出勤していた。時計を見ると11時。
「弁当くらいは作るか・・・」
昨日買った材料で2人分の弁当を作る一護、
因みに内容は、卵焼きに、タコウィンナー、から揚げと、ご飯に桜でんぶで桜の花びらを模ってみた力作。
「よし!出来た!持ってってやるか」
二つの弁当箱を包むと瞬歩で虚夜宮まで行くとウルキオラを呼んだ。
「ウルキオラ!忘れモン届けに来たぞ!」
「一護か・・・。まだ寝ていると思ったが・・・?」
「う・・・。さっき起きた!」
「忘れ物などはしていないが?」
「弁当!作ったから持ってきた。ついでに俺も此処で食う!文句は!」
「無いが・・・。こちらだ・・・」
何やら食堂の様な所に連れて行かれた。

全十刃が揃っていた。
「な、なんで全員いんだよ!」
「構わんだろう。弁当を寄越せ」
「う、見られんのやだ・・・」
「俺は構わん」
「あっ!てめ!」
「おい、夫婦でいちゃつくなら帰ってやれよ」
とグリムジョーに言われてしまった。
「いちゃついてないわ!早く食うぞ!」
ウルキオラの隣りに座って、弁当を広げると何故か周りから覗きこまれた。
「な、何だよ?」
「いや人間って何食うのか気になってよ」
「鬱陶しい、退け、カス」
「てめえ!」
「喧嘩すんなよ、ホレ、これやるからよ」
タコの形にウィンナーをグリムジョーの口に持っていってやった。
「何だこれ?」
「ウィンナー、可愛いだろ、タコにしたんだ、カニとウサギもあるぞ」
「ふうん」
ぱく、と食べたグリムジョー。
「悪くねえな。お前こないだまで変なもんばっか持たせてたのに。何かあったのか?」
「別に!」
「あそ、この飯のピンクのは?」
「でんぶだよ、甘いんだ。食うか?」
「おう」
一口食べる。
「甘いな・・・」
「最初に言ったじゃねえか。お前面白いなぁ」
隣りから寒気がしたので見てみるとウルキオラが睨んでいた。
「あ、怒ってんのか?」
「いいや・・・」
「今日の卵焼きは上手くいったんだ。まずくないだろ?」
「いつもと同じだ・・・」
「可もなく不可もなくか・・・」
少ししょんぼりした一護。
「どれ?」
グリムジョーがひょい、と一切れ取って食べた。
「美味えんじゃねえの?」
「ほ!本当か?良かった・・・」
ほっと胸を撫で下ろす一護。
「一護・・・、これは何だ?」
ウルキオラがご飯のでんぶを指して訊いた。
「さ、桜の花びら・・・、下手だけど・・・」
「・・・。そうか、お前も早く食え、猫にばかり食わせてどうする」
「へ?猫?」
「てめえ・・・」
ああ、豹王の事か。
「ん、食べるよ」
昼食を食べ終わり、一護を出口まで送るウルキオラ。
「あまりここには来るな・・・」
「邪魔だったか。ワリィな。飯も上手くなんないしな・・・」
「最初に比べれば、マシだ・・・」
「え?・・・ありがと」
にこっと笑った顔がもっと見たくなったので、これからは褒めてみるかと、考えるウルキオラ。

ベッドの中では褒める度に泣かれている気がするウルキオラ。

褒められる度に感じて恥ずかしくて泣いてしまう一護だった。







09/07/05作 106作目です。「ガルガンチュア」のぴよさん宅のシファー夫妻に煽られて書きました。ぴよさんに捧げます。
何か二人とも別人ですが・・・。
09/12/08加筆修正しました。
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